GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-10「蒼の発動」
混戦するクサナギとアザトースの戦闘。その中でアリカの駆るマイスターが、フィーナの駆るワルキューレと戦闘を繰り広げていた。
「さすがマイスターね!少しでも隙を見せたら、一気にやられてしまうわ!」
フィーナが湧き上がる興奮を抑えきれずに言い放つ。
「けっこうやるみたい・・性能はこっちが断然上なのに・・・!」
アリカはワルキューレの力量に毒づいていた。力は明らかに上回っているものの、マイスターはクサナギのことも考慮しながらの戦闘を強いられていたため、力を前面に出すことができないでいた。
マイスターが高エネルギービーム砲「レイ」をワルキューレに向けて放つ。受け止めようと考えていたフィーナだが、砲撃の威力を察して急遽回避行動を取った。
そこへマイスターが大型ビームサーベル「エクスカリバー」を振りかざし、飛び込んできた。その強烈な一閃がワルキューレの右足を切り裂いた。
「ぐっ!」
フィーナがマイスターの攻撃力にうめく。ポールアクスからビームを放ち、マイスターとの距離を取る。
“大丈夫、フィーナ?生きてる?”
「スワン・・勝手に殺さないで。足をやられただけ。まだ戦えるわ。」
スワンからの通信に、フィーナがいぶかしげに答える。そして真剣な面持ちに戻って、再びマイスターに視線を向ける。
「そうよ・・私はここで死ぬわけにはいかないのよ・・イオリの理想を実現させるため、私はまだまだ死ねないのよ・・・!」
決意を噛み締めて、フィーナがマイスターを見据える。ポールアクスを構えて、ワルキューレがゆっくりと接近する。
マイスターがエクスカリバーを振りかざして、ワルキューレを退けようとする。するとワルキューレは空中で跳躍してその一閃をかわし、ポールアクスを突き出す。
ポールアクスの切っ先がマイスターの左肩を突く。しかし強固な装甲のマイスターには、衝撃を与えるほどでしかなかった。
(やはり耐久性も優れているわね・・しかし、突き詰めていけば・・!)
フィーナは怯むことなく、マイスターへの攻撃を仕掛ける。その猛攻にアリカは押され始める。
(早く何とかしないと・・クサナギやみんなが・・・!)
アリカは焦りを感じていた。これ以上長引けば、クサナギが危機に陥ることになる。
「みんなの夢があるこの国、この居場所・・・もうあなたたちに、みんなの夢を壊させたりしない!」
決意を言い放ったアリカの中で何かが弾ける。ジュンと同様に視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。
一気に高まったマイスターの力が、押していたワルキューレのポールアクスを跳ね返す。そしてエクスカリバーからの一閃が、ワルキューレの右腕ごとポールアクスをなぎ払う。
「なっ・・・!?」
一気に形勢を逆転されたことに、フィーナが驚愕する。彼女の駆るワルキューレは、これ以上の戦闘を不可能とするほどに負傷していた。
「シスカさん・・・!」
アリカがクサナギとバルディッシュに眼を向ける。ワルキューレ部隊の進撃で完全に追い込まれていた。
「シスカさん!」
アリカが呼びかけながらクサナギとバルディッシュに接近する。ビームライフルを連射し、ワルキューレたちのポールアクスを撃ち抜いていく。
「ユキノさん、シスカさん、大丈夫ですか!?」
“アリカさん・・私たちは大丈夫です!それよりもシスカさん、ニナさん、マシロさんを!”
アリカが呼びかけると、ユキノが答えてくる。
“私は大丈夫です!アリカ、クサナギを守りつつ、マシロさんに注意を払って!”
そこへニナからの通信が飛び込み、アリカがアテナに眼を向ける。アテナは白のワルキューレに対して悪戦苦闘していた。
「マシロちゃん、すぐにそっちに行くから!」
“アリカちゃん!?・・僕は平気だよ!それよりもクサナギを!”
