GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-06「英雄の帰還」

 

 

 バルディッシュの参戦とアテナの盛り返しによって、ワルキューレは形勢逆転を許してしまう。その劣勢を前にして、イオリから笑みが消えていた。

「バルディッシュ・・バカな・・あの機体はグエン領に滞在しているはず・・・!?

 その傍らでスミスが驚きをあらわにする。

「さすがのスミスの情報も、完璧とは言い切れないようだな・・・どっちにしても、このまま引き下がるのは納得いかねぇよな。」

 おもむろに不敵な笑みを浮かべるイオリ。その狂気に満ちた表情に、周囲の人間が畏怖していた。

「ワルキューレ部隊に通達!その金のMSも撃退の対象だ!1対1なんて正々堂々というくだらねぇ考えは必要ねぇ!まとめてかかれ!」

 イオリの放った命令にワルキューレのパイロットたちが奮起する。そしてクサナギとバルディッシュに狙いを定め、改めて進撃を開始する。

 だがバルディッシュは戦斧を振りかざして、ワルキューレたちを迎え撃つ。その刃が漆黒の機体を次々となぎ払っていく。

「命がほしいっていうなら、さっさと撤退しなさいよ。」

 シスカが言い放つ前で、ワルキューレたちがポールアクスを構える。その切っ先からビームが放たれ、バルディッシュに向かう。

 だがバルディッシュは軽い身のこなしを見せつけ、ビームの雨を回避する。そして2門式長距離砲「ビームスマッシャー」で、さらにワルキューレたちを撃ち抜いていく。

 バルディッシュの戦闘力を前にして、うまく攻めきれないでいるワルキューレたち。だがその間にもアザトースは、満身創痍のクサナギを攻め続けていた。

 クサナギの防衛を考えるジュンとシスカだが、ワルキューレたちの攻防に阻まれてしまっていた。

 

 クサナギとアテナの援護を受けて、アリカとニナは整備工場にたどり着いていた。工場の正門前で、彼女たちは中への連絡を取っていた。

「こちらオーブ軍パイロット、ニナ・ウォン!緊急事態です!門を開けてください!」

“ニナさん!?・・ユキノ様から連絡は受けています。さ、中へ。

 ニナの呼びかけに答えた整備士が門を開放する。ニナとアリカはそこから工場に入り、真っ直ぐ廊下を突き進んでいく。

 そして2人がたどり着いた整備室には、整備士、ライが待っていた。

「待ってましたぜ、お二方。整備は万全ですぜ。」

 ライが豪放そうな態度でアリカとニナを迎え、後ろを指し示す。そこには慄然と立ちはだかっている2体の機体であった。

 かつてダークサイドの侵攻を食い止めたMS、マイスターとパールである。

「2体ともすこぶるご機嫌だぜ。すぐにでも動きたいって感じで・・」

「軽はずみな言葉を口にしている場合ではないでしょう・・すぐに発進します。準備をお願いします。」

 ライの言葉に注意を返し、ニナがパールに眼を向ける。アリカは久しぶりの自分の搭乗機に歓喜の笑みを浮かべていた。

「了解しました。それではお二方、乗っててくださいよ。」

 ライが呼びかけると、整備室の天井のハッチを開放する。アリカがマイスターに、ニナがパールにそれぞれ搭乗する。

(久しぶり・・このマイスターには、私やみんなの夢がつまってる・・その息吹が、私の中に流れ込んでくる・・・)

 自分が夢と想いを背負って戦ってきたことを思い出し、アリカはしたたかな高揚感を覚える。操縦かんをつかむ手に次第に力がこもる。

“発進準備完了!いつでも出られますぜ!”

