GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-26「ミナミのナミダ」
オーブ中東基地の襲撃を聞き、クサナギは進行していた。そしてそのカメラが、攻撃を受けている基地を捉える。
「中東基地、捉えました!前方にカオスサイド、ワルキューレ及びアザトース!」
イリーナの報告が、クサナギ艦内に響き渡る。ユキノに眼を向けられて、ジュンたちが真剣な面持ちで頷く。
「第一級戦闘配備!パイロットは直ちに出撃してください!」
「はいっ!」
ユキノの指示に答えて、ジュン、アリカ、ニナが作戦室を飛び出した。それぞれの機体に乗り込んで、出動態勢を整える。
“カタパルト接続。ハッチ開放。針路クリア。システム、オールグリーン。全セーフティ解除・・”
イリーナのアナウンスが艦内に響く。身構えるジュンのいるアテナのコックピットに、アリカからの通信が響く。
“マシロちゃん、さっきも言ったけど、大丈夫だって。ミナミさんはきっと無事でいるから・・”
「アリカちゃん・・・ありがとう。でも心配しないで。僕は大丈夫だから・・・」
アリカの心配に、ジュンが微笑んで答える。
「ミナミちゃんが無事だって、僕は信じてる・・だから今は、危険にさらされてる人たちを助けることを考えよう。」
“マシロちゃん・・・分かったよ。お互いの無事を信じて、頑張ろうね。”
「うん・・」
アリカの声に頷いて、ジュンがハッチが開かれた先の虚空を見据える。
「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、アテナ、いきます!」
「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」
「ニナ・ウォン、パール、発進する!」
アテナ、マイスター、パールがクサナギから発進し、戦果の飛び交う基地に向けて前進した。
その間も、カオススーツを駆るトモエが、基地への攻撃を続けていた。その中へ、アザトースとともにワルキューレたちが姿を現す。
「やっと到着なのね。でも残念。もうここは私の独壇場なのよ。」
トモエは同胞をねめつけると、再び基地への攻撃を開始した。オーブのMSや軍艦が迎撃に出るが、カオススーツの強大な力の前に手も足も出なかった。
カオススーツのビームが相手を射抜き、ビームサーベルが相手を切り裂く。その勢いに乗じて、ワルキューレたちも追撃に転じていく。
中東基地が崩壊に向けて加速していく。立ち向かう者、逃げ惑う人々がその戦火の中に消えていく。
そのとき、優勢を見せていたワルキューレが、突如飛び込んできた一条の光線に射抜かれる。光が飛んできたほうに他のワルキューレたちが振り返ると、その先にはアテナ、マイスター、パールの姿があった。
「これ以上、お前たちの攻撃を許すわけにはいかない!」
ジュンが言い放つと、アテナがワルキューレに向けて飛びかかる。ビームサーベルを引き抜き、ワルキューレのポールアクスを持つ手ごと切り裂いていく。
マイスターとパールも、ビールライフルを手にしてワルキューレたちを迎え撃つ。ワルキューレたちが攻め気を揺さぶられ、進撃ができないでいた。
「ユキノさん、みなさんの救助をお願いします!」
“分かっています!すぐに誘導を発信します!”
