GUNDAM WAR SD

-神魔の銃剣士-

第12章「進化の修練」

 

 

 リュウガから暗黒の銃剣士の一員だった頃のことを聞いて、マーズは当惑していた。
「リュウガさんにそんなことが・・・ソウマさんが、本当に暗黒の銃剣士の仲間入りをしていたなんて・・・」
 リュウガの辛い過去とソウマの行動に、マーズは心を揺さぶられていく。
「それじゃホントに、兄さんを殺したのはアンタじゃなく、ソウマとロアだっていうの・・!?」
 オータムが問い詰めて、リュウガが小さく頷く。
「オレは確かにフォールにとどめを刺していない。ソウマとロアが仕留めたと、銃剣士たちが口々にしていた・・」
「確かにあなたは兄さんを殺してなかった・・でもアンタがいなかったら、兄さんはソウマたちに殺されることはなかった・・・!」
 リュウガの話を聞いても、オータムは彼への不満を消すことができない。
「あれはオレとヤツが全力で勝負をしたまでだ。戦いとなれば、生き残るために勝つしかない。」
「だからって、それで兄さんが死ぬなんて納得できない!」
 戦いの非情さを口にするリュウガだが、オータムは反発するばかりである。
「落ち着いて、オータムさん・・リュウガさんは仇じゃなかったんだから・・・!」
「分かってる!分かってるけど・・!」
 マーズがなだめると、オータムが声を張り上げた。彼女もリュウガに対する感情をコントロールできず、葛藤していた。
「オレの目的は以前も今も変わらない・・ソウマとロアを倒し、他の暗黒の銃剣士たちに過ちを思い知らせる・・・!」
「そうはいかないよ!2人を倒すのはあたしなんだから、邪魔しないで!」
 ソウマたちへの復讐を考え、リュウガとオータムが対立する。
「やめて下さい、2人とも!ソウマさんを殺してはいけません!」
 マーズが2人の間に入って呼び止める。
「ソウマさんは悪い人ではありません・・きっと、僕と会った後で、何かあったんです・・騙されたとか、操られたとか・・・!」
「オレとライアンの前に現れたヤツらは、自らの意思で攻撃を仕掛けてきた。ヤツらは力を求めて、オレたちを陥れたのだ・・・!」
 ソウマを信じようとするマーズだが、リュウガはソウマたちへの憎悪を消さない。
「そんなことないです!また話し合えば・・!」
「話し合いをしてもヤツらが聞かなかったことは、お前も分かっているはずだ・・」
 必死に訴えるマーズに、リュウガが冷めた態度で言い返す。
「本当にオレたちのことを止めようと考えているなら、言葉だけでなく力でも止められるまでにならないといけない。ソウマに対してもな・・」
「それって、僕の中にある力を使えってことですか?・・自分でもコントロールできない力を使うのは・・・」
 リュウガが注意を言うが、マーズは秘められた力を発揮することを恐れる。
「止める止めるってよく行ってくるけど、結局止めるってわがままを押し付けてるだけじゃない・・そんなんじゃ、あたしたちに言えたもんじゃないよ・・」
 オータムがマーズの言動に呆れる。
「だって、争いでみんな悲しい思いをしている・・こんなことがいつまでも続いてほしくない・・でも、僕が力を発揮したら、守るはずの人を傷つけてしまう・・・」
「そうやってウジウジして、やめてくれって言うだけで解決しないってことが、まだ分かんないの?それであたしが納得したら、兄さんが全然報われない・・・!」
 マーズが自分の考えを言うと、オータムがため息混じりに言い返す。
「オレは他のヤツや世界がどうなろうと、気にするつもりはない。そんなことを持ち合わせずに生きてきたからな・・ただ、暗黒の銃剣士には報いを受けさせる・・・!」
 リュウガがこれからのことを言って、右手を握りしめる。
「お前がやめろと言っても、力ずくで止めようとしても、オレはやめるつもりはない。それだけがオレの生きる理由だ・・」
「あたしも、あたしの生き方と戦いは自分で決めるよ!誰にも邪魔はさせない!」
 リュウガもオータムも制止の言葉を聞かないことに、マーズは困惑する。
(僕が僕の強い力をうまくコントロールできていたら・・その力を、本当に戦いを止めるために使えたら、傷つけずに止めることができるはずなのに・・・)
 力を使いこなしたいという衝動に駆られるマーズ。リュウガの話の後でも、3人の意思が1つになることはなかった。

