GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-08「狂気の烈風」

 

 

 ドムトルーパー3機の連携攻撃、ジェットストリームアタックに翻弄されていたアテナ。だがアテナは突如驚異的な動きを見せて、その攻撃をかわしてみせていた。

 そんなアテナに向かって、マーヤの駆るドムトルーパーが単独で迫っていた。だが五感の研ぎ澄まされていたジュンは、その動きを的確に捉えていた。

 今までにないコントロールパネルの操作と洞察力が、アテナの動きにさらなる磨きをかけていた。ドムトルーパーの突進を、アテナが身を翻してかわしていた。

(よけた!?動きじゃ他のMSに引けを取らないドムトルーパーの攻撃が・・・!?

 マーヤがさらなる驚愕を覚え、判断力を鈍らせていた。そこへアテナが飛びかかり、ビームサーベルを振り下ろしてドムトルーパーのバズーカ砲を切り裂く。

「なっ・・!?

「マーヤ!」

 追い詰められるマーヤに、サラがたまらず叫ぶ。2体のドムトルーパーがマーヤを救うためにアテナに飛びかかる。

 アテナはその2体の同時攻撃さえも難なくかわし、すぐさまビームライフルを手にして、ドムトルーパーの手にしていたビームサーベルの柄を撃ち抜く。

 あまりに迅速かつ的確な攻撃に、カナデもサラも脱帽するしかなかった。

(どういうことだ・・アテナの動きが格段に上がってる・・・)

 アテナの動きを、ブラッドを駆るジョージも驚きを隠せないでいた。この不測の事態に、彼はこれ以上の戦闘は状況の不利であると判断した。

「全機、ボトムズに帰還しろ!オレがアテナたちを食い止める!」

「ジョージ!?・・いけません!いくらあなたでも、上位の機体や今のアテナを相手にするのは・・!」

 ジョージの呼びかけに、サラが感情をあらわにする。

「ここで犬死するつもりか!?我々は、こんなところで朽ち果てるわけにはいかないのだ!」

 ジョージに言いとがめられて、サラは渋々それを受け入れた。撤退していくデッド・ライダーズを、ジュンは眼つきを鋭くしたまま見つめていた。

「このまま逃がすわけにはいかない・・・!」

「やめるんだ、ニナちゃん!追わなくていい!」

 追撃しようとするニナをジュンが呼び止める。

「しかしマシロさん、これでは彼らを・・!」

「僕たちがしているのは相手の殲滅じゃない!彼らの攻撃を止めることだよ!」

 ジュンに鋭く言いとがめられて、ニナも踏みとどまるしかなかった。撤退していくデッド・ライダーズを見送る形となりながら、ジュンたちもクサナギに帰還した。

 

 アテナの突然の脅威に撤退を余儀なくされたデッド・ライダーズ。ブラッドから降りたジョージも、その動きを心密かに分析していた。

(どういうことだ・・アテナの動きが格段に上がった・・事前に入手していたデータを大きく上回っている・・・)

「ジョージ、大丈夫ですか?どこか、やられたのですか・・?」

 考え込んでいるジョージに、サラが心配の声をかけてきた。するとジョージは振り返り、サラに微笑みかける。

「あぁ、心配は要らない。ただ、突然のことに少し驚いていただけだ・・」

「そうですか・・ともかく今はお休みになってください。私たちも、次の戦闘に備えます・・」

 ジョージの言葉に安堵を見せて、サラが改めて言いかける。するとジョージは騒然さの抜けていないクルーたちに呼びかける。

「安全圏まで離脱した後、戦闘配備を解除。全員、次の戦闘に備えて体を休めておくのだ。」

 ジョージは全員に言い渡すと、格納庫を後にした。しかしクルーたちの動揺は完全に拭い去るには至っていなかった。

(まさか、私たちのジェットストリームアタックが通じなかったとは・・アテナ・・まさかここまでの動きを見せるとは・・)

