GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-24「誓いの別れ」

 

 

 デッド・ライダーズとの戦闘から一夜が明け、クサナギのクルーたちは平穏を取り戻しつつあった。

 シスカもジュンやアリカたちの介抱を受けたことで、何とか医務室から出ることができた。

「おはようございます、シスカさん。もう、大丈夫なんですか・・・?」

 食堂に向かおうとしていたシスカに、通りがかったユキノが声をかけてきた。

「ユキノさん・・はい、何とか・・・」

 微笑みかけるユキノに、シスカが笑みを作って答える。そしてシスカはユキノに頭を下げる。

「申し訳ありません、ユキノさん。勝手な行動を取って、みなさんに迷惑をかけてしまって・・・」

「シスカさん・・・気にしないでください。あなたはお兄さんのことを、強く想っているのでしょう・・・?」

 そんなシスカに、ユキノが弁解の言葉をかける。その言葉に、シスカは再び兄を、ジョージのことを思い返す。

 どんなに呼んでも、想いを込めても、今の兄には届かなかった。もはや兄妹の絆は、2度と修復できないのだろうか。

 沈痛の面持ちを浮かべるシスカの肩に、ユキノが手を添えてきた。

「諦めないでください。自分が正しいと思う勢いで突き進んでいけば、必ず道は開かれる・・・私の親友の受け売りなんですけどね。」

 シスカを励ましたユキノが照れ笑いを見せる。親友であるハルカがいたからこそ、ユキノはオーブの新たな党首としてこれまで頑張ってこれた。ユキノはそう確信していた。

「ユキノさん・・・そうですね。諦めるなんて、私らしくないですよね・・」

「・・・でも、しばらくは体を休ませたほうがいいですよ。まだ傷が完治したわけではないのですから・・」

「分かりました。では切り札として待機することにします。」

 言いかけるユキノに、シスカが冗談半分に答えてみせる。彼女が元気を取り戻したことを察して、ユキノは安堵の微笑を浮かべた。

「あ、ユキノさん、シスカさん、おはようございます。」

 そこへジュンが現れて、ユキノとシスカに声をかけた。

「おはようございます、マシロさん。」

「シスカさん、元気になったみたいですね・・よかった。僕もアリカちゃんも心配で心配で・・」

 ユキノが挨拶を返し、ジュンがシスカに眼を向けて安堵を見せる。

「心配かけてごめんなさい、マシロさん。しばらくは戦線離脱ですけど、いざというときにはやりますので。」

「いえ、あまりムリしないで・・って、僕が言えた義理じゃないですけど・・」

 シスカの言葉に、ジュンが照れながら答える。

「それでは僕はミナミちゃんのところに行ってきます。それでは、シスカさん、ユキノさん。」

 ジュンは振り返り、ミナミのいる部屋へと向かう。その後ろ姿を、ユキノとシスカは微笑んで見送った。

「マシロさん、すっかりミナミという人に入れ込んでいるみたいですね。」

「そうですね。でも、ミナミさんはカオスサイド。マシロさんに何も起こらなければいいのですが・・」

 シスカの言葉を受けて、ユキノが不安を見せる。ミナミがいることでどのような事態が起こるのか、彼女たちは気がかりだった。

 

 ミナミのいる部屋に向かうジュン。その途中の廊下で、彼はアリカとニナに声をかけてきた。

「おはよう、マシロちゃん♪もしかして、ミナミさんのところに?」

「アリカちゃん、ニナちゃん・・・うん。シスカさんもだけも、ミナミちゃんのことも気がかりだから・・」

 アリカの問いかけにジュンが頷く。するとニナがいぶかしげな面持ちで彼に言いかける。

「マシロさん、あまり彼女と会わないほうがいいと思います。あなたはライトサイドの代表。カオスサイドである彼女と親密な関係を持てば、人々が不安や不信感を抱くことになりかねません。」