 ソウマとロアも休息をとりながら、暗黒の銃剣士に迎えられた時のことを思い返していた。
「あのときはホントにうまくいったね。ライアンをやっつけてリュウガを悪者扱いにできて、それで強くなって進化して・・」
「これでオレたちは大きく進歩した。他のやり方でここまで来るには、かなりの時間がかかっただろう。」
 笑みをこぼすソウマに、ロアが落ち着きを保って答える。
「しかしリュウガもメフィスト様とクリム様に逆らったときに見せた力を使いこなしつつある。オレたちも今の力に満足してはいられない。」
「でもメフィスト様に力を引き出してもらったんだよ。ここから一気に力を高めようと思っても・・」
「ここからはオレたちだけで力を引き上げるしかない。そうしなければ敗北は避けられない。リュウガにも、あのマーズという銃剣士にも・・」
「マーズ・・まさかあそこまで力を持っていたなんて、ビックリだよ。楽しみが増えたってね。」
「舞い上がっている場合ではないぞ。ヤツらがオレたちの力を上回れば、楽しむどころではなくなるぞ。」
「そうだよね。負けちゃったら楽しくならないよねぇ・・」
 ロアに注意されて、ソウマが肩を落とす。
「オレたちはまだ解放された力をそのまま使っているに過ぎない。リュウガは自分の力を収束させて、あの紅蓮態という形態を完成させつつある・・」
 ロアがリュウガの紅蓮態のことを考える。
「つまり、僕たちもそれみたいな力と姿を持った方がいいってこと?」
「そうなるな。持てる力を集中させて、強化を図る。」
「うんうん。僕はどうしようかな~・・?」
「思い浮かべた通りになるとは限らないぞ・・」
 期待を膨らませるソウマに、ロアがため息混じりに言い返す。
「ソウマ、ロア、メフィスト様からの命令を伝える。
 そこへ1人のズゴックナイトが来て、ソウマたちに伝言をした。
「12時間後に“アクアワールド”へ出発。同国を制圧せよ。」
「アクアワールド・・特殊能力を持つ銃剣士のいるところだね。」
 ズゴックナイトの言葉を聞いて、ソウマがアクアワールドのことを考える。
「分かりました。準備します。」
 ロアが答えて、ズゴックナイトは立ち去った。
「次のアクアワールドの銃剣士との戦いで、オレたちにとっての真の力を引き出せればいいが・・」
「これが僕たちにとっての強化の旅だね。」
 ロアが次の出陣を自分たちの強化のためと考え、ソウマがやる気を見せる。
「これで成果を挙げられなければ、リュウガに上手を取られる・・・!」
「それはイヤだね・・絶対にもっと強くなってやるよ・・・!」
 ロアから忠告を言われて、ソウマが笑みを消す。2人は確実にリュウガたちを倒すため、アクアワールドでの戦いに臨んだ。

 リュウガが過去を話してから次の日の朝。リュウガはウインドワールドから旅立とうとしていた。
「また、ソウマさんたちを追うのですか・・?」
 その彼にマーズが声をかけてきた。
「あぁ・・だがその前に行くところがある。世界の奥地にある“アースマウンテン”だ。」
「アースマウンテン・・世界の中心点と言われている山・・・!」
 リュウガの答えを聞いて、マーズがアースマウンテンについて口にする。
「あそこに何があるの?人がろくにいないところなのに・・」
 オータムがリュウガに疑問を投げかける。
「アースマウンテンには、強力なエネルギーが渦巻いていると聞いたことがある。その力で己の力を制御し、紅蓮態を使いこなす・・」
「それで修行をしようってわけ・・あたしも、もっと強くならないといけないよね・・・」
 リュウガが自分の考えを話して、オータムも自分のやるべきことを考える。
「アースマウンテンで修業をするつもりなら、ついてくるんだな・・」
「アンタの言う通りにするのは癪だけど、それ以外にソウマに勝つ方法はなさそうだからね・・・!」
 リュウガに言われて、オータムが渋々聞き入れることにした。
「マーズ、お前も力をうまく使いたいと思っているなら、一緒に来るべきだ。このままではお前の意志を貫くこともできないぞ。」
「僕は力を持ちたいんじゃなくて、争いを止めたいんです・・」
「それを果たすためにも力が必要ではないのか?弱いヤツが戦いをやめろと言ったところで、戦わなければならないヤツが聞くわけがない。ここまで来て分からないならば、もはや滑稽だ・・」
 言い返すマーズに、リュウガが叱責する。
「いつまでもそんなわがままを言い続けるなら、お前はそこまでのヤツだ・・」
「僕はわがままを言っているんじゃないです・・本当に争いを止めたいんです・・!」
 リュウガが苦言を呈しても、マーズは自分の考えを言うばかりである。
「そこまで強情か・・・ついてこい、マーズ。お前のその意固地がどこまで続くか、アースマウンテンで自分で確かめてみるのだな・・」
 リュウガがため息混じりに言って、マーズの前から歩き出した。
「リュウガさん、待ってください!」
 マーズが慌ててリュウガを追いかける。
「やれやれ・・・」
 2人に呆れながら、オータムも彼らと一緒にアースマウンテンに向かった。

