GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-19「暗雲の城壁」
オーブ軍との戦闘で形勢逆転を許し、撤退を余儀なくされた混沌軍。アザトースは一路、ランドル隊と合流した。
その港にて、イオリはランドル隊の指揮官、クラウド・ランドルと邂逅していた。
「お久しぶりです、イオリ殿。お待ちしておりました。」
「そんなにかしこまるな、クラウド。オレたちは敵にやられてのこのこ帰ってきた連中だぜ。」
会釈するクラウドに、イオリが不敵な笑みを浮かべて答える。
「それにしても、敵ながら賞賛すべきというところでしょうか。我らカオスサイドの最新鋭のMS、ワルキューレを寄せ付けないのですから。」
「まぁ、そうだな。正直、パイロットの腕を考慮して、ワルキューレたちだけで十分だと思ったが、はやり侮るべきではなかったということだな。」
クラウドが淡々と告げた言葉に、イオリは笑みを崩さずに頷く。
「ではイオリ殿は宇宙へ。ここは我らランドル隊が防衛してみせます。」
「あぁ。だがお前らだけでいいのか?相手はマイスターにパール、それにアテナにバルディッシュだぞ。」
「そのことは百も承知ですよ。その上でこの作戦を受け持つのですから・・」
イオリが問い詰めると、クラウドも不敵な笑みを浮かべて頷く。
「そこまでいうなら、任せてやるとしよう・・クラウド、お前たちランドル隊に、アザトース防衛とクサナギ進行阻止を任せる。」
「お任せを、イオリ殿。ここは我々がクサナギを押さえてみせましょう。」
イオリが命令を与えると、クラウドが再び会釈する。そこへアザトースからスミスが現れ、イオリに歩み寄る。
「イオリさん、先ほど研究所から連絡がありました。アレが1機完成したそうです。」
「何?・・フフフ、そうか。やっとアレが完成したか・・」
スミスからの報告にイオリが歓喜の笑みを浮かべる。
「ではなおのこと空に上がらなくてはいけないようだな・・クラウド、頼んだぞ。」
「お任せを、イオリ殿。」
イオリの呼びかけにクラウドが頷く。
「ではすぐに出発する。新兵器を収容したら、すぐにこっちに戻って・・」
「私も戦わせてください!」
イオリが言いかけていたところへ、ミナミが声をかけてきた。イオリは笑みを消さずに彼女に眼を向ける。
「どうした、ミナミ?アザトースを降りて、ランドル隊とともに戦うというのか?」
「はい。ですがこれもイオリさんのため、私たちカオスサイドのためです。ここは私も守ります。お願いします。」
言いかけるイオリにミナミが頭を下げる。イオリは笑みを崩さずに、クラウドに眼を向ける。
「オレは構わんが・・クラウド、構わないか?」
「イオリ殿の命令ならば、快く受け入れましょう。」
イオリの言葉を受けて、クラウドもミナミの戦闘志願を了承した。
「ではフィーナとスワンも作戦に参加させよう。」
「了解しました。」
イオリのさらなる言葉にクラウドは再び頷いた。
(イオリさん、私の全身全霊を持って、あなたの理想の人柱になります・・・)
ミナミはイオリのため、次の戦闘に全力を尽くそうと心に決めていた。
アザトースが別部隊と合流したという報告を受けて、クサナギは移動を続けていた。その艦内、ジュンは自分自身の決意を噛み締めていた。
(母さん、僕は戦うよ・・逃げずに、前に向かって進んでいく・・・だから見守っていて・・母さん・・・)
母、レナに対して決意を見せるジュン。彼はふと、レナが微笑んでくれたように感じた。
そのとき、部屋のドアがノックされ、ジュンは振り返り、ドアを開ける。その先にはアリカとイリーナの姿があった。
「アリカちゃん・・・?」
「マシロちゃん、これからお風呂に行くんだけど、一緒に行かない?」
アリカが笑顔で言いかけると、ジュンが戸惑いを見せる。
