GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-16「薄幸の少女」
賑わいの耐えな街中で出あったジュンとミナミ。2人が笑顔を取り戻すと、ジュンはミナミに手を差し伸べた。
「僕はマ・・いや、ジュンだよ。ジュン・セイヤーズ。君は?」
「私はミナミ。ミナミ・カスターニ・・」
ジュンとミナミが自己紹介をすると、ミナミはジュンの手を取って握手を交わした。
「ところでジュンくん、ここがどこだか分かる?」
「えっ?」
ミナミの唐突な問いかけにジュンが当惑を見せる。
「ゴ、ゴメン・・僕もここに来たのは初めてで・・もしかして、君も初めてここに来て・・迷っていると・・・?」
困り顔を見せるジュンに、ミナミも戸惑いを覚えながら頷く。しばらく2人の中で沈黙が続き、それを打ち破ったのはミナミの微笑みだった。
「似てるね・・私とあなた・・・」
「えっ・・・?」
ミナミが再び唐突にもらした言葉に、ジュンがきょとんとなる。
「何だか人前だとなぜかうまく気持ちを伝えられない・・そんな感じがする・・」
「・・・僕も同じかな・・なかなか勇気が持てず、いつもどうしたらいいのか分からなくなってしまうんだ・・・」
ミナミの心境に共感して、ジュンが微笑んで頷く。弱さを抱えている自分を、眼の前にいる少女と照らし合わせていたのである。
「ここで立ち話するのもなんだから、どこか休める場所を探そうか。」
「うん・・・」
ジュンの言葉にミナミは頷き、2人は休憩場所を探してこの場を後にした。
その頃も、クサナギの面々はジュンの捜索を続けていた。しかしその姿を見つけることができず、クルーたちに焦りの色が浮かび上がってきていた。
「ダメです、ユキノさん!マシロちゃん、全然見つかんないよ・・・!」
艦長室に駆け込んできたアリカが、ユキノに言いかける。息を荒げているアリカの前で、ユキノは深刻さを隠せないでいた。
「困りましたね・・これだけ探して見つからないと、もうクサナギから離れていると思ったほうが・・・」
「・・・マシロちゃん、どうして・・・」
出て行ってしまったジュンに対し、アリカが悲痛さを噛み締める。落ち込みそうになっていたアリカの肩に、ユキノが優しく手を当てる。
「あなたが、私たちが諦めなければ、必ずマシロさんは見つかります。アリカさんが信じてあげなくては・・」
「ユキノさん・・・そうですね。私が信じなくちゃ、マシロちゃん、帰ってきたくても帰ってこれなくなっちゃいますよね・・」
ユキノに励まされて、アリカが照れ笑いを浮かべる。気持ちを落ち着けた彼女を見て、ユキノも安堵の笑みを浮かべた。
「すみません、ユキノさん・・私、諦めずにもう1度探してみます。」
「・・アリカさん、私も外に出て捜索してみます。何かありましたら、イリーナさんに連絡してください。」
アリカの言葉を受けて、ユキノも言いかける。2人はジュンの捜索のため、艦長室を後にした。
次の出撃準備の完了が目前となっていたアザトース。その作戦室を訪れたイオリが、シュミレーションを組んでいるトモエに眼を向ける。
トモエはマイスターの戦闘データを参照にして、その攻略を図っていた。
「ずい分入念にやっているようだな。ま、お前としてはそれでも足りないくらいだがな。」
「そうですね。入念にやっておくに越したことはないですから。」
不敵な笑みを浮かべるイオリに、トモエがモニターから眼を離さずに答える。
「確かにマイスターは上位のMS。あれほどの性能を上回るものはそうはいないでしょう。ですがどんな相手にも、弱点のひとつはあるものです。」
「そうか・・なら、その弱点を早く見つけたいところだな・・」
トモエの分析にイオリが淡々と答える。
「そろそろ出撃の時間だ。切りのいいところで切り上げろ。」
