GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-09「二色の白」

 

 

 デッド・ライダーズとの戦闘から一夜が明け、クサナギはシャトルステーションに向かっていた。ライトサイド党首に位置づけられているジュンを、無事帰国させるためだった。

 マイスターとパールを収容した今、これ以上ジュンの力に甘えるわけにはいかない。ユキノは彼にそう告げたのだった。

 オーブ、ライトサイド双方の合意により、アテナはジュンの正式な愛機となった。アテナとともにライトサイドに向かうことになったのは、ジュンにとっては不幸中の幸いといえるのかもしれない。

 だがジュンはクサナギとそのクルーに対して心残りがあった。このまま立ち去っては、アリカたちを悲しませることになるのではないか。

 思いつめている彼のいる部屋のドアがノックされる。彼がドアを開けると、そこにはアリカとニナの姿があった。

「アリカちゃん、ニナちゃん・・・」

「そんなに落ち込まないで、マシロちゃん・・きっといつかまた会えるから・・」

 戸惑いを見せるジュンに、アリカが微笑んで励ます。するとニナも続けてジュンに声をかける。

「寂しさはありますし、あなたの気持ちも察しています。しかしあなたの身の安全を考えるなら、このほうがいいと思います。」

「分かってる。これもみんなの気持ちがあればこそだよね・・」

 ニナの言葉にジュンが微笑んで答える。

「だけど、ここにいる間は、僕もみんなと一緒に戦いたいと思ってるから・・」

「マシロさん・・・」

 ジュンの決意に対して、ニナは腑に落ちない気分を感じた。これでは危険に身をさらすことと変わらないではないか。

 ニナは心密かに不安を抱えていたのである。

「ともかく、ステーションまでまだあります。それまでは休んでいてください。」

 落ち着きを取り戻したニナがジュンに言いかけると、部屋の前を後にした。

「ニナちゃん・・・」

 立ち去っていくニナの後ろ姿を見つめて、アリカが戸惑いを見せる。するとジュンがアリカの肩に優しく手を添える。

「ニナちゃんも僕のことを気遣ってるつもりなんだよ。だから僕は、ニナちゃんに感謝しているよ。もちろんアリカちゃんにもね。」

「マシロちゃん・・・ありがとうね・・」

 ジュンの言葉にアリカが笑顔を取り戻して頷いた。

「さて、そろそろユキノさんたちのところに行かないと。みんなに顔を見せておかないと。」

「そうだね。行こうか、マシロちゃん♪」

 ジュンが呼びかけると、アリカが満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。

 