「ニナちゃん・・・どこの国かなんて関係ない。守れる人がいるなら守ってあげたい。それが僕の願いなんだ。」

 ニナの意見を受けても、ジュンの意思は変わらない。

「・・その考えが、あなた自身を苦しめないことを、切に願います・・・」

 ニナはそう告げて、ジュンに小さく一礼した。

 

 アリカとニナを連れて、ジュンはミナミのいる部屋を訪れた。するとそこで3人はイリーナと対面する。

「あ、イリーナちゃん。」

「アリカちゃん、マシロちゃん・・やっぱり、ここに来ると思ったよ。」

 アリカが声をかけると、イリーナが笑顔を返す。

「とりあえずみんなには言っておこうと思って・・・彼女の乗っていたワルキューレ、とりあえず修復が完了したよ。」

「えっ?治したの?」

 ジュンが疑問を投げかけると、イリーナが頷く。

「ホントにすごいよ、あの機体は!これまでの各国の使用している武装や機体のデータが盛り込まれていて、並の兵器じゃ相手にならないくらい・・!」

 イリーナが歓喜をあらわにして、熱烈に語りだした。彼女は発明マニアの一面があり、機械のことになると熱が入ってしまうのである。

 長々と語るイリーナにジュンたちが苦笑しつつ聞いているところへ、ミナミが部屋から顔を見せてきた。

「あの・・みなさん、何を話して・・・?」

 ミナミがおもむろに声をかけてきたのに気づいて、ジュンが慌てて弁解を入れようとする。

「い、いや、何でもないよ。ただの・・」

「もう、ホントにすごいんだから、あのワル・・!」

 さらに熱く語ろうとするイリーナの口を、ジュンが慌てて手で押さえる。話し足りない面持ちを見せるイリーナの横で、ジュンはさらに苦笑いを浮かべる。

「本当に楽しいですね、マシロさんやみなさん・・」

 するとミナミが微笑みかけ、ジュンたちが一瞬きょとんとなる。

「そ、そんなことないよ、ミナミちゃん。アハハハ・・・」

「・・・私も、みなさんと一緒に笑えて、それを守っていけたら・・」

 弁解の笑みを見せるジュンに、ミナミが物悲しい笑みを浮かべる。その様子に、ジュンたちも戸惑いを覚える。

「私は何もかも失って、イオリさんに助けられて、今の私がある・・だから、イオリさん以外に、私がいる価値はないと思ってた・・・」

 喜びのあまりに、ミナミの眼から涙があふれてくる。するとジュンが微笑んで、彼女の涙を拭う。

「大丈夫だよ・・ミナミちゃんには僕が、僕たちがついてるから・・・」

「マシロさん・・・ありがとう・・本当にありがとう・・・」

 ミナミは心の底から感謝していた。命の恩人であるイオリ以外の人に。ジュン・セイヤーズに。

 

 その頃、ユキノはオーブや各国の政府への連絡を取り合っていた。オーブを中心に侵攻をしてきたカオスサイドの動向を気にしてのことだった。

 しかしカオスサイドの勢力が大きく、また現在は戦線を離脱していることもあって、明確な打開策が練れない状態であった。中にはその勢力に向かう意思が持てず、腰を重くしている国家もあった。

 それでもユキノは、ジーザス艦長のミドリは諦めていなかった。

“なるほど。そっちもいろいろとあったみたいだね。”

「現在、カオスサイドのパイロットを保護していますが、マシロさんと交流が深まっているようで・・」

 クサナギの作戦室のモニター越しに、ミドリとユキノが連絡を交わす。

「それで、このまま彼女のことについて、マシロさんの意思に委ねようと思うのですが・・」

“うん。それはうちらも構わないし、ユキノちゃんの考えに任せるよ。”

「分かりました・・ 何かありましたら、また連絡しますので。」

“了解。これからうちらもそっちに行くから。カオスサイドの連中が次々やってきてるけどさ、突破してでも行っちゃうから。”

 ミドリはユキノに気さくな笑みを見せると、クサナギとの連絡を終える。

「ジーザスとの合流を果たしますが、それまでにカオスサイドが攻撃を仕掛けてこないとも限りません。くれぐれも用心を怠らないよう、お願いします。」

 ユキノはクサナギの面々に告げると、敵襲に向けての備えた。

 

