GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-04「乙女の災難」
ワルキューレの突然の襲撃を跳ね除け、辛くも勝利を収めたジュン。しかしそのために市街に危害を加えてしまったことを、彼は未だに心に抱えていた。
その心境の中、彼はクサナギの格納庫に赴いていた。そこではアリカとニナが、イリーナから話を聞いていた。
困惑の面持ちを浮かべるジュンに気付いて、アリカたちが振り返り笑顔を見せてきた。
「あ、マシロ様だー♪」
アリカが大きく手を振ると、ジュンは思わず笑みをこぼしていた。
「どうしたのですか、マシロ女王?ここはクサナギの格納庫ですが・・」
「いや、ちょっと来てみただけだよ。君たちのことも、いろいろ知っておかないといけないとも思ったから・・」
ニナが訊ねると、ジュンは照れ笑いを浮かべて答える。
「ですが、マシロ様に私たちから教えることなどありませんが・・」
「あ、僕のことはマシロでいいよ。あんまりかしこまられても・・」
困惑を見せるニナに、ジュンが弁解を入れる。するとアリカが満面の笑みを浮かべて頷いた。
「分かったよ。それじゃよろしくね、マシロちゃん♪」
「うん・・ありがとう、アリカちゃん・・」
快く受け入れてくれるアリカに、ジュンも微笑んでいた。しかしニナは腑に落ちない気分を感じていた。
「丁度いい機会ね。それじゃマシロちゃんにも話しておかないとね。」
そこへイリーナが言葉を切り出し、ジュンたちが振り向く。
「今、このクサナギは微妙なところにあるのよ。乗艦しているMSの中で高性能を持っているのはアテナだけなのよ。」
「アテナ、だけ・・・!?」
イリーナの告げた状況にジュンが驚きを覚える。
「それで、これからクサナギは、整備に出しているマイスターとパールを回収しなくちゃならないわけ。その整備工場に行って、2機を回収。次の攻撃に備える。」
「なるほど。またいつ攻撃を受けないとも限らないからね。」
イリーナの言葉にニナが同意する。考えを巡らせてから、ジュンはイリーナに問いかける。
「それで、ここからその整備工場まではどのくらいかかるんですか?」
「全速力でなら1時間弱だけど・・襲撃にも警戒しなくちゃなんないし・・」
イリーナの返答を聞いて、ジュンは再び考えを巡らせる。
「それで、市街を襲撃してきたあの機体、何か分かったの?」
「それなんだけど・・みんなを集めてから話したいと思うの。ユキノさんもそう言ってるから・・」
ニナの問いかけにイリーナが真剣な面持ちで答える。ジュンたちは一路、クサナギの作戦室に移動した。
ジュンたちがクサナギの作戦室に向かうと、そこにはユキノたちクルーたちが各々の作業を行っていた。
「あ、ユキノさん、どうも・・」
ジュンが声をかけると、ユキノが振り向いて微笑みかけてきた。
「イリーナさん、今回の襲撃者のことですね?」
「はい。いいですか、ユキノさん?」
ユキノに答えると、イリーナは報告書を手にして、その文面を読み上げる。
「今回オーブを襲撃してきた勢力は、“カオスサイド”と呼ばれる存在です。カオスサイドは、かつてライトサイドと対立していたダークサイドに取って代わった勢力となっていますが、実質的には国家としては成立していません。そのカオスサイドを指揮、統括しているが、かつてダークサイド、アルタイ王国の王子だったナギ・ダイ・アルタイの弟、イオリ・パルス・アルタイ・・・」
「カオスサイド・・・彼らが、オーブの人たちを・・・」
イリーナの報告を耳にして、アリカが当惑する。
「そのカオスサイドの量産型兵器が、“ワルキューレ”と呼ばれるMSです。ワルキューレはダークサイドのMSのデータを参考にして開発された機体で、攻撃に特化されています。並の戦力ではとても太刀打ちできないでしょう・・」
