GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-02「純白の戦士」
オーブ市街に強襲を仕掛けてきた黒い機体、ワルキューレたちの前に、白い機体、アテナが姿を現した。
「あの機体・・アテナ・・・!?」
アテナの姿を目の当たりにしたニナが驚きを募らせる。アテナを敵と見なして、ワルキューレたちが飛びかかっていく。
「な、な、な・・何がどうなってるんだ!?・・いきなりこれが動き出して、外に飛び出して・・・」
その頃、アテナに乗っていたジュンが、この事態に慌てふためいていた。スイッチを入れた途端に機体が動き出し、外に飛び出してしまったのだ。
慌てふためいている彼の乗る機体に、黒い機体たちが向かってきた。
「ま、まずい・・こっちに向かってきた・・・こうなったら!」
ジュンは不本意ながらも、ワルキューレたちを迎え撃とうとする。だが敵が眼前に迫ってくると、一気に恐怖を覚える。
「う、うわっ!」
たまらず叫ぶジュンが、無意識にアテナを動かす。ワルキューレが突き出してきたポールアクスを、アテナが身をかがめて回避する。
「よけられた・・こうなったら!」
ジュンは感覚に頼る形でアテナを動かし、接近していたワルキューレを突き飛ばす。ワルキューレは後退して、背後の建物に倒れ込む。
反撃に転じたことに安堵の笑みをこぼすジュン。そんな彼の乗るアテナに、さらにワルキューレたちが向かってくる。
アテナがさらに身を翻して攻撃をかわし、腕と足を振りかざしてワルキューレたちを突き飛ばしていく。
「すごい・・あの機体を圧倒してる・・」
その戦いを眼にしたニナがたまらず呟いていた。だがすぐに我に返り、アリカに呼びかける。
「アリカ、今のうちにユキノさんに連絡して!そして市民の避難と救助を行うわ!」
「分かったよ、ニナちゃん!」
ニナの呼びかけにアリカが答える。2人はさらに街に猛威を振るうワルキューレたちの前に立ちはだかった。
アテナとワルキューレの交戦を見据えるイオリ。ワルキューレに負けていないアテナを眼にしながらも、イオリは不敵な笑みを崩していなかった。
「さすがオーブの新兵器というべきか。ワルキューレたちと渡り合ってるみたいだ。」
イオリがスミスに言いかけながら、アテナの戦いを見据える。
「だがワルキューレたちの力を甘く見ないことだな。かつてダークサイドが持っていた科学力とデータを参照にして、ワルキューレが誕生したのだからな。」
「しばらく様子を見ましょう。なに、あの機敏な機動力に驚いているだけ。すぐに巻き返すでしょう。」
イオリに続いてスミスも淡々と告げる。その言葉を受け入れて、イオリは観戦を続けることにした。
アテナを駆り、ワルキューレたちの攻撃を跳ね返したジュン。機体の性能に彼自身驚いていた。
そんな彼の乗るアテナのコックピットに、ひとつの通信が飛び込んできた。
“そこのMSに搭乗しているパイロット、応答しなさい!”
その通信にジュンが再び慌てふためく。彼は気持ちを落ち着けようとしながら、通信回線を開く。
「は、はい、聞こえています・・」
“ん?・・軍の人間の口調じゃない・・・?”
ジュンが答えると、通信の相手が疑問の声を投げかけてくる。ジュンはどう言いかけたらいいのか分からず、言葉を詰まらせる。
“まぁいいわ・・まず名前と所属を。”
「え、えっと・・僕はジュ・・いや、マシロです。マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームです。」
“えっ!?マシロ様!?・・・な、なぜ・・!?”
ジュンが名乗ると相手が驚愕の声を返してくる。その反応にジュンも当惑する。
“詳しい話は後で聞きます。マシロ様、ここは私たちに任せて、下がっていてください。”
「で、ですが・・」
“女王であるあなたをみすみす戦闘に参加させるわけにはいきません。どうか退却を・・”
通信相手の呼びかけに困惑するジュン。ここは列記とした軍人に任せるべきなのだが、辛い思いをしている人々に背を向けることもできない。
そこへワルキューレが飛びかかり、ジュンの乗るアテナを突き飛ばした。その衝撃でジュンが苦悶の表情を浮かべる。
このままでは相手が自分の退避を見逃してくれるはずもない。不本意ながら、ジュンはワルキューレと戦うことを決意する。
「すみません!このまま街の人たちを見過ごすことができません!」
“ですがマシロ様、それではあなたが・・・!”