アリカが呼びかけると、ジュンが指示を返してきた。
“クサナギは今のオーブの要だ。だから今守らなくちゃいけないのは、僕よりもクサナギだよ。”
「でも、それじゃマシロちゃんが・・!」
“さっきも言ったじゃないか。危なくなったらすぐに引き返すって・・だからクサナギを頼む・・・!”
「マシロちゃん・・・分かったよ。でも、無事でいてね・・」
ジュンの言葉を受け入れて、アリカはクサナギの防衛に専念することを決めた。
マイスターの援護によって、ワルキューレの攻撃が緩和されたクサナギ。それでもユキノは自分たちの不利を直感していた。
(戦況はこちらに分が悪いですね・・ひとまず戦場から離れたほうがよさそうですね・・・)
撤退を思い立ったユキノは、周囲に身を潜められる場所を探る。そして彼女の眼に、広がる大海原が飛び込んでくる。
(あの海なら、敵の攻撃をうまく回避できるかもしれません・・・)
「海へ避難します!潜行用意!」
とっさの判断を下したユキノが、クサナギクルーたちに呼びかける。
「ユキノさん!?」
その指示にイリーナが声を荒げる。
「海なら相手の視界が極力さえぎられます。その間に海中で相手の動きを伺いつつ、ステーションに向かうのです。」
「なるほど・・分かりました。ここは一か八かですけど、やるしかないですね!」
ユキノの見解を聞いて、イリーナも笑みを浮かべて意気込みを見せる。
「これよりクサナギは、海中への潜行を開始します。各MSは援護をお願いします。」
イリーナがマイスター、パール、バルディッシュ、アテナに呼びかける。
「確かにここは引いたほうがよさそうですね。普通の戦闘なら、このまま戦えば戦力を削ることができるでしょうが・・」
ニナがその指示を受けて呟きかける。ここはクサナギのことを考慮し、私闘は避けるべきである。
「一時撤退して!ここでの長期戦は無意味よ!」
ニナの呼びかけにアリカ、シスカ、ジュンが頷く。クサナギが海に向かって移動を開始する。
「クサナギが進路を変えた?」
「何をしようっていうのかしら?」
クサナギの動きにフィーナとスワンが眉をひそめる。ミナミはクサナギが海に身を潜めようとしていたことに気づいた。
「逃がさない!」
白のワルキューレがクサナギの追撃を図って飛びかかる。だがそこへアテナが立ちはだかり、ワルキューレの行く手を阻む。
「クサナギは撃たせない!」
ワルキューレに向けてジュンが言い放つ。アテナがビームライフルを発砲し、ワルキューレたちを引き離す。
一方、ニナの駆るパールもスワンのワルキューレに向けてビームブレイドの一蹴を繰り出す。その一撃で右腕をなぎ払われるものの、ワルキューレは次の一撃を紙一重でかわす。
「ここまですごいっていうの・・これじゃこっちの歯が立たないじゃないの。」
毒づくスワンがパールの脅威を痛感する。彼女にはもはや余裕も笑みもなかった。
その間に、クサナギは海の中へと降下し、カオスサイドの矛先から姿をくらませる。それに合わせてジュンたちも海に身を潜めた。
潜行していくクサナギを見据えていたイオリ。艦内は退避していく旗艦にどよめきを感じていた。
「潜られてしまっては、こちらも迂闊には手が出せませんね。」
スミスが悠然とした態度のまま、呟くように戦況を告げていく。
「こっちも追撃をするには不利だ。今日はここまでだ。」
「了解しました・・・作戦終了!ワルキューレ部隊、帰艦せよ!」
イオリからの呼びかけを受けて、オペレーターがさらに呼びかける。その指示を受けて、ワルキューレたちがアザトースへと撤退していく。
「完全には仕留められませんでしたが、それでもオーブと互角以上に渡り合えることは分かりました。特にアテナを相手にしていたミナミの戦いに関しては・・」
