GUNDAM WAR SD

-神魔の銃剣士-

第11章「裏切りの烙印」

 

 

 ライアンの死は監視をしていたズゴックナイトを通じて、ソウマやロア、メフィストたちにも伝わった。
「そうか・・ライアンが死んだか。」
 ズゴックナイトからの報告を聞いて、メフィストが呟く。
「ライアンはオーガの息子で、王者候補の筆頭。次に王者になる大きな障害が消えたことになる。」
「これでメフィスト様が王者になる可能性が高まりましたね。」
 喜びを感じていくメフィストに、ズゴックナイトが声をかける。
「だが私にはまだ強力な尖兵が必要なのも事実。」
「すると2人に、力を与えるのですか?」
「あぁ。これからの世界支配は、私だけではすぐに果たすことはできないからな。数は多い方がいい。ただし有力の数だが。」
「分かりました。この戦が終わり次第、あなたのところへ来るように、ソウマとロアに伝えておきます。」
 メフィストの言葉を受けて、ズゴックナイトが再び動き出した。
「ライアンを追いやったことには、オレも感謝しておこう。」
 そこへ1人の男が現れ、メフィストに声をかけてきた。
「クリム、お前も私の企みを知っていたのか?」
 メフィストが男、クリム・サザビーに警戒を示す。
「あぁ。だがそれを悪いとは思っていない。オレもライアンの存在が邪魔だと思っていたからな。」
「それでオレはソウマとロアに力を与え、私の直属の部下にしようとしている。」
「あの2人を・・ヤツらが反旗を翻さないように、目を光らせておかないとな。」
「そこは抜かりない。今のズゴックナイトの他にも、監視のために動いている部下がいる。」
 クリムとメフィストがソウマたちのことを考えて笑みをこぼす。メフィストはソウマたちに力を与える一方、反逆をさせないよう徹底的な監視を行っていた。
“報告します!リュウガは負傷していますが、まだ生き延びています!”
 そのとき、リュウガたちを監視していたズゴックナイトから、メフィストに向けて通信が届いた。
「しぶといものだ、暗黒の銃剣士・・だがソウマたちの襲撃もライアンの死も、我ら以外で目撃した者はいない・・」
「オレたちでソウマたちの襲撃をもみ消せるだけでなく、リュウガを陥れることも可能だ。」
「ヤツを陥れる?クリム、何を企んでいる?」
「今回のことを目撃した者はいない。我ら以外にはな・・」
 メフィストの問いに答えて、クリムが笑い声をあげた。