 アザトースに乗艦したミナミ。彼女はアザトースのMSパイロットとして、イオリに迎えられることとなった。

 ミナミはイオリの下で働けることを心から喜んでいた。

 ミナミはライトサイドとダークサイドの戦争で家族を失い、彼女も瀕死の重傷を負った。その彼女が九死に一生を得たのは、イオリの計らいによるものだった。

 それからミナミはイオリへの恩に報いるため、混沌軍に入隊。カオスサイドに身を置くこととなったのだ。

 次の出陣に備えて、ミナミは自分の気持ちを確かめていた。自分がイオリのためにどこまでやれるのか、自身の決意と覚悟を確かめていた。

「どうした、ミナミ?こんなところで1人で・・」

「イオリさん・・・」

 そこへイオリが現れ、ミナミが振り返る。答えるのに戸惑っていると、イオリは不敵な笑みを浮かべて言いかける。

「・・喜んでいたんです・・こうしてイオリさんの下で、また戦えることを・・」

「そうか・・・なら、お前に期待しないとな。」

 ミナミの言葉を浮かべて言葉を返すイオリ。その言葉に、ミナミは思わず笑みをこぼしていた。

「ありがとうございます、イオリさん・・私、精一杯やってみます・・」

「その意気だ。今度の攻撃では、お前もキーパーソンとなるんだからな。」

「キーパーソン・・私が・・・」

「そうだ。お前が、あのアテナを倒すんだ。お前のテクニックなら、アテナの速さにも十分対応できるはずだ。」

 戸惑いを見せるミナミに、イオリが悠然と言いかける。

「さて、そろそろ準備をしとこうか。もうすぐクサナギとぶつかるぞ。」

「はい、イオリさん・・・」

 戦いに赴こうとするイオリについていくミナミ。彼女にとってイオリは全てに他ならなかった。

 作戦室にたどり着いたイオリとミナミ。そこにはフィーナとスワンも待機していた。

「待ってたわ、ミナミ。準備はできてるわね?」

「手抜かりはないわよ。だってミナミちゃんはイオリのことを心から好きになってるんだから。」

 フィーナがミナミに問いかけると、スワンが口を挟んでからかってきた。

「それにしても相変わらずね、ミナミちゃん。その大きなお胸は。」

 スワンが興味津々にミナミに近づき、ふくらみのある胸に手を当てる。

「キャッ!」

 ミナミがたまらず悲鳴を上げ、胸を押さえて気恥ずかしさをあらわにする。その反応にスワンはきょとんとなる。

「いい加減にしなさい、スワン。仲間のやる気をなくしてどうするのよ。」

「あ、ゴメンね・・つい・・」

 フィーナが注意すると、スワンが苦笑いを浮かべる。

「お前ら、遊ぶ相手が違うだろ。オレたちが相手するのは、あっち。」

 イオリが呆れながら、眼前のモニターを指差す。その画面には航行中のクサナギが映し出されていた。

「相手はダークサイドの猛威を退けたMSのうち、マイスターとパールを戦力に加えている。だが絶対に倒せない相手じゃない。」

「でも生半可な相手じゃないってことに変わりないじゃない。何か考えがあるの?」

 イオリの言葉にスワンが口を挟んでくる。イオリは不敵な笑みを崩さずに答える。

「1対1の勝負を持ちかける。フィーナ、お前はマイスター。スワンはパールを叩け。」

「分かりました。ですが、アテナとバルディッシュは?」

「ワルキューレたちでクサナギを攻撃し、かつバルディッシュをおびき寄せる。そしてミナミ、お前がアテナを倒すんだ。」

 フィーナの問いかけに答え、イオリはミナミに呼びかける。

「イオリさん・・・はい、分かりました。」

 ミナミは真剣な面持ちを見せて、イオリに返答する。

「さて、本格的な戦いはこれからだぞ、オーブ。中立などという正義染みた考えに、オレはウンザリしてるんだからな。」

 野望を胸に秘めて、イオリがクサナギとの戦いに赴こうとしていた。

 

 アザトースの接近を、クサナギのレーダーは感知していた。戦闘配備が敷かれ、艦内は慌しくなっていた。

「アザトースとの接触まで、約3分!」

 イリーナの声が作戦室に響く。そこへジュン、アリカ、ニナが駆けつける。

「ユキノさん、アザトースがまた・・!」

 ジュンが声をかけると、ユキノは真剣な面持ちで頷く。

「相手はマイスターとパールに対しての策を講じているはずです。注意してください。」

「分かっています。すぐに出撃の準備を。」

 ユキノの呼びかけにニナが答える。

「それじゃ行くとしますか。ワルキューレたちを返り討ちにしてやるわよ。」

 意気込みを口にするシスカを伴って、ジュンたちは作戦室を飛び出した。

 

 カオスサイドの進撃に備えて、各々の機体に乗り込むジュンたち。機体の確認をしているジュンに向けて、アリカからの通信が入った。

“マシロちゃん、大丈夫?危なくなったらすぐに戻って・・”

「アリカちゃん・・・ありがとう。でも僕は大丈夫だから・・」

 アリカの呼びかけにジュンが微笑んで答える。開かれるハッチの先の虚空を見据えて、ジュンは思いを巡らせる。

(僕は戦う・・たとえこのクサナギのメンバーとしていられるのがわずかだとしても、僕は全力でみんなを守っていく・・・)