ニナの呼びかけにユキノが答える。クサナギも基地上空に到着し、基地内の状況を確認する。
向かってくるワルキューレを退けようと奮起するジュンたち。そのアテナに向けて、一条の光線が飛び込む。
その光線をかわしたアテナが振り返る。その先には、中東基地襲撃に先陣を切ってきた機体の姿。
「何だ、この機体・・・!?」
「カグツチ・・・!?」
「・・ううん!似てるけど違うよ!」
驚愕するジュンとニナに、アリカが呼びかける。かつてダークサイドの侵攻を食い止めたMS「カグツチ」。眼前の機体は、その容姿が酷似していた。
「ついに現れたわね、マイスター・・もうあなたの好きなようにはさせないわよ・・・!」
マイスターを眼にして、トモエが笑みを強める。カオススーツがビームサーベルを手にして、マイスター目がけて飛びかかる。
「くっ!」
「アリカちゃん!」
アリカが毒づき、ジュンが叫ぶ。カオススーツがマイスターに向けて光刃を振り下ろす。マイスターもエクスカリバーを構えて、その一閃を受け止める。
マイスターがエクスカリバーを振りかざし、カオススーツを退ける。だがカオススーツはさらに光刃を振りかざし、力任せに攻め立てる。
「アリカちゃん!」
そこへジュンの駆るアテナが飛びかかり、ビームサーベルを振りかざす。トモエがそれに気付き、カオススーツが大きく飛翔して回避する。
「また鬱陶しいのが出てきたわね・・でも、今度は邪魔はさせないわよ!」
いきり立ったトモエが高らかと叫ぶ。カオススーツの翼からドラグーンが射出し、アテナとマイスターにビームを放つ。
2機はとっさに反応し、飛び交う光の雨をかいくぐる。ジュンも縦横無尽に向かってくるビームに反応していた。
「何て機体だ・・ドラグーンシステムまで装備してるなんて・・!」
遅い来るカオススーツの猛威に、ジュンが毒づく。カオスサイドの新兵器の力は、あまりにも強大なものだった。
「マシロちゃん、ニナちゃん、私は大丈夫だから、2人はワルキューレたちとアザトースを!」
「アリカちゃん!」
アリカの呼びかけにジュンが声を荒げる。
「これ以上カオスサイドの攻撃を許しちゃダメだよ!この機体は私が押さえるから、マシロちゃんとニナちゃんはみんなを守ってあげて!」
「アリカちゃん・・・分かったよ。ここは任せたからね!」
カオススーツをアリカに任せて、ジュンとニナはワルキューレの撃退に専念することを決めた。離れていくアテナとパールを眼にして、トモエが歓喜の笑みを浮かべる。
「邪魔者が消えてくれたようね・・それじゃ、存分に楽しませてもらいましょうか!」
眼を見開いたトモエ。カオススーツが再びマイスターに向かって飛びかかった。
カオスサイドのオーブへの攻撃を止めるべく、ワルキューレに乗って前進していたミナミ。そしてついに彼女は、オーブ領土内に踏み込んだ。
降下したところで、彼女は戦果の飛び交うオーブ中東基地の上空を目の当たりにする。
(止めないと・・イオリさんの攻撃を・・・ジュンくんが守ろうとしているものを、壊させるわけにはいかない・・・!)
ミナミは一途な決意を胸に秘めて、戦場に舞い戻ろうとしていた。
(あなたに出会わなかったら、私はここまで勇気が持てなかった・・だからジュンくん、あなたが守ろうとしているものを、私も守る・・・!)
火の海と化している基地に向けて、ミナミの駆るワルキューレが全速力で飛び出した。MSと戦艦の合間をかいくぐって、彼女はアザトースとクサナギを探る。
オーブ軍にとっては、彼女の登場は敵の新手の参戦に他ならなかった。すぐにロックされ、ミナミは毒づく。
白いワルキューレが機動性を活かしてその攻撃をかわす。そしてミナミは、ついにワルキューレたちと交戦しているアテナを捉える。
「マシロさん!応答して、マシロさん!」
ミナミはアテナに向けて通信回線を開く。その声にアテナが白いワルキューレに振り返る。
「ミ、ミナミちゃん・・・!?」
ミナミの登場にジュンが驚愕をあらわにする。攻撃を中断したアテナを見つめて、ミナミが真剣な面持ちを浮かべる。
「マシロさん、ごめんなさい!イオリさんの侵攻を呼び止めようとしたけど、こんなことになるなんて・・・!」
「ミナミちゃん・・いいんだ!ミナミちゃんが悪いんじゃない!君は君なりに戦ってくれた!」
ミナミが謝罪すると、ジュンが弁解を入れる。
「いいえ!これはあなたが、あなたたちが引き起こしたことよ!」
そこへパールに搭乗しているニナが鋭く言いかける。その言葉にジュンが眼を見開く。
「やっぱり返すべきではなかった・・あなたは私たちから解放されたことに乗じて、攻撃の機会を狙ったのよ!」
「何を言ってるんだ、ニナちゃん!?ミナミちゃんがそんなことをするはずがないじゃないか!」
ミナミに言い放つニナに、ジュンがたまらず反論する。だがニナは考えを改めようとしない。
「あなたも彼女に与えた盗聴器に収められている会話を聞いているはずよ!彼女にはまだ、イオリに対する依存心が残っている!」
