GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-01「偽りの姫君」
星光面(ライトサイド)と暗黒面(ダークサイド)の長きに渡る戦いが終幕し、人々は安泰に向けて力を注いでいた。
だがライトサイドは当主、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームの不在に不安を募らせていた。
終戦から1年がたとうとしていた頃、戦いの中で死亡したはずのマシロが人々の前に姿を現した。
彼女の登場に人々は歓喜や不安など、いろいろな様子を呈していた。
そして、新たな運命が始まろうとしていた・・・
ダークサイドとの光と闇の戦いに終止符を打ったライトサイドとオーブ。終戦後、ライトサイドは中立を理念としているオーブとの協定を結び、世界の安定と平和の維持を目的に全力を尽くしていた。
そんな安息の日々の中、再びライトサイドとオーブ、2国の党首が会合を果たそうとしていた。
オーブの新しい代表となったユキノ・ジェラードは、その時間に向けて思いを巡らせていた。戦いと錯綜の中で命を散らした彼女の親友、ハルカ・アーミテージと、前代表、シズル・ヴィオーラの遺志を継ぎ、ユキノは新しい一歩を踏み出そうとしていた。
(ハルカちゃん・・私も、ハルカちゃんみたいに頑張れるよね・・・)
ハルカへの思いを胸に抱き、ユキノは歩き出した。
オーブ中央市街。平和を象徴するかのように、今日も街はにぎわいを見せていた。
その街中に繰り出していた2人の少女がいた。
1人は明るく元気に振舞っており、1人は落ち着きのある様子を見せていた。アリカ・ユメミヤとニナ・ウォンである。
アリカとニナはオーブ軍のMSパイロットであり、光と闇の戦いの終結の立役者でもある。終戦後も平和へ尽力を注ぐため、軍のパイロットとして活躍していた。
束の間の休暇の時間を有意義に過ごすため、アリカはニナを連れて街に出ていた。半ば強引に引っ張り出されたニナは、少し不機嫌な様子を見せていた。
「貴重な休みだっていうのに、人を無理矢理連れ出して・・」
「いいんだよ♪休みの日は元気に外に出るのが1番だよ♪」
不満を口にするニナに、アリカが満面の笑みを浮かべて答える。2人は街の中央広場に行き着き、そこでアリカが大きく深呼吸をする。
「やっぱり平和の空気っていうのは気持ちがいいよねー♪」
「相変わらずのん気ね、アリカ。あなたが気分がよくても、私は気乗りしないわよ。」
笑顔を見せるアリカに対し、ニナがため息をつく。
「こんな場所、エルスちゃんと一緒に行きたかったな・・・」
突然アリカが物悲しい笑みを浮かべる。彼女の心境に、ニナも戸惑いを覚える。
かつてオーブ軍のパイロットして前線に出ていた少女、エルスティン・ホー。エルスティンはアリカ、ニナの親友でもあり、互いに心を打ち明けあった仲でもあった。しかしダークサイドとの戦いの中で、彼女は命を落としてしまった。
かけがえのない親友の死を思い返して、アリカもニナも悲痛さを浮かべていた。だがここで悲しむのはエルスティンのためにならないと思い、アリカは再び笑顔を見せた。
「頑張ろう、ニナちゃん。エルスちゃんの分までしっかり生きて、世界を笑顔でいっぱいにしようね。」
「そうね・・エルスも、それを望んでるから・・」
アリカの言葉を受けて、ニナも微笑んで頷いた。
そのとき、どこからか1匹の猫が駆け込み、アリカの肩に乗っかってきた。その銀色の体の猫に、アリカとニナが呆然となる。
そして1人の少年が、慌しく駆け込んできた。
「あ、待ってよー!」
少年はアリカの前で立ち止まり、息を絶え絶えにしながら呼吸を整えようとしていた。