 ライからの通信が入り、アリカは身構える。そしてニナの乗るパールに眼を向けて、アリカはふと微笑みかけた。

「行こう、ニナちゃん。みんなが待ってる・・」

「えぇ。行きましょう・・」

 アリカの声にニナも微笑んで答える。2人は開放された先の空をじっと見据える。

「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」

「ニナ・ウォン、パール、発進する!」

 アリカとニナの掛け声とともに、マイスターとパールが工場から発進した。2機は真っ直ぐに飛翔し、ワルキューレの攻撃を受けているクサナギに向かう。

「ニナちゃんはクサナギを守って!私はマシロちゃんを助けるから!」

「分かったわ、アリカ!油断しないでよ!」

 アリカの指示にニナが答える。パールはクサナギとバルディッシュの援護に、マイスターはアテナの援護に向かう。

 

 フィーナとスワンの駆るワルキューレ2体に悪戦苦闘するジュン。反撃もままならなくなり、アテナがワルキューレの一蹴を受けて落下する。

「そろそろとどめを刺しちゃってもいいよね、フィーナ!?

「好きにするといいわ。」

 言い放つスワンにフィーナが微笑んで答える。ワルキューレの1体がポールアクスを振りかざし、アテナに詰め寄る。

 そこへ一条の閃光が飛び込み、ワルキューレのポールアクスの刃を撃ち抜いた。武器が爆発し、ワルキューレがたまらず後退する。

 驚愕するスワン、フィーナ、ジュンが振り返ると、その先には1体の機体の姿があった。

「何、あのMSは・・!?

「あれは、まさか・・・!?

 スワンとフィーナがたまらず声を荒げる。

「マイスター・・・アリカちゃん・・・」

 ジュンも同様に驚きの色を隠せないでいた。

“ゴメンね、マシロちゃん。でももう大丈夫だよ。あとは私がやるから・・・!”

「アリカちゃん・・・ありがとう。でも僕も戦うよ・・・!」

 アリカからの通信に、ジュンが微笑んで答える。

“マシロちゃん・・・分かったよ。一緒に頑張ろう♪”

「うん・・いくよ!」

 アリカの明るい声にジュンが真剣な面持ちを浮かべて答える。アテナとマイスターが飛び出し、ワルキューレたちに向かっていく。

「スワン、あなたはアテナにとどめを刺しなさい!私はマイスターを!」

「フィーナ!」

 フィーナがスワンに呼びかけると、アリカの駆るマイスターに向かっていった。振り下ろしてきたポールアクスと、大型ビームサーベル「エクスカリバー」が衝突する。

 強靭な威力を備えているエクスカリバーが、ワルキューレのポールアクスの柄を両断する。フィーナはマイスターの脅威に動揺の色を隠せなくなる。

(ダークサイドを退けた勢力のひとつ、マイスター・・ここまでの力があるなんて・・・)

 追い込まれたフィーナが、マイスターとの距離を取る。これ以上まともに戦っても敵わないと悟るしかなかった。

 一方、ジュンも負傷したスワンのワルキューレに対して巻き返していた。

(これじゃアテナ相手でも・・何とか立て直さないと・・)

 焦りを募らせるスワンだが、この不利を覆すには相手の戦力が強すぎて、もはや不可能のこととなっていた。

 

 マイスター、パールの参戦によって、アザトースの戦況は悪化の一途を辿っていた。だがイオリは苛立つ様子を見せず、ため息をついていた。

「ついにマイスターとパールが出てきちまったか・・これじゃもう示しが付かねぇな。」

 イオリが嘆息すると、押されているワルキューレたちを見据えて指示を出す。

「信号弾、撃て!一時撤退するぞ!」

「し、しかし、それではここまで攻めてきた我々の尽力が・・」

 兵士の1人が反論しようとすると、イオリが取り出した銃が火を噴いた。その銃声に兵士が押し黙る。

「テメェ、この状況が分かんねぇのか?・・明らかにこっちが不利。打開する策も戦力もねぇ。テメェはこのまま逃げずに死ねとでもいうのか?」

 鋭い視線を向けて言い放つイオリ。兵士はその威圧感に恐怖して、言葉を返せないでいた。

「全然勝てない勝負に勝ちに行こうなんて、死んでもゴメンだ。ここは退いて相手を浮かれさせてやろうぜ。」

 不敵な笑みを浮かべるイオリの意向を受けて、兵士たちは行動を開始する。アザトースから撤退を指示する信号弾が放たれた。

「撤退!?

