GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-21「兄妹の錯綜」

 

 

 シスカが必死の思いで呼び止めた相手。それはサラを連れた仮面の男、ジョージ・グレイシーだった。

「君は何者だ?あからさまに私を兄と呼んで・・」

「何を言っているの・・私よ!シスカよ!」

 疑問を投げかけるジョージに、シスカがさらに呼びかける。

「あなた、本当に誰ですか・・・?」

 そこへサラがシスカに向けて不審の声をかける。サラはジョージにあやかっての仮面を付けておらず、代わりにメガネをかけていた。

「君に何があったのかは知らないが、人違いだろう。すまないが、失礼させてもらう。」

「待って!お兄さんなんでしょ!?

 立ち去ろうとしたジョージに向けて、シスカが悲痛の叫びを上げる。するとジョージは歩き出そうとしていた足を止める。

「何度も言わせるな。私は君の兄ではない・・私はジョージ・グレイシー。全ての過去を捨てた男だ。」

「ジョージ・・間違いない・・あなたは私の・・!」

 名乗るジョージに、シスカは確信した。眼の前にいる仮面の男が、自分の兄であることに。

「しつこいですよ、あなた。ジョージさんはあなたのお兄さんではありません。」

「違う・・・あなたは私のお兄さん、ジョージ・ヴァザーバーム・・・!」

「いい加減にしてください!これ以上言うのでしたら、こちらもそれなりの対応をさせてもらいますよ!」

 呼びかけるシスカを言いとがめるサラ。その声にシスカは押し黙ってしまう。

「行きましょう、ジョージさん。私たちには、やらなくてはならないことがあるのですから・・」

 サラの声を受け入れて、ジョージは改めて歩き出した。立ち去ろうとする彼を、シスカはこれ以上呼び止めることができなかった。

「シスカさん!」

 そこへアリカたちがシスカに追いついてきた。しかし動揺の色を隠せなくなっていたシスカは、アリカたちが来たことに気付いていない。

「シスカさん、どうしたんですか、いきなり・・・!?

 アリカが問いかけるが、シスカは前をじっと見つめたまま答えようとしない。

「シスカさんは何かを見たんだ・・」

「何かって、何・・・?」

 ジュンが言いかけると、アリカが疑問を投げかける。

「それは、僕にも分からないよ・・・」

 するとジュンも疑問を覚えて考え込んでしまう。

「・・とにかく、今は戻りましょう。そろそろ補給も完了している頃でしょう。」

 そこへニナが呼びかけ、ジュンたちも落ち着きを取り戻して頷く。

「シスカさん、戻りましょう。少し休んだほうが・・」

 ニナが呼びかけるが、それでもシスカは無反応のままだった。ジュンたちに促される形で、シスカもクサナギへと戻っていった。

 

 クサナギは既に資材の補給を完了していた。だがシスカの異変に、ユキノもイリーナも当惑を感じていた。

「いったい、何があったのですか・・・?」

「分かりません。町で何かを見てそれを追いかけて・・・」

 ユキノが訊ねると、ジュンが困り顔で答える。

「そういえばシスカさん、お兄さんって繰り返し呟いてたみたいでしたけど・・」

 そこへアリカが言いかけ、ユキノは考えを巡らせる。

「お兄さん・・・」

「ユキノさん、シスカさんに何があったのですか?・・・言えないことでしたら、それでいいのですが・・・」

 ジュンが問いかけると、ユキノは沈黙を置いてから語りかけた。

「シスカさんは、先の戦争で兄と離れ離れになっているのです。」

「シスカさんが・・・!?

 シスカの素性を聞いて、ニナが声を荒げる。その様子にジュンが当惑を覚えていた。

「シスカさんは、お兄さんと2人暮らしをしていたんです。ですがライトサイドとダークサイドの戦争に巻き込まれて、シスカさんのお兄さんは行方不明になってしまったのです・・」

「そんな・・・」

「現在もその行方が分かっておらず、死亡している可能性が強いのです・・シスカさんの心の底には、お兄さんに対する想いが重く沈んでいるのです・・・」

 ユキノの口から語られたシスカの過去。そのことにジュンたちも沈痛さを強めていた。

(シスカさんも、戦争の被害者だったんだ・・・僕が何とかしなくちゃいけない気がする・・ライトサイド党首として、シスカさんの仲間として・・・)