「つまり、今クサナギにある武装の中でワルキューレに対抗できるのは・・・」
ジュンの切り出した言葉にイリーナは無言で頷く。現在、クサナギの所有する武装の中でワルキューレに対抗できるのは、ジュンが操縦したアテナだけである。
「マシロさんに先陣を切らせるようなことはしません。次の戦闘にアテナを動かすのは、おそらくアリカさんかニナさんでしょう。」
そこへユキノがジュンに声をかける。その言葉を聞いたジュンが戸惑いを見せる。
「お言葉なんですけど、ユキノさん・・・これまでの訓練や戦闘データを参考にしたところ、MSの操縦技術が最も高いのは、マシロちゃんなんです・・」
「ですが、いくらなんでもマシロさんに・・・」
イリーナの分析を受けて、ユキノが苦言を呈する。
「大丈夫です、ユキノさん。僕もみんなのために何かがしたいんです。」
そこへジュンがユキノに向けて声をかける。
「アリカちゃんもニナちゃんも、あなた方全員、オーブや世界のために戦っているんです。僕もみんなのために全力を上げたい・・・」
「・・・マシロさんの気持ちは分かります。しかし残念ですが、あなたの申し出を受け入れることはできません。」
ジュンの切実な願いを、ユキノは沈痛の面持ちを浮かべて拒む。
「たとえ操縦技術が卓越していても、あなたをわざわざ戦場に駆りだすことは、やはり私たちにはできません。」
「ユキノさん・・・」
「それにあなたはライトサイドの党首です。オーブの状勢に関与してもらうわけにはいきません。」
深刻な面持ちを見せるユキノの言葉に、ジュンは困惑してしまう。
他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。これが中立国としてのオーブの理念である。従って、他国の党首が自ら、自分たちのために戦場に駆りだすことなどもってのほかだった。
「マシロさん、あなたはしばらくこのクサナギに滞在してもらいます。ここのほうが幾分安全かと・・」
「ユキノさん・・・僕は・・・」
ユキノの見解に反論することができず、ジュンは押し黙ってしまう。ユキノもジュンにこのようなことをいうのが酷だと知りつつも、オーブ党首としてそういわざるを得なかった。
オーブを一時離脱し、大気圏のさらに外に出ていたアザトース。そこへ2機の機体が搬入してきた。
いずれもカオスサイドの主力兵器であるワルキューレである。機体の降り立った格納庫に、イオリが赴いていた。
「戻ったか、フィーナ、スワン・・・トモエの姿がないが?」
ワルキューレから降りてきた少女たち、フィーナとスワンに眼を向けるも、もう1人の少女がいないことに眉をひそめるイオリ。するとフィーナは落ち着いた面持ちでイオリに答える。
「トモエはハルバート部隊を壊滅させてから戻ると言って、帰還を拒みました。いかがいたしますか?強引に連れてくることも可能ですが・・」
「いや、別にいいだろう。アイツらを放っておいても鬱陶しいしな。こっちの力を見せとく意味でも・・けどトモエがいると、すぐに終わっちまうか・・」
フィーナの報告にイオリは笑みをこぼす。
「それに、トモエがいなくても済むだろう。ワルキューレに対抗できる向こうの機体は1機。だがこの前乗っていたパイロットは正式の軍人ではない。腕が立つだけの素人だ。」
「ふうん。それにしても、そんなに強敵なの、そのオーブの機体は?」
イオリの言葉にスワンが疑問を投げかける。するとイオリが笑みを崩さずに答える。
「スミスの情報だと、性能、いや、機動力なら上位武装に勝るとも劣らないMSだそうだ。だが初期武装は本当に基礎的なものに留まってる。」
「つまり、機動力にばかり重視していて、攻撃のバリエーションに乏しい・・」
イオリの言葉にフィーナが続ける。イオリはひとつ頷くと、待機状態のワルキューレたちを見渡す。
「しばらく待機だ。2時間後に出撃する。クサナギを・・いや、アテナを叩くぞ。」
