GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-25「混沌の侵攻」

 

 

 イオリの説得のため、クサナギを飛び立っていったミナミ。ジュンは彼女の安否が気がかりになり、落ち着けないでいた。

 廊下を右往左往している彼に、アリカが声をかけてきた。

「マシロちゃん、そんなにそわそわしたってしょうがないよ・・マシロちゃんが信じてあげないと・・」

「アリカちゃん、ゴメン・・でも、やっぱり心配で・・・」

 アリカの励ましにジュンが困惑の面持ちを浮かべたまま答える。そこへシスカも現れて、彼の心境を察する。

「そんなに心配することではない。それはあなたが1番よく思っていることでしょう?」

「シスカさん・・・そうですね・・僕がこうソワソワしたって、どうにもなりませんよね・・・」

 シスカからも励まされて、ジュンは何とか割り切ろうとする。

「ミナミちゃんは必ず帰ってくる・・そう信じてあげないと、ミナミちゃんがかわいそうだ・・・」

 ジュンは微笑んでアリカたちに頷いた。

 ミナミは自分のすべきことのためにカオスサイドに戻る決心をした。自分もライトサイドやオーブのため、世界のために尽力を注がなくてはならない。ジュンはそう思っていた。

 

 ジュンたちと別れを告げ、ミナミはワルキューレを伴って宇宙を航行していた。そしてそのカメラが、カオスサイドの浮遊基地を捉えた。

 ミナミは基地に向かって進み、通信回線を開いて呼びかける。

「カオスサイド、浮遊基地“ハスター”。こちら混沌軍所属、ミナミ・カスターニ。ただ今帰還いたしました。着陸許可をお願いします。」

“ミナミ殿!?・・少々お待ちを・・

 ミナミの呼びかけに、ハスターの管制室が一瞬慌しい様子を見せる。そしてしばらく間をおいて、返答が返ってきた。

“了解しました。着陸を許可します。”

「許可を感謝します。」

 管制室への通信を終えて、ミナミはハスターに向かう。白いワルキューレが管制室の誘導を受けて、着陸態勢に入る。

 降り立った整備ドックには、イオリを初めとしたカオスサイドの面々が姿を見せてきていた。

「お前が生きてここに戻ってきてくれるとは、嬉しいのと同時に驚いた。クサナギに捕まったと聞いていたのでな。」

 ワルキューレから降りてきたミナミに、イオリが悠然と声をかけてきた。その彼に彼女は沈痛の面持ちを浮かべて、深々と頭を下げる。

「申し訳ありません、イオリさん・・私が犯したことは、あなたやみなさんにとってこの上ない無礼に他なりません・・」

「もう過ぎたことだ。それにいちいち突き詰めてもしょうがない。」

 謝罪するミナミに、イオリが弁解の言葉を入れる。

「問題なのは今、そしてこれからのことなのだからな。」

 イオリが笑みを消して、野望を見据える。その覇気に、ミナミは動揺のあまりに一瞬体を震わせる。

「そう怯えるな。今のオレたちに、恐れるものなど何もないのだから。」

 イオリが言いかけると、背後にそびえ立つ機体を指し示した。それを目の当たりにして、ミナミは眼を見開いた。

「カオスサイドが積み重ねてきた技術の発展によってもたらされた最上級MS、“カオススーツ”だ。」

「カオススーツ・・・!?

 不敵な笑みを浮かべて言い放つイオリに、ミナミは驚愕を覚える。

「カオススーツは、オレたちカオスサイドが得た戦闘技術、戦闘データをフル活用して、最上級の機動力、技、戦術、破壊力を備えた究極兵器。それを可能とした最大の要因は、超エネルギー動力炉“カオスチャージャー”。カオスサイドの侵攻を食い止めた機体に搭載されている“エレメンタルチャージャー”を模して開発している。つまり、あのマイスターやそれと同種の戦闘能力を持つ機体と互角以上に渡り合えることが可能ということだ。」

「それを使って、何をするつもりなんですか・・・!?