 力尽きたライアンを抱えて、リュウガはクラウドワールドを離れて暗黒城に向かっていた。
「戻ってきたぞ、ライアン・・お前の居場所に・・・」
 眠るライアンに目を向けて、リュウガが呟く。
(オレはあの2人を許しはしない・・オレの唯一の友であるお前を手に掛けた、ソウマとロアを・・・!)
 彼はソウマたちへの復讐を心に誓っていた。
「止まれ、リュウガ・デスティニーガンダム!」
 暗黒城の領土の前で、ザクナイトたちが立ち並んでいた。彼らがリュウガを呼び止めて、持っていた銃を構えた。
「何だ、お前たちは?何のマネだ?」
「リュウガ、ライアン様を殺した貴様を拘束、処罰する!」
 問いかけるリュウガにザクナイトが言い放つ。
「オレがライアンを殺した!?・・オレとライアンは、ソウマとロアの攻撃を受けた!ライアンを殺したのはヤツらだ!」
「ウソをつくな!貴様がライアン様を手に掛けたところを、目撃した者がいるのだ!」
 リュウガの反論をザクナイトが跳ね除けて、ズゴックナイトも姿を見せた。
「間違いなく見たぞ・・クラウドワールドでの戦いに紛れて、リュウガがライアン様に突然襲い掛かり、命を奪うところを・・!」
 ズゴックナイトがリュウガを指さして説明する。そのズゴックナイトはメフィストの部下で、ザクナイトたちに噓の証言をした。
「ウソを言うな!ライアンを殺したのはソウマとロアだ!」
「貴様、自分の過ちを棚に上げて、他の者に罪を擦り付けるとは!」
「まだ御託を並べ立てるか!偽りでオレを陥れるつもりか!?」
「偽りを口にしているのは貴様の方だろうが!」
 反論を続けるリュウガに、ズゴックナイトが怒鳴る。
「今のオレは怒りを抑えられない状態にある・・これ以上オレの感情を逆撫でするのであれば、容赦はしないぞ・・・!」
 リュウガは鋭く言って、背にしていた紅龍刃を手にした。
 そのとき、ザクナイトたちがリュウガの足元に向けて発砲した。
「ライアン様を放して、我々の指示に従え!さもなくば・・!」
「たとえライアン様のご遺体を傷つけることになろうとも、貴様を射殺する!」
 ザクナイトたちがリュウガに向けて警告をする。
「オレの言う真実よりも、そこの愚か者の偽りを信じるのか、お前たちも・・・!?」
 敵意を向けてくる彼らにも、リュウガが怒りを募らせていく。
「お前たち・・そこまでオレたちの敵に回りたいのか!」
 激高したリュウガが全身から赤いオーラを放出した。その衝撃と威圧感に、ザクナイトたちとズゴックナイトが緊張を覚えた。
「何という力だ・・これが、暗黒の銃剣士の真の力・・・!?」
「うろたえるな!いくら力が強くても、ヤツは暗黒の銃剣士の裏切り者だ!早く始末しろ!」
 ザクナイトたちがうろたえていたところへ、グフナイトたちが来て彼らに加勢する。
「撃て!銃で一斉攻撃だ!」
 グフナイトの号令で、ザクナイトたちがリュウガに向かって銃を撃った。しかし彼らの射撃はリュウガの発するオーラに弾かれる。
「何だと!?」
「我々の攻撃が全く通じないだと!?」
 ザクナイトたちとグフナイトたちがさらに驚愕する。
「オレの敵に回るというなら、暗黒の銃剣士全てがオレの敵だ!」
 リュウガが言い放ち、オーラを刀身に集束させた紅龍刃を振り下ろした。
「いかん!よけろ!」
 グフナイトが叫び、ザクナイトたちと共に回避する。
「うあぁっ!」
 ズゴックナイトがかわし切れず、紅龍刃から放たれた光の刃に切り裂かれた。
「お、おい!」
 グフナイトの1人が駆け寄り、ズゴックナイトを抱えて離れる。
「これが、紅蓮の銃剣士の真の力だというのか・・!?」
 グフナイトがリュウガの力を痛感して、緊張を膨らませていく。
「ついに本性を現したか、リュウガ・デスティニーガンダム。」
 メフィストがクリムと共に現れて、リュウガに声をかけてきた。
「メフィスト・シナンジュ・・クリム・サザビー・・お前たちが裏で企んでいたのか・・・!?」
 リュウガがメフィストたちに鋭い視線を向ける。
「ライアンは王者候補としての宿敵であるが、オーガ殿の息子である彼がこのような形で命を終えるのは心苦しい・・」
「リュウガ、貴様のこれ以上の傍若無人を許すわけにはいかない・・!」
 メフィストとクリムがリュウガに言い放つ。2人はライアンの死に対する怒りと悲しみを見せるよう装っていた。
「ライアンを死なせたのはソウマとロアだというのが分からないのか・・・!?」
 リュウガがメフィストたちにも憎悪を募らせていく。
「まだ偽りを口にするか・・皆の者、リュウガ・デスティニーガンダムを処刑せよ!」
 クリムがザクナイトたちに命令を下す。ザクナイトたちが銃を構えて、リュウガを狙う。
「ここまでオレたちを陥れようとするお前たちは、オレが全員倒す・・・!」
 メフィストとクリム、そして彼らの言葉の方を信じるザクナイトたちに対しても、リュウガは激しく怒りを燃やす。
「仕方がない・・我々も戦う必要があるな・・・」
 メフィストはため息をついて、銃剣「冥王魔刃(めいおうまじん)」を手にした。
「いいだろう。オレも本気で戦って、体をなまらせないようにしないと・・」
 クリムも言って、銃剣「クリムゾンファング」を構えた。
「メフィスト様とクリム様が戦う・・!」
「あの2人の戦いを見られるとは・・・!」
 ザクナイトたちがメフィストたちの戦いに心を動かされていく。
「魔刃冥王斬(まじんめいおうざん)!」
 メフィストが冥王魔刃を振り下ろして、赤い光の刃を飛ばす。
「紅蓮紅龍斬!」
 リュウガが紅龍刃を振りかざして、光の刃を出してメフィストの刃とぶつけ合う。2つの刃は互角で拮抗していた。
「メフィストと互角とはさすがだ。だがお前には勝ち目も、生き残ることもできん!」
 クリムが頷いてから、クリムゾンファングを振り上げてエネルギーを集める。
「クリムゾンブレイク!」
 彼が前に出したクリムゾンファングから複数の赤い光の刃が伸びた。2人の刃によって、リュウガが押されていく。
「いくら紅蓮の銃剣士でも、メフィスト様とクリム様を同時に相手にすることなど笑止千万!」
「これに我々が加勢すれば、早く処刑が済む!」
 ザクナイトたちもリュウガに向かって発砲した。
「ぐっ!」
 腕と足にビームがかすり、リュウガが顔を歪める。
(ここで倒れるわけにいかない・・オレがやられたら、ライアンの死が、ソウマたちとメフィストたちに利用されることになる・・・!)
 リュウガが攻撃に耐えながら、後ろで横たわるライアンのことを気に掛ける。
(それだけは決して許してはならない・・オレはヤツらに復讐し、滅ぼす・・!)
 怒りを募らせるリュウガから出ている赤いオーラが強まっていく。彼の背中から赤い光の翼が炎のように広がった。
「その姿は・・!?」
「リュウガのヤツ、まだこんな力があったのか・・!?」
 クリムとメフィストがリュウガを見て驚愕を覚える。
(力を制御できない・・ヤツらを全員倒すまでには至らない・・今は離れるしかない・・・!)
 今の力を思うように扱えないリュウガは、メフィストたちの攻撃を止めたまま、ライアンを抱えてこの場を離れた。
「あっ!待て!」
 グフナイトが追撃のビームを放つが、リュウガはライアンを抱えて走り去った。
「逃げられた・・何という底力だ・・・!」
「申し訳ありません、メフィスト様、クリム様・・リュウガを取り逃がしました・・・!」
 ザクナイトが毒づき、グフナイトがメフィストたちに頭を下げる。
「気にするな。私たちとて驚かされたからな。」
「リュウガ・・ここまでの力の持ち主だとは・・しかもヤツを始末できず、危険な獣を野に放すようなマネをしてしまった・・・!」
 メフィストが言い返し、クリムが危機感を覚える。
「その心配は無用だ。リュウガ打倒のために、ソウマとロアに力を与える。」
「あの2人を迎え入れるというのか?」
「今は有力な部下が多くほしいところだからな。2人が力を欲している以上、オレたちに逆らおうとはしない。」
「いいだろう。だが寝首をかかれないようにすることだな。」
 ソウマたちのことを言うメフィストに、クリムが言い返す。
「生存者を確認し、陣形を整えろ!」
「はっ!」
 メフィストが命令して、ザクナイトが答えた。ザクナイトたちが人数確認をして、体勢を整えていった。