イオリはアザトースのクルーたちに言い放つと、きびすを返して格納庫を後にした。
ユキノの言い分に完全に押されてしまい、気落ちしてしまったジュン。彼はユキノの用意した空き部屋を借りることになり、そこで束の間の休息を取っていた。
自分はこれから何をしなくてはならないのか。今の自分に何が許されるのか。ジュンは自分の気持ちを確かめようとしていた。
そんな中、彼はふと部屋に付けられていた時計を眼にする。時刻は既に夜の時間帯になっていた。
「もうこんな時間か・・・いろいろあったから、お風呂くらい入っておかないと・・・」
ベットで横になっていたジュンは起き上がり、部屋に出ようとする。だがドアの前で彼は足を止める。
「だけど誰かが部屋に入ってきたらまずいよね・・タイミングを見計らって行くしかないか・・・」
思いとどまったジュンはドアの前できびすを返した。
「マーシーローちゃーん♪」
そこへアリカがドアを開けて、明るくジュンに声をかけてきた。その声に驚き、ジュンは一気に緊張を覚えた。
「驚かさないでよ、アリカちゃん・・心臓が止まるかと思ったよ・・」
「あ、ゴメン、ゴメン。ねぇ、マシロちゃん、一緒にお風呂入らない?」
言いかけるジュンにアリカが声をかける。その言葉にジュンは再び驚きを見せる。
「お、お風呂・・・ゴ、ゴメン、アリカちゃん。僕は後で入るよ・・・」
「ええー、今入ろうよー。みんな一緒に入ったほうが楽しいってー・・」
断ろうとするジュンに、アリカがさらにすがろうとする。そこへニナが現れ、アリカをジュンから引き離す。
「やめなさい、アリカ。マシロさんが困ってるじゃない。」
「ニナちゃんってば〜・・」
ニナが注意を促すと、アリカが不満の面持ちを浮かべる。それに気に留めず、ニナがジュンに言いかける。
「すみません、マシロさん。あなたの都合も考えずに・・」
「いいよ、気にしないで。君たちのせっかくの誘いだったのに・・・」
互いに謝罪の言葉をかけるニナとジュン。
「それではマシロさん、失礼します。」
ニナはジュンに一礼すると、アリカを連れてこの場を後にした。一難去ったと思い安堵するジュンだったが、またさらに災難が続くことを彼は予想だにしていなかった。
それからジュンは誰も入浴しないだろう時間を見計らって、共同浴場にやってきた。思惑通り、浴場には誰もいなかった。
「ふぅ。ここじゃ女王でいられないからね・・・」
女王としての責務からようやく解放され、ジュンは安堵の吐息を付いていた。
「あぁぁ、何だか気まずくなってきちゃったよ・・・これから、僕はどうしたらいいんだろうか・・・」
ジュンが困惑して、思わずため息をつく。つけたはずの決意がまたしても揺らいでしまっている。
そのとき、浴場の外から声が聞こえ、ジュンが眉をひそめる。耳を傾けると、その声は女のものだった。
(ま、まずい!誰かが入ってきた・・しかも、女の人・・・!?)
不安を募らせたジュンが脱衣所のほうに振り向く。すると湯気で曇っているガラスの向こうで、誰かが服を脱いでいた。
(は、入ってくるぞ!)
ジュンは慌ててどこかに隠れるか逃げるかしようとしたが、その場所も道もなく、結局湯の中に隠れることとなった。
(こ、このままじゃゆでだこになってしまう・・だけど赤っ恥をかくくらいなら、このくらい・・・!)
必死に息を止めて身を潜めるジュン。その浴場に入ってきたのはアリカだった。
「あれ?おかしいなぁ。私の専用のリンス、ここにあると思ったんだけどなぁ。」
アリカが忘れ物を探して浴場を歩き回っていく。その間にもジュンは必死に息を止めていた。しかし湯の熱と時間によって次第に息苦しくなり、ジュンは追い詰められていた。
(まずいよ・・これじゃ窒息してしまう・・それにもしアリカちゃんがここに入ってきたら、精神的にも限界に・・・もう、どうしたらいいんだー!)
