GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-05「決意の出撃」
マイスターとパールを回収し、戦力を増強するため、クサナギはオーブの空を駆けていた。しかし敵襲に備えて、クサナギは警戒態勢を崩していなかった。
そんな中、その作戦室に赴いたジュン。彼の姿に気付いたユキノが、微笑んで声をかけてきた。
「気分はどうですか、マシロさん?」
「ユキノさん・・・はい、もう大丈夫です・・」
その声にジュンが答えるも、その返事に元気さは感じられなかった。
「マシロさん、ただ今このクサナギはマイスター、パールの回収に向かっています。向こうの整備士にも連絡してあります。」
「そうですか・・何事もなく、向こうにたどり着ければいいのですが・・・」
ユキノの言葉にジュンが心配のこもった言葉を返す。
「私もそう願うばかりです・・・ですが、襲撃者がそれを許してくれるかどうか・・・」
ユキノは瞳を閉じて皮肉を口にする。オーブを襲撃したワルキューレたちが、クサナギの進行を黙って見過ごすはずがない。
クルーたちの緊張は途切れることはなかった。
その緊張感の中、クサナギが整備工場まで少しというところまで差し掛かった。クルーたちの緊張がさらに高まる。
(このまま何も起こらずに事が運べば、こちらの戦力が一気に向上し、有利になる。このまま、このまま何も・・・)
平穏な飛行が続けられることを願って、ユキノは現状を見据えていた。しかしその願いは、無常にも打ち砕かれることとなる。
「大気圏を抜けてこちらに接近する熱源を感知!これは戦艦です!」
イリーナが告げた言葉に、艦内の緊張は一気に高まった。
「カオスサイド旗艦“アザトース”!・・案の定、出てきたって感じね。」
イリーナがおもむろに笑みをこぼしていた。状況を見定めているユキノに、アリカとニナが歩み寄ってきた。
「アテナでの出撃許可をください!今、ワルキューレに立ち向かえるのは、アテナだけです!」
ニナがアテナでの襲撃を申し出るが、ユキノはその許可を出さない。
「まだ相手の出方が分かりません。迂闊に出て行けば、格好の標的にされるだけです。」
「ですけど、ユキノさん・・!」
「それに、あなたたち2人には、マイスターとパールの収集と搭乗をお願いしたいのです。小型艇で向かえば、アザトースに気付かれる危険が少ないですから。」
アリカの反論に対しても了承しないユキノ。
「それでは、誰がアテナを動かすのですか?・・ここにいる中でアテナを的確に動かせる人なんて・・」
「僕が行きます!」
ニナがユキノに問い詰めたところで、ジュンが口を挟んできた。
「僕がアテナで出れば、ワルキューレの攻撃からこのクサナギを守ることができますし、アリカちゃんとニナちゃんを工場に向かわせることもできます!ユキノさん、僕に行かせてください!」
「いけません、マシロさん!そのようなこと、許されるはずがないでしょう!」
ジュンの申し出に対し、ニナが反論する。
「あなたはライトサイドの女王、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームなんですよ!そのあなたが、戦場の前線に出るなど愚の骨頂です!」
「ニナちゃん、僕はみんなを守るために最善の方法を取るべきだと思うんだ。たとえ愚の骨頂でも、僕が先陣を切るのが1番いいんだ。」
「仮に私とアリカがマイスターとパールに乗ることを選んだとしても、あなたがアテナに乗る必要はないんです!あなたに万が一のことがあれば・・!」
ジュンの揺るがなくなった決意に対し、ニナが引き下がらない。
「あなたが死んでしまったら、ライトサイドはどうなるのですか!党首や王が生きていれば、国は滅んだことにはなりません!」
「王だけの国なんて、国と呼べるものじゃない!」
ニナの言葉に、ジュンがついに声を荒げる。その大声に、この作戦室の騒然さが消える。
