GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-22「決別の仮面」
パールに代わってブラッドの前に立ちはだかったバルディッシュ。シスカは眼前の紅い機体に搭乗しているであろう兄に想いを馳せていた。
「その機体に乗っているのは・・お兄さんなんでしょ・・・?」
シスカが回線を開いてブラッドに呼びかける。その声にジョージが眉をひそめる。
「そうか・・・お前はこの前、オレに声をかけてきた娘か・・・だが何度も言っているだろう。私はお前の兄などではないと。」
「違う!あなたは私のお兄さん!“ジョージ”という名前と今も感じられる雰囲気は、確かにお兄さんのもの・・!」
否定するジョージに対し、シスカはあくまで彼が兄だと主張する。
「私が間違えるはずがないよ・・・だって、私とお兄さんは、ずっと一緒だったんだから・・・」
「お前が何と言おうと、私はお前の兄ではない。それは紛れもない事実・・・」
切実に言いかけるシスカの言葉を否定し、ジョージは自分の顔を覆っている仮面に手を当てる。
「この仮面こそが、今の私を示唆しているのだ・・・故にデッド・ライダーズ以外に、私に縁となるものはない。」
ジョージが言い放つと、ブラッドが中型の銃を構える。貫通性を備えたビームショットである。
シスカの駆るバルディッシュが飛翔し、放たれたビームを回避する。だがブラッドがバルディッシュに迫り、さらにビームを放ってくる。
バルディッシュは身を翻して、ビームの連続攻撃をかわしていく。しかしシスカはブラッドに対して反撃に転じようとしない。
「やめて、お兄さん!私はお兄さんと戦いたくない!」
「愚かな・・私はお前の兄ではない!2つの勢力の分け隔ての上での敵だ!」
悲痛の叫びを上げるシスカだが、ジョージにはその想いは届いていなかった。
高速化を図りながら、マイスターと互角の勝負を繰り広げているカナデ、サラ、マーヤ。その三位一体攻撃に、アリカは悪戦苦闘していた。
「ま、まずいよ・・これじゃいつかやられちゃう・・何とか、あの速さに追いつかないと・・!」
次第に焦りを募らせていくアリカ。高速化するドムトルーパーの動きは、機動力に優れたマイスターに勝るとも劣らないほどになっていた。
「おやおや、私たち、あのマイスターに負けてないんじゃない?」
「でもここで油断するわけにはいかないわ。前回のアテナのこともあるし・・」
笑みをこぼすマーヤに、カナデが淡々と呼びかける。
「一気に決めましょう。相手の本領発揮を待つ必要はありません。」
「分かってる。サラ、マーヤ、行くわよ。」
サラの声に耳を傾けつつ、カナデがサラとマーヤに呼びかける。3機のドムトルーパーが再び散開し、マイスターを狙う。
「ジェットストリームアタック!」
ドムトルーパーの三位一体攻撃が繰り出される。マイスターはその高速化される動きを何とかかわしていく。
「もうっ!いつまでもそんなにチョロチョロしないでよ!」
アリカがたまらず不満をもらす。だが無闇に手を出せば、逆に自分が劣勢を強いられることになる。
加速する相手の動きを的確に捉えようと、アリカは慎重に戦闘を続行した。
宇宙に飛翔し、研究所に向かっていたアザトース。負傷のためにランドル隊と合流することなく、トモエは艦内で不満を感じていた。
作戦室でその不満を噛み締めている彼女に、イオリが不敵な笑みを浮かべて声をかけてきた。
「ずい分と苛立っているようだな、トモエ。」
「苛立つのも当然でしょ?私だけがクサナギとランドル隊との戦闘に参加できなかったんだから・・」
イオリに対しても苛立ちをあらわにするトモエ。
「そう言うな。そんな状態で戦場に放り出して、お陀仏になったら文句のひとつも言えなくなるだろうが。」
イオリの言葉に不満を募らせていたが、トモエはそれに反論できないでいた。
「そう不満をたれるな。完成した新兵器。それを最初に操るのは、トモエ、お前だ。」
「私が・・カオスサイドの新兵器を・・・」
その言葉にトモエは苛立ちを忘れ、歓喜を覚えた。体を震わせ、両手を強く握り締める。
「それは、どのような兵器なの?・・私でも・・私でも・・・」
「もちろんだ。だがどのようなものかは、直に見てから話したほうがいいだろう。」
笑みをこぼすトモエをいさめて、イオリは作戦室を後にした。その後もトモエは、強大な力を手にする喜びを押さえられないでいた。