「違う!ミナミちゃんは僕たちと分かり合えた!彼女だって戦争を望んではいない!だからこんなことを引き起こそうなんて考えていない!」
ニナの言葉を受け入れようとしないジュン。ついにアテナがパールの前に立ちはだかり、ニナが眼を疑う。
「マシロさん!?・・何をやっているのですか、あなたは!?」
「ミナミちゃんに危害は加えさせない!たとえ恨まれても、僕は彼女を助けたいんだ!」
声を荒げるニナの前から、ジュンは退こうとしない。だがパールは構えるビームライフルを下ろさない。
「そこをどいて、マシロさん!あなたが今していることは、ライトサイドやオーブを敵に回すことにつながるのですよ!」
「僕は、誰一人救えない代表ではいたくない!今はミナミちゃんを助けたいんだ!」
「・・すぐにそこをどいてください、マシロさん・・さもないと、私はあなたを撃つことになりますよ!」
ニナが言い放つと、パールのビールライフルが火を噴いた。一条の交戦がアテナの横を通り過ぎていった。
「今のは警告です。次は当てますよ・・・!」
ニナが警告を送るが、それでもジュンは引き下がらない。パールがアテナに向けて発砲するが、アテナはビームサーベルを振りかざして、その光線を弾く。
「僕は誰も救えないような人間にはなりたくない・・だから僕は、ミナミちゃんを助ける・・たとえ、ニナちゃんを倒してでも!」
いきり立ったジュンに駆り立てられて、アテナがパールに飛びかかる。素早く振り下ろされる光刃を、パールがビームブレイドを放出して受け止める。
「血迷ったの、マシロさん!?あなた、本気で・・!?」
「ミナミちゃんのことは僕に任せて!僕は必ずミナミちゃんを救ってみせる!」
驚愕するニナに、ジュンが決意を言い放つ。アテナがビームサーベルを振り抜いて、パールを退ける。
そしてアテナが振り返り、ミナミの乗るワルキューレに向き合う。
「ありがとう、マシロさん・・私のために、ここまでしてくれて・・・」
「何度だって言うよ・・僕は君を救いたいって・・」
互いに微笑んで優しく語りかけるミナミとジュン。
(ジュンくん、あなたは私に大切なものをくれた・・誰かを、何かを守ろうとする、勇気と優しさを・・・)
ミナミはジュンの気持ちを感じ取って、喜びを覚えていた。戦場の中、2人の心は結びついていた。
「ジュンくん・・・あっ!」
感動を募らせていたところで、ミナミが緊迫を覚える。アテナの背後にワルキューレが1機迫ってきていた。
「戦場の中でいつまでも余所見をしているなんて、寿命を縮めますよ・・・!」
ワルキューレを駆るフィーナが、アテナに向けてポールアクスを振り下ろしてくる。だがミナミの乗るワルキューレが身構えるより先に、振り返ったアテナがビームサーベルを振りかざしていた。
アテナが放った一閃は、ワルキューレのポールアクスを両断した。
「ぐっ!」
フィーナが毒づく前で、アテナがさらにビームサーベルを振りかざす。ワルキューレが両腕と首を断裂され、力なく地上に落下する。
「こんな・・アテナの速さが、ここまで上がってるなんて・・・!?」
アテナの力に愕然となるフィーナ。大破したワルキューレが湾岸へと落下していった。
「マシロさん、大丈夫!?」
「ミナミちゃん・・・うん。僕なら大丈夫だよ。」
ミナミの心配の声に、ジュンが安堵の笑みを浮かべて答える。この出来事を見ていたニナも、一瞬安堵を感じていた。
だがニナはすぐに緊迫を覚える。白いワルキューレが手にしていたポールアクス。その矛先から、彼女はワルキューレがアテナを狙っているように見えた。
「やっぱり・・彼女は私たちを・・・!」
憤慨をあらわにしたニナ。パールがワルキューレに向かって飛びかかる。
「えっ!?」
「ニナちゃん!?」
「これ以上、あなたの好きなようにはさせない!」
驚愕するミナミとジュン。眼を見開いて言い放つニナ。パールの突進を受けて、ワルキューレが突き飛ばされる。
さらにパールは両手両足のビームブレイドを振りかざして、ワルキューレの両腕と左のわき腹を切り裂いた。
「キャアッ!」
「ニナちゃん・・どうして!」
悲鳴を上げるミナミ。ジュンがニナの行為にたまらず叫ぶ。
「やめろ・・やめるんだ、ニナちゃん!」
その感情の高まりが頂点に達したとき、ジュンの中で何かが弾けた。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。
落下するワルキューレに追撃しようとするパールに、高速で飛び込んできたアテナが割って入る。そしてアテナがビームサーベルでの強靭な一閃を繰り出し、パールの行く手をさえぎる。
さらにアテナが光刃を振りかざし、パールの両手両足をビームブレイドごとなぎ払う。
「ぐっ!」
突然のアテナの攻撃に、驚愕するニナが毒づく。機能を停止したパールが地上に落下する。
歯がゆさをあらわにするジュンが、眼下を見下ろす。そして落下したワルキューレを追って、アテナが全速力で降下していった。
「アテナが、パールを・・・!?」
アテナがパールを撃墜したのを察して、イリーナが愕然となる。
(ジュンくん・・・!?)