 カナデもアテナの動きを不審に感じていた。しかしどこまで思考を巡らせても、その答えにたどり着くことはできなかった。

(聞いたことがある・・五感が研ぎ澄まされ、超人的ともいえる知覚能力が発動する現象。これによって洞察力、空間認識力を始めとした身体、精神の能力が最大限に引き出される。もっとも、これは何らかのきっかけによって、集中力が最大に高まったというのが正しいだろう。)

 廊下を進むジョージが、アテナの動きからある現象について考えていた。

(同じ機体を使ったとしたら、その現象が起きた者が圧倒的優位に立つことになる。この現象は一般的な覚醒に位置づけられているが、「SEED(シード)」という俗称もある。またその現象によって攻撃性までもが高まることから、「バーサーク」とも呼ばれていることもある・・もし、先ほどのアテナの動きが、パイロットの覚醒によるものだとしたら・・・)

 一抹の不安を脳裏のよぎらせながらも、ジョージは束の間の休息を取ることにした。

 

 デッド・ライダーズの決死の攻撃を退け、辛くも勝利を収めたクサナギの面々。その中で驚異的な操縦技術を行ってみせたジュンが、クルーたちの祝福を受けていた。

「すごかったよ、マシロ様!まさかあんな動きができるなんて・・!」

「そんなことないよ。ただ、みんなを守りたいと思っただけで・・」

 イリーナの声にジュンが照れ笑いを浮かべる。

「これまでの戦闘データを踏まえても、ここまでアテナの力を引き出したのは初めてですよー!」

 歓喜に胸を躍らせるイリーナ。微笑みかけているジュンに、シスカが歩み寄ってきた。

「今回の戦闘、本当にすごい動きでしたね。少しは女王様を見直さなくてはいけませんね・・」

「いいえ。そんなに褒めることではないですよ・・シスカさんも、ううん、アリカちゃんやニナちゃん、みんなにも言えることですから・・」

 シスカの賞賛の言葉に、ジュンは戸惑いを見せながら返す。するとシスカは肩を落として言いかける。

「そういうことにしておきましょう。ですが先ほどのアテナの動きは、間違いなくあなたがもたらしたものですよ・・」

 シスカはそう言うと、笑みをこぼして格納庫を後にした。ジュンもシスカの後ろ姿を見つめて微笑みかけていた。

「すごかったよ、マシロちゃん♪」

 そんな彼に、今度はアリカが飛びついてきた。

「わ、わ、ど、どうしたの、アリカちゃん・・!?