(私が・・・この私がついに・・・)
トモエは切望していた。自分に舞い込んでくるであろう力を早く振るうことを。
速さと力で攻めてくるブラッドに対し、シスカの駆るバルディッシュは悪戦苦闘していた。
「お願い!これ以上あなたと戦いたくない!きっと話し合えば、あなたと私は・・!」
「分かり合えるとでも言いたいのか?・・笑止。我々はお前たち世界を既に見限っている。」
シスカの悲痛の叫びを、ジョージは顔色を変えずにあざける。
「世界は我々を見放した。中立をうたっているお前たちオーブですら。だから我々は世界と偽りの平和に報復をもたらし、自らの手で真の平和を掴み取るのだ。」
「そんなことはない!私やお兄さん、みんながいるこの世界の平和は、想いは、絶対に偽りのものじゃないよ!」
「・・それはお前が、お前たちが決めることではない・・・!」
ブラッドが強化型ビームサーベルを、バルディッシュが巨大戦斧「クレッセント」をそれぞれ構える。冷静沈着のジョージに対し、シスカは動揺の色を隠せなくなっていた。
2機が飛びかかり、互いの武器が振り下ろされ衝突する。火花が散り、力が拮抗する。
(私はお兄さんとの再会を、このような形で迎えることなんて、望んでいなかった・・・)
悲痛さを噛み締めるシスカ。バルディッシュがクレッセントを振り抜き、ブラッドを引き離す。
(どうして私たちが戦わなくちゃいけないの・・どうして敵同士にならなくちゃいけないの・・・!)
「どうして昔に戻ってくれないの!?」
シスカの感情とともに、バルディッシュが戦斧を振り下ろす。だが力任せに振り下ろされた一閃は、ブラッドに簡単に見透かされてかわされる。
「お前、それほどまでに過去を追い求めているのか・・・」
「えっ・・・?」
「兄に対するその想い、私も賞賛しよう。だが、過去に囚われた者に、未来は訪れはしない!」
シスカの想いを一蹴して、ジョージが言い放つ。ブラッドが繰り出してきたビームサーベルの突きが、バルディッシュの右肩をかすめる。
バルディッシュがとっさにクレッセントを振りかざして迎撃するが、ブラッドの速さが一枚上手だった。さらに2門式長距離砲「ビームスマッシャー」で応戦するが、これもかわされる。
ブラッドが一気にバルディッシュの懐に飛び込んでくる。ビームサーベルの突きがバルディッシュのわき腹に突き刺さる。
「ぐっ!」
たまらずうめくシスカ。とっさにクレッセントで引き離そうとするが、ブラッドがその前にビームショットを撃ち込んできた。
胴体を撃ち抜かれたバルディッシュが爆発を引き起こして突き飛ばされる。
「キャアッ!」
「シスカさん!」
悲鳴を上げるシスカに向けて、アテナを駆るジュンが叫ぶ。アテナがとっさに周囲のドムたちを引き離して、ブラッドに向かって突き進む。
その特攻にジョージが気付き、ブラッドがビームサーベルを構えて、アテナが振り下ろしてきたビームサーベルを受け止める。
「お前も速さには自信があるようだな。」
ジョージが不敵な笑みを浮かべて、アテナを見据える。
「よくも・・よくもシスカさんを!」
シスカを傷つけられた怒りに駆られた瞬間、ジュンの中で何かが弾けた。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。
アテナの力が強まり、ブラッドを押し始める。その押しにジョージが眼を見開く。
(なるほど。驚異的な力を発言させたのはこの機体だったな・・)
ジョージは冷静さを取り戻して、アテナから離れる。2機が互いを見据え、出方を伺っている。
「見せてもらうぞ。お前のその速さを。」
先に飛び出したのは、不敵に言いかけたジョージのブラッドだった。紅い流星のごとき速さで、ブラッドがアテナに詰め寄る。
再び2本の光刃が激しくぶつかる。荒々しい衝突の中、ジュンとジョージが互いを鋭く見据える。
眼にも留まらぬ速さで次々と繰り出される一閃の連続。いずれも互いの機体に決定打を与えるにはいたらなかった。
ブラッドに撃たれ、地上に落下したバルディッシュその悲惨な姿をクサナギが捉えていた。
「シスカさん・・・バルディッシュへの連絡を!」
「ダメです!バルディッシュ、レーダーからシグナルロスト!ですが、落下地点は分かっています!」
ユキノの呼びかけにイリーナが答える。
「ニナさん、シスカさんを救出して、すぐに帰還してください!」
“ユキノさん!・・分かりました!マシロさん、アリカ、援護を!”