 ライアンを抱えて、リュウガは人気のない荒野で足を止めた。力を大きく消耗した彼は、ライアンを下ろした直後に地面に膝と手を付いた。
「ライアン・・すまない・・おかしなことになってしまった・・・」
 リュウガがライアンを見つめて、謝罪を口にする。
「お前を父親のところに連れていけない・・暗黒の銃剣士がオレの敵に回り、暗黒城に戻れなくなった・・ヤツらのところに、お前を預けるわけにいかない・・・」
 ライアンをメフィストたちのところに連れていけないと考えるリュウガ。
「父親のところに送れない・・1人にさせてしまう・・それはお前には悪いことをしていると思う・・・」
 リュウガはライアンに言うと、紅龍神を振りかざして、近くの岩場の地面を切り裂いた。
「お前はきっと望まないだろう・・だが、オレはヤツらを許せない・・お前をこんな目にあわせたばかりか、オレたちを陥れたヤツらを・・・!」
 地面に開けた穴にライアンを入れて、リュウガは土をかけて埋めた。
「さっき、オレの中にある新たな力が目覚めたように思える・・だがオレはまだその力を使いこなせていない・・・」
 ライアンを埋葬したリュウガは、メフィストたちと交戦した際に発動させた力を思い出す。
「あれを使いこなせれば、ソウマとロアに復讐できる・・オレを陥れたメフィストたちにも・・・!」
 その力を使いこなしてさらなる強化を果たそうとするリュウガ。彼は復讐を心に誓い、そのための特訓のために1人歩き出した。