 その頃、ジュンたちはアリカ、ニナ、イリーナ、そしてミナミとともに、食堂にて食事を取っていた。

「これから、カオスサイドはどのような手を打ってくるのかな・・・?」

 ジュンが切り出した言葉に、アリカたちも当惑を見せる。その中で1番不安に感じていたのはミナミだった。カオスサイドとこのオーブが衝突することに対して、彼女はどうしたらいいのか分からなくなっていたのだ。

「あの防衛ラインを突破できず、アザトースの浮上を許してしまった・・カオスサイドが何を考えているのか、見当もつかない・・」

「それに、デッド・ライダーズの動きも気になるし・・」

 ニナとアリカも周囲の勢力の出方を気にかけていた。

「ミナミちゃん、何か知っているんだよね?・・話してもらえないかな・・このままじゃオーブやライトサイドが・・いや、世界中が大変なことになるかもしれないから・・」

「マシロさん・・・」

 ジュンに問いかけられて、ミナミが戸惑いを見せる。イオリに忠義を尽くしている彼女にとって、たとえジュンの頼みでも、それを裏切ることはできないでいた。

「ゴメンなさい・・イオリさんを裏切るようなことは、私にはできない・・・」

「あなた、自分の立場が分かっているの!?本来なら捕虜として、独房に入れられているはずの人間なのよ!」

 ニナがミナミに向けて憤りをあらわにする。その態度にミナミが困惑する。

「ニナちゃん!・・ミナミちゃんも辛いんだ。それなのに・・」

「今、彼女から詳細を聞かなければ、カオスサイドの侵攻を許すことになりかねないのよ!それをあなたは見過ごそうと・・!」

 言いとがめるジュンに、ニナが反論する。ジュンは世界を守るためにミナミを利用するような手段が許せず、ニナは世界を守るためにカオスサイドの侵攻を食い止める打開の策を見出そうと考えていたのである。

「僕はみんなを守りたい!世界だけでなく、ミナミちゃんも!」

「敵まで守るなんて、そんな矛盾・・!」

「やめてください、2人とも!」

 口論するジュンとニナに向けて、ミナミが悲痛の叫びを上げる。その声にジュンとニナがミナミに振り向く。

「ミナミちゃん・・・」

「・・ごめんなさい・・でも、私のためにみなさんの仲が悪くなってほしくないんです・・」

 ミナミが悲痛さを募らせて、たまらず涙を流す。彼女の様子に、ジュンやニナ、アリカたちが困惑を覚える。

「ごめん、ミナミちゃん・・・僕たちは、その・・・」

「ありがとう、マシロさん・・・マシロさんの気持ち、私にちゃんと伝わってるから・・・」

 ミナミはジュンに感謝すると、おもむろに席を立ち、彼らに眼を向ける。

「カオスサイドについては、どうしても話すことはできません。ですが、イオリさんのすることが、万が一にもみんなを傷つけることがあるとするなら、私はその真意を聞いて、場合によっては止めなくてはならない気がしています・・」

「ミナミちゃん、まさか・・・!?

「うん・・・カオスサイドに戻ります・・イオリさんと、もう1度話をするために・・・」

 一抹の不安を見せるジュンに微笑んで、ミナミが決意を口にする。

「カオスサイドに戻るって!?・・ダメだ!カオスサイドは、イオリという人は何をするか分からないんだよ!どういう考えを持っているにしろ、カオスサイドに戻ったら危険だということは君のほうがよく分かってるんじゃないのかい!?