 リュウガについていってアースマウンテンへの旅をするマーズ。彼は争いを止めたいという信念と、自分の力を思うように扱えないことへの苦悩の板挟みになっていた。
(本当は誰かに頼らずに、僕自身の手で争いを止めたい・・でも今の僕は自分の力をコントロールできない・・どうすればうまく力を使えるのかも分からない・・全然答えが見えてこない・・・)
 どうしたらいいのか自分で見出せず、何をしたいのか明確にできず、マーズが落ち込んでいく。
(争いを止めることは、僕のわがままじゃない・・みんなも望んでいることなんだ・・争いが起こってほしいと思うなんておかしいよ・・・)
 彼は自分に言い聞かせて、争いを止める意思を貫こうとする。
(まずは自分の力をコントロールできるようにしないと・・そのために僕も、アースマウンテンに行かないといけない気がする・・・)
 マーズも決意を固めて、鍛錬に臨もうとしていた。

 ソウマとロアもアクアワールド攻撃の部隊に加わり、出発しようとしていた。
「ソウマ、ロア、私がアクアワールド攻略の指揮官であるガルダス・ガンダムバルバトスだ。」
 男、ガルダスが2人に近づき声をかけてきた。
「お前らのことはメフィストから聞いてる。頼りにさせてもらうぞ。」
「はい。よろしくお願いします、ガルダス様。」
 ガルダスが気さくな態度を見せて、ロアが答えた。
「今回の戦は強敵揃いらしいからな。腕が鳴るぜ。」
「僕も楽しみです。どんな相手がいるのか、ワクワクしています。」
 不敵な笑みを浮かべるガルダスに、ソウマが笑顔を見せた。
「さぁ、行くぞ!“ノワール港”から船で渡るぞ!」
「はっ!」
 ガルダスが号令を上げて、暗黒の銃剣士であるグーンマリーンたちが答えた。
 ソウマとロアもガルダスたちと共に船に乗り、アクアワールドに向かった。