「そうだな・・アテナの力が急に上がったのは予想外だったが、そのアテナを押さえ込んだミナミもすごいということだな・・」
スミスの見解を聞いて、イオリは不敵な笑みを浮かべる。そしてイオリは作戦室を出て行き、戦闘を終えたパイロットたちのいる格納庫に赴いた。
「もうしわけありません、イオリ。クサナギ討伐に失敗しました・・・」
フィーナがイオリに謝罪して頭を下げる。だがイオリは笑みを崩さなかった。
「いや、いい。今回はこっちが優位だった。うまく攻めれば、こっちには十分勝機がある。」
イオリの言葉を受けて、フィーナが胸中で安堵を感じていた。
(それに彼女が加われば、なおさら押し切れる・・・)
イオリも胸中で勝機を見出していた。そしてイオリは、戸惑いを浮かべているミナミに近づく。
「申し訳ありません、イオリさん・・私、イオリさんの気持ちを裏切ってしまって・・・」
「何をいっている、ミナミ・・お前はよくやった。期待以上の働きをしてくれた・・お前には感謝している・・」
「イオリ、さん・・・」
謝罪したところでイオリに弁解され、ミナミは戸惑いを覚える。そして喜びのあまりに、彼女は涙と笑顔を浮かべる。
「次こそは叩いてやろう。ヤツらは平和を偽っている連中だからな。」
「はい、イオリさん・・・」
イオリの言葉を受けて、ミナミが微笑んで頷いた。
「しばらく待機だ。全員、いつでも出れるようにしておけ。」
イオリはクルーたちに呼びかけると、きびすを返して格納庫を後にした。そして廊下にて、一礼をしてきたスミスにイオリは言いかける。
「こちらに合流するよう、彼女に連絡を入れておきました。」
「そうか・・次がどんな戦いになるか、楽しみだな・・」
スミスの報告に、イオリは再び笑みをこぼした。カオスサイドの侵攻が、世界を揺るがし始めていた。
海中に避難し、危機を脱したクサナギ。厳しい戦いを終えて、ジュンたちが安堵を感じていた。
「ふぅ。危機一髪って感じだね・・」
「そうだね・・一時はどうなるかと思ったよ・・・」
アリカとジュンが安心の面持ちを浮かべていた。だがすぐに深刻な面持ちを浮かべる。
「それにしても、あの白いワルキューレ、すごかったね・・マシロちゃんと互角の勝負をするなんて・・」
「アテナの速さについていっていたあの動き・・決して侮ってはいけないということね。」
アリカの言葉にシスカが付け加える。場に重い空気に包まれていることを察して、ジュンが笑顔を見せる。
「と、とにかく今は休もう。みんな疲れてるから・・」
「マシロちゃん・・・そうだね。今日はもう休んで、これからに備えよう。」
ジュンに同意して、ありかも笑顔を取り戻す。2人の言葉で、重くのしかかっていた空気が緩和される。
「それじゃ、僕は先に戻るよ。僕も全力を出し切って、疲れたみたいだから・・」
ジュンはアリカたちに言いかけると、そそくさに格納庫を後にした。アリカが彼に大きく手を振って見送っていた。
自分の部屋に戻ると、ジュンは沈痛の面持ちを浮かべた。彼はかつての自分、忌まわしく悲しい過去を思い返していた。
幼い頃、ジュンはオーブ領土内の小さな町に住んでいた。弱虫だったジュンは、いつも周りからいじめられていた。
「お前は弱い弱い弱虫なんだよ!」
「1人じゃ何もできねぇ弱いヤツ!」
「いっつもママに甘えやがってさ!」
子供たちがジュンに罵声を浴びせ、さらに暴力さえも振るっていた。ジュンは何もできず、傷だらけになって泣き崩れていた。
「やっぱコイツは弱虫だぜ。男のくせにメソメソしちゃってさ。」
「それがいいんじゃないの。こうしてコイツを泣かせると、イライラが解消されるしさ。」
子供たちがジュンを見下してあざ笑っていた。悔しさを噛み締めながらも、ジュンはそれを行動に移す力も勇気もなかった。