「よかった・・いきなり走り出しちゃったから・・・ありがとう、君・・」
「この子、君の猫なんだね。銀色の猫ちゃんなんて、何かすごいなぁ。」
作り笑顔を見せる少年。アリカが銀の猫を見つめて笑顔を見せる。
「そうね。銀色は確かに珍しいわね。」
ニナも猫と少年を眼にして微笑みかける。アリカが少年に向けて手を差し伸べた。
「私、アリカ・ユメミヤ。あなたは?」
「僕?僕はマ・・ううん、ジュン。ジュン・セイヤーズ。」
互いに自己紹介をするアリカと少年、ジュン。ジュンは半ば言い直したようだったが、アリカは気にしていないようだった。
「ジュンくんか・・ジュンくん、また会えたらいいね。」
笑顔を見せるアリカに、ジュンも照れ笑いを浮かべていた。そしてジュンはアリカが差し出した手を取って、握手を交わした。
「それじゃ僕はそろそろ行くよ。」
ジュンはそういうと、アリカの肩に乗っていた猫を自分に呼び寄せて、この場を離れていった。
アリカが大きく手を振ってジュンを見送った。そしてアリカはニナに振り返り、言いかける。
「あの子、何だか素直そうでよかったよね。でもちょっと大人しそうだったかな・・」
「あなたがはしゃぎすぎてるだけでしょ。私も大人しそうとは思うけど・・」
「もう、ニナちゃんってばー・・」
ニナに言いかけられて、アリカが気落ちする。アリカらしさを目の当たりにして、ニナは微笑んだ。
アリカ、ニナと別れたジュンは、人の眼の届かない裏路地に入った。そこで彼は改めて周囲に人がいないかどうかを確かめてから、安堵の吐息をついた。
「さて、そろそろ戻らないと。気が進まないけど、みんなに心配かけるわけにもいかないし・・」
ジュンは不安を口にしながら、手にしていたバックを開ける。そこから彼が取り出したのは、衣装とかつらだった。
だがその衣装もかつらも、明らかに女性のものだった。衣装は高貴な正装で、かつらは腰元まである長さの水色のものだった。
ジュンはもう1度周囲に人がいないのを確かめてから、その衣装とかつらを身に付ける。その容姿はまさに一国の女王そのものだった。
「ふぅ。女王になるのも苦労が耐えないよ・・」
ため息をつくジュンに、銀色の猫は無関心であるかのように気のない振る舞いを見せていた。
そのとき、近くで突如爆発と轟音が巻き起こり、ジュンが緊迫を覚える。
「な、何だ・・・!?」
ジュンが驚愕し、裏路地から飛び出した。彼の眼に飛び込んできたのは、煙を上げている街と黒い機体たちだった。
突然の街の爆発と炎上に、アリカもニナも気づいた。
「何!?あの黒い機体・・・!?」
「敵襲!?・・カオスサイドは事実上沈黙したはず・・・!」
アリカとニナが黒い機体を目の当たりにして、驚愕の声を上げる。
「もしかして、新しい敵・・・!?」
「とにかく戻らないと・・アリカ、急ぐわよ!」
動揺の色を隠せないでいるアリカに、ニナが真剣な面持ちで呼びかける。アリカも気持ちを落ち着けて、ニナとともに駆け出した。
だが、黒い機体の1機が飛び込み、2人の前に降り立つ。2人はたまらず足を止めて、眼前の機体を目の当たりにして再び驚愕する。
「ま、まずいよ、ニナちゃん・・・!」
アリカが慌てた様子を見せて後ずさりする。機体は2人を見下ろして、一歩足を前に踏み出す。
「確か、近くにMS(モビルスーツ)の格納庫があったはずよ。通常レベルしか置いてないけど、今はそれに頼るしかないわね。」
ニナの言葉にアリカが頷く。2人は黒い機体見据えながら、格納庫に向かって走り出す。
黒い機体たちはビームライフル、ビームサーベルを駆使して市街を蹂躙していく。その戦火をかいくぐって、アリカとニナはついに格納庫にたどり着いた。