「ゴ、ゴメン、アリカちゃん。僕は後で入るから・・」
「えーっ!お風呂はみんなで入ったほうが楽しいってー♪」
ジュンが断ると、アリカが不満の声を上げる。その反応にジュンは困惑してしまう。
「やめなさい、アリカ。」
そこへニナが声をかけ、アリカを呼び止める。
「ニナちゃん・・」
「マシロさんを困らせてはいけないわ。今回は手を引いてもらえない?」
戸惑いを見せるアリカに、ニナが淡々と言いかける。ジュンのことを知っていたニナは、困っている彼を気遣っていたのだ。
「ゴメン、マシロちゃん・・でも今度は一緒に、ね・・」
「う、うん・・・こっちこそゴメンね、アリカちゃん・・」
互いに苦笑いを浮かべて謝るアリカとジュン。アリカはイリーナを連れて、この場を後にした。
「ありがとう、ニナちゃん。ニナちゃんがいなかったら・・・」
「気にしないで。私はあなたの素顔を知っているのだから。」
感謝の言葉をかけるジュンに、ニナは微笑んで答える。
「でも今度は、自分でしっかりと断ったほうがいいわね。あまり甘えられても、今度は私が困るから。」
「分かってる。次はそうするから・・」
ニナの注意に、ジュンは微笑んで頷く。
「ニナちゃん・・・本当にありがとう・・・」
「勘違いしないで。私はあなたの困っている顔を見るのがイヤなだけだから・・」
同じく感謝の言葉をかけてくるジュンに、ニナは頬を赤らめる。悪ぶった返事をする彼女に、ジュンは微笑みかけていた。
新兵器の収容のため、宇宙に飛び立ったアザトース。その防衛のため、ランドル隊は出撃準備をしていた。
クラウドの前に部隊の兵士たちが整列する。その最前列にはフィーナ、スワン、ミナミの姿もあった。
「いいか。今回の作戦にはアザトースのワルキューレ3機が参加する。戦場での指揮は彼女、フィーナ・サウザンズが執る。」
クラウドは兵士たちに呼びかけると、フィーナに眼を向ける。
「フィーナ、君をこの作戦での副隊長とする。この者たちをうまくまとめてくれ。」
「了解しました。お任せください、クラウド隊長。」
クラウドの言葉にフィーナが真剣な面持ちで頷く。
「ではランドル隊、クサナギ侵攻阻止のため、出撃する!」
「はっ!」
クラウドの呼びかけに兵士が敬礼を送る。そして出撃準備を整えたザクウォーリア、グフイグナイテッドに次々と乗り込んでいった。
そしてフィーナたちもワルキューレに乗り込み、臨戦態勢に入っていた。
「スワン、ミナミ、いつものようにやればいいのよ。気負わずに全力を出しなさい。」
「はい、フィーナさん。」
「分かってるって。今度も楽しませてもらいましょう。」
フィーナの呼びかけにミナミが頷き、スワンは気さくな態度で答える。ランドル隊のMSが、クサナギに向けて出撃していった。
アザトースを追って進行するクサナギ。そのカメラが、空に飛翔するアザトースを捉えていた。
「アザトース、飛翔していきます!距離600!」
レーダーを確かめながら、イリーナがユキノに呼びかける。
「このまま宇宙に上げるわけにはいきません・・・ローエングリン、照準!目標、アザトース!」
「了解!ローエングリン、用意!」
指示を出すユキノにイリーナが答える。クサナギの前方部から銃砲が現れ、銃口にエネルギーが収束される。
「発射!」
その銃砲から砲撃が放たれようとした瞬間、一条の光線が飛び込み、銃砲を貫いた。エネルギーが破裂し、銃砲が爆発を引き起こす。
「ローエングリン、損傷!使用不能!」
「敵襲!?・・こちらのレーダーの外から狙える攻撃が、どこから・・・!?」
イリーナが叫び、ユキノが声を荒げる。クサナギのレーダーが攻撃を仕掛けてきた相手を探る。
攻撃を仕掛けてきたのは純白のワルキューレだった。機動性に長けたワルキューレが、ポールアクスからのビームで、砲撃しようとしていたクサナギの銃砲を撃ち抜いたのだった。