あらゆる意味での危機を覚え、ジュンは限界を感じ出していた。
「あ、あったー!やっぱりここに忘れてたんだね。よかったよ〜・・」
そのとき、リンスを見つけたアリカが安堵の笑みをこぼす。そして明るさを振りまきながら、浴場を後にしていった。
それから数秒後、風呂からジュンが浮かび上がってきた。彼はあらゆる意味でのぼせてしまい、かつ呼吸困難に陥り、苦汁を舐めることとなった。
それからジュンは何とか風呂場から出て、自分の部屋に戻っていた。マシロとしての格好となっていたが、彼は再びベットに突っ伏していた。
(ハァ・・生き返った・・これがもし延々と続いたら、生きた心地がしない・・・これからは部屋の風呂を利用することにしよう・・アリカちゃんたちには悪いけど・・・)
もはや声を上げる気力さえ湧き上がらず、ジュンは胸中で考えを巡らせていた。
一方、クサナギクルーたちはクサナギ発進に向けて着々と準備を整えていた。アリカ、ニナはイリーナとともに、これから起こるだろう戦闘に備えての話し合いを行っていた。その主な内容は、アテナを誰が操縦するかだった。
「イリーナちゃん、アテナは私が乗るよ。機動力がずば抜けているアテナは、私が動かしたほうがいいって・・」
「いいえ。アテナには私が乗るわ。あの機体は高い機動力ゆえに繊細な操縦技術が要求される。私が扱ったほうが・・」
アリカとニナがアテナの搭乗を巡って意見を交わす。イリーナは2人の操縦技術を踏まえて、結論を練り上げていく。
なかなか決定にたどり着かないでいる彼女たちに、作戦室を訪れたユキノが歩み寄った。
「そんなに結論を急ぐこともないでしょう。まずはクサナギを発進させます。」
「ユキノさん、ですが・・」
ユキノの言葉にニナが反論する。
「戦闘には常に不測の事態が付きまといます。結論付けてそれが崩されたとき、建て直しに時間を割かなくてはなりません・・アテナのパイロットは、そのときに私が申し上げます。」
「ユキノさん・・・分かりました。そのときはよろしくお願いします。」
ユキノの見解を受けて、アリカが笑顔を浮かべて一礼した。
「アリカさんとニナさんは戦闘に備えておいてください・・これより、クサナギはマイスター、パールの回収に向かいます。」
ユキノがアリカとニナ、そしてクサナギクルーに指示を送る。そしてイリーナもオペレーターとして、レーダーの前に着席する。
「第二級戦闘配備。クサナギ、発進!」
「了解!クサナギ、発進!」
ユキノの呼びかけとイリーナの掛け声とともに、クサナギが発進。マイスターとパールの置かれている整備工場へと赴くこととなった。
同じ頃、アザトースもクサナギとアテナの撃破のため、行動を開始しようとしていた。
「いいか。今度の戦闘はフィーナ、スワンを中心に攻める。他のヤツらは2人の命令に従い、行動しろ。今度の目的はクサナギ、アテナの破壊だ。存分に暴れてやれ。」
イオリが言い放つと、ワルキューレたちのパイロットが敬礼を送る。その中でフィーナは淡々としており、スワンも微笑を浮かべていた。
「さて、始めましょ。久しぶりの、大物との大勝負ってヤツをね。」
「口を慎みなさい、スワン。軽はずみな言動が、戦いにおいて生死を分かつのよ。」
スワンの言葉にフィーナが注意を促す。2人を筆頭にして、パイロットたちが各々の機体に搭乗した。
「アザトース、発進!カオスサイドの進撃だ!」
イオリの声を受けて、アザトースが再びオーブに向けて進撃を開始した。
次回予告
「案の定、出てきたって感じね。」
「あれがアテナ・・なかなかじゃないの。」
「あなたが死んでしまったら、ライトサイドはどうなるのですか!」
「誰一人助けられないで、何のための王なんだ!」