“カタパルト接続。ハッチ開放。針路クリア。システム、オールグリーン。全セーフティ解除・・”

 イリーナの声が響き渡り、各機体が出撃に備える。そしてハッチの信号が赤から青に変わる。

「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」

「ニナ・ウォン、パール、発進する!」

「シスカ・ヴァザーバーム、バルディッシュ、いきます!」

「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、アテナ、いきます!」

 マイスター、パール、バルディッシュ、そしてアテナがクサナギから次々と出撃していった。それを待ち受けていたかのように、アザトースからワルキューレたちが出撃してきた。

 その中に1機、白色の機体の姿があった。

「何だ、あの機体は・・・!?

「白い、ワルキューレ・・!?

 その機体にニナとジュンが眼を見開く。同様に、その白いワルキューレに搭乗しているミナミが、アテナをじっと見据えていた。

(あれがアテナ・・かなり機動力に優れているみたいだから、気をつけないと・・・)

 アテナを十分に警戒して、ミナミは戦いに臨もうとしていた。

「それではイオリさん、みなさん、戦闘を開始します。アテナは私に任せてください。」

“よし・・それじゃワルキューレ部隊、攻撃開始!”

 ミナミが声をかけると、イオリからの命令が下る。ワルキューレたちがオーブ軍に向けて飛びかかり、攻撃を開始する。

「いくわよ、みんな!油断しないでよ!」

「了解、シスカさん!」

 シスカの呼びかけにアリカが答える。戦いに赴くマイスターたちの前に、2機のワルキューレと1機の白いワルキューレが迫る。

 フィーナ、スワン、ミナミがそれぞれマイスター、パール、アテナと対峙する。

(1対1を仕掛けてきた?・・僕たちを分断させる気なのか・・・)

 敵の出方を警戒するジュン。白いワルキューレが、手にしていたポールアクスをアテナに向けて振りかざす。

 アテナはビームサーベルを構えて、ワルキューレの一閃を受け止める。だが白いワルキューレは従来のものを力が上回っていた。

(すごい力と速さだ・・他とは性能が違うみたいだ・・!)

 胸中で毒づきながら、ジュンはワルキューレから離れる。だがワルキューレがすかさずアテナに詰め寄ってくる。

「くっ!」

 防戦一方となり、ジュンは思わずうめく。ポールアクスからの一閃で、アテナが突き飛ばされる。

 体勢を整えて、迎撃に備えるジュン。だがワルキューレは追撃をしてこない。

(攻めてこない・・・?)

 ジュンがワルキューレの様子に疑問を抱く。その眼前で、ミナミは改めて胸中で自身の思いを巡らせていた。

(私の家族は戦争で亡くなり、私も死にかけた。そんな私を助けてくれたのがイオリさんだった・・)

 イオリへの思いを確かめて、決意を強めていくミナミ。

(イオリさんは私の全て・・イオリさんがいなかったら、今の私はなかった・・・)

「だからあなたには、ここで消えてもらうわ・・・!」

 その決意をむき出しにして、アテナに向かうミナミ。ジュンはとっさに回避行動を取り、大きく飛翔する。

 ビームライフルに持ち替えて、アテナが遠距離から攻撃を仕掛ける。ワルキューレはそれを回避して、ポールアクスの切っ先からビームを放つ。

 近距離、遠距離、どちらの戦闘においてもアテナと互角以上に渡り歩いている白いワルキューレ。その性能もさることながら、ミナミの優れた操縦技術もアテナを追い詰めている要因となっていた。

(アテナの攻撃が当たらない・・こっちも何とかよけてきているけど、いつ当たるかも分からないし・・!)

 必死に打開の策を探るジュン。アリカとニナはフィーナとスワンとの交戦で手が離せず、シスカもクサナギの防衛で手一杯である。

(僕がまずこの機体を何とかしなくちゃいけないということか・・・!)