「コラコラ、こんなところで何をしてるのかな?」
そこへ1人の女性が現れ、笑顔を浮かべたまま子供たちを叱ってきた。
「げっ!まずい!ジュンのママだ!」
子供たちが驚きを見せると、そそくさにこの場を後にした。そこには傷だらけのジュンだけが残っていた。
「母さん・・どうして・・・?」
「子供を守るのは、親の役目だからね。当然のことよ。」
動揺を隠せないでいるジュンに、母親が笑顔で答える。
「あらあら、傷だらけに泥だらけね。いらっしゃい、ジュン。手当てしてあげるから。」
「いいよ、母さん・・また、怪我することになるんだから・・」
母親の優しさを、ジュンはあえて拒もうとする。すると母親は微笑んだまま、首を横に振る。
「子供が傷ついているのに、放っておいては親失格というものよ。母さんに甘えて、手当てを受けなさい・・」
「母さん・・・ありがとう・・・」
母親の心からの優しさに、ジュンはついに甘えることにした。だがこの優しさは、このときの彼にとっては辛いものに感じられた。
このままずっと母親に甘えていたら、本当にいじめられる格好の理由になってしまうからだ。弱くても、彼は自立したいと考えるようになっていた。
消毒と介抱を母親から受けたジュンは、ひどく落ち込んでいた。そんな彼を見て、母親は微笑みかけてきた。
「ジュン、いつも周りから冷たくされて辛いのは分かってる。でもあなたには、そんなことにも負けない優しさを持っている。」
「優しさ・・・?」
母親のこの言葉にジュンは戸惑いを見せる。
「あなたは傷つけられる怖さと痛みを知ってる。そして、同じように傷ついているものに手を差し伸べる優しさと勇気、心強さを持っている。それだけで、私はあなたが決して弱くはないと思っている。」
「でも、やっぱり何だか辛いよ・・僕にもっと力があったら、自分だけで何とかできるはずなのに・・母さんを頼らなくて済むのに・・・」
「ジュン、あなたはあなたの中にある強さを持ち続けていけばいいのよ。本当の強さは、力や武器のことじゃない。誰に対しても信じようとする優しさと、どんなことにも諦めない気持ち。それが本当の強さよ。」
「母さん・・・」
母親の言葉に、ジュンは心を揺さぶられる。そんな彼の頭を、母親が優しく撫でる。
「あなたは私の自慢の息子よ。これからもその優しさと心強さを忘れないでいて・・・」
母親はジュンにそう語りかけると、満面の笑顔を見せてきた。彼女はジュンにとって、誰よりも優しい人と思っていた。
そのとき、家の中にベル音が鳴り響いてきた。だが電話のベルでもインターホンでもない。母親が所持していた専用の通信機のものだった。
「はい、セイヤーズ少佐・・・はい・・はい、了解しました。直ちに向かいます。」
母親は連絡を受けて、真剣な面持ちを浮かべる。その様子にジュンも戸惑いを浮かべていた。
「か、母さん・・・もしかして、また・・・」
ジュンが問いかけると、母親は微笑を取り戻して頷く。
「ごめんなさい、ジュン。母さん、また出かけなくちゃならないの・・でもこれだけは分かってほしいの。お母さんはジュンや、みんなの笑顔を守るために・・」
「分かってるよ。だって母さんは、オーブのエースパイロットなんだからね。」
母親がすまなさそうに告げると、ジュンは微笑んで弁解する。
「ありがとう、ジュン・・・それじゃ、行ってくるからね・・」
「うん・・母さん、気をつけてね・・・」
玄関に向かう母親にジュンが手を振る。息子に笑顔を見せると、母親は家を出た。
これがジュンの母、オーブ軍のMSパイロット、レナ・セイヤーズだった。
次回予告
「その優しさが、あなたの最高の力なのよ・・」
「あの人は、本当にすばらしい人でした・・・」
「みんなの笑顔を守るために、私は戦う!」
「僕も、母さんみたいに強くなりたい・・・」