GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-14「ジュンの逃亡」

 

 

 マイスター打倒に燃えるトモエと、これを迎え撃つアリカ。ジュンを傷つけられたために感情が高まっていたアリカが、トモエを徐々に押し切りつつあった。

「くそっ!やっぱり一筋縄ではいかないってことかしら・・・!」

 トモエが毒づきながらも、マイスターへの攻撃をやめようとしていなかった。

 フィーナ、スワンもそれぞれパール、バルディッシュと交戦していたが、ミナミはアテナの異変に対して困惑し、戦闘に集中できないでいた。

 その戦況を視野に入れながら、アザトースにいたイオリは、別のモニターに映し出されているシャトルステーションを見据えていた。

「向こうはオレたちの注意を自分たちに引きつけようとしてるみたいだが、その手には乗らないぞ・・・タンホイザー、用意!目標、シャトルステーション中央棟!」

 イオリの呼びかけを受けて、アザトースが陽電子砲を起動させる。ステーションに狙いを定めている銃砲が、エネルギーを収束させる。

「発射!」

 そして銃砲が溜め込んだエネルギーを放射する。放たれた閃光が、ステーションの建物と滑走路をなぎ払う。

「なっ・・・!?

 爆発、炎上するステーションを目の当たりにして、ユキノたちが驚愕する。オーブと他国をつなげる架け橋が、この一瞬にして絶たれることとなったのだ。

 燃え盛る炎を見つめて、イオリは哄笑を上げていた。

「いいぞ!これでオーブは、逃げ道も後ろ盾も失った!中立国家が、これを期に崩壊へと歩を進めていくことになる!」

 歓喜をあらわにするイオリが、再びワルキューレたちの戦闘に視線を戻す。

「後はクサナギをはじめとしたオーブをじっくりとなぶっていくだけだ。焦ることはない。実質上、向こうは自滅という形で破滅に向かうことになるのだから・・・」

 徐々に落ち着きを取り戻し、イオリがクルーたちに呼びかける。

「今日はここまでだ。全機、撤退しろ。」

“もう終わりですか?もう少しでマイスターを倒せるというのに・・”

 命令を与えるイオリに抗議の声を上げたのはトモエだった。

「ステーションは破壊したが、戦況は有利とはいえない。次の機会に回しても遅くはない。」

“私はマイスターを倒したいの。次まで待つきはないわ。”

「時はまた巡ってくる。そのとき鍵を握るのはお前なんだぞ。」

“・・・分かりましたわ。ですが、次こそは必ず・・・”

 イオリに諭されて、トモエは渋々受け入れることにした。ワルキューレたちが戦闘を中断し、アザトースへと帰還していく。

“私たちも戦闘を終了します。全機、撤退してください・・・”

 ユキノの呼びかけを受けて、アリカたちもクサナギへと戻っていった。

 

 カオスサイドとの戦闘の中、戦意と意識を失ったジュンは、そのまま医務室に運ばれた。その廊下で、アリカが心配の面持ちを浮かべて、彼が眼を覚ますのを待っていた。

 しばらく待っているとシスカが通りがかり、アリカに声をかけてきた。

「そんなに思いつめていると、今度はあなたが参ってしまうよ。」

「シスカさん・・・」

 アリカがシスカに声をかけられて、沈痛の面持ちを見せる。

「マシロさんが心配なのは私も同じよ。でも、彼女が無事に眼を覚ましてくれることを願う以外に、今の私たちにできることはないわ。」

 シスカが励ましの言葉をかけ、アリカの肩に軽く手を添える。

「大丈夫よ。あなたが信じているマシロさんなら、必ず無事に眼を覚ますわよ。」

「シスカさん・・・ありがとうございます。私、逆に励まされちゃった感じで・・・」

「いいのよ。あなたのような子は、元気で明るいのが性に合ってるんだから。」

 シスカが微笑みかけると、アリカが笑顔を見せて頷いた。

「さて、そろそろ食堂に行こう。もしここで待つにしても、食べて体力をつけてから。」

「はい、分かりました。」

 シスカは頷くアリカを連れて、ひとまず医務室前を後にした。

 