「アリカは使える機体の発信準備をさせて!私はユキノさんに連絡を入れるわ!」
「分かったよ、ニナちゃん!」
アリカに指示を送って、ニナは管制塔に向かう。その途中、彼女は退避してきた整備士と遭遇する。
「オーブ議事堂への連絡をお願いします!私、オーブ軍所属、ニナ・ウォンです!」
「オーブ軍・・はい、ただ今、ユキノ様へ連絡を・・・!」
ニナに呼びかけられた整備士が答えようとしたとき、彼女の視線の先の管制塔に、黒い機体が放った砲撃が直撃した。この格納庫の連絡の拠点である管制塔が破壊され、ニナはユキノへの連絡の術を失った。
「管制塔が・・・これじゃ、ユキノさんに・・・」
整備士とともに退避を試みようとしながら、ニナが毒づく。そこへアリカがニナに声をかけてきた。
「ニナちゃん、ザクウォーリアの使用許可が出たよ!」
「アリカ・・それで何とか食い止めるしかないわね・・!」
アリカからの声を受けて、ニナが毒づきながら頷く。2人は格納庫に向かい、そこに待機しているMS、ザクウォーリアにそれぞれ搭乗する。
緑をメインカラーとした機体が黒い機体と対峙する。
「ザク動かすの、苦手なんだよねぇ。」
「こんなときに文句を言わないの。」
不満を口にするアリカにニナが言いかける。そして2人は真剣な面持ちとなり、黒い機体に向かっていった。
その頃、ジュンは混乱する街の中を駆け抜け、議事堂に向かっていた。だが黒い機体たちの攻撃によって、戦火は広がりつつあった。
(こんなところにいたら、確実に死んでしまう!何とか逃げ延びないと・・!)
必死の思いで道を突き進んでいくジュン。そのとき、連れていた猫が突然道の脇にそれ、ジュンが足を止める。
「ち、ちょっと!」
ジュンが猫を追って、道から外れる。死と隣り合わせという不快感を募らせて、彼と猫は武装が収められている格納庫の裏口に行き着いていた。
その中の建物に入り、地下に続く階段を下りる。暗い道を進んでいくうちに、ジュンは猫を見失う。
「もう、こんなときにどこ行っちゃったんだよ・・」
ジュンが不安を口にしながら、見えない周囲を見回す。やがて夜目が利くようになり、彼は何とか通路のつくりを把握する。
そして彼は道の先の薄明かりに気付く。その明かりを目指して進むと、彼は大きな部屋に行き着いていた。
その部屋の中にあるものに、ジュンは驚きを覚える。そこには大きくそびえ立つ白い気体の姿があった。
「これって・・MS・・!?」
ジュンは呟きかけながら、その機体に近づいていく。そこで彼は、その機体の横のエレベーターの上にいる猫を発見する。
「何だ、こんなところにいたのか・・どうしてここまで・・・」
ジュンが肩を落としながら、猫のいるエレベーターにゆっくりと近づく。猫が警戒して逃げ出さないように。
そのとき、外からの轟音が響き渡り、部屋も大きく揺れる。その拍子でジュンは体勢を崩され、彼が倒れこんだエレベーターが上に動き出した。
突然の事態に慌てふためくジュン。エレベーターが止まったところで、彼はエレベーターを下に下ろそうとする。
しかしどんなに上下ボタンを押してみても、エレベーターが下りない。
「動かない!?・・今の振動で、どこか壊れてしまったのか・・・!?」
焦りを募らせるジュン。さらに振動が巻き起こり、ジュンは揺さぶられ、猫とともに白い機体のコックピットに放り込まれる。
その彼の手がコックピット内のボタンに触れる。そして白い機体が機動を開始し、コックピット内に明かりが灯る。
「これは・・・!?」
動き出した機体に、ジュンは動揺を浮かべていた。
オーブ市街を守るためにザクに搭乗し、黒い機体たちに挑みかかるアリカとニナ。だが黒い機体の戦闘能力はザクを上回っており、アリカもニナも太刀打ちできないでいた。
