GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-12「銀狼の疾走」
ジーザス打倒のため、ライトサイド領土内に侵入したフロリンス隊。その軍勢は、ターミナルに向けて続々と進行していった。
「間もなく、ターミナル上空に差し掛かります。」
「よし。MS隊、第1陣、第2陣、出撃だ!」
オペレーターからの報告を受けて、シャルルが命令を下す。それを受けて、艦隊から続々とMS、ザク・ウォーリア、グフ・イグナイテッドが出撃する。
この2種の機体は、元々はダークサイドを始めとした国々が開発したものであるが、カオスサイドもそのデータを入手し、開発、量産したのである。
(見ているがいい、イオリ・・貴様などに出し抜かれてたまるか!)
シャルルがイオリに対する敵意を噛み締めて、モニターに映し出されているジーザスを鋭く見据えていた。
「戦闘部隊はジーザスを取り囲む形で散開!残りの部隊は別名あるまで待機だ!」
シャルルの命令の下、兵士たちがライトサイドへの進撃を始めた。
カオスサイドの侵入に対するため、ミドリとヨウコはジーザスに戻ってきた。作戦室に飛び込んできたミドリが、アオイに声をかける。
「アオイちゃん、状況は!?」
「艦長!・・なおもこちらに接近中です!」
アオイがミドリに状況報告をする。
「それで、今使える機体は?」
「えっと・・ザクが3機です。あとはデュランですけど、ナツキさんじゃないと・・」
「そうか・・・じゃ、ザクで出撃するわよ!」
アオイの報告を受けたミドリが自身の出撃を告げる。そして格納庫にいるジーザス整備班班長、チエ・ハラードに呼びかける。
「チエちゃん、ザクを1機出せるようにしといて!私もすぐそっちに行くから!」
“艦長?・・ですが、誰が乗るのですか?”
ミドリの呼びかけにチエが疑問の声を返すが、ミドリは聞かずに作戦室を飛び出していった。
到着した格納庫では、既に1機のザクウォーリアが出動できる体勢で待ち構えていた。
「ありがとう、チエちゃん。これで出撃ができるわね。」
「出撃って・・まさか、艦長自ら・・・」
笑みを見せるミドリに、チエが当惑を浮かべる。
「今このジーザスの中いる人で、MSを動かせるのは私ぐらいしかいないわ。だから私が出て行って、みんなを守らないと・・」
「艦長・・・分かりました。私たちも全力で援護します。」
ミドリの心境を察したチエが、微笑んで彼女に敬礼を送る。
「あ、そうだ。ナツキちゃんを拾えるように、戦闘機か飛行艇の準備もしといて。」
「了解です、艦長。」
ミドリはチエに付け加えると、発進準備を終えているザクに乗り込んだ。
“コンディション、オールグリーン。ハッチ開放。ゲートオープン。”
アオイの声が、ミドリの乗るザクのコックピットに響き渡る。ハッチが開かれ、その眼前に虚空が広がる。
「ミドリ・スティールファング、吶喊!」
ミドリの掛け声とともに、ザクがジーザスから出撃する。侵攻してきたフロリンス隊を迎撃するため。
(私しかみんなを守れないんだ・・勝てなくても、時間稼ぎぐらいなら・・!)
決意を噛み締めて、ミドリがフロリンス隊に向かっていった。
一方、ジーザスに戻ろうとしていた1台のバイクがあった。乗っているのはライトサイドのMSパイロット、ナツキ・クルーガーである。
走行中にフロリンス隊の侵攻を知ったナツキは、バイクのアクセルを全開にして、ターミナルステーションに向かっていた。
(くそっ!やはりデュランを置いて、ジーザスを離れるべきではなかったか・・!)
胸中で毒づきながら、ナツキはターミナルに急いだ。
しばらく走り抜けたところで、ナツキは敵艦隊と交戦しているジーザスを確認する。
「あれか・・!」
さらにスピードを上げようとしたナツキ。そこへ1機の中型艇が低空飛行を行いながら接近し、後方のハッチを開ける。
“ナツキさん、乗ってください!”