 それからしばらくして、ジュンはようやく眼を覚ました。意識と記憶がはっきりせず、彼はベットから起きるとおもむろに周囲を見回していた。

 そこで彼はここが医務室であることに気付く。状況を確かめようと部屋を出ると、その廊下にはニナの姿があった。

「ニナちゃん・・・」

「眼が覚めたのですね、マシロさん・・よかった・・・」

 戸惑いを見せるジュンに、ニナが安堵の微笑を見せる。

「ニナちゃん、僕はいったい・・・」

「・・マシロさん、あなたはカオスサイドの戦いの中で、ワルキューレの猛攻を受けて、意識を失ったのです・・」

「僕が意識を・・あ・・・!」

 ニナから状況を聞いたジュンが、戦いで感じた恐怖を思い出し、体を震わせる。

「どうしたのですか、マシロさん・・・!?

「僕は・・・僕は・・・!」

 ジュンの突然の異変に、ニナがたまらず声をかける。しかし混乱していたジュンの耳に彼女の声は届いていなかった。

「マシロさん、しっかりしてください!もう、大丈夫ですから・・・!」

 ニナの必死の呼びかけで、ジュンはようやく落ち着きを取り戻すことができた。

「マシロさん、大丈夫ですか?何があったのですか・・・?」

 ニナが訊ねると、ジュンは体を震わせたまま答える。

「怖いんだ・・僕自身すら・・・」

「怖い?」

 ジュンのその言葉にニナが眉をひそめる。

「戦いを持ちかけて迫ってくるものも、その戦いの中で何かを傷つけようとしている僕自身も・・・」

「何を言っているんですか?マシロさんは私たちのために全力を上げているではないですか・・」

「もうダメだよ・・もう僕には、これからを何とかすることもできない・・・」

 戦いに対して完全に怯えてしまっていたジュン。それを見かねて、ニナが憤りをあらわにする。

「マシロさん、そこまで臆病な人だとは思いませんでした!」

「ニナちゃん・・・」

「私たちMSのパイロットは、敵と見なした相手だけでなく、戦場に身を置く自分自身とも戦うことを強いられるのです!このぐらいのことで怖がっているようでは、パイロットは務まりません!」

「それでも、僕はこの怖さから逃げられないよ・・ニナちゃん・・僕は、君みたいに強くはなれないよ・・・」

 必死に呼びかけてもあくまで自分を無力だと主張するジュンに、ニナはついに見限った。

「あなたには失望しましたよ、マシロさん。まさかここまで臆病だったとは・・・」

 ニナはジュンにそう言い放つと、彼を置き去りにしてその場を後にした。ジュンは戦いの恐怖を拭えないまま、再び医務室に戻っていった。

 

 オーブのシャトルステーションが襲撃されたという痛恨の出来事。そのことにユキノは思い悩んでいた。

(私の判断ミスだった・・守ろうとしていたステーションにもっと気を向けていれば、こんなことにはならなかったはずです・・・全ては、私のせい・・・)

 ユキノは自分の判断の甘さを痛感し、自分を責めていた。

(シズルさん、ハルカちゃん、私に、オーブの党首という重役は、私には重かったのかな・・・)

 物悲しい笑みを浮かべて、ユキノはかつて自分を支えてくれた人たちのことを思い返していた。

 そのとき、艦長室のドアがノックされ、ユキノは我に返る。落ち着きを払ってドアを開けると、そこにはイリーナの姿があった。

「イリーナさん・・・」

「大丈夫ですか、ユキノさん?・・・そんなに思いつめないほうがいいですよ。」

 戸惑いを見せるユキノに、イリーナが励ましの言葉をかける。

「信じているものを最後まで信じ抜く。それがユキノさんのポリシーだと思うんですけどね。」

「イリーナさん・・・ありがとう、イリーナさん。少し、思いつめていたみたいですね。」

「少し休みましょう。みんな、食堂にいますよ。」

「そうですね。行きましょう。」

 イリーナに誘われて、微笑んだユキノは食堂へと向かった。

 