 発光する弾に戦場にいた誰もが驚きを覚える。だがその指示を受けて、ワルキューレたちがアザトースに戻っていく。

「スワン、引き上げるわよ。これでは私たちに勝ち目はないわ。」

「しょうがないわね。今回はあなたたちに花を持たせてあげる。」

 フィーナが呼びかけると、スワンは不満そうに振舞う。2人もアザトースへと帰艦していった。

“こっちも戻ろうよ、マシロちゃん。”

「え、あ、うん・・」

 アリカからの呼びかけを受けて、ジュンもクサナギへと戻っていった。

 

 苦闘を乗り切ったクサナギクルーやパイロットの面々。着艦したアテナから降りてきたジュンも、クルーたちの厚い歓迎を受けていた。

「すごいです!すごいですよ、マシロちゃん!アテナであそこまで立ち向かえるなんて・・!」

 イリーナが歓喜の声を上げると、ジュンが照れ笑いを浮かべる。

「そんな。僕はいい活躍ができなかったよ。うごかったのはアリカちゃんやニナちゃん、それと・・・」

 謙そんするジュンが、バルディッシュから降りてきていた少女に眼を向ける。

 シスカ・ヴァザーバーム。オーブ軍のパイロットで、その操縦技術と判断力は折り紙つきである。オーブ議会大臣、グエンの命を受けて、このクサナギに合流すべく、バルディッシュを駆って赴いてきたのだ。

 ジュンが視線を向けているのに気付いて、シスカが近づいてきた。

「まさかマシロ女王がアテナに乗っていたとは、正直驚きました。ですが、ライトサイド党首であるあなたが、なぜ・・?」

「僕が志願したんです。みんなを守りたいと思って・・」

 シスカが訊ねると、ジュンは真剣な面持ちを浮かべて答える。するとシスカは肩をすくめて言いかける。

「お言葉ですけど女王、あなたはライトサイドの党首なんですよ。あなたにとって他国であるオーブに肩入れする必要はないんですよ。」

「な、何を・・」

「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。それがオーブの理念です。中立の立場にある私たちは、あなたの施しを受けるわけにはいかないのです。」

「手を取り合うことに、国の隔てはありませんよ!」

 シスカの見解に、ついにジュンが感情をあらわにする。その声に周囲の人間が押し黙る。

「僕には守らなくちゃならないものがあるんです!・・誰かが傷つくのも、何かがなくなるのは、許せないんです・・・!」

「きれいごとだけでは、守りたいものを守ることはできませんよ!」

 ジュンの決意をシスカが激昂して一蹴する。初めて感情をあらわにする彼女に、ジュンは当惑する。

「守りたいという気持ちだけでは、戦場を生き残ることはできませんよ。覚悟を持てないのでしたら、これ以上戦いに関わらないでください。」

 シスカはジュンに言い放つと、きびすを返して格納庫を後にした。彼女の言葉に、ジュンは完全に困惑してしまっていた。

「もう、いきなり何てことをいうの!?・・大丈夫、マシロちゃん?あんまり気にしないほうが・・」

「う、うん、大丈夫だよ、アリカちゃん・・ありがとう、心配してくれて・・・」

 シスカへの不満とジュンへの心配を見せるアリカ。その気遣いを受けつつも、ジュンは困惑を拭うことができないでいた。

 