「その声・・チエか!?」
響いてきたスピーカー越しの声にナツキが答える。前輪を持ち上げて飛び上がり、ハッチの開け放たれている中型艇の中に飛び込んだ。
勢いがあまり横転するナツキ。だがすぐに体勢を立て直し、すぐさま操縦席に駆け込む。
「お待たせしました、ナツキさん。このままジーザスに向かいますよ!」
「すまない、チエ・・それにしてもお前、いつの間に飛行艇の操縦の資格を・・」
「これでも整備班班長ですよ。みなさんほどじゃないですけど、MSも一応は動かせます。」
言いかけるナツキに、チエが淡々と答える。
「それでは飛ばしますので、しっかり捕まっていてくださいよ!」
チエがいきり立ってスピードを上げる。中型艇がジーザスに向けて加速し、戦火の真っ只中に飛び込んだ。
「ジーザス、応答せよ!ナツキ・クルーガーだ!」
ナツキがジーザスに向けて通信を送り、アオイがこれに答える。
“ナツキさん!?・・よかった。チエちゃんを送り出したのは正解だったみたいね。”
「今すぐそっちに向かう。ハッチ開放の準備を頼む。」
安堵をこぼすアオイに、ナツキがさらに呼びかける。中型艇はジーザスとザクウォーリア、グフ・イグナイテッドの交戦の中に入り込んだ。
ビームと弾丸の飛び交う中、必死にジーザスへの接近を試みるチエ。だが中型艇が弾丸を受け、煙を上げる。
「まずい!被弾しました!」
「くっ!・・緊急着艦する!覚悟しておいてくれ!」
チエとナツキが毒づく前で、ジーザスがハッチを開け放つ。チエはそこを目指し、中型艇がそのハッチに滑り込んだ。
激しい揺れにさいなまれながらも、ナツキは体勢を立て直して中型艇から飛び出し、ジーザスの廊下を駆け抜ける。
「アオイ、ナツキさんが格納庫に向かった!ハッチ開放の準備を!」
“分かったよ、チエちゃん。チエちゃんも戻ってきて。”
チエの呼びかけにアオイが答える。チエもナツキを追って格納庫に向かう。
彼女が到着したときには、既にナツキは青い機体のコックピットに乗り込み、データや武装のチェックを行っていた。
MS、デュラン。ナツキが搭乗している機体で、エレメンタルチャージャーが搭載されている。このデュランはナツキの母、サエ・クルーガーが開発した「デュラン(MAXハート)」であり、様々な性質へと変化することが可能のエネルギー体「マテリア」を銃砲に装てんし、放つことができる。
「よし。準備完了だ。アオイ、チエ、ハッチを開けてくれ。」
ナツキが呼びかけ、アオイとチエが作業を進める。ナツキの見据える先のハッチが開け放たれ、虚空が広がる。
“システム、オールグリーン。デュラン、発進どうぞ。”
アオイの声の後、シグナルが赤から青に変わる。
「ナツキ・クルーガー、デュラン、GO!」
ナツキの呼びかけとともに、デュランがジーザスから出撃した。
ナツキが眼にしたミドリの駆るザクは満身創痍に陥っていた。戦力で完全に押し切られてしまい、ジーザスを護衛することもままならなくなっていた。
「あなたの正義はもう風前の灯ですか、ミドリ艦長殿?」
“えっ!?ナツキちゃん!?・・遅れてきたくせに、ずい分な言い様じゃないの。”
互いに皮肉の言葉を掛け合うナツキとミドリ。笑みをこぼした後、2人は迫ってくるMSたちを見据えて真剣な面持ちを浮かべる。
「ここは私が引き受ける。艦長はジーザスに退却を。」
「分かったわ。私はここからは指揮に専念させてもらうわ・・それじゃナツキちゃん、カオスサイドの進撃を食い止めてちょうだい!」
「・・了解しました、艦長・・・!」