「分かっています。次こそは必ず、マイスターを始めとしたオーブの兵器を退けてみせます。」
言いかけるイオリに対し、トモエが不敵な笑みを浮かべる。
「ところで、ミナミはまだ戻ってきてないのか?」
「ミナミさん?あの子のことを私が知るはずがないでしょう。」
問いかけるイオリに、トモエがあざけるように答える。だがイオリは気に留めず、きびすを返して作戦室を出た。
(まぁいい。ミナミは通信機を所持している。そのレーダー反応を辿れば、位置はつかめる・・・)
イオリは笑みをこぼして、出かける支度を始めた。軍服ではなく、ラフな私服を身にまとって。
ひとまず移動したジュンとミナミは、大きな公園へとたどり着いた。そこでジュンは近くのクレープ屋でクレープを買ってきた。
「おまたせ。待ったかな?」
「ううん、大丈夫。」
ミナミが微笑みかけて、ジュンが買ってきたクレープを受け取る。
「ゴメン・・僕、女の子と一緒にどこかに出かけたことがなくて、テレビとかでやってたシチュエーションを真似ただけなんだけど・・まずかったかな・・?」
「う、ううん。私はそういうことは気にしないほうだから・・それに・・」
頭を下げるジュンに弁解を入れると、ミナミは沈痛の面持ちを浮かべる。
「私、すごい人見知りで・・今は何とか治ってきたんだけど、昔は家族以外の人に自分から声をかけることができなくて・・・」
「家族以外って・・友達とかいないの・・・?」
「自分から声をかけられなくて・・ずっとひとりぼっちだった・・・」
物悲しい笑みを浮かべるミナミに、ジュンは心を揺り動かされていた。彼女も自分と同じ、孤独にさいなまれていた人間であると、彼は痛感していたのだ。
「ミナミちゃんの気持ち、すごく分かるよ・・僕も、ひとりぼっちだったから・・・」
ジュンの囁くような言葉に、今度はミナミが戸惑いを覚える。
「ジュンくんも、ひとりぼっちだったの・・・?」
「うん・・・気が弱くて力がなくて、それでいつもいじめられてた・・・」
「・・・私も全然弱かった・・でも、こんな私でも、願いというものがあるの・・・」
「願い?」
ミナミが微笑みながら口にした言葉に、ジュンが当惑を見せる。
「生きている人全員が笑顔でいられる。そんな世界になってほしいと、私は思ってる・・・」
「ミナミちゃん・・・」
ミナミの切実な気持ちを知り、ジュンは戸惑いを募らせる。悲しみにさいなまれながらも、彼女は一途な願いを心に秘めているのに。
(僕も、そんな勇気を持てれば・・・)
いつしか自分に言いかけていたジュン。そのな彼の脳裏に母の言葉がよみがえる。
その言葉を思い返したジュンは、ミナミに声をかけた。
「ミナミちゃん、ちょっといいかな・・・?」
ジュンに唐突に言われて、ミナミはただただ頷いた。
ジュンとミナミがやってきたのは、街外れの浜辺だった。夜だったため、打ち寄せる波の音が静かに伝わってきていた。
「きれいな海・・街の近くにこんなところがあったなんて・・」
「街に向かってたとき、潮のにおいがしたから近くにあるんじゃないかって。」
笑みをこぼすミナミに、ジュンも微笑みかける。そしてジュンはおもむろに海のほうに歩き出し、その水に手を伸ばす。
「気持ちいい・・昼間だったらあたたかくてもっと気持ちがいいんだけどね・・・」
言いかけるジュンの様子を見て、ミナミも海に近づこうとする。するとジュンが突然、ミナミに向けて水をかけてきた。
「ジ、ジュンくん!?」
「アハハハ。どう?気持ちいいでしょう?」
驚きを覚えるミナミに、ジュンが笑みをこぼす。
「もう、ジュンくんったら。」
するとミナミも負けじと海に駆け込み、ジュンに向けて水をかける。
「やったなぁ。僕だって。」
こうしてジュンとミナミの水の掛け合いが始まった。やり合っているうちに、2人とも心の底から笑えるようになっていた。
