GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-03「崩壊の大地」

 

 

 ジュンの駆るアテナがクサナギから発進し、アリカとニナを追い詰めているワルキューレたちに向かっていった。

(普通に突っ込んでいては間に合わない。ここはビーム砲撃で・・!)

 ジュンは操作パネルを操作すると、アテナが中型の銃を取り出し、銃口をワルキューレに向ける。その引き金を引き、ビームをワルキューレに命中させる。

 ワルキューレがこの攻撃で怯んだため、アリカは撃破されるのを免れた。傷ついたザクの前に、アテナがゆっくりと降り立つ。

(アテナ・・どうして、また・・・!?

“僕が相手をするから、今のうちに退却を!”

 驚愕していたアリカのいるザクに、ジュンからの通信が響く。その声に我に返ったアリカは、自分の機体の状況を理解して、撤退を図る。

「ニナちゃん、ここはアテナに任せるしかないよ・・!」

「そうね・・私たちはクサナギに一時撤退よ、アリカ!」

 互いに指示を送るアリカとニナ。アテナにワルキューレたちを任せ、2体のザクが撤退を始める。

 それに気付いたワルキューレが追撃をしようとするが、アテナのビームライフルから放たれたビームに阻まれる。黒い機体たちが完全にアテナを敵と認識し、アテナを取り囲む。

(これだけ周囲に接近されたら、ビームライフルじゃきつい・・ここは・・・!)

 ジュンの操るアテナが、ビームライフルからビームサーベルに持ち替える。ポールアクスを振り上げて飛びかかってくるワルキューレに向かって、アテナが光刃を振りかざす。

 アテナの放った一閃が1体のワルキューレのポールアクスの柄を両断する。さらなる一閃を回避して、ワルキューレはアテナと距離を取る。

 別方向から他のワルキューレたちが、アテナに迫る。アテナはビームサーベルを振りかざして、ワルキューレの接近を阻む。

(負けられない・・これ以上あの機体に、このオーブの街を壊させるわけにはいかない・・・!)

 決意を強め、ジュンがワルキューレの撃退に全力を注ごうとしていた。

 

 アテナを発進させ、ユキノはクサナギの作戦室に戻ってきた。モニター画面に映されているアテナとワルキューレの戦闘を眼にして、ユキノはイリーナに指示を送る。

「これより襲撃者に対する迎撃、およびアテナの援護に向かいます。クサナギ、発進準備!」

「了解!クサナギ、発進準備!」

 ユキノの指示にイリーナが答え、クサナギにエンジンがかかり、発進準備を行う。

「クサナギ、発進!」

 ユキノの声とともに、クサナギが飛翔し、オーブの空に飛び上がる。そしてクサナギはアテナが交戦している街に向かう。

 その途中、負傷した2体のザクがクサナギに向かってきていた。

「あれは・・アリカちゃんとニナちゃん!・・ユキノさん、ザク2体を収容します!」

 イリーナが呼びかけ、クサナギのハッチが開く。誘導を受けたザクたちがそのゲートへと着地する。

 ザクの着艦を確認したイリーナが作戦室を離れ、格納ゲートに向かう。そこにはザクから降りてきたアリカとニナの姿があった。

「アリカちゃん、ニナちゃん、大丈夫!?

「イリーナちゃん・・私とニナちゃんは平気。だけどザクじゃ全然敵わなかったよ・・」

 イリーナの心配に、アリカが落胆の様子を見せる。

「そんな悠長にしている場合でしょ、アリカ・・イリーナ、状況は?」

 ニナがアリカに注意を促し、イリーナに訊ねる。

「悪化する一方よ。マシロ様がワルキューレを食い止めてくれてるけど・・被害のほうは・・・」

「・・そうだ!マイスターとパールは?あの2機なら止められるはずだよ!」

 イリーナからの報告を受けて、アリカが思い立って言いかける。だがイリーナは沈痛の面持ちで首を横に振る。

「マイスターもパールも、オーブ第7整備工場にあるのよ。整備は終えてるけど、ここからだと距離があるし・・」

「そんな・・・それじゃ、私たち・・・」

 イリーナのさらなる報告を聞いて、アリカが困惑する。

 マイスター、パールはともにオーブの最有力のMSである。核エネルギーを凌駕する機動力をもたらす「エレメンタルチャージャー」が搭載されており、ダークサイドの侵攻から世界を守った機体である。