「くっ!やっぱりザクでは力不足か・・・!」
ニナが毒づきながら、打開の策を必死に模索する。しかし黒い機体の猛攻に、彼女もアリカも劣勢を強いられていた。
「どうしよう、ニナちゃん!?このままじゃもたないよ・・!」
「あなたも考えなさい!せめて、他の部隊の救援が来るまで・・!」
アリカの声に対して、ニナが声を荒げる。ニナの駆るザクがアックスを引き抜き、黒い機体が振りかざしてきたポールアクスを受け止める。
何とかその一閃を弾き返すことができたザク。だが黒い機体の追撃に、そのアックスが叩き折られてしまう。
「そんな・・!?」
声を荒げるニナのザクが、攻撃を受けた衝撃で倒れる。起き上がろうとした機体に、黒い機体がポールアクスの切っ先を向ける。
「ニナちゃん!」
アリカがニナを助けようとするが、別の機体に行く手を阻まれる。ポールアクスを振り上げる機体を前に、ニナは覚悟を決める。
だが黒い機体たちがニナへの攻撃を止める。同時にニナとアリカの乗るザクのレーダーが新たなエネルギーを感知する。
黒い機体たちがエネルギーが発せられているほうに振り返っていた。ザクを立ち上がらせたニナもその方向に眼を向ける。
その先は格納庫の奥だった。その地下から白い光が飛び出してきた。
白をメインカラーとしたボディ。機敏さを思わせる容姿。
まるで天使か希望の光を思わせるような神々しさすら感じさせていた。
「あれは・・・!?」
格納庫から現れた機体に、ニナが驚きの声を上げる。それはオーブが新たに開発したMS「アテナ」だった。
オーブのはるか上空に浮遊する1隻の戦艦。その中でオーブ市街の侵攻をモニター越しに見つめている1人の男がいた。
少しはねた黒髪、少年の容姿をしているが、彼の顔には残忍な笑みが浮かび上がっていた。
イオリ・パルス・アルタイ。かつてダークサイドのアルタイ王国の王子だったナギ・ダイ・アルタイの弟であり、オーブに進撃している黒い機体を指揮する者でもある。
「何だ、あの機体は?・・オーブの新しいMSか・・・」
モニターに映し出されている白い機体を眼にして、イオリが眉をひそめる。そんな彼の前に、薄い金色の髪をした男がやってきた。
ジョン・スミス。イオリの部下であり、査察の任務も請け負っているエージェントである。
「あの白い機体・・ようやく姿を現したようですね。」
「知っているのか、スミス?」
笑みをこぼして言いかけるスミスに、イオリが眉をひそめて問いかける。
「私が調査したところによりますと、あれはオーブが秘密裏に開発していた最新型のMSです。性能や能力までは把握し切れていませんが、それなりに有力なものであることは確かです。」
「なるほど。だがこっちにはワルキューレがいる。どっちが優れているか確かめるのもいいだろう。」
スミスの説明を受けて、イオリが不敵な笑みを浮かべる。
「ワルキューレたちにあの機体を攻撃するよう伝えろ。ただし手の内が見えてこないからな。注意してやれ。」
「そう通達しておきましょう。」
イオリの命令を受けて、スミスが淡々と答えて一礼する。
「丁度いい機会だ。混沌軍(カオスサイド)の力、見せ付けてくれる・・・!」
カオスサイド党首、イオリが戦意をむき出しにして、モニターに映し出されている白い機体を見据えていた。
これが平和を切り裂く大戦争の幕開けだった。
次回予告
「すごい・・あの機体を圧倒してる・・」
「あなたはライトサイドの姫なんですよ・・・」
「街の中で傷ついている人を見捨てることはできません!」
「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、アテナ、いきます!」