だがミナミが突然海に倒れこんでしまった。
「あっ!ミナミちゃん!」
ジュンが慌ててミナミに駆け寄る。ミナミは海の水を浴びてずぶぬれになってしまっていた。
「ゴメン、ミナミちゃん・・そんなつもりじゃ・・」
「分かってる。ジュンくんも私も楽しんでやってたことだから・・」
謝るジュンにミナミが笑顔を見せて弁解する。そのときジュンは、服がぬれている影響ではっきりと見えているミナミのふくらみのある胸を目の当たりにして、思わず気恥ずかしくなってしまう。
「ゴ、ゴメン!ぼ、僕、そんなつもりじゃ・・・!」
必死に弁解の言葉をかけて、眼を背けるジュン。彼の反応を気にして、自分の体がぬれて胸が透けてしまっていることに気付き、ミナミも恥じらいを見せた。
それからジュンとミナミは海辺の近くの海岸に移動した。ぬれた服と体を乾かそうと思い、空洞を見つけて焚き火を付けることにした。
この時間帯では衣料品を売っている店は閉まっている。ジュンにとってやむを得ない選択だった。
「ゴメン、ミナミちゃん・・本当に、君をこんな目にあわせるつもりでやったんじゃなかったんだ・・・」
「分かってるよ・・・ジュンくん、私を喜ばせようとしたんでしょ・・それがちょっと裏目に出ちゃっただけ・・・」
改めて謝罪するジュンに、ミナミが再び弁解を入れる。
「久しぶりだったかもしれない・・ああしてあんなにはしゃいだのは・・・」
「ミナミちゃん・・・」
微笑みかけるミナミに、ジュンが戸惑いを覚える。
「何かをしようとする勇気も持ってなかったから・・でもああいう風に楽しんで、何だかスッキリしちゃった・・・」
「ミナミちゃん・・・よかった・・ミナミちゃんに喜んでもらえて・・・」
安堵するミナミに、ジュンも安堵の笑みをこぼした。
「昔、母さんによく言われていたんだ・・落ち込んでどうしようもならなくなったときは、何も考えずにはしゃいだほうがいいって。バカだって思われても、はしゃいで楽しんで、笑ったほうがいいって・・」
ジュンは思い出していた母からの言葉をミナミに伝えた。その言葉で彼自身はいつも励まされていたのだ。
その言葉を聞いて、ミナミは好感を抱いて微笑みかける。だがジュンは物悲しい笑みを浮かべていた。
「僕はこれからどうしたらいいんだろう・・・ミナミちゃんと出会えて、ミナミちゃんとこうして話をして、ずい分心が安らいだ気がしてる・・でも、これから自分がどうして行けばいいのか、僕はまだ答えを出せていない・・・」
まだ迷いが消えたわけではなかった。ジュンはこれからをどう歩んでいけばいいのか、未だに考えあぐねていた。ライトサイド党首であるマシロとしても、ジュン自身としても。
そんな彼の心境を察したミナミが、微笑んで声をかけてきた。
「どうしても答えが出せないなら、少しだけ何も考えないでいたらいいと思うよ。それこそジュンくんが言ったように、あまり深く考えないようにすればいいとすれば・・・」
「・・・そうか・・・それこそ、あまり深く思いつめたりしないほうがいいんだ・・・」
ミナミに励まされて、ジュンは答えをつかみかけた。
「何事も、深く考えたり、思いつめたりしてはいけないんだ・・張り詰めると、かえって答えにたどり着かなくなることもあるから・・・」
「ジュンくん・・・大丈夫だよ。ジュンくんなら、自分の答えを見つけられるはずだよ。」
決意を秘めるジュンに、ミナミが笑顔で頷く。彼女の言葉に励まされて、ジュンは立ち上がる。
「ありがとう、ミナミちゃん。これでまた歩いていけるよ・・・」
ジュンがミナミに感謝の言葉をかける。そのときミナミがまだ裸でいたことに気付き、ジュンは赤面して視線をそらす。
照れる彼の姿を見て、ミナミは笑顔を浮かべていた。
「あ、そろそろ服も乾いていると思うから・・」