 シスカのジュンに対する言葉に我慢がならなかったアリカは、シスカを追って廊下を進んでいた。そして艦長室の前に立つシスカを発見する。

 ジュンに対する言葉を撤回すべく歩み寄ろうとするアリカ。だが艦長室からユキノが姿を見せ、アリカはたまらず近くの物陰に隠れる。

「お久しぶりです、ユキノさん。改めて挨拶させていただきます。」

「そんなにかしこまらなくてもいいですよ、シスカさん。あなたが来てくれなかったら、私たちは危なかったのですから・・」

 一礼するシスカにユキノが微笑んで答える。するとシスカが突然深刻な面持ちを浮かべる。

「マシロ様には、きついことを言ってしまいました・・ですがそれは、マシロ様に私と同じ悲しみを背負わせたくないからなんです・・」

「シスカさんの気持ち、分かります。ですがマシロさんも女王。人々の悲しみを十分に背負っているのですよ・・」

「それも分かってますよ・・・こういうの、私らしくないと思っているんです・・・」

 物悲しい笑みを浮かべて皮肉を口にするシスカ。彼女の眼からはうっすらと涙が浮かび上がっていた。

「シスカさん、もしかして、まだお兄さんのこと・・・」

「それは言わない約束でしたよね、ユキノさん・・」

 ユキノが言いかけた言葉をシスカがさえぎる。シスカの心境を察して、ユキノはこれ以上言及しなかった。

 そのとき、物陰から2人の話を聞いていたアリカが、バランスを崩して倒れてきた。思わず飛び出してしまったアリカが、ユキノとシスカを見上げて苦笑いを浮かべる。

「ゴ、ゴメンなさい!盗み聞きするつもりはなかったんです!ただ、シスカさんがマシロちゃんにあんな言い方をしたのが許せなくて・・・」

 アリカが慌てて立ち上がって謝罪の言葉と弁解を述べる。彼女の率直な態度を目の当たりにして、シスカは微笑んだ。

「アリカちゃん、だっけ?・・こっちこそゴメンね。マシロ様やあなたを傷つけるつもりはなかったの。」

「シスカさん・・・」

「でも、そのくらいでへこたれてしまうなら、本気で戦うべきじゃない。だけどマシロ様はそんなことにはならない。あなたはそう信じてるんでしょ?」

 シスカの言葉を受けて、アリカは戸惑いを見せる。その反応を見て、シスカが笑みをこぼす。

「ホントに真っ直ぐだね、アリカちゃんは。私も見習いたいくらい。その調子でマシロ様をお願いね。」

「シスカさん・・・はいっ!分かりました!」

 シスカの励ましの言葉を受けて、アリカは大きく頷いた。シスカを叱責するつもりが、逆に激励を受ける結果となった。

 

 オーブ上空の彼方、その大気圏を周回しているステーション。オーブに向けての襲撃に備えての防衛ステーションである。

 その第1ステーションが、何者かの襲撃を受けた。その的確かつ強靭な攻撃に、ステーションは壊滅。滞在していた兵士や駐在者も、生存者は確認できなかった。

「隊長、オーブ第1ステーション、撃墜に成功しました。」

 全滅したステーションを見据える軍艦の中、兵士の1人が報告を告げる。その声を受けた1人の男が不敵な笑みを浮かべる。

 顔は仮面に覆われて、素顔をうかがうことができない。ただ男から凄まじい威圧感を放っていることは、周囲の人間は十分理解していた。

「そうか・・オーブの他の動きはどうなっている?」

「ドレイク隊、サソード隊がこちらに向かってきています。迎撃するには問題ありませんが・・」

「クサナギはどうしている?」

「先ほど、カオスサイドのアザトースと交戦、バルディッシュ、マイスター、パールの加勢によって、クサナギがアザトースを退けています。」

 兵士やオペレーターからの報告を受けて、男はあごに手を当てて思考を巡らせる。少し考えてから、男は命令を下した。

「次はクサナギを落とす。全機回収後、発進する。」

「了解!」

 男の声に兵士たちが答える。旗艦の周囲に停滞していた機体が、次々と戻っていった。

(もはやこの世界の偽りの平和にすがるつもりはない。真の平和は私の、我々の手で掴み取ってみせる・・・!)

 強固の決意を秘めて、仮面の男、ジョージ・グレイシーが戦いに赴こうとしていた。

 

 

次回予告

 

「何だ、あの部隊は・・・!?

「カオスサイドとは別の勢力・・」

「このまま一気に攻め落としてくれるぞ。」

「ジェットストリームアタック!」

「僕に・・もっと力があれば・・・」

 

次回・「種の覚醒」

 

 

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