 シャトルステーションの破壊に成功し、一時撤退したアザトース。束の間の休息を取っているクルーたちの中、トモエは不満を感じていた。

 マイスターを撃てなかったことに対して、彼女は憤りを感じずにはいられなかった。

「このままでは済ませませんわ・・必ず私の手で葬ってやるわ・・・!」

「あらあら。ずい分と虫の居所が悪そうね。」

 そんな彼女に、スワンが悠然とした態度で声をかけてきた。するとトモエがスワンに鋭い視線を向ける。

「あなたに何が分かるの!?信じていたものを失った私の気持ちなど!」

「私に八つ当たりしないでよ。あなたが倒したい相手を倒せばそれでいいじゃないの。」

 あくまで悠然さを崩さずに、スワンがトモエに言いかける。

「ま、攻を焦って早死にしないことを、祈ってあげるわ。」

 スワンは言いかけると、軽い足取りでこの場を後にした。トモエはしばらく憤りを抑えきれないでいた。

 

 同じく休息を取ろうとしていたミナミ。彼女はスミスと談話をしていたイオリのいる艦長室を訪れた。

「どうした、ミナミ?まだ呼び出しはかけていないはずだが?」

 イオリが不敵な笑みを浮かべて、ミナミに声をかける。ミナミは戸惑いを見せながらも、何とか言葉を振り絞る。

「あの、イオリさん、まだ出撃まで時間がありますから・・外に出てもいいですか・・・?」

 その申し出にイオリは一瞬眉をひそめる。だがすぐに笑みをこぼして答える。

「確かにまだ時間はあるな・・いいだろう。行ってくるといい。」

「はい。ありがとうございます。」

 イオリが許可すると、ミナミが満面の笑顔を見せて頷いた。そして彼女は軽い足取りで艦長室を出て行った。

「よろしいのですか?ミナミも我々カオスサイド、混沌軍の一員。迂闊に外部に出すのはどうかと思いますが?」

「大丈夫だ。ミナミはオレに命を救われたことをかけがえのないものとしている。オレの作戦に支障を来たすぐらいなら、自ら死を選ぶさ。」

「そうですか。それならばいいのですけど・・」

 スミスは悠然さを崩さずにイオリに答える。

「今、オレたちがすべきは、あれの完成だ。」

「分かっています。今現在も研究員が総力を挙げて製造を続けています。そして完成した際には、あれは彼女たちの新しい力となるのです。」

 イオリの言葉にスミスが頷く。イオリは次の戦闘と世界の統一のため、戦略を積み重ねていた。

 

 食事を済ませ、ユキノはライトサイド、ジーザスに向けて連絡を取っていた。ジュンのことについて、ユキノはミドリと話し合っていた。

“そんなことが・・こりゃこっちも高みの見物してるわけにゃいかないねぇ。”

「ジュンくんのためにも、彼をここにいつまでも置くのは危険です。せめてジュンくんを引き取るだけでも・・」

“こっちもそうしたいと思ってはいるんだけど・・”

「・・何か、あったのですか・・・?」

“実はこっちもカオスサイドの攻撃を受けちゃってね。何とか撃退はしたけど、こっちもダメージ受けちゃって・・”

「つまり行くにしてもすぐに出られない、ということですね・・・分かりました。もう少し彼の様子を見ることにします。」

“ゴメンね、ユキノちゃん。こっちも急いで回復して駆けつけるから。”

「はい・・では、また何かありましたら連絡しますので・・よろしくお願いします・・・」

 ユキノはミドリに言いかけると、通信を終えて椅子に背を預ける。

(向こうにもカオスサイドの攻撃が・・・甘えを持ちかけたとしても、それを受け入れてもらえるとは思えないでしょう・・・)

 ユキノは再びこれからの憶測を巡らせていた。これから自分たちが向かおうとしているのは何なのか。カオスサイドは自分たちに向けて何を仕掛けてくるのか。彼女はその予測をなかなか付けられないでいた。

 そして彼女は戦いと国の状勢の疲れから、いつしか眠ってしまっていた。そんな彼女は、ドアがノックされる音に起こされる。

「いけない・・寝てしまって・・・」

 揺らいでいる意識を覚醒させて、ユキノはドアを開ける。その先には切羽詰った面持ちのイリーナの姿があった。

「どうしたのですか、イリーナさん?・・・もしかして、敵襲ですか・・・!?