 ミナミが恐る恐る問いかけると、イオリはあざ笑いながら答える。

「いまさら何を言っている・・討つんだよ、オーブを・・いや、敵対する全てのものを。」

「待ってください、イオリさん!撃たないで、どうにかすることはできないのですか!?

 突然のミナミの申し出に、イオリが笑みを消す。

「オーブのみなさんは、敵である私に優しく接してくれました!ここまで他人と分かり合えたのは、私にとっては初めてのことでした・・・誰を相手にしても、分かり合えないことはないと分かったんです!」

 ミナミがイオリや他の人々に向けて切実に言いかける。

「お願いです!侵攻を中断して、会談を設けてください!そうすれば争うことなく、互いに分かり合えるはずです!」

 ミナミがイオリに向けて懇願する。ジュンやクサナギの人々の思いが、今の彼女を突き動かしていた。

 しかし、彼女の言葉を聞いたイオリが高らかと哄笑を上げる。

「まさかお前の口からそんな言葉が出てくるとは、正直予想外だったぞ。」

「えっ・・・!?

「ミナミ、お前はクサナギに身を置いたために、完全に連中に毒されてしまったようだな。」

 困惑するミナミにイオリが言い放った直後、周囲にいた兵士たちが銃を構える。その銃口の先にはミナミ。

「安心しろ。お前がおかしなマネをしなければ殺しはしない。だが、お前はしばらく反省の時間を過ごしてもらう。」

「イオリさん・・・!」

 冷淡に言い放つイオリに、ミナミが愕然となる。

「オレたちは同意を求めてるわけじゃない。ましては和解を求めてるつもりは毛頭ない。連中は正義とか平和とか口にしながらもそれを起こす実行力が欠けている。いわば偽善だ。そんな連中に同意を求めたところで何の解決にもならない。だからオレたちは実力行使を行い、全てを統一と支配という形で全てを一色に染める!この腐った世界を、カオスサイドが塗り替えるのだ!」

「ダメです、イオリさん!そんなことをすれば、また世界は荒れてしまいます!世界を統一しても、私たちに反旗を翻す国が・・!」

「そんなものは存在しない。オレたちがそいつらを叩き潰すからだ・・そのためのオレたちの新しい力なんだよ・・・!」

 鋭く言い放つイオリに、ミナミは愕然となった。彼がもたらそうとしているのは平和ではない。「革命」という名の破壊だ。

 イオリを慕っていたミナミが、ようやくこのことに思い知らされたのだった。

「ミナミを独房に入れておけ。今度の攻撃は、オレたちだけで行う。」

 イオリの命令によって、ミナミは兵士たちに連行されてしまった。

「いつになったら出れるの?もう待ちくたびれてしまったわ・・」

 そこへカオススーツのコックピットから、トモエが声をかけてきた。

「もう少し待ってろ、トモエ。すぐにそいつで遊ばせてやる。」

 イオリが淡々と呼びかけるが、トモエは既に痺れを切らしていた。

「悪いけど、もう我慢の限界よ。私はこの力を使いたくてウズウズしてるんだから!」

 いきり立ったトモエに駆り立てられて、機体が動き出し、前進を始めた。そして機体は兵士たちの制止を聞かずに、整備ドックを飛び出してしまった。

「おのれ・・イオリ様、これでは・・・!」

 兵士が声を荒げるが、イオリは冷静だった。

「すぐにアザトースを発進させる。トモエの後を追え。」

「了解!」

 イオリの命令を受けて、兵士たちが行動を起こす。フィーナをはじめとしたワルキューレ部隊を伴って、アザトースがオーブに向けて発進した。

(最後のときだ、オーブ。もはやお前たちに希望はない。地獄の業火に焼かれて、朽ち果てるがいい!)

 

 先行してオーブに向かったトモエ。眼下に広がる街や地域を見下ろして、トモエが歓喜を覚えて眼を見開いた。

「待ってなさい、マイスター・・今すぐ、あなたを葬ってやるわ!」

 感情をむき出しにしたトモエ。カオススーツFが身構え、オーブ領土内に侵入した。

「な、何だ、あれは!?