 クラウドワールドへの攻撃が完了した暗黒の銃剣士。ソウマとロアはメフィストに呼ばれ、その場にはクリムも立ち会っていた。
「よくやったぞ、ソウマ、ロア。リュウガは仕留め損なったが、ライアンは倒れ、我々にとって有利となった。」
「ありがとうございます、メフィスト様。」
 称賛を送るメフィストに、ロアが感謝する。
「我々はこれから、本格的な侵略を行うことになる。そのためにも強力な銃剣士が大勢必要になる。」
 メフィストがこれからのことを話して、ロアが息を呑む。
「そこで、お前たちに秘められた力を、今ここで引き出す。」
「メフィスト様・・・!」
 メフィストから力を与えられると思い、ソウマが戸惑いを浮かべる。
「私が強化のための秘術を掛ける。だがそれはきっかけに過ぎん。それでどこまで強化を果たせるかは、お前たち次第だ。」
「メフィスト様のご期待に応えてみせます。その秘術、是非お願いします・・!」
 メフィストから励まされて、ロアが懇願する。
「いいだろう。お前たちの底力、我々に見せてみろ・・・!」
 メフィストが頷いて、ソウマとロアの肩に手を乗せた。
「暗黒に住まう覇王よ、この2人の秘められし力を解放せよ・・暗黒大解放!」
 メフィストが呪文を唱え、ソウマとロアに思念を送った。次の瞬間、2人の体からそれぞれ青と赤の光があふれ出し、渦のように蠢いた。
「これが、オレたちの隠された力・・・!」
「すごい・・自分でも抑えられない・・・!」
 ロアとソウマが高まる力に驚きを感じていく。
「これがこの2人の潜在能力・・これほどまでとは・・・!」
 クリムがソウマたちの強化に脅威を覚える。
「いや、それだけではない・・これは、進化だ・・・!」
 メフィストがソウマとロアの変化を目の当たりにして答える。力だけでなく、2人の体にも変化が生じていた。
 あふれていた光がソウマたちの体に集束された。2人の変化した姿が明確になった。
「これって・・・!?」
「今までにない力を感じる・・それに伴ってか、体にも変化が起こったようだ・・・!」
 ソウマとロアが自分たちの変化に戸惑いを覚える。
「私も初めて見るケースだ。この秘術で進化を果たすとは・・」
「あぁ・・以前と似ているようで別人のような姿と言ってもいいだろうな。」
 メフィストが言いかけて、クリムが頷く。
「今のお前たちは以前のお前たちではない。今からお前たちはソウマ・ストライクフリーダムガンダム、ロア・インフィニットジャスティスガンダムと名乗るがいい。」
 メフィストがソウマとロアに新たな名を与えた。
「ストライクフリーダムガンダム・・・ありがとうございます、メフィスト様!」
「これからもメフィスト様とクリム様、暗黒の銃剣士のために勝ち続けていきます。」
 ソウマが感動して、ロアがメフィストたちに感謝した。
「これだけの力なら、あのリュウガ・デスティニーガンダムにも負けないよね・・・!」
「それを証明するために、実際にヤツを倒さなければならない。それがオレたちの大きな目的となるだろう。」
 ソウマが自信と歓喜を振りまいて、ロアがリュウガ打倒を考える。
「リュウガという強敵を野放しにしてしまったが、直後に強力な狩人も現れた。」
「これから先のオレたちの制圧が、勢いを増して進むということだな。」
 メフィストとクリムが野心を大きくして、笑みをこぼす。
「ここから一気に世界を支配するぞ。そして私がお前のどちらかが次の王者となる。」
「どちらにしても、暗黒の銃剣士の大きな躍進は確実だ。」
 2人が世界支配を確信して、空を見上げた。

 ライアンを殺され、暗黒の銃剣士全体から裏切り者と見なされたリュウガ。
 彼らを出し抜いて力を解放し、進化も果たしたソウマとロア。
 リュウガの復讐とソウマたちの野心の戦いが、こうして始まった。

 

 

第12章へ

 

作品集に戻る

 

TOPに戻る

inserted by FC2 system