 突然のアリカの飛びつきに、ジュンは慌てていた。

「ゴ、ゴメンね、マシロちゃん・・でも、ホントにすごかったから・・・」

「ありがとう、アリカちゃん・・アリカちゃんやみんなが、僕を支えてくれたからだよ・・・」

 アリカの率直な気持ちに、ジュンは微笑んで答える。そこへニナも歩み寄ってきたが、彼女からは笑みがなかった。

「マシロさんの活躍は、私も賞賛しています。ですが、あのままデッド・ライダーズを追撃しなかったという判断は、納得しかねます。」

「ニナちゃん・・・」

 ニナの発言にアリカが沈痛の面持ちを浮かべる。するとジュンがニナに言いかける。

「ニナちゃん、さっきも言ったけど、僕たちがしているのは相手の殲滅じゃない。世界に向けられている攻撃を止めることなんだよ・・」

「それならば、あのとき見逃すべきではなかったと思います。何かを守るためには、犠牲が出てしまうことも覚悟しなくてはいけません。」

「そんな考えで守ろうとしても、結局何も助けられない。そうなったら、またみんなが・・・!」

 ニナの考えに対して反論するジュン。困惑を浮かべていたことに気付き、彼は微笑を取り戻す。

「ゴメン、みんな・・いつまた襲撃が起こるかもしれない・・みんな、体を休めておいて・・・」

 ジュンはクルーたちに言いかけると、そそくさにこの場を後にした。

「あ、マシロちゃん!」

 アリカが慌ててジュンを追いかけていく。廊下で彼女が呼び止めてくるのに気付いて、ジュンは足を止めて振り返る。

「アリカちゃん・・・」

「マシロちゃん・・ニナちゃんが言ったこと、あんまり気にしないほうがいいよ・・ニナちゃんもニナちゃんなりに、みんなのことを守りたいって思ってるから・・・」

 戸惑いを見せるジュンに、アリカが必死の思いで弁解する。するとジュンは微笑んで彼女に答える。

「分かってるよ。ニナちゃんもみんなのことをとても大切にしていることぐらい・・ただ、ちょっとすれ違いができてるだけだから・・」

「マシロちゃん・・・」

「でも、みんなを守りたいという願いは同じなんだから、必ず分かち合える。僕はそう信じてる・・・」

 ジュンの告げた心境に、アリカが微笑む。そしてアリカはジュンの手を取り、握手を交わす。

「ありがとうね、マシロちゃん。これからも頑張ろうね。」

「うん。これからもよろしくね、アリカちゃん。」

 互いに笑顔を見せるアリカとジュン。2人はこれからに向けて、新たな決意を秘めるのだった。

 

 ライトサイド中央軍備施設。そこでは星光軍の旗艦「ジーザス」が停船していた。

 そのターミナルステーションの屋上に、1人の女性がいた。ジーザス艦長、ミドリ・スティールファングである。

 ミドリはオーブを中心に巻き起こっている情勢について、この屋上で考え込んでいた。

(カオスサイドねぇ・・また厄介なのが出てきちゃったって感じね・・)

 ミドリが虚空を見上げて大きくため息をつく。

「こんなところでため息つくなんて、あなたらしくないんじゃない?」

 そんな彼女に向けて、1人の女性が声をかけてきた。ジーザス医療班班長、ヨウコ・ヘレネである。

「ヨウコ・・まぁ、これからまたいろいろ起こる気がしちゃって、いろいろ考えちゃうんだよね・・」

「あなたが考え込んだってしょうがないでしょう?どんなことが起きても、真っ直ぐ自分の正義を貫く。それがいつものあなたじゃなかった?」

「真っ直ぐ、かぁ・・そうね・・たとえどんな敵が立ちはだかろうと、自分の正義を貫き通す!それがこの私、ミドリ・スティールファング、17歳よー!」

「はいはい、気が済んだら艦長の仕事をしっかりしてくださいね。」

 元気を取り戻したミドリに呆れながら、ヨウコがこの場を後にしようとする。

「もう、相変わらず厳しいんだから、ヨウコはー・・」

 ミドリが気さくな笑みを浮かべて機嫌を取ろうとする。するとヨウコがふと足を止め、振り返らずにミドリに言いかける。

「ところで、ジーザスに乗り込む人員はもう決まっているの?」

「えっ?・・・うーん、それなんだけどねぇ・・・」

 ヨウコの問いかけに、ミドリが再び肩を落とす。

「この事態を聞いて、みんなまた戦うことを意気込んでるみたいなんだけど・・」

「その様子が見られるわね・・でも、マイさんとユウさんは・・・」

「分かってる。けどあの2人はやっと平穏な生活を送れるようになったのよ。それなのに、私たちの勝手な考えで戦場に引っ張り出すわけにもいかないでしょうに・・」

 話をするうちに次第に深刻さを覚えるミドリとヨウコ。

 マイ・エルスター。ダークサイドの侵攻を食い止めた機体、カグツチに搭乗していた少女である。現在はかつて星光軍に所属していた青年、ユウ・ザ・バーチカル、ミコト、ユウの妹、シホ・ユイットとともに平穏な生活を送っている。