ユキノもジュンのこの行為に動揺を感じていた。しかしそれを表には出さず、彼女は冷静に現状を見ていた。
「市民の救助を続行しつつ、パール、及びニナさんの収容を急いでください。」
「・・了解です。」
ユキノの指示を受けて、イリーナがクルーたちにその指示を伝達した。
クサナギの介入によって思うように攻めきれないでいたカオスサイド。イオリはこの状況を眼にして笑みを消し、部隊に命令を下した。
「今回はここまでだ。ワルキューレ部隊、撤退だ。大気圏外まで離脱する。」
イオリの呼びかけを受けて、ワルキューレたちがアザトースへと帰還していく。カオススーツを駆使してマイスターと交戦していたトモエも、その撤退命令に毒づく。
「せっかく楽しんでるっていうのに・・・運がよかったわね、マイスター。でも、次こそがあなたの最後のときよ・・・」
トモエはマイスターに言い放つと、カオススーツが撤退していった。互角以上に渡り合ってきた相手に、アリカは困惑を感じていた。
パールに撃墜されたワルキューレから、ジュンはミナミを救出していた。しかしパールの攻撃はコックピットにまで及んでしまっており、ミナミはその衝撃を直に受けてしまっていた。
「ミナミちゃん!・・ミナミちゃん、しっかりするんだ!」
ジュンが悲痛の面持ちで呼びかけると、ミナミが閉じていた眼をゆっくりと開ける。
「ジュンくん・・・」
「ミナミちゃん・・もう大丈夫だから・・すぐにクサナギに連れてって、応急措置だけでも・・・!」
ミナミが微笑みかけるとジュンは安堵して、彼女を抱え上げようとする。だがミナミは首を横に振る。
「大丈夫だから・・ジュンくんが支えてくれるから、私も進んでいけるって思えるようになった・・・」
「ミナミちゃん・・・」
「私も、強く生きていきたい・・・ジュンくんが思い描いていく世界の中で・・・」
ミナミが伸ばしてくる手を、ジュンは取って優しく握る。
「大丈夫だよ、ミナミちゃん!ミナミちゃんも、この世界で生きていけるから・・・!」
「ジュンくん・・・そうだね・・私も、ここにいてもいいんだよね・・・」
ミナミの言葉にジュンが微笑んで頷く。
「だから、一緒に守っていこうね、ジュンくん・・・みんなの、この・・世界を・・・」
言いかけるミナミの眼がゆっくりと閉ざされる。力をなくし、ジュンの手から彼女の手が滑り落ちて、地面に落ちる。
「ミナミ、ちゃん・・・!?」
ジュンはこの瞬間に眼を疑った。ゆすってみるが、ミナミは全く反応しない。
「ミナミちゃん・・・起きて・・・こんなところで寝たらダメだよ、ミナミちゃん・・・」
ジュンが笑顔を作って呼びかけるが、それでもミナミは眼を覚まさない。
「また街に出かけよう・・今度はちゃんと買い物とかしてさ、いろいろと食べて回るのもいいかも・・・」
自身の思いをおぼろげに伝えようとするジュン。次第に悲しみが込み上げて、眼から涙があふれ出す。
「ミナミちゃん・・・起きてよ・・・起きてったら!」
ジュンがミナミの体を強く抱きしめる。彼の脳裏に、彼女と過ごした時間が蘇る。
その悲しみを抑えきれず、ジュンが空に叫ぶ。沈静化する戦場に、悲しみの絶叫がこだました。
次回予告
「あのとき、僕が止めていたら・・・」
「彼女は危害を加えようとしていなかった!それなのに君は!」
「もう、僕は君を信じられない・・・!」
「ようこそ、カオスサイドへ・・・」