 思い立ったジュンが、ワルキューレの動きを見計らう。アテナがワルキューレの周囲をけん制し、連射を試みる。

 ミナミはアテナの射撃を見据えて、その砲撃を紙一重でかわしていっていた。互いが互いの動きを見据え、その隙を突こうと狙っていた。

 そしてアテナとワルキューレが互いに向けて放たれた射撃が、それぞれの左肩をかすめる。

「くっ・・・!」

 かすかながらも攻撃を受けたことに毒づくジュンとミナミ。機体の動き、機動力、そして相手の思考や感覚から、2人はまるで自分を相手にしているような気分に陥っていた。

 だが2人はすぐに我に返り、戦闘に集中する。相手は倒すべき敵なのだから。

(私はイオリさんのために、あなたを倒さなくてはいけないの・・・!)

 いきり立ったミナミがアテナの動きを伺う。ワルキューレが傷ついた体のまま、アテナに向かって飛びかかる。

 ジュンが毒づき、アテナが後退を試みる。だがワルキューレの動きが速まり、アテナを追い詰めていく。

 だがジュンもこのまま倒されるわけにはいかなかった。追い詰められている彼の激情が、次第に荒くなっていく。

(このまま君たちの攻撃を許すわけにはいかない・・もう、誰かが傷つくのを・・)

「見たくないんだ!」

 感情を叫びに変えた瞬間、ジュンの中で何かが弾けた。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。

 押していたはずの力を押し返され始め、ミナミが驚愕を覚える。そしてついに、アテナの力がワルキューレを突き飛ばした。

 押されるワルキューレに向けて、アテナがビームサーベルを構えて詰め寄ってくる。ミナミはそれを何とか見極めて、紙一重の回避でアテナの一閃をかわす。そしてワルキューレがとっさに一蹴を見舞い、アテナを突き飛ばす。

(どうなってるの!?動きが急に機敏になってきた・・・!?

 アテナの驚異的な動きに動揺を隠せないでいたミナミ。だがすぐに冷静さを取り戻して、アテナを見据える。

「でも、このワルキューレは他のものとは違うよ・・・!」

 ワルキューレが腰に備え付けてあったビームブーメランを手にして、アテナに向けて放つ。2つ放たれたビームブーメランを、アテナは1つをビームサーベルが叩き落すも、もう1つがビームサーベルの柄に直撃する。

 光刃の爆発で怯むも、ジュンはすぐに体勢を整える。だがこれで接近戦が不利になり、ジュンは戦況の悪化に毒づいていた。

(私は負けない・・イオリさんのためにも、私は負けるわけにはいかないの・・・!)

 揺るぎない決意を噛み締めて、ミナミはアテナをじっと見つめていた。

 

 ミナミのワルキューレとジュンのアテナの交戦を見据えて、イオリは不敵な笑みを浮かべていた。その隣でスミスも悠然と微笑んでいた。

「やはりオレとお前の思惑通りだったな、スミス。ミナミはアテナと互角以上に渡り歩いているな。」

「ミナミの洞察力とワルキューレのライトフレームの機動力が合わさって、すばらしい力を発揮していますよ。アテナの突然の動きの向上は予想外でしたけど・・」

 イオリの言葉にスミスが淡々と答える。

「他の連中の戦いはどうなっている?」

「フィーナ、スワンがそれぞれマイスター、パールを押さえています。他のワルキューレたちも、クサナギとバルディッシュを追い込んでいます。」

 イオリの問いかけにオペレーターの1人が答える。その状況に、イオリはさらに笑みを強める。

「まだ勝機はこちらにある。たとえダークサイドを退けたMSたちであろうと、一気に追い込んで叩き伏せることができるぞ・・・」

 イオリの哄笑がアザトース艦内に響き渡る。勝ちが確信に変わったと見切り、スミスも笑みをこぼしていた。

 

 

次回予告

 

「マシロちゃんと互角の勝負をするなんて・・」

「海へ避難します!潜行用意!」

「クサナギは撃たせない!」

「逃がさない!」

「もうあなたたちに、みんなの夢を壊させたりしない!」

 

次回・「蒼の発動」

 

 

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