 そのエネルギー反応をキャッチしたオーブ中東基地のオペレーターたちが驚愕の声を上げる。

「巨大なエネルギーが、ものすごいスピードで降下してきます・・・こちらに来ます!」

 別のオペレーターが声を上げた瞬間、管制室の窓の前に巨大な影が現れる。それは明確な色を持たず、白とも黒ともつかない装甲だった。

「存分に味わいなさい・・この私の最高の力を!」

 トモエが言い放つと、カオススーツが身構える。高エネルギービームライフルが火を噴き、管制室を撃ち抜いた。

 爆発、炎上する基地内。その騒ぎに、周囲からMSや戦艦が続々と出撃してくる。

「いいわね、的がどんどん出てきて・・・!」

 さらに歓喜を強めて、トモエが周囲の機体たちを見据える。カオススーツが2つのビームライフルを両手にそれぞれ持ち、発砲する。放たれたビームが次々と機体や戦艦を射抜いていく。

 カオススーツはそのビームライフル2つを連結させ、ロングライフルとして発砲する。貫通性を増したビームが、さらに軍艦を撃ち抜く。

 一方的な攻撃にさせまいと、オーブ軍も反撃に転ずる。しかしカオススーツの速さに攻撃をことごとくかわされる。

 両腰からビームサーベルを取り出し、カオススーツが機体をなぎ払う。さらに2つの柄を連結させて双刃を成し、軍艦を切り裂いていく。

 だが、速さと強さを見せ付けたカオススーツを、ザクたちがついに取り押さえる。撃たれることを覚悟に、ザクたちはカオススーツの動きを封じようとする。

「そんなに寄り付かれると鬱陶しいのよ!」

 眼つきを鋭くするトモエ。広がったカオススーツの翼から羽根が飛び出し、そこから放たれたビームが、取り付いている機体に命中する。

 カオススーツは、破損したザクたちを振り払い、さらにドラグーンを放出する。次々と放たれるビームの雨がオーブ軍をなぎ払っていく。

「すごい・・これが、私の力・・・こんなに・・こんなにすごいなんて・・・!」

 カオススーツが発揮する力に、トモエは喜びを抑え切れなかった。そして高まっていく感情を、彼女はさらに解放していく。

「最高の気分だわ!喜びで胸が張り裂けそうよ!」

 トモエの感情とともに、カオススーツが搭載されている全てのレール砲を解き放つ。オーブ中東基地が、短時間で火の海と化していた。

 

 オーブ中東基地への突然の襲撃。それはクサナギにも伝わってきていた。

「中東基地より入電!襲撃を受けています!」

「中東基地が!?

 イリーナの報告に、ユキノとシスカが緊迫を覚える。モニターに、爆発、炎上している中東基地の様子が映し出される。

「何かあったんですか!?

 そこへジュン、アリカ、ニナが作戦室に駆けつけてきた。彼らはモニター越しに悲惨な光景を目の当たりにして驚愕する。

「こんな、ことが・・・!?

「誰が、基地への攻撃を・・・!?

 ジュンが愕然となり、ニナが問い詰める。イリーナがキーボードを操作し、データの照合を行う。

「これは、カオスサイドです!」

「えっ・・・!?

 イリーナの報告にジュンたちがさらに驚愕を覚える。

「そんなバカな!?・・・ミナミちゃんは・・ミナミちゃんはどうしたんだ!?

 ジュンはミナミの身を案じるあまり、たまら声を荒げていた。

「まさか、彼女がこちらの情報をイオリに口外したのでは・・!?