「王は国の代表だ!国の人たちの信頼を受けて、国の人たちを守るために尽力を注ぐ!だから王は、国や人々を守る責任があるんだ!誰一人助けられないで、何のための王なんだ!」
ジュンの言い放った言葉にアリカたちは押し黙る。切実な思いを込めた彼の言葉に、誰もが心を揺さぶられていたのだ。
「大丈夫です、ユキノさん。僕は死にません。危険を感じたらすぐに引き返します。」
「マシロさん・・・分かりました。マシロさん。あなたがアテナのパイロットです。」
真剣に言いかけるジュンに、ユキノはついにアテナの搭乗を許可した。
「ユキノさん!」
「もはや今の彼女を、誰の呼びかけでも止めることはできないでしょう。私たちもここまで来た以上、腹をくくるしかありません・・」
声を荒げるニナを、ユキノは落ち着きを取り戻して諭す。ユキノからも言いとがめられて、ニナはこれ以上反論できないでいた。
「マシロさん、すぐに戻ります。それまでご無事で・・・!」
「ニナちゃん・・ありがとう。僕は、必ずここに帰ってくるから・・・」
ニナに後押しされて、ジュンは微笑んで頷いた。
「これより、アリカさんとニナさんはマイスター、パールの回収に向かいます。クサナギとアテナは2人を援護し、アザトースとワルキューレを迎え撃ちます。」
ユキノがクサナギクルーたちに指示を送り、それぞれ適度な緊張感を保つ。
「待ってて、マシロちゃん。すぐに戻ってくるから。」
アリカはジュンに言いかけると、ニナとともに作戦室を飛び出した。ジュンも遅れて作戦室を出て、アテナのある格納庫へと急いだ。
クサナギを発見したアザトースも戦闘配備に移っていた。敵艦の動きを見据えて、イオリは不敵な笑みを浮かべていた。
「クサナギめ、こんなところに来て何を使用っていうんだ?」
イオリが疑問を口にすると、スミスが近づいて答える。
「この先の整備工場に、かつてダークサイドの侵攻を食い止めたオーブのMSが置かれている模様です。もしもそのMSを回収されれば、いくらワルキューレを有する我々にとっても、脅威といわざるを得ないでしょう。」
「そうか・・ならわざわざ向こうの思惑に乗るわけにはいかねぇよな。」
スミスの報告を受けて、イオリが笑みを強める。彼はあまりに自分の思い通りにならない物事が1番許せなかったのだ。
「それじゃ、クサナギの進行を阻み、撃墜する。まずはフィーナとスワンに出てもらう。他のヤツは命令があるまで待機だ。」
イオリの命令を受けて、フィーナとスワンがそれぞれのワルキューレに搭乗する。アザトースから2体のワルキューレが出撃し、クサナギ攻略のための先陣を切った。
「さて、どんな出方をしてくるか、見させてもらうわよ。」
「もう少し緊張感を持ちなさい、スワン。これは遊びではないのよ。」
笑みをこぼすスワンにフィーナが注意を促す。2人は改めてクサナギの動きを見据えていた。
カオスサイドの侵攻を迎え撃つべく、ジュンはアテナのコックピットに乗り込んだ。そのモニター画面に、先に出航しようとしていたアリカとニナの乗る小型艇が映る。
“それではマシロちゃん、行ってくるから・・”
「うん・・アリカちゃんたちも気をつけて・・」
アリカからの通信に、ジュンは微笑んで頷く。通信を終えると、ジュンはアザトースとワルキューレ2体を眼にして、真剣な面持ちを浮かべる。
(僕がみんなを守るんだ・・ライトサイドの女王として、ジュン・セイヤーズとして・・・)
緊張感と決意を噛み締めるジュンの握る手に力がこもる。自分がやらねばみんなが傷つく。決してそのようなことになってはならない。その思いが彼を突き動かしていた。
“カタパルト接続。ハッチ開放。針路クリア。システム、オールグリーン。全セーフティ解除・・”
イリーナからのアナウンスにあわせて、ジュンの乗るアテナの前のハッチが開かれていく。前方に広がる虚空を、ジュンは鋭く見据えていた。
“アテナ、発進どうぞ!”