 しかしマイスターもパールも整備に出されており、戦闘に持ち込むには時間を費やすことになる。

「ここはマシロ女王に任せるしかないってことね・・・」

 ニナが淡々と告げると、アリカは肩を落とすしかなかった。だがニナも、この状況の中で何もできないでいる自分に苛立ちを感じていた。

 

 ジュンはアテナを駆り、ワルキューレたちに善戦していた。しかしビームサーベルによる攻撃でも、ワルキューレに決定打を与えられないでいた。

(せめてもう少し威力のある武器があれば、あの機体の装甲を崩すことができるのに・・・)

 毒づきながら、ジュンは打開の糸口を必死に探る。だが街の真ん中では、威力の高い武器が見つかるはずもなかった。

 思考のあまりに動きが鈍りだしていたアテナに向けて、ワルキューレたちが反撃に転ずる。我に返ったジュンが操作を行い、アテナを飛翔させる。

 だが別のワルキューレが待ち構えており、ポールアクスを振りかざしてくる。アテナはビームサーベルを構えて防ぐも、との突進力に押されて地上に落下する。

 地上への衝突がジュンをも揺るがし、彼はたまらず顔を歪める。閉じていた眼を開くと、彼はさらに向かってくるワルキューレを眼にする。

 アテナがたまらず一蹴を繰り出し、ワルキューレを突き飛ばす。その間に体勢を立て直し、アテナがビームサーベルを構える。

(ダメだ・・このままじゃ僕たちに勝ち目はない。整備工場かどこかで武器を持ってこないと・・!)

 焦りを募らせるジュンが周囲を伺う。すると彼の眼に、アテナが収容されていた工場が飛び込んできた。

「あそこに賭けるしかないみたいだ・・・!」

 思い立ったジュン。アテナは周囲のワルキューレたちを振り払い、その工場に向かって飛び上がった。

 ワルキューレの追跡をかいくぐり、工場の広場に着地するアテナ。そこでジュンは再び周囲を見回し、武器を探る。

 そのとき、ジュンの眼にある武装が入ってきた。

(あった!見つけた!・・長距離砲撃武装、ビームバズーカ・・)

 ジュンはすぐさまビームバズーカに手を伸ばし、向かってくるワルキューレたちにその銃口を向ける。

 アテナはあらゆる武装の使用が可能で、その性能を駆使してビームバズーカを構えていたのだ。

「これを使って、一気に撃ち抜いてやる!」

“待って、マシロ様!その角度からじゃ・・!”

 ジュンがいきり立ったところで、クサナギにいるイリーナから通信が飛び込む。だがワルキューレを撃退することばかりに気が向いていたジュンに、その呼び声は聞こえていなかった。

 アテナがビームバズーカの引き金を引くと、一条の閃光が銃口から放たれる。その砲撃はワルキューレの1体を撃ち抜いた。

 だが砲撃はさらに伸び、その先の街に直撃してしまう。建物のいくつかが崩壊を起こし、街や人々はさらなる混乱に陥る。

 煙の上がる街を目の当たりにして、ジュンは愕然となった。自分の手で街を攻撃してしまったことに、彼は絶望感を覚えていたのである。

 一方、1体のワルキューレを撃破されたワルキューレたちも動揺を覚え、アテナへの攻撃ができないでいた。2つの勢力は互いに硬直の状態に陥ってしまっていた。

 