 心密かに、ジュンは決意していた。シスカを過去の悲しみから救い出すことを。

 

 町の近くの海岸の空洞。そこにデッド・ライダーズの旗艦、ボトムズが潜伏していた。そこへジョージがサラとともに戻ってきた。

「お帰りなさい、ジョージさん、サラさん。」

「あぁ。待たせたな、カナデ。」

 出迎えてきたカナデに、ジョージが淡々と答える。

「もう出撃準備はできてるよ、ジョージ。」

 マーヤが気さくな笑みを浮かべてジョージに声をかける。その態度にサラが不満を覚える。

「ジョージさんに対してそんな・・・口を慎みなさい、マーヤ。」

「別にいいじゃないの。ジョージが不満になってるわけじゃないし。」

 注意を促すサラだが、マーヤは悪びれる様子を見せない。

「そんなことを言い合っているときではない。問題なのは、これからのことだからな。」

 そこへジョージが呼びかけ、サラとマーヤが真剣に話に耳を傾ける。彼らはボトムズに乗り込み、作戦室に向かう。

「現在アザトースはオーブを離脱。宇宙に飛び立っています。」

「そうか・・互いの戦力を分析しつつ、オーブとカオスサイド、双方をぶつけようという目論見を持ってみたが、やはり姑息な手段にすがるのはいただけないようだ。」

 カナデの報告を受けて、ジョージが呟く。

「敵は自らの手で倒さなければいけないようだ。我々は真の平和を掴み取るため、全てを賭けて戦わなければならない。」

「そうですね。平和は自分たちの手でつかみ、そして守り抜かなければならないのです・・」

 ジョージの呼びかけにサラが同意する。

「ではオーブへの、クサナギへの攻撃を開始する。」

「了解!」

 ジョージの呼びかけに、カナデ、サラ、マーヤをはじめとしたデッド・ライダーズが答える。自分の見据える世界のために尽力を注いでくれる仲間たちを目の当たりにして、ジョージは決意を強める。

(そうだ・・私にはこの者たちがいる。平和をつかみ取れるだけの力と精神がある・・・)

 仲間たちへの感謝を噛み締めて、ジョージは拳を強く握り締める。

(この仮面を付けたときから、私は過去を捨てた・・デッド・ライダーズ以外に、私の存在意義はない。)

 ジョージはきびすを返し、モニターに映し出された海上を見据える。カナデたちMSパイロットたちは各々の機体へと乗り込んでいった。

「それでは戦闘開始です。サラ、マーヤ、行きますよ。」

「久しぶりに楽しいゲームになりそうだねぇ。」

「これは戦闘ですよ、マーヤ。遊び半分でやっていたら、真っ先に死ぬことになりますよ。」

 カナデの呼びかけにマーヤが気さくに答え、サラが注意をかける。

「ドムトルーパー隊、ボトムズより出撃!」

 そして彼女たちの乗るドムトルーパーが、クサナギを目指して発進していった。

 

 ボトムズとドムトルーパーの発進を、クサナギのレーダーが探知していた。

「11時の方向から接近する大型艦と多数の機体を確認!デッド・ライダーズです!」

 イリーナの報告を受けて、ユキノは緊迫を覚える。

(デッド・ライダーズ・・・ここに攻めてくるなんて・・!)

「第一級戦闘配備!襲撃に備えます!」

「了解!」

 ユキノの呼びかけにクルーたちが答える。モニターは迫りつつあるデッド・ライダーズを鮮明に映し出していた。

 

 同じ頃、シスカは自分の部屋で1人でいた。彼女は兄と見た相手、ジョージのことを考えていた。

 彼女にはジョージが兄であることを確信していた。仮面で素顔は分からなかったが、感じられる面影や雰囲気は確かに兄のもの。彼女はそう感じ取っていた。

(あの人は確かにジョージお兄さんだった・・たとえ顔が分からなくても、私には分かる・・・)