「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、アテナ、いきます!」
ジュンの声とともに、アテナがクサナギから発進し、空に飛び上がった。
出撃してきたアテナを目の当たりにして、フィーナが身構え、スワンが再び笑みをこぼしていた。
「あれがアテナ・・なかなかじゃないの。これでこそ本気になれるってものよ。」
スワンが緊張感を適度に持ち越し、アテナに対して身構える。
「フィーナ、私は右から攻めるから!挟み撃ちにするよ!」
「ようやくスワンの真面目さが見られるということね・・・了解!私は左から行くわ!」
スワンの指示を受けてフィーナが答える。2体のワルキューレが二手に分かれ、アテナを挟み込む。
「行くわよ・・レディー・・・ゴー!」
スワンの呼びかけにあわせて、ワルキューレ2体が同時に飛び込む。ジュンはアテナを動かし、上へと飛翔する。
「逃がしはしませんよ!」
フィーナの駆るワルキューレが垂直に飛翔し、アテナを追撃する。漆黒のワルキューレが繰り出した一蹴が、白い機体のわき腹に命中する。
「ぐっ!」
痛烈な衝撃にジュンが顔を歪める。落下しかかるアテナが空中で体勢を立て直し、ビームサーベルを手にして構える。
「ビームサーベルねぇ。だったらこっちもこれで!」
笑みを強めて迎え撃つスワン。彼女の駆るワルキューレがポールアクスを構える。
それぞれ振りかざした武器の刃がが衝突し、激しく火花を散らす。さらに2度、3度振りかざし、衝突と相殺を巻き起こしていく。
互角の戦いを見せるジュンとフィーナ。だがそれを黙って見ているスワンではなかった。
「いいのかな?フィーナにばかり気が向いてると、クサナギ落としちゃうよ。」
スワンに操るワルキューレもポールアクスを手にする。その矛先には、カオスサイドへの迎撃を行っていたクサナギに向けられていた。
アザトースと交戦中のクサナギに向けて、ワルキューレのポールアクスの切っ先の銃口からビームが放たれる。その砲撃がクサナギの右舷に直撃する。
「うわっ!」
衝撃に揺さぶられたクサナギの作戦室にて、イリーナが思わず声を上げる。その声とクサナギへの攻撃に気付き、ジュンはフィーナのワルキューレを振り払い、クサナギの護衛に向かう。
「逃がさないと言いましたよね!」
そのアテナを追うフィーナ。クサナギに接近しようとするアテナを、スワンのワルキューレが待ち構えていた。
「そうそう。そうやって躍起になってくれないと、こっちもやりがいがないってものよ・・・!」
歓喜の笑みを浮かべるスワン。振りかざされるポールアクスのうち、一方はビームサーベルで受け止めるアテナだが、もう一方の突撃に背後から押される。
「くっ!・・このままじゃ僕もクサナギも・・せめてアリカちゃんとニナちゃんが戻ってくるまで持ちこたえないと・・・!」
毒づくジュンが2体のワルキューレを振り払う。しかし押し寄せる猛攻までは振り払うことができず、アテナは悪戦苦闘を強いられていた。
「ユキノさん、大丈夫ですか!?」
“マシロさん、私たちのことは気にしないでください!あなたはワルキューレの撃退を!”
ジュンの呼びかけに、ユキノからの通信が返ってくる。
“私たちも戦います!あなたが自分を含めた全てを守ると決めたように・・!”