 いくら最高位のMSパイロットであろうと、その平穏さを壊してまで彼女を引きずり出すのは酷というもの。これがミドリの見解だった。

「ま、マイちゃんたちがいなくても、こっちにはまだナツキちゃんがいるから。」

 ミドリはすぐに気さくな笑みを浮かべて、高性能MS「デュラン」のパイロット、ナツキ・クルーガーへの期待を口にする。するとヨウコが再び呆れて答える。

「あなたに期待を持たれて、ナツキさんも大変ね。」

「ちょっと、それどういうことよー!」

 ヨウコのこの言葉に、ミドリがたまらず抗議の声を上げる。

「それとマシロ様、いいえ、ジュンくんはどうするの?彼、今クサナギに乗艦して、しかもアテナを動かしているみたいなのよ。」

「アテナを?・・それでユキノちゃんは何て?」

「ひとまず預かるということよ。彼自身もまだ留まりたいと言ってきているらしいから・・」

「なるほど・・ユキノちゃんやみんなが一緒だから、大丈夫だとは思うけど・・」

「・・・しばらく、彼と周囲の状況を見守ることしましょう・・」

 ヨウコはミドリに微笑みかけると、改めてこの場を後にした。

(・・・ま、私たちだけで何とかやってみるとしましょうか・・)

 なるようになると区切りとつけて、ミドリもこの屋上からステーションの中へと戻っていった。

 

 クサナギの反撃に追い詰められ、撤退していたアザトース。その艦内にて、イオリはマイスター、パールの攻略のための策を練り上げていた。

(厄介な手駒が向こうに加わっちまったな・・アテナだけでなく、マイスターとパール・・・)

「いろいろと悩んでおられるようですね、イオリ殿。」

 考えを巡らせているイオリに、スミスが悠然さを見せながら声をかけてくる。

「スミス、何かいい作戦でもあるのか?」

「マイスター、パール、そしてアテナ、確かに厄介な相手です。並の戦力では到底敵うはずもないでしょう。」

「だからそれらに勝つ作戦を聞いてるんだ・・あの新兵器を使えば、あのクラスでも互角以上に渡り合えるんだがな・・」

 愚痴るように言いかけるイオリだが、スミスは笑みを崩さない。

「あれはまだ未完成かつ調整段階です・・大丈夫です。そこまでしなくても、我々にはまだ打つ手はあります。」

 スミスは言いかけると、デスクの上にチェス盤を置き、そのマス目に駒を置く。

「まずマイスターとパールは、フィーナさんとスワンさんにお任せしましょう。お二人の腕なら、あの2機に引けをとりませんから・・」

「だとしても、アテナはどうするつもりだ?」

「先ほど連絡をいただきました。彼女がこちらへの合流のために向かっているとのことです。」

「彼女?・・いったい誰が来ると・・・?」

 イオリが言いかけたときだった。作戦室からイオリに向けて連絡が入ってきた。

 その連絡を受けたイオリが、疑問を解消して不敵な笑みを浮かべる。

「分かった。すぐに向かうから、そこで待っているように伝えろ。」

 イオリはオペレーターに告げると、スミスと連れて格納庫へと向かった。

 

 アザトースに到着した1機の白い機体。その形状はワルキューレそのものだった。

 その白い機体から降りてきたのは1人の少女だった。長い黒髪、大人びた長身をしており、さらにふくらみのある胸が、周囲からの様々な視線を向けさせる。

 困惑を浮かべている少女の前に、格納庫にやってきたイオリとスミスが立った。

「悪かったな、直接連絡を受けられなくて・・」

「いいえ。イオリさんは私たちの指揮官。私だけに構っている場合ではないですよね・・」

 イオリの言葉に少女が微笑んで答える。

「気にするな・・いずれにしろ、いよいよお前の出番だな・・」

「はい・・全てはイオリさんのために、私の全てを・・・」

 少女は沈痛の面持ちから真剣さを見せる。その決意を察して、イオリは再び笑みをこぼした。

「スミス、アテナの相手をするのは・・」

「はい。ワルキューレ・ライトフレームを駆る、闇を駆け抜ける白い翼・・」

 イオリの問いかけに、スミスが淡々と言いかける。

「ミナミ・カスターニ、アザトースに合流いたします。」

 少女、ミナミがイオリに向けて敬礼を送る。全てはイオリのため。ミナミは決意を胸に秘めて、クサナギ打倒を見据えていた。

 

 

次回予告

 

「白い、ワルキューレ・・!?

「他とは性能が違うみたいだ・・!」

「イオリさんは私の全て・・イオリさんがいなかったら、今の私はなかった・・・」

「だからあなたには、ここで消えてもらうわ・・・!」

 

次回・「二色の白」

 

 

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