 カオスサイド旗艦「アザトース」。この戦艦を指揮しているイオリが、アテナとワルキューレの戦いを見据えるうち、笑みを消していた。

「アテナの動きが、だんだんとよくなってきているな。だが今の攻撃は明らかに自爆もの。向こうはかなりの痛手になっただろうな。」

「そうでしょうね。いくら襲撃してきたワルキューレを撃退するためとはいえ、街に攻撃を加えてしまったんですから。」

 イオリの言葉にスミスが悠然と答える。

「ですが、まさかワルキューレを撃破されるとは・・エレメンタルチャージャー搭載機ならともかく・・いかがいたしますか?」

 スミスが問いかけると、イオリは笑みを取り戻す。

「ここでこれ以上攻めても何の成果も得られないだろう・・・全機撤退。ワルキューレたちにそう伝えろ。」

 イオリが指示を送ると、スミスは笑みを崩さずに一礼する。その前でイオリは不敵な笑みを浮かべていた。

(うまくいかないのも不愉快だが、あんまりうまくいきすぎても退屈なだけだからな・・・)

 

 アザトースからの信号を受けて、ワルキューレたちが撤退を見せる、しかし自分のしたことに愕然としており、ジュンは追うことができなかった。

(僕が街を・・オーブの街を・・・)

“しっかりしてください、マシロ女王!”

 自分を責めているジュンの耳に、ニナの声が飛び込んできた。ジュンは我に返り、うつむいていた顔を上げる。

 彼の眼にするモニターにはクサナギの姿が移っていた。

「クサナギ・・・」

“これより街に残されている人々の救助を行います。マシロ様はクサナギに戻ってください。”

 困惑するジュンに、ニナが落ち着いた口調で呼びかける。

「僕も、手伝わせてください・・」

“あなたは心身ともに疲れています。クサナギに戻って、休息を取ってください・・”

「・・・分かりました・・・」

 ニナに言われるがまま、ジュンは沈痛の面持ちのまま、クサナギへと戻ることとなった。

 

 それからユキノの指揮の下、オーブ軍の救援を受けて、人々は危機を脱した。しかし街の被害は甚大で、人々はその深刻さを楽観視することができなかった。

 クサナギに戻ったジュンは、そのブリッジから街を見つめていた。崩壊した街を目の当たりにして、彼は絶望感にさいなまれていた。さらにそれに、不本意とはいえ自分が加担する形となってしまったことが、彼自身に追い討ちをかけていた。

(僕がこの街の人たちを・・・僕は・・僕は・・・)

「これが、あなたの軽率な行動が招いた結果です・・」

 落ち込んでいるジュンに、ニナが落ち着いた面持ちを見せて歩み寄ってきた。遅れてアリカもブリッジに姿を見せてきた。

 動揺の色を隠せないでいたジュンは、ニナに対して言葉を返せないでいた。彼が口ごもっていると、ニナが先に言葉を切り出した。

「あなたはMSでの戦闘に赴き、それにも関わらず私たちの指示を聞かなかった。女王であるあなたが、このような失態をしてしまうとは・・・」

 ニナが感情を押し殺して、ジュンを叱責する。彼女自身、女王に対してこのような言動をすることを快く思っていなかった。

「よりによって、ライトサイドの党首であるあなたがこのようなことを・・この責任、あなたはどう取るつもりですか・・・!?