ユキノの指示に、ドムトルーパーと交戦していたニナが答える。
「私たちもバルディッシュに向かいつつ、パールを援護します!」
「了解!」
ユキノの呼びかけにクルーたちが答える。バルディッシュの落下地点に向けて、パールとクサナギが突き進んだ。
アテナと交戦するブラッド。ジョージはデッド・ライダーズの優勢を実感していたが、まだ予断を許してはいなかった。
(まずは1機を落とした。もう1機もクサナギも、その1機のほうに向かっている・・次は残った2機を一気に叩く。)
ジョージは戦況と次の一手を模索して、改めてアテナと対峙する。しかし戦闘能力が向上しているアテナが一筋縄で何とかできる相手とは考えていなかった。
そのとき、ブラッドのコックピットに、ボトムズからの通信が入った。
“本艦後方に新手の艦体が接近!・・オルブライト隊です!”
「何っ!?」
ボトムズのオペレーターの報告に、ジョージが眉をひそめる。ブラッドのカメラが、戦場に向かってくる艦隊を捉えた。
(ようやく畳み掛けようというときに援軍の到着か・・だがクサナギの戦力のひとつを潰したことに変わりはない・・)
「今回はここまでだ!全機撤退だ!」
胸中で毒づくと、ジョージはクルーたちに呼びかける。オーブ軍と交戦していたドムトルーパーたちが撤退を始める。
「こちらも状況がよくありません。こちらも帰還してください。」
ユキノも深刻な面持ちを浮かべて、クルーたちに呼びかける。しかしアテナもマイスターもパールの後を追って、バルディッシュの落下地点に向かう。
バルディッシュはもはや戦闘不能にまで大破していた。ニナ、ジュン、アリカがそれぞれの機体から降りて、バルディッシュに近づく。
「シスカさん、大丈夫ですか!?聞こえていたら返事をしてください!」
ジュンが呼びかけるが、バルディッシュから返答はない。
「ダメよ!こっちから開けるしかないわ!2人とも下がってて!」
ニナの呼びかけにジュンよアリカが少しだけ離れる。ニナがコックピットのハッチの横のパネルを操作して、ハッチを開ける。
コックピットには、意識を失っているシスカの姿があった。
「シスカさん!」
アリカがシスカに詰め寄り、体をゆすって呼びかける。しかしシスカは辛い表情のまま意識を取り戻さない。
「とにかくクサナギに運んだほうがいいよ。」
「そうね・・医療班、搬送と治療の準備をお願い。」
ジュンの言葉に頷き、ニナがクサナギに連絡を入れる。ジュンとアリカに支えられて、シスカがクサナギに運ばれた。
自身が持っていた力とともに兄への想いを打ち砕かれたシスカ。その悲痛さを考え、ジュンもいたたまれない気持ちにさいなまれていた。
デッド・ライダーズと交戦していたクサナギに加勢すべく現れたオルブライト隊。その隊長、ロイ・オルブライトとユキノが邂逅していた。
「ご足労、感謝いたします、ロイ・オルブライト隊長。」
「遅くなって申し訳ありません。オルブライト隊、グエン大臣の命を受けて、クサナギ支援のため、参上いたしました。」
ユキノとロイが握手を交わし、友好を確かめる。
「あなた方の救援がなければ、私たちはこの危機を脱することは難しかったでしょう。」
「・・シスカ殿の負傷とバルディッシュの大破は痛手です。デッド・ライダーズだけでなく、カオスサイドの攻撃も過激化にむかっていくことでしょう。」
安堵の微笑を見せるユキノに、ロイは深刻な面持ちを見せる。ジョージの操るブラッドによってバルディッシュを撃破され、シスカは心身ともに疲弊しきっていた。ジュンもアリカたちも、彼女の容態に対して心配せずにはいられなかった。
「ところで、カオスサイドのパイロットを1人拘束したと聞いていますが・・」