「ワルキューレ・・アザトースと一緒ではなかった・・・!?」
迫ってくる機体に、ユキノが驚愕を覚える。ワルキューレに続いて、ザクやグフが続々と姿を現してきた。
「ユキノさん、今の揺れは・・!?」
その作戦室へジュンが飛び込んできた。続いてアリカとニナも駆けつけ、モニター画面に映し出されているMSたちを眼にする。
「これは、カオスサイドの・・・今のは、彼らが・・!?」
ジュンがMSたちを見つめて、驚愕をあらわにする。
「今の攻撃でクサナギの戦力は著しく減退しています。アザトースを止めるには、MSによる接近しかありません。」
ユキノの言葉にジュンたちが真剣な面持ちで頷く。
「ユキノさん、私たち、行きます!」
アリカが言いかけると、ジュンたちは作戦室を飛び出した。MSが待機している格納庫にたどり着くと、そこではシスカが既に、バルディッシュの発進準備を整えていた。
「報告は受けてるわ。すぐにアザトースを追いかけましょう。」
シスカの言葉にジュンたちも頷き、各々の機体に乗り込んでいった。
“カタパルト接続。ハッチ開放。針路クリア。システム、オールグリーン。全セーフティ解除。MS隊、発進どうぞ。”
イリーナのアナウンスが艦内に響く。
「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」
「ニナ・ウォン、パール、発進する!」
「シスカ・ヴァザーバーム、バルディッシュ、いきます!」
「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、アテナ、いきます!」
マイスター、パール、バルディッシュ、アテナがクサナギから出撃する。アザトースを目指すジュンたちを、ワルキューレたちが迎え撃つ。
(出てきたのね・・・イオリさんのため、絶対にここを死守します!)
オーブ軍を見据えて、ミナミが意気込む。純白のワルキューレが先陣を切り、アテナに向かって飛びかかる。
「ミナミちゃん、けっこう張り切ってるじゃないの。私も負けてられなくなっちゃうじゃないの。」
「軽率な言動は慎みなさい、スワン。私たちも続くわよ!」
気さくに笑みをこぼしているスワンに注意を促すと、フィーナは部隊に指示を出す。攻撃に出るザク、グフたちにバルディッシュが立ちはだかる。
そしてフィーナの前にアリカのマイスターが、スワンの前にニナのパールが立ちはだかる。
「お願いだ!僕たちはアザトースを止めなくちゃならない!そこを通してくれないか!」
ジュンが眼前のワルキューレに呼びかけるが、それに答えてくれるはずもなく、行く手をさえぎる敵として立ちはだかる。素早く振り下ろされるポールアクスを、アテナがビームサーベルで受け止める。
速く思い攻撃を繰り出していくアテナとワルキューレ。だがその中でジュンは、アザトースを追うことに対して焦りを募らせていた。
ランドル隊の猛攻をかいくぐろうと必死になるクサナギの面々。しかしランドル隊の防衛ラインを突破するには時間を要していた。
(早く止めないと・・でないと、僕やニナちゃんが受けてきた悲しみを背負う人たちが、また出てしまう・・・!)
「だから僕は、ここを押し通る!」
決意を強めた瞬間、ジュンの中で何かが弾けた。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。
ワルキューレを押し切ろうと、アテナがビームサーベルを振り抜く。だがワルキューレは身を翻し、アテナの進行を阻んでいく。
それでもジュンは諦めず、アザトースを見据える。だがそれが集中力を散漫させることになり、ワルキューレを退けるのを遅らせていた。
(私はイオリさんに命を救われた・・イオリさんがいなかったら、今の私はなかった・・だからイオリさんの理想を実現させるため、私は!)