 シスカはあくまでジョージを信じようとした。かつて自分に優しくしてくれた昔のように。

 そのとき、部屋のドアがノックされ、シスカは我に返る。その直後、彼女は艦内に警報が鳴り響いていることにようやく気付く。

「シスカさん!シスカさん!」

 呼びかけてきたのはジュンだった。シスカは部屋のドアを開けて、彼の姿を眼にする。

「マシロ、さん・・・」

 慌しい様子のジュンを目の当たりにして、シスカが当惑を見せる。返答に困っている彼女を見て、ジュンは落ち着きを取り戻す。

「シスカさん、大丈夫ですか?・・町でのあのときから、ずっと元気がなくて、今も部屋に閉じこもっている様子で・・・」

「だ、大丈夫ですよ、マシロさん。私はちょっとやそっとやへこたれたりしませんから・・」

 ジュンが心配の声をかけると、シスカが笑ってみせる。だがそれが作り笑顔でしかないことは、ジュンの眼にも明らかだった。

「今、クサナギは襲撃に備えて出撃しようとしています。ですが、シスカさんは今回は休んでいてください。」

「襲撃!?・・では、私も出なくては・・!」

 ジュンの言葉を受けてシスカが緊迫を覚える。だが部屋を出ようとした彼女をジュンが止める。

「今のシスカさんは疲れているように思えます!ここは僕やアリカちゃんたちに任せて・・!」

「そうはいきません!私はオーブの軍人!オーブやクサナギの危機を、黙って見ているわけにはいきません!」

「今の状態のあなたが出て行けば、逆にみなさんに迷惑をかけることになりかねません!・・ここは僕たちを信じて、シスカさんはここにいてください・・・!」

 ジュンの必死の説得に、シスカはようやく思いとどまった。安堵の吐息をつくと、ジュンは部屋を後にした。

 そしてジュンはその途中の一室に行き着くと、その前でミナミに眼を向ける。

「ジュンくん・・あなたも、これから戦いに出るの・・・?」

「ミナミちゃん・・・うん。みんなが危険にさらされてるんだ。僕もみんなを守らないと・・」

 ミナミが戸惑いを浮かべて訊ねると、ジュンは真剣な面持ちで頷いた。

「ミナミちゃんはここにいて。どんな理由であっても、カオスサイドの軍人である君を戦場に出すわけにはいかないと、ユキノさんから言われてるから・・」

「ううん、私は大丈夫だから・・・気をつけて、ジュンくん・・・」

 ミナミの声にジュンは微笑んで頷く。そして改めて、出撃に向けて格納庫へと駆け出していった。

 

 ジュンが格納庫に着いたときには、既にアリカとニナは出撃準備を整えていた。

「遅いですよ、マシロさん。」

「ゴメン、ニナちゃん、アリカちゃん・・・行こう。」

 言いかけるニナに謝りつつ、ジュンはアテナに乗り込んだ。アリカとニナも発進に備える。

“カタパルト接続。ハッチ開放。針路クリア。システム、オールグリーン。全セーフティ解除。MS隊、発進どうぞ。”

 イリーナのアナウンスが艦内に響く。

「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」

「ニナ・ウォン、パール、発進する!」

「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、アテナ、いきます!」

 マイスター、パール、アテナがクサナギから発進する。そして迫り来るドムトルーパーたちを迎え撃つため、3機が身構える。

「全部あの機体ばかり・・・」

「隊長機がいない・・・まずは様子見ということのようね・・」

 アリカとニナがドムたちを見据えて呟く。

“3人とも慎重に行動してください。下手に戦闘を行えば、こちらが不利に陥ることになります。”

 クサナギからユキノがジュンたちに呼びかける。アテナ、マイスター、パールが散開し、ドムたちを分散させる。

「量より質っていいたいのかな?・・さて、こっちの連携を見せてやるとしますか。」

 サラが気さくな笑みを浮かべると、彼女たちの駆るドムトルーパー3機がマイスターを狙う。

「まずはマイスターを倒しますよ。」

「そうですね。厄介な相手から倒していくしかありませんね。パールは他の人にひとまず押さえてもらうしか・・」

 カナデの呼びかけにサラが冷静に答える。ドムトルーパーたちが3方向からマイスターを見据える。

「ジェットストリームアタック!」

 ドムトルーパーの三位一体攻撃「ジェットストリームアタック」が繰り出される。アリカの駆るマイスターがその機動性を活かして、高速化されたドムの動きをかいくぐっていく。