「はい。ですがマシロさんの計らいで、錠の拘束を解いており、現在は行動の制限に留まっています。」
「錠を解いた?これでは内部崩壊を引き起こされる危険があるのでは・・」
ミナミの一部解放に対してロイが疑問を覚える。
「それなら心配は要らないでしょう。マシロさんが彼女を信じているようですし、彼女自体も脱走を企てる様子もこれまで見られませんし。」
「でも警戒は怠ってはいないのでしょう?その人物がカオスサイドに属していることに変わりはないのですから。」
「分かっています。彼女が乗っていた機体、ワルキューレも、その性能やデータを解析しつつ、彼女が接触することを防いでいます。」
ユキノの言葉を聞いて、ロイは渋々頷いた。
「ではユキノ殿、我々オルブライト隊も、微力ながら、あなた方の作戦に参加させていただきます。」
「了解しました。あなた方の助力に感謝いたします。」
ロイが敬礼を送ると、ユキノも微笑んで頷いた。
オーブ領土を離脱し、宇宙を航行し、アザトースはカオスサイドの浮遊基地についにたどり着いた。着地したアザトースから降りてきたイオリを、カオスサイドの兵士たちが迎え、敬礼を送る。
「イオリ様、ご帰還、お待ちしておりました。」
「待たせたな、お前たち。そうかしこまるな。これからはそんな礼儀を重んじられる自体ではなくなるのだからな。」
頭を下げる部下たちに言いかけると、イオリはスミスとトモエを伴って、基地の中へと入っていった。
「その奥に新兵器があるの?・・期待を抑えられなくなってきたわね・・」
「そう焦るな。別に慌てなくても逃げやしないって。」
笑みをこぼすトモエに、イオリが不敵な笑みを崩さずに言いかける。3人は基地内の廊下を進み、やがて大きな扉の前で立ち止まる。
「お待ちしておりました、イオリ様。ついに新兵器が完成いたしました。ですがパイロットとの連動のため、すぐに戦闘に出すのはさすがに無謀ですが・・」
「別に急ぐことはない。そのことも考慮しているさ。」
謝罪する研究員に、イオリは笑みを見せて弁解する。
「まずは直に眼にしたい。開けてくれるか?」
「了解しました。」
イオリの呼びかけに促されて、研究員が操作パネルを叩き、扉を開く。その先の光景がイオリたちの視界に飛び込んでいく。
(もうすぐコレが実践投入される。そうなればいかにカグツチやデュラン、マイスターが相手でも恐れるに足らないぞ・・・)
扉が開かれていくに連れて、イオリが笑みを強めていく。完全に開かれた扉の先には、大きな部屋とそこにそびえ立つ1体の機体がそびえ立っていた。
「これが新兵器の雄姿か・・実に感慨深い・・・」
「エレメンタルテクノロジーを始めとした、我々が入手したMSに関する全てのデータを用いて完成させております。これなら我々の革命もたやすくなることでしょう。」
歓喜を見せるイオリに、研究員が説明を入れる。同様にトモエも歓喜を抑えられないでいた。
「これが、私の新しい機体になるのですか・・・?」
「あぁ。まずはこれを使ってオーブ軍を根絶やしにする。お前も鬱陶しいだろう?お前の親愛なるシズル・ヴィオーラを死に追いやった、マイスターの存在を。」
さらにイオリにたきつけられて、トモエがさらに笑みを強める。
「では早速コックピットに乗り込んで、データを照合しておけ。いつでも出撃できるようにしておけ。」
「言われるまでもないわ・・」
イオリに答えると、トモエは新兵器に駆け寄り、コックピットへと乗り込む。イオリは再びその雄姿を眼にして、哄笑を上げていた。
次回予告
「お初にお目にかかります、マシロ陛下。」
「何も信じられないのは、辛いですよね・・」
「お前は・・・!?」
「まさかお前からこっちに来るとはな・・」
「今からオレが、お前となるのだ・・」