「はい。それでも私は・・・」

 必死の思いで呼び止めようとするジュンだが、ミナミの気持ちは変わらない。

「残念ですが、それを認めるわけにはいきません。」

 そこへユキノが訪れ、ミナミに言いとがめる。

「ユキノさん・・・」

 ジュンが戸惑いを見せる前で、ユキノがミナミに言いかける。

「あなたが他言するつもりでなくとも、あなたがこのオーブやクサナギに関する情報を得ていることは事実です。そのあなたを、このままカオスサイドに戻すようなことはできません。」

「私はイオリさんの真意を確かめたいのです。最悪の事態なら、それを止めることも考えています・・・」

 ユキノの見解に対しても、ミナミは引かない。

「マシロさんがマシロさんのすべきことをするように、私の私のすべきことをしたいんです・・覚悟はできています・・カオスサイドに行かせてください・・・!」

「ミナミさん・・・」

 揺るぎないミナミの心境を目の当たりにして、ユキノも戸惑いを覚える。ジュンが困惑していると、ミナミが微笑みかけてきた。

「わがままを言ってごめんなさい、マシロさん・・でも、私もみなさんのためになるのなら・・・」

「ミナミちゃん・・・僕は・・・」

 何とかしてミナミを止めたかったジュンだが、これ以上彼女にかける言葉が見つからなかった。アリカたちも彼女を止めることができなかった。

 

 オルブライト隊とも連絡を取り、ユキノたちはミナミの処遇について思考を巡らせていた。しかしミナミの意思は変わらないものと判断し、ミナミの解放を決断した。しかし彼女の動向を常に把握するため、彼女には盗聴器と小型カメラを所持することが条件付けられ、彼女もそれに同意した。

 そして修復を終えた白いワルキューレとともに、ミナミはクサナギのクルーたちと別れようとしていた。

「イオリ・パルス・アルタイを信頼しているあなたの気持ちを尊重したいのが本音ですが、もしも危険を感じた場合はすぐにカオスサイドを離脱してください。」

「分かっています。でも大丈夫だと思います・・」

 ユキノの呼びかけにミナミが小さく頷く。そしてミナミは、ジュンたちに振り向く。

「みなさん、いろいろ迷惑をかけて、すみませんでした・・・私のために、ここまでしてくれて・・・」

 ジュンたちに向けて深々と頭を下げるミナミ。するとジュンが前に出て、ミナミに微笑みかける。

「ミナミちゃん、感謝するのは僕のほうだよ・・ミナミちゃんがいてくれて、僕も勇気付けられたよ・・・」

「マシロさん・・・勇気をもらったのは、私のほうだよ・・マシロさんやみんながいなかったら、ここまで笑えることはできなかった・・」

 互いに励まされて、ジュンもミナミも眼に涙を浮かべていた。

「ミナミちゃん、必ずまたここに帰ってくるよね・・みんなの笑顔が集まっている、この場所に・・・」

「うん・・・大丈夫・・必ず、帰ってくるから・・・」

 ジュンの声に微笑んで答えるミナミ。するとミナミが突然、ジュンに顔を近づけて口付けを交わした。

 彼女のその突然の行為に、ジュンばかりでなく、周囲にいたアリカたちも驚きを覚える。ミナミはジュンから唇を離すと、改めて微笑みかける。

「ありがとう・・マシロさん・・・」

(ありがとう・・ジュンくん・・・)

 ジュンに感謝の言葉をかけると、ミナミはきびすを返し、ワルキューレへと向かった。そしてそのコックピットへと乗り込み、コンピューターのチェックを行う。

「ミナミちゃん、必ず・・必ず、帰ってきて・・・!」

 ジュンが呼びかけるとミナミが微笑む。コックピットのハッチが閉ざされ、ワルキューレが発進準備に入る。

 ユキノやアリカたち、オルブライト隊のクルーたちが敬礼を送る。多くの人々に見送られて、ミナミの乗るワルキューレが飛び立った。

(ミナミちゃん・・・待ってるから・・必ず、帰ってきて・・・)

 ミナミの無事を願って、ジュンは飛翔していく白き機体を見送った。

 

 

次回予告

 

「もう待ちくたびれてしまったわ・・」

「な、何だ、あれは!?

「存分に味わいなさい・・この私の最高の力を!」

「もはやお前たちに希望はない。地獄の業火に焼かれて、朽ち果てるがいい!」

 

次回・「混沌の侵攻」

 

 

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