そういうとミナミは、乾かしていた自分の衣服を取り、着用した。彼女の言ったとおり、服は焚き火の暖かさである程度乾いていた。
「私、そろそろ戻らないと・・とりあえず街に戻れば、帰り道は何とか分かるから・・」
「あ、送っていくよ。君にはずい分世話になったから・・・」
ミナミが外に出ようとすると、ジュンも後を追っていく。2人が出た海岸の空は、星と月に照らされていた。
そのとき、車のクラクションが鳴り響いてきて、ジュンとミナミが振り返る。そこには不敵な笑みを浮かべている黒髪の少年の姿があった。
(イオリさん・・・)
少年、イオリの姿を眼にして、ミナミが戸惑いを覚える。その様子を見て、ジュンも当惑を見せる。
「なかなか戻ってこないと思ったら、ここにいたのか、ミナミ・・」
イオリが不敵な笑みを浮かべてミナミに声をかける。ミナミは戸惑いを浮かべたまま、イオリに眼を向ける。
「イオリさん・・すみません・・・」
沈痛の面持ちを浮かべるミナミに、イオリが近づく。するとその間にジュンが割って入る。
「ミナミちゃんの知り合いみたいですけど・・・あなたと彼女にどんなことがあったのかは知りませんけど、どうか彼女を責めないで上げてください・・・」
必死の面持ちでイオリに言いかけるジュン。ジュンのその言動にミナミはさらに戸惑いを覚える。
ジュンとミナミに視線を向けると、イオリはジュンに声をかける。
「別に責めてるわけじゃない。ただ彼女がなかなか帰ってこないから迎えに来た。それだけのことだよ。」
イオリが告げた言葉にジュンはさらなる当惑を見せる。イオリの見解が意外だったため、言葉を返せないでいたのだ。
「もしかして、君が彼女を見つけてくれたのかな?」
「あ、いえ、そんな・・たまたま彼女と会って、いろいろと話をしただけですよ・・・」
悠然と訊ねてくるイオリに、ジュンは照れ笑いを浮かべて答える。イオリは笑みを崩さずに頷いてみせる。
「とにかくありがとう。彼女は私以外の人にはあまり自分から声をかけるのが苦手だからな。」
「そう彼女から聞きました・・でも、彼女には勇気がありますよ。僕はそう信じてます・・・」
イオリの言葉を聞いて、ジュンが微笑みかける。その言葉を聞いて、イオリが再び訊ねる。
「よければ、君の名前を聞かせてくれないか?何かお礼ができればいいと思って・・」
「お、お礼なんてそんな・・・僕はジュンです。ジュン・セイヤーズ。」
ジュンが名乗ると、イオリは一瞬考え込む。
(セイヤーズ?・・どこかで・・・)
考えに没頭しかかるも、イオリは我に返ってジュンに言いかける。
「ありがとう、ジュンくん・・ではそろそろ・・ミナミ、行くぞ。」
「はい、イオリさん・・」
イオリが呼びかけると、ミナミは小さく頷いて歩き出す。ジュンとすれ違い様に、ミナミが声をかける。
「ありがとう、ジュンくん。あなたのおかげで、私は強くなれた・・・」
「ミナミちゃん、そんな・・・」
ミナミが感謝の言葉をかけると、ジュンが照れ笑いを浮かべる。するとミナミが満面の笑顔を見せてから、イオリに近寄った。
イオリはミナミを連れて、車へと戻った。微笑みかけるミナミに向けて、ジュンは笑顔を見せて手を振り、見送った。
(まさかミナミが、私以外に笑顔を見せるとはな・・・私にとってはどうでもいことだがな。)
ミナミについて胸中で呟くイオリを乗せた車は、アザトースに向けて走り出した。
(ジュン・セイヤーズ・・・気になるな、その名前・・・覚えておいたほうがよさそうだ・・・)
イオリはジュンに対しても考えを巡らせていた。これが運命を左右する出会いとなったことを、ジュンもミナミも知る由もなかった。
次回予告
「私も、実はひとりぼっちだったんです・・・」
「一刻も早く戦争を失くす。私と同じ人を作らないために・・それが私の願い・・」
「僕も、みんなが笑顔で笑える日が来ればいいと思う・・・」
「あなた・・・!?」