同じく決意を強めたミナミがアテナを鋭く見据える。イオリへの想いが、彼女の身体能力をこれまでにないほどに向上させていた。
互いに負けじと武器を交え、さらに砲撃を放ち、かわしていく。だがそれはオーブにとって不利であった。
「シスカさん!絶対にアザトースを空に上げてはなりません!急いでください!」
「分かりました、ユキノさん!援護を頼みます!」
ユキノの呼びかけにシスカが答える。バルディッシュが周囲のザク、グフを退け、アザトースを目指して突き進む。
「ここは通さないってば!」
スワンがパールを退けると、バルディッシュを追おうとする。だがすぐさま体勢を立て直したパールがビームブーメランを放ち、ワルキューレの左足を切り裂いた。
「ぐっ!」
その衝撃でスワンがうめく。パールは一気に間合いをつめて腕のビームブレイドを振り下ろし、振り返ってきたワルキューレの両肩を切り裂いた。
「ぐあっ!」
さらなる衝撃にスワンが悲鳴を上げる。決定打を受けて、彼女のワルキューレが力なく落下する。
「スワン!」
フィーナがマイスターとの戦闘を中断し、落下するスワンのワルキューレを受け止める。
「スワン、しっかりしなさい!聞こえてる!?」
「フィーナ・・・ゴメン・・やられちゃった・・・」
フィーナの呼びかけにスワンが微笑んで答える。
「もう連中はイオリ様には追いつけない。私たちは撤退するわよ・・・」
「うん・・・」
フィーナの声にスワンが頷く。2機のワルキューレはその役目を果たし、戦場から撤退していった。
「ダメです、ユキノさん!全速力でも、アザトースの大気圏離脱に間に合いません!」
シスカのこの声に、クサナギ艦内は当惑を隠せなかった。イオリのいるアザトースを、みすみす宇宙に上げてしまったのだ。
「・・・完敗です・・アザトースを目前にしながら、私たちは・・・」
敗北感を噛み締めて、ユキノは沈静化に向かっていく戦場を見つめていた。戦闘では優位に立つも、作戦としては失敗に終わった。
その頃、純白のワルキューレと激しい戦闘を繰り広げていたジュンのアテナ。アザトースの逃亡の阻止を念頭に置きながらも、ジュンはワルキューレとの戦闘に全力を注いでいた。
「アザトースが・・・ならせめてこのワルキューレの攻撃を食い止めるだけでも!」
思い立ったジュンは、ワルキューレの戦闘停止のため、攻撃を繰り出した。かわされていた一閃が、徐々に相手の機体を捉えていくようになっていた。
(イオリさんが空に飛んだ・・・これで今回の作戦は成功しました・・・)
アザトースが飛び立ったことを知って、ミナミは安堵の笑みを浮かべた。
“ミナミ・カスターニ、作戦は終了だ。すぐに帰還せよ。”
そこへクラウドからの通信が飛び込んでくるが、ミナミは聞き入れようとしない。
「クラウド隊長、私はみなさんが撤退してから戻ります!それまで私が、クサナギを食い止めてみせます!」
“しかし、それではお前が危険にさらされることになる!構わん、撤退するんだ!”
クラウドがさらに呼びかけるが、ミナミはアテナとの戦闘を続行する。
「イオリさんのためにも、ここは私がみんなの盾に・・・!」
いきり立ったミナミ。ワルキューレがポールアクスを構えて、アテナに飛びかかる。果敢に攻めるミナミだが、逆に防御がおろそかになっていた。
ワルキューレが突き出してきたポールアクスが、アテナの右肩をかすめる。その直後、アテナもビームサーベルを突き出して、ワルキューレのわき腹を穿つ。
「しまった!」
ミナミが驚愕する中、ワルキューレが稼動不能に陥り、地上に落下する。轟音を立てて落ちてきたワルキューレの前に、アテナが降り立つ。
「ワルキューレのパイロットに言います。僕はあなたを死なせるつもりはありません。すぐに外に出てください。僕たちはあなたにこれ以上、危害を加えるつもりはありません。」
ジュンが通信回線を開き、ワルキューレに向けて呼びかける。ワルキューレを動かせず、この状況を打破する術のなミナミは、観念してコックピットのハッチを開けた。
破損したワルキューレの上で、両手を上げて抵抗の意思のないことを示すミナミ。その姿を眼にしたジュンが驚愕を覚える。
「き、君は・・・!?」
驚きをあらわにしているジュン。アテナのそばにマイスター、パールも降り立ち、バルディッシュもその上空で停滞していた。
「君が、なぜ・・・!?」
ジュンは眼前の出来事が信じられないでいた。純白のワルキューレのパイロットは、以前に言葉と心を通わせた少女、ミナミだった。
次回予告
「君がどうして、カオスサイドに・・・!?」
「彼女はこのまま拘束すべきです。」
「彼女は悪い人ではありません!」
「イオリさんを信じている私でも、ここにいていいのかな・・・?」
「君がみんなといたいと願うなら・・・」