ミドリの声を聞いて、ナツキが再び笑みをこぼす。デュランが双刃のビームサーベルを構えて、ザク、グフの群れに飛びかかる。
ザクとグフたちが迎撃を行うが、デュランの動きは速く、攻撃を簡単にかわされる。デュランが振りかざした一閃が、次々と機体の武装、またはそれを持つ腕を切り裂いていく。
さらにデュランは銃砲を構え、複数の機体をいっせいにロックする。
「チャージクロームマテリア!」
その銃砲に弾丸が装てんされ、立て続けに放たれる。弾丸はザクとグフの武装を正確に撃ち抜き、戦力を奪っていった。
だが残った機体たちがデュランに向けて攻撃を続ける。グフのスレイヤーウィップがデュランを捕らえるが、デュランは高速移動と砲撃を駆使してそれを逃れる。
圧倒的な性能の差に、フロリンス隊は形勢逆転を許してしまう。劣勢を強いられ、シャルルが苛立ちを隠せなくなる。
「バカな・・いくら高性能の機体とはいえ、たった1機に手も足も出ないとは・・・!」
シャルルがたまらず憤りの言葉を口走る。
「第1陣から第3陣まで戦闘不能!他の部隊も立て直しに難航しております!」
「おのれ!こうなれば残った全機でヤツを取り囲め!一成攻撃すれば、倒せない相手ではない!」
「しかし、それでは下手をすれば、部隊全滅の危険が・・!」
「それがどうした!このままイオリになめられるわけにはいかんのだ!」
兵士たちの言葉を押し切って、シャルルが特攻を命ずる。部隊全機が前進し、デュランを取り囲む。
「状況が不利に陥ったことが分からないのか・・仕方がない・・・!」
ナツキは毒づきながら、部隊の動きを見据える。全機が砲撃を繰り出すと同時に、デュランが大きく飛翔する。
砲撃はすれ違って正面の仲間に直撃し、フロリンス隊はさらなる状況悪化に見舞われた。
「こ、このままでは済まさんぞ・・・ジーザスに向けて特攻!至近距離から撃ち抜く!」
「いけません!我が艦が・・!」
「うるさい!このまま失態をさらせるものか!」
いきり立ったシャルルに促されるまま、旗艦がジーザスに迫る。その接近にジーザス艦内は騒然となっていた。
その作戦室へ、帰艦してきたミドリが入ってきた。
「何考えてるんだか・・けどこのままやられるわけにもいかないんだよね・・」
「でも、このままでは・・・!」
毒づくミドリにアオイが呼びかける。苦渋の選択を迫られる気分に陥りながらも、ミドリは決断した。
「仕方がない・・・ローエングリン、照準!」
ミドリの呼びかけを受けて、ジーザスに装備されていた銃砲が起動する。陽電子破城砲「ローエングリン」である。
「ってぇ!」
ミドリの指示を受けて、ローエングリンが発射される。強烈な閃光が、接近してきた旗艦を貫いた。
「イオリィィィーーー!!!」
シャルルの断末魔の叫びとともに、旗艦が閃光の中へと消えていった。指揮官を失った部隊はうろたえ、逃亡を図るしかなかった。
「ホント・・バカなんだから・・・」
やむを得ず撃つしかなかったことに、ミドリは歯がゆさを浮かべていた。
ジーザスに帰還しようとしていたナツキも、撤退していく機体を見つめて、胸中で呟いていた。
(また、戦うことになるのか・・また、全てを賭けて戦火に飛び込んでいくのか・・・)
“ナツキさん、お疲れ様です。帰艦して下さい。”
そこへアオイからの通信が飛び込み、ナツキはジーザスに視線を戻した。
「分かった。戻るよ・・・」
ナツキは微笑みながらアオイに答える。デュランがジーザスへと着艦し、ナツキがコックピットから降りてくる。
「ナツキちゃん・・・」
その格納庫にミドリが駆け込み、ナツキに声をかける。
「ミドリ、ジーザスは大丈夫か?」