「もういいよ、ニナちゃん!これ以上、マシロ様を責めないで・・・!」

 さらにジュンに叱責するニナに、アリカが悲痛の叫びを上げる。

「アリカ・・・だけど現に彼女の判断のあやまちで・・」

「マシロ様だって、もう十分そのことは分かってるよ!だからこれ以上言わなくたって・・!」

「もういいよ、アリカちゃん!」

 対立していたニナとアリカに、ジュンがたまらず声を上げていた。その声に2人が当惑を見せる。

「全ては僕が悪いんだ。僕が女王であることを忘れて、みんなのことも考えずに、あの機体を退けることばかり考えていたから・・・」

「マシロ様・・・」

 ジュンの言葉にアリカが困惑する。

「こんな僕が、ライトサイドの女王の資格があるわけがないんだ・・こんな僕が・・・」

「そんなことはありませんよ、マシロ様・・」

 自分を責めるジュンに、ニナが優しく声をかけてきた。彼女の態度に彼は戸惑いを覚える。

「どんなことがあろうとも、あなたはこれからも女王です。その責任を強く痛感しているなら、これから先の難題もきっと乗り越えられるはずです。」

「ニナちゃん・・・」

「全身全霊を賭けて臨んでください。そうすれば人々は、きっとあなたのお気持ちを分かってくれるはずです。」

 ニナの励ましによって、揺らいでいたジュンの心が落ち着きを取り戻していく。真剣な面持ちを見せたジュンが、再びオーブの街に眼を向ける。

(このまま引き下がれない・・僕が何とかしなくちゃ・・仮にも僕は今は、ライトサイド党首、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームなんだから・・・)

 絶望に包まれている中にある一途の希望を見据えて、ジュンは改めて平和を守ることを心に決めた。

「マシロ様、ここにいたのですね・・」

 そのとき、ジュンたちに向けて声がかけられた。ジュンたちが振り返ると、そこにはユキノの姿があった。

「マシロ様、話がありますので・・・アリカさんとニナさんは格納庫へ。イリーナさんから詳しく話を聞いてください。」

「ユキノさん・・・分かりました・・・」

 ユキノの指示に、アリカは戸惑いを覚えながら聞き入れる。そしてニナとともにブリッジを離れていった。

 ブリッジにはジュンとユキノの2人だけとなった。

「ジュンくん、あなたにとって問題ができてしまいました・・」

「えっ・・・?」

 ユキノの言葉にジュンが当惑を見せる。

「市街に設けられているターミナルが襲撃の被害にあってしまい、ライトサイドに向けてシャトルを出すことができなくなってしまいました。従って、しばらくはこのオーブに滞在することになってしまいますが・・」

 ユキノの口から告げられた事態に、ジュンは少なからず動揺を募らせていた。

「ライトサイド、ジーザスには連絡を入れておきました。ターミナルも早急に修復を行っていますので・・」

「そうですか・・・分かりました。お世話になります・・・」

 ユキノから状況を聞かされたジュンは彼女の判断に従うことにした。

「ここでの時間を過ごしてみてはどうでしょう?アリカさんもニナさんも、あなたのことを快く迎えてくれているようですから。」

「そうですね・・それでは彼女たちのところへ・・あ、でも重要なことをしているかもしれませんから、そのときは邪魔しないために・・・」

 互いに笑顔を見せるユキノとジュン。ジュンはユキノに小さく一礼すると、ブリッジを後にしてクサナギの中へと戻っていった。

 

 ワルキューレ部隊を引き下げ、オーブ空域を離脱したアザトース。ワルキューレの整備が進められているその格納庫に、イオリとスミスは訪れていた。

「やれやれ。まさかオーブを完全に掌握する前に撤退する羽目に陥るとは・・」

「これでエレメンタルチャージャー搭載機が加わったら、こちらも手が出せなくなるな。」

 スミスの落胆の言葉に、イオリは不敵な笑みを浮かべて答える。

「MSの性能が向こうが上なら、こっちはそれを越える操作技術で攻める。」

「と、いいますと?」

 眉をひそめるスミスに対し、イオリは笑みを崩さずに告げる。

「スワンとフィーナ、トモエを呼び戻せ。あの3人のテクニックなら、十分対処が務まる。」

「あの3人を、ですか?確かに彼女たちなら、また退屈しない戦闘になりますね。」

「フィーナ・サウザンズ、スワン、トモエ・マルグリッドに通達。アザトースに帰艦しろ、とな。」

 イオリの指示を受けて、スミスが行動を起こす。カオスサイドの本格的な侵攻が、今まさに開始されようとしていた。

 

 

次回予告

 

「僕のことはマシロでいいよ。」

「そんなに強敵なの、そのオーブの機体は?」

「あぁぁ、何だか気まずくなってきちゃったよ・・・」

「もう、どうしたらいいんだー!」

 

次回・「乙女の災難」

 

 

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