「ここは僕が食い止めます!その間に人々を!」
通信相手の声を振り切って、ジュンがアテナを駆る。ワルキューレが振り下ろしてきたポールアクスをかわし、アテナがワルキューレに殴りかかる。
アテナの交戦を見据えて、ニナはそのパイロットの言葉を受け入れることを決めた。
「アリカ、ユキノさんに連絡!私は人々の避難をするから!」
「分かったよ、ニナちゃん!」
ニナの指示を受けて、アリカが頷き、通信回線を開いた。
「クサナギ、応答して!私はオーブ軍、アリカ・ユメミヤです!」
市街で巻き起こった襲撃。それはユキノの耳にも届いていた。彼女はオーブ軍旗艦「クサナギ」に搭乗していた。
ユキノは作戦室に赴き、状況を確認しようとしていた。そこには新しくオーブ軍の通信士に加わったイリーナ・ウッズが控えていた。
イリーナはアリカ、ニナの共通の友人である。ライトサイドとダークサイドの戦いの最中、オーブ所属の別部隊でオペレーターをしていたが、ユキノの召集を受けてこのクサナギに乗艦することとなった。
「ユキノさん、街の被害は拡大の一途ですよ!」
イリーナが緊迫の面持ちで状況を報告するが、ユキノは落ち着きを払っていた。
「市民の避難と救助を急いで!これ以上被害を広げるわけにはいきません!」
ユキノはイリーナに指示を与え、モニターに映し出されているワルキューレたちに眼を向ける。
「襲撃者の数と戦力は?」
「黒のMSが5機。ザクを超えた性能を備えています。」
「アリカさんとニナさんは?」
「2人とも連絡が・・待ってください!・・アリカちゃんからです!」
イリーナの言葉を受けて、ユキノが通信に耳を傾ける。通信モニターにアリカの顔が映し出される。
「アリカさん、そちらは何を・・!?」
“あっ!ユキノさん!・・よかった、つながったよ・・私とニナちゃんは今、黒い機体と交戦しつつ、街の人たちの救助と避難を行っています。”
アリカが安堵を見せると、ユキノに状況を報告する。
“それで、現在その機体を、アテナが食い止めています・・”
「アテナが!?・・・誰が動かしているのですか・・・!?」
“はい・・ニナちゃんが言うには、マシロ女王だと・・・”
困惑気味に言いかけるアリカの言葉に、ユキノは言葉を返せなくなる。
(そんな・・オーブの新兵器、アテナ・・それに、よりによってジュンくんが・・・!?)
ユキノはアテナに搭乗しているジュンが気がかりになり、動揺を感じずにはいられなかった。
ジュンは今は亡きライトサイドの女王、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームの替え玉である。人々の不安を解消するため、容姿や雰囲気が極力近かったジュンを招集し、マシロに仕立て上げたのである。
そのことを知っているのはライトサイド、そしてユキノを含めたオーブのそれぞれの上位の人間だけである。
「アリカさん、マシロ女王を援護して。ニナさんにもそう伝えてください。」
“はい、分かりました!”
ユキノの指示を受けて、アリカが答える。
「マシロ女王に、こちらに帰艦するように伝えてください。女王に戦いをさせるわけにはいきませんから・・」
“了解”
続けて送られたユキノからの指示に答え、アリカは通信を終える。再びアテナとワルキューレの戦いに眼を向けたユキノが、深刻な面持ちを浮かべる。
(ジュンくんに、こんな危険なことをさせるわけにはいかない・・必ず呼び戻さないと・・・)
街を進撃するワルキューレたちに立ち向かうジュンのアテナ。アテナの機敏な動きに翻弄されていたワルキューレだったが、ジュンにとって不慣れな操作によるその動きに徐々に慣れていき、反撃に転じ始めていた。
ワルキューレの振るうポールアクスの一閃が、アテナにかすかな傷を与えていく。劣勢に立たされたジュンに次第に焦りの色が浮かび上がってくる。
(どうしよう・・このままじゃやられてしまう・・一気に盛り返されてしまった・・・)
追い込まれたジュンが思考を巡らし、打開の糸口を必死に探る。しかしアテナの性能を把握し切れていないため、それは困難を極めていた。
そこへアリカの乗るザクが飛びかかり、斧を振りかざしてワルキューレの行く手を阻む。
「えっ・・・?」
「マシロ女王、ここは私に任せて、クサナギに戻ってください!ユキノさんたちが待ってます!」
当惑するジュンに、アリカが呼びかける。
「だけど、それじゃ君が・・・!」
「私ならもう少しくらいなら耐えられます!その間に早く!」
アリカの必死の呼びかけに押されて、ジュンは渋々その呼びかけを受け入れることにした。ワルキューレたちの前から離れ、アテナが戦線から撤退する。
「さて、私はそう簡単にはやられないからね!」
アリカがワルキューレたちを見据えて、力を振り絞ることを覚悟した。
アリカの指示を受けて、一時的に撤退しようとしていたジュン。彼の操縦するアテナに、アリカからの報告を受けたクサナギからの信号が送られてきていた。
ジュンはその信号を頼りに、クサナギに向かっていく。するとクサナギのゲートのハッチが開くのが眼に留まる。
(もしかして、あそこに入れってこと・・・)