ユキノの決意の言葉に背中を押される形となり、ジュンも眼前の敵と戦うことを改めて心に決めた。
徐々にアテナとクサナギを追い詰めつつあったアザトース。優位の戦況にイオリは笑みを浮かべ、次の一手を打った。
「よし。他のワルキューレたちを出撃させる。一気に攻め落としてやるぞ、クサナギを。」
イオリの呼びかけを受けて、ワルキューレたちが続々とアザトースから出撃していく。その進攻にジュンやユキノたちが緊迫を覚える。
「まずい!クサナギが・・・!」
ジュンがクサナギの援護に向かおうとするも、フィーナとスワンの乗るワルキューレたちに阻まれて近づくことができない。
「まずいですよ、ユキノさん!これじゃクサナギが・・!」
「振り切って!このまま落ちるわけにはいきません!」
オペレーターの悲鳴に、ユキノが答える。
「アリカさんとニナさんはまだですか!?」
「整備工場には到着していますが、まだシグナルは確認できません!」
ユキノの問いかけにイリーナが答える。マイスターもパールも出撃する様子はまだ見られない。
「バリアント、ヘルダート、発射!敵機を近づけさせないで!」
単装リニアカノン「バリアント」、対空防御ミサイル「ヘルダート」が火を噴き、ワルキューレたちの接近を阻む。だがクサナギの被害は増すばかりだった。
「しぶといな。本艦も撃ち込むぞ。トリスタン、イゾルデ、ってぇ!」
高エネルギー収束火線砲「トリスタン」、火薬3連装砲「イゾルデ」がクサナギに向けて放たれる。それがワルキューレの進撃を安易なものとした。
そしてついに、ワルキューレの1体がクサナギに取り付いた。
「しまった・・・!」
驚愕を覚えるユキノが覚悟を覚える。ワルキューレの持つポールアクスの切っ先が、クサナギの作戦室を捉える。
そのとき、ワルキューレの構えたポールアクスを一条の光が撃ち抜いた。突然の攻撃にワルキューレが撤退するも、さらに飛び込んできた光刃に胴体を両断され、爆散する。
「えっ・・・!?」
その瞬間にユキノをはじめとしたクサナギクルーが驚きを覚える。アテナでも、アリカたちでもない。
「4時の方向からMS反応です!」
そこへレーダーの反応を確認したイリーナが呼びかける。
「アリカさんたちですか!?」
「いえ。この反応は・・バルディッシュです!」
ユキノの問いかけにイリーナが答える。モニター画面が、ワルキューレを撃破した機体を捉える。
金色の装甲に巨大な戦斧。オーブのMS「バルディッシュ」である。
“ユキノさん、グエン大臣の命を受けて、あなたの援護に急行しました!”
「その声・・やはりシスカさん!」
バルディッシュから伝わってきた声に、ユキノが思わず笑みをこぼす。金色の機体に搭乗していたのは、オーブ軍のパイロット、シスカ・ヴァザーバームだった。
“ユキノさん、私がクサナギを守ります!あなたたちにこれ以上、指一本触れさせません!”
「分かりました・・援護を感謝します!」
言いかけるシスカにユキノが敬礼を送る。突然の援軍に、アテナを駆るジュンも驚いていた。
「もしかして、僕たちの味方・・・!?」
“アテナのパイロット、あなたはその2体の撃退に専念しなさい!クサナギの護衛は私に任せて!”
当惑しているジュンに向けて、シスカが呼びかけてきた。その声で我に返り、ジュンは眼前のワルキューレたちを見据える。
「分かりました。クサナギはあなたに任せます!」
ジュンはシスカに答えて、ワルキューレ2体に立ち向かう。ビームサーベルを振りかざして、アテナが反撃を開始する。
しかしワルキューレはポールアクスを振りかざし、アテナの攻撃を跳ね返す。攻めきれないジュンが次第に歯がゆさを募らせる。
“ワルキューレ相手に近接戦闘は不利よ!戦うなら距離を取りなさい!”
「えっ!?あ、はい!」
シスカからの通信を受けて、ジュンが距離を取る。武器をビームライフルに持ち替えて、遠距離攻撃を開始する。
間合いを詰めることができず、ワルキューレが不利に陥る。
(すごい・・接近するより相手にしやすい・・・)
シスカの的確な指示に、ジュンは思わず笑みをこぼしていた。
次回予告
「2体ともすこぶるご機嫌だぜ。」
「このまま引き下がるのは納得いかねぇよな。」
「僕には守らなくちゃならないものがあるんです・・・!」
「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」
「ニナ・ウォン、パール、発進する!」