「一応ね。ところどころに破損が出てきちゃったから、ちょっと修理が必要になるかも・・」
「そうか・・・」
ミドリの答えを聞いて、ナツキはあえて微笑んだ。
「でも、それが終わったら、私たちもオーブに向かうわよ。クサナギと合流して戦力を強化しないとね。」
「なるほど。分かった。だがマイたちはどうするつもりだ?アイツらを置いていくのか?」
「大丈夫よ。マイちゃんにはあれを置いてあるから、すぐに追いついてくるわよ。」
「そうか・・・そうだな。あの速さなら、こちら、あるいはクサナギの動きを察知して追いつけるだろう。」
ミドリの言葉にナツキが頷く。
「さて、そうと決まったら早速修理と整備をしないと。ナツキちゃんも手伝ってくれる?」
「お前はジーザス艦長だろ?なら、しっかりと指揮をしてくれ。」
ミドリの呼びかけにナツキは苦笑を浮かべて答える。そこへアオイ、チエ、ヨウコがやってきて、2人に眼を向けていた。
(そうだ・・今の私は1人ではない・・・孤独だった私にも、かけがえのないものを手に入れることができた・・)
仲間たちの姿を目の当たりにして、ナツキは胸中で呟いていた。
(シズル、キョウジ、サクヤ、お前たちもそう思うだろ・・・)
「おーい、ナツキちゃーん、いくよー♪」
自分が想う人たちを思い返していたところでミドリに声をかけられ、ナツキは我に返る。
「あぁ・・いこう、みんな・・・」
ナツキは小さく頷くと、ミドリたちの後を追った。
クサナギ討伐に向けて準備を進めていたイオリたち。そのアザトースに向かってくる1機の黒い機体があった。
その機体を収容したアザトースの中で、イオリは次の一手を見据えていた。
「もうすぐだ・・もうすぐ流れはオレたちに傾く・・・世界をまとめ上げるには、絶対的な支配とそれに共感する意思が必要だ。その引き金を引くのがオレたちだ・・」
「もっとも、あれが前線に出せるようになれば、その支配もたやすいのですが・・」
イオリが呟いているところへスミスが現れ、その呟きに答える。
「まぁいいさ。もうすぐアイツがやってくる。勢いぐらいはあれに勝るとも劣らなくなるだろうな。」
「でしょうね。私も彼女の活躍を楽しみにしております。」
イオリの言葉にスミスは会釈する。そのとき、イオリの下へ通信が送られてきた。
「どうした?」
イオリが通信を送ってきた格納庫に呼びかける。その報告を受けて、イオリが不敵な笑みを浮かべる。
「分かった。オレもすぐそこに行く。アイツにはそこで待ってるように伝えておけ。」
“了解です。”
イオリは通信を終えると立ち上がり、笑みをこぼしていた。その心境を察したスミスが悠然と声をかける。
「彼女が着いたようですね。イオリさん、私もご一緒に。」
「フン。好きにしろ。」
言いかけるスミスに笑みを向け、イオリは作戦室を後にした。スミスを伴って格納庫に向かう彼は、その途中の廊下でミナミを見つける。
「どうした、ミナミ?何だか浮かない顔をしているが・・」
「いいえ、大丈夫です、イオリさん。心配なさらず・・」
イオリが訊ねるとミナミは弁解を入れる。するとイオリは不敵な笑みを浮かべてミナミに言いかける。
「次はアイツが戦力に加わる。お前もそれほど気負うこともないだろう。」
「はい・・今度こそ、アテナを撃ちます。」
イオリに励まされて、ミナミが笑顔を取り戻す。イオリはミナミと別れ、格納庫に向かった。
次回予告
「やっと私の前に出てきたわね・・」
「シズルさんこそが私の全てだった・・」
「私の全てを奪い去ったMS・・マイスター・・・」
「この私の力で、あなたを葬って差し上げますわ!」