ジュンはそう判断して、ハッチに向かう。ゲートに着艦したアテナの前に、ユキノとイリーナが駆け寄ってきた。
「マシロ様、大丈夫ですか!?・・パネル中央右手のスイッチを押して電源を切ってください!」
イリーナがアテナのコックピットにいるジュンに指示を送る。ジュンは言われたとおりにそのスイッチを押すと、アテナの起動電源が切れ、その鼓動が止まる。
そしてイリーナの操作によって、アテナのコックピットのハッチが開く。するとマシロに扮したジュンがアテナから出て、ユキノとイリーナの前に姿を見せる。
「マシロ様・・ホントにマシロ女王だ・・・」
イリーナがマシロの姿に動揺を見せる。困惑しているジュンを前にして、ユキノは冷静になって言葉をかける。
「イリーナさん、あなたは持ち場に戻ってください。私はマシロ様に話があります。」
「ユキノさん・・・分かりました。」
ユキノの指示を受けて、イリーナがこの場を離れる。取り残されたジュンとユキノが互いに眼を向けていた。
「まさかあなたがアテナに乗っていたとは・・・」
「はじめは不慮の出来事で、不本意で機体を外に出してしまいました・・ですが、街や人たちの姿を見たら、放っておけなくなってしまったんです・・」
ジュンがこれまでの経緯をユキノに説明した。事情を知ったユキノが深刻な面持ちを見せる。
「ジュンくん・・いいえ、マシロさん、あまり自分を危険にさらしてはいけません。あなたはライトサイドの姫なんですよ・・・」
「ですが・・」
「あなたはライトサイド、いいえ、世界の平和を象徴する姫であり、あなたの命はあなた自身のものではありません。そのことは前に私とミドリさんが説明したではないですか・・」
ユキノがジュンに叱責し、ライトサイドの党首としての責任を痛感させる。彼のたったひとつの過ちで、世界全土が混乱に満ちることにもなりかねないのだ。
その責任を重く痛感したジュン。そんな彼の眼に、ワルキューレを食い止めている2体のザクの姿が飛び込んでくる。
こうしている間にもアリカとニナは追い詰められ、人々が傷ついていく。揺らいでいたジュンの気持ちは次第に固まっていった。
「ユキノさんの気持ちも、僕の責任の重さも分かります・・ですが僕は、この事態を放ってはおけない!街の中で傷ついている人を見捨てることはできません!」
「ジュンくん・・・ですが、それではもしあなたに何かがあれば・・・」
「もし今行かなかったら、僕はこれからこの後悔を背負っていくことになると思います・・ですから・・・!」
ユキノが呼びかけても、ジュンの決意は変わらなかった。ユキノは観念し、彼の意向を受け入れた。
「・・・分かりました。ですがアテナはオーブのMS。それに乗る以上、私たちの指示を最優先にしてください。」
「ユキノさん・・・分かりました。サポートお願いします!」
ユキノの言葉を受けて、ジュンが真剣な面持ちで頷く。そのとき、アテナのコックピットにいた銀の猫が、ジュンの肩に飛び乗ってきた。
「この子を頼みます。この子まで戦場の真ん中に連れて行くわけにはいきませんから・・」
ジュンは猫をユキノに託し、アテナに乗り込む。彼の意思を汲んで、ユキノは作戦室に戻っているイリーナに呼びかけた。
「イリーナさん、アテナの出撃準備です!」
“了解!・・って、誰がアテナに?”
「いいから!・・お願いします!」
イリーナの戸惑いを押し切って、ユキノが呼びかける。その意思を受けて、イリーナはアテナの発進準備を行う。
“カタパルト接続。ハッチ開放。針路クリア。システム、オールグリーン・・”
イリーナの声に流れるように、クサナギのゲートのハッチが再び開かれる。それによって、ジュンがだんだんと緊迫を募らせる。
“気をつけてください。アリカさんとニナさんのサポートを受けるよう、お願いします。”
「分かりました・・努力します・・・」
ユキノの呼びかけに、ジュンは緊迫を募らせながら答える。それでも彼の決意は揺らいでいなかった。
やがてゲートのシグナルが赤から青に点灯し、機体の発射を促す。
“アテナ、発進どうぞ!”
「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、アテナ、いきます!」
イリーナの指示を受けて、ジュンがアテナにアクセルをかける。前進した白い機体が飛翔し、ブースターを噴かせて飛翔する。
“マシロ女王、アテナの初期武装はビームライフル、ビームサーベル、ビームシールドの3つです。ですがアテナはそれ以外の武装の多くを使用することが可能です。”
「ユキノさん・・・はい!サポート、お願いします!」
ユキノの説明を受けて、ジュンはアテナの性能をさらに把握する。
(何とかしてみせる・・誰だか分からないけど、これ以上みんなを傷つけさせはしない・・・!)
一抹の決意を胸に秘めて、ジュンは戦場に赴く。彼の意思を受けたアテナが再び、アリカとニナを追い詰めていたワルキューレたちに向かっていった。
次回予告
「僕が相手をするから、今のうちに退却を!」
「アテナの動きが、だんだんとよくなってきているな。」
「長距離砲撃武装、ビームバズーカ・・」
「これを使って、一気に撃ち抜いてやる!」