「い、いえ・・そうじゃないんですが・・た、大変なんです・・・!」

「落ち着いてください!何があったんですか・・・!?

 ユキノに呼びかけられて、イリーナが何とか落ち着きを取り戻し、改めて話を切り出す。

「すみません・・・ユキノさん、実は、マシロさんが・・・」

「マシロさん?・・マシロさんが、どうかしたのですか・・・?」

 ユキノが問いかけると、イリーナは息を呑んでから答える。

「・・・ユキノさん、マシロちゃんが・・・!」

「えっ・・・!?

「・・・マシロさんの姿が、どこにも見当たらないのです・・・」

 その言葉にユキノは耳を疑った。ジュンがこのクサナギから姿を消したのだという。

「どこにも、いないのですか・・・医務室にも、部屋にも・・・」

「はい・・医務室にも食堂にも・・部屋に行ってドアをノックしても返事がなく、ドアに手をかけたら鍵がかかってなくて、部屋に誰もいなくて・・」

 この事態にユキノは驚愕を募らせた。ジュンがこのクサナギから出て行ってしまったのだ。

「まだ近くにいるはずです!アリカさんたちにも協力してもらってください!」

「は、はいっ!」

 ユキノがとっさに呼びかけ、イリーナがそれを受けて駆け出した。ユキノは振り返り、この深刻さを噛み締めていた。

 

 マシロがいなくなった。その知らせはクサナギのクルー全員に知れ渡った。アリカたちは総出でジュンの捜索を開始し、細大漏らさずクサナギの中を調べていた。しかしクサナギの中、クサナギの周辺の外を調べても、ジュンの姿は見つからなかった。

 その中で、ニナはジュンに対して自分が言った言葉を思い返していた。もしかしたら自分がかけた言葉をきっかけにして出て行ってしまったのではないか。彼女はそう不安を感じていた。

「ニナちゃん、どうしたの?」

 思いつめていたところでアリカに声をかけられ、ニナは我に返る。

「アリカ・・・う、ううん、何でもない・・・」

「そう・・・それにしてもマシロちゃん、どこへ・・・」

 アリカが心配の面持ちを浮かべて、さらに周囲を見回す。

「・・・もしかしたら、私のせいかもしれない・・・」

「えっ・・・?」

 ニナが切り出した言葉に、アリカが一瞬きょとんとなる。

「私がマシロさんに強く言い過ぎなければ、こんなことにならなかったのかもしれない・・・」

「ニナちゃん・・・」

 困惑するニナに、アリカが沈痛の面持ちを浮かべた。

 

 戦いを始めとした様々なことに対する恐怖に耐え切れず、ジュンはクサナギを降りていた。マシロとしての装束を脱いでおり、彼は元の少年の姿へと戻っていた。

(やはり、僕には女王になるには荷が重すぎたんだ・・こんな弱い僕じゃ、マシロ様の身代わりなんて務まらないよ・・・)

 自分を責めるジュンが、物悲しい笑みを浮かべて、クサナギへと振り返る。もうその船は自分の居場所ではない。彼はそう思えてならなかった。

「・・・さよなら・・みんな・・・」

 これまで苦難を乗り越えてきた仲間たちに別れを告げて、ジュンは1人歩き出した。

 

 

次回予告

 

「お父様・・・」

「私にも私のやるべきことがある・・」

「私も、ここでやらなくてはならないことがあります。」

「お前だけに戦いをさせるわけにはいかない・・私も戦う・・・」

 

次回・「父の決断」

 

 

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