「そんなことはない!ミナミちゃんがそんなことするはずが・・!」

 ニナが口にした言葉にジュンが反論する。しかしニナは顔色を変えない。

「彼女はカオスサイドの人間なんですよ!彼らに従うのは当然でしょう!」

「違う!彼女が僕たちを裏切るはずがない!彼女は帰ってくる!そう約束したんだ!」

 ニナとジュンが口論を始める、それを制したのはユキノだった。

「今は言い合っているときはないはずです!襲撃を受けている中東基地の防衛が最優先です!」

「そうだよ、マシロちゃん、ニナちゃん!早くみんなを助けに行かないと!」

 ユキノに続いて、アリカもジュンとニナに呼びかける。感情的になっていた2人が落ち着きを取り戻す。

「そうですね・・・僕たちが行かないと、みんなを助けることができないのですから・・・」

 ジュンの言葉にアリカたちが頷く。

「私はとりあえず待機しているしかないわね。マシロさん、アリカちゃん、ニナちゃん、ここはあなたたちに任せることにするわ。」

「シスカさん・・・はい。任せてください。シスカさんはクサナギで待機していてください。」

 シスカの言葉にジュンが答えると、シスカは微笑んで頷く。

「これより、中東基地救助と敵MSの迎撃のため、全速前進します!」

 ユキノの呼びかけを受けて、クサナギが移動を開始した。戦いに向けて気構えを固める中、ジュンはミナミへの心配に心を揺さぶられていた。

 

 イオリの命令によって拘束され、カオスサイド浮遊基地の独房に連行されようとしていたミナミ。その中で彼女は、ジュンやオーブの人々が気がかりになっていた。

(このままじゃジュンくんたちが・・・このまま捕まっている場合じゃない・・・)

 ミナミはジュンたちの心配を胸に秘めて、この最悪の事態の打開を考えていた。

(たとえイオリさんやカオスサイドのみなさんを裏切ることになっても、この事態を何もしないでいるなんてできない・・・!)

 覚悟を決めたミナミが、左右にいる兵士たちを突き飛ばす。そして一方の兵士から銃を奪い取り、銃口を向ける。

「すぐに手錠を外して!私もオーブに向かいます!」

「血迷いましたか、カスターニ殿!?あなたはあまりにオーブに感情移入しすぎています!これは敵への寝返り、我らへの反逆と見なされますよ!」

 緊迫を募らせながら言い放つミナミに、兵士も緊迫を覚えながら答える。

「私は、私が守りたいと思うものを守りたい!それだけなんです!・・反逆罪になるのなら、受ける覚悟はできています!すぐに手錠を外してください!」

「くっ・・・どうなっても知りませんぞ!」

 兵士は毒づきながら、ミナミの両腕をはめている手錠を外す。自由を取り戻したミナミは、銃を手にしたままこの場を後にする。

「うっ・・・管制室、応答せよ!カスターニ殿が逃走しました!」

 兵士はうめきつつ、他の兵士たちに呼びかけた。ミナミが整備ドックに戻ったときには、銃を持った兵士が数人待ち構えていた。

「いたぞ!逃がすな!」

「最悪の場合は殺しても構わん!」

 兵士たちの呼びかけの瞬間、ミナミは踏み切って駆け出す。兵士たちに向けて威嚇の発砲をして、白のワルキューレに向かって突き進む。

「しまった・・MS隊、出撃!絶対にここから逃がしてはならない!」

 ワルキューレに乗り込んだミナミに、兵士たちがいきり立つ。だがワルキューレはすぐさま発進。撃墜すら厭わないザクウォーリア、グフイグナイテッドの攻撃を、その機動力でかいくぐる。

 純白のワルキューレの速さに追いつくことができず、兵士たちは歯がゆさを覚えるしかなかった。

(ジュンくん、無事でいて・・・!)

 ジュンやクサナギの人々の身を案じながら、ミナミもオーブに向かった。

 

 

次回予告

 

「あなたは私に大切なものをくれた・・」

「あなたに出会わなかったら、私はここまで勇気が持てなかった・・」

「私も、強く生きていきたい・・・」

「一緒に守っていこうね、ジュンくん・・・」

 

次回・「ミナミのナミダ」

 

 

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