「そのくらいじゃ、追いつけない速さじゃないよ!」

 マイスターがビームライフルを構え、ドムトルーパー目がけて発砲する。しかしドムの速さによってビームが弾かれる。

「効かないか・・やっぱ武器で直接・・!」

 毒づきながらも、アリカがドムたちを鋭く見据えていた。

 

 迎撃に出てきたクサナギの出方を伺っていたデッド・ライダーズ。ついにジョージが腰を上げ、臨戦態勢に入った。

「ブラッド、発進準備!一気に畳み掛けるぞ!」

「了解!」

 ジョージの呼びかけにクルーたちが答える。ジョージは作戦室を出て格納庫へと向かう。そこでは自身の紅い機体が悠然とそびえ立っていた。

 ジョージはそのコックピットに乗り込み、データを確かめる。そしてモニターに映し出されたハッチが開かれる。

「ジョージ・グレイシー、ブラッド、出るぞ!」

 ジョージの掛け声とともに、ブラッドがボトムズから発進する。ブラッドは一気にスピードを上げ、ドムとアテナたちの飛び交う戦場の真っ只中に飛び込んだ。

 ブラッドが手にした強化型ビームサーベルをパール目がけて振り下ろす。パールは2本のビームブレイドで受け止める。

「は、速い・・・!」

「お前も速い機体であることは調べが着いている。だが、このブラッドのほうが速い!」

 毒づくニナの駆るパールに向けて、ジョージが覇気を見せる。ブラッドが大きく飛び上がり、そこからパールに向けて急降下する。

「甘く見ないで!私はあなたには負けないわ!」

 ニナは言い放ち、ブラッドの動きを見据える。ブラッドとパール。紅の一閃が次々と飛び交っていった。

 

 デッド・ライダーズと交戦するクサナギの中、シスカが作戦室に入ってきた。

「ユキノさん、状況はどうなっていますか!?

「シスカさん!?・・戦況は五分といったところです。しかし、決して余談を許さない状況でもあります。」

 シスカの登場に一瞬驚くも、ユキノは落ち着いて状況を説明する。

「そうですか・・・イリーナさん、バルディッシュの発進準備を!私も出ます!」

「えっ!?シスカさん!?

 シスカの呼びかけにイリーナが声を荒げる。出撃しようとするシスカを、ユキノが呼び止める。

「いけません、シスカさん!今のあなたに戦闘はムリです!」

「そうですよ!相手はデッド。ライダーズ・・!」

「イリーナさん!」

 続けて言いかけたイリーナを、ユキノがたまらず呼び止める。襲撃してきている相手がジョージ率いるデッド・ライダーズであることを知り、シスカは愕然となる。

「デッド・ライダーズが・・・イリーナさん、すぐにハッチを開きなさい!やはり私が出なくては・・!」

「シスカさん!」

 シスカがイリーナに言い寄ると、ユキノがたまらず声を荒げる。しかしシスカはこれに応じようとしない。

 ユキノの制止を振り切って、シスカは作戦室を飛び出す。そしてバルディッシュに乗り込み、クサナギから発進する。

 ドムトルーパーとアテナたちが交戦する戦場を見据えるシスカ。その中で彼女は、兄の気配を必死に探った。

 そしてパールと交戦しているブラッドを目撃し、シスカはそれが隊長機、ジョージの搭乗している機体だと確信する。

(お兄さん・・・)

 兄に対する想いを胸に秘めて、シスカがブラッドへの接近を試みる。

「ニナさん、その機体は私が相手をするわ。あなたはマシロさんとアリカさんの援護をお願い。」

「シスカさん・・大丈夫なんですか・・・?」

 呼びかけるシスカにニナが逆に問いかける。

「大丈夫。もう私は動揺したりしないから・・・」

 シスカの答えを受けて、ニナはブラッドの相手を彼女に任せた。速さを見せ付ける紅い機体と、バルディッシュは対峙していた。

 

 

次回予告

 

「私が間違えるはずがないよ・・・」

「過去に囚われた者に、未来は訪れはしない!」

「何とか、あの速さに追いつかないと・・!」

「シスカさん!」

「この仮面こそが、今の私を示唆しているのだ・・・」

 

次回・「決別の仮面」

 

 

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