 アースマウンテンの近くにある国「センターワールド」に、リュウガたちはたどり着いた。
「今日はここで休んで、明日の朝、マウンテンに入る。」
 リュウガが足を止めて、マーズとオータムに振り向く。
「でもあたし、ここまで旅が長くなって所持金が少なくなってるよ・・何かで仕事するなりお金を稼がないと・・」
 オータムが口にしたこの言葉を聞いて、マーズが気まずくなる。
「そうだね・・ここで少しお金を増やしておかないと・・・」
「さて、どこで働かせてくれるかな~・・?」
 マーズとオータムがセンターワールドの市街地の中を見回していく。すると2人は人だかりがあるのを発見した。
「何かな、あそこ?何か事件?」
 オータムが気にして人だかりに近づいて、リュウガとマーズもついていく。人だかりの前ではストリートファイトが行われていた。
「1人の相手に挑戦するみたいだね・・」
「しかもその相手、銃剣士だよ。」
 マーズとオータムが人混みの間から、その先の様子を見る。
 この対決は1人の銃剣士を相手に戦い、勝利すれば賞金がもらえるというルールとなっていた。
「さぁ、次にオレに挑むヤツは誰だ!?」
 銃剣士、タイガ・ガンダムエアマスターが高らかに言い放つ。
「オレに勝てばたっぷりと賞金を与えるぞ!それでも挑戦するヤツはいないのか!?」
 タイガが銃剣「バスターショット」を振り下ろして、切っ先を周囲の人々に向ける。
「よーし!あたしが勝って、賞金ゲットしてやるよー!」
 オータムが意気込みを見せて、タイガの前に出た。
「今度は女の銃剣士か。言っておくが、女でも子供でも、挑戦者なら手加減はしないぞ。」
「望むところだよ!」
 タイガが警告するが、オータムは自信を見せる。
「銃剣を持ってるけど、武器は使ってもいいの?」
「もちろんだ。ただし致命傷はなしだからな。」
「それなら気軽にやれるってもんだね。」
「ゲーム感覚でいると、痛い目を見るぜ。」
 笑みをこぼすオータムに、タイガが気さくに言う。
「それじゃ始めるッスよー!準備するッスー!」
 タイガの付き人であるハチ・アッガイが合図を出す。オータムとタイガがそれぞれオータムリボン、バスターショットを構える。
「始めっスー!」
 ハチの掛け声と同時に、オータムがオータムリボンを振りかざす。迎撃を選んだタイガが先端から光の刃を出したバスターショットを振りかざして、伸びてきた光のリボンを切り裂いた。
 しかし切られて砕けた光のリボンは、オータムブレードとなってタイガを取り囲んだ。
「捕まえるのがアンタの戦い方みたいだが、オレは簡単には捕まらないぜ!」
 タイガが言い放ってから、バスターショットを足元に向けた。彼は上にジャンプすると同時にバスターショットを発射して、その反動で空に飛び上がった。
 だがその上空に、先に跳んでいたオータムが待ち構えていた。
「それ!」
 オータムがオータムリボンを振りかざして、タイガの体を縛った。
「しまった!」
 体の自由を封じられたタイガが、そのまま落下して地面に倒れた。
「オレを追い込み、動きを封じ込めてくるとは・・・!」
「このリボンのいろんな使い方を思いついてきたからね。こういう追い込み方も理解してるよ。」
 毒づくタイガにオータムが笑みを見せて答える。
(兄さんの敵討ちのために、オータムリボンを使った戦い方をかなり練習してきたからね・・でもその仇がソウマとロアだったけどね・・)
 特訓の日々を思い出して、同時に皮肉も感じて、オータムが笑みをこぼした。
「それでどうする?まだ続ける?」
 オータムが問いかけると、タイガが力を入れて光のリボンを断ち切ろうとする。
「そうやってあたしのリボンを断ち切っても、ブレードが増えるだけだよ。それにあたしのリボンは頑丈にもできるんだよ!」
 オータムの言う通り、タイガはリボンを引きちぎれず呼吸を乱す。
「参った・・今は身動き取れないけど、お手上げだ・・」
 タイガがため息をついて、オータムに降参した。オータムがオータムリボンをほどいて、タイガを自由にする。
「これで賞金いただきだね♪」
「なんと・・アニキが負けてしまったッス・・・」
 オータムが喜んでハチが落ち込む。
「ハチ、金を渡してやれ・・これで1回出直しだな、オレは・・」」
「ア、アニキ・・・分かったッス・・・」
 タイガに言われて、ハチは気まずくなってからお金をオータムに渡した。
「オレの敗北だから、このイベントはおしまいだ。」
 立ち上がったタイガが、観客に解散を呼びかける。観客が去っていって、タイガとハチ、リュウガたちがその場に残った。
「オレはまた精進してリベンジしないといけないみたいだな。」
「だったらあたしたちと一緒に来る?明日、アースマウンテンに行くんだけど・・」
 修行をしようと考えるタイガを、オータムが誘う。
「アースマウンテンか・・あそこなら修行にもってこいだけど・・オレはどっかの大会に出て、賞金稼ぎと腕試しの両方をやるつもりだ。」
 タイガがオータムにこれからのことを話す。
「所持金が一気に減っちまったからな。全部自業自得だけど、また稼がなくちゃな。」
「あたしも今よりも強くなってるから、次も返り討ちだよ。」
 ため息混じりに言うタイガに、オータムが気さくに言った
「それじゃあたしたちは行くね。勝負と賞金、ありがとうね!」
 オータムはタイガとハチにお礼を言って、リュウガ、マーズと共に立ち去った。
「銃剣士とはいえ、まさか女にやられるなんてな・・オレもまだまだ修行が足りないってことだな・・・」
「アニキ・・・」
 気を引き締めなおすタイガに、ハチが戸惑いを見せる。
「オレたちもまた明日から旅に出るぞ、ハチ!」
「分かったッス、アニキ!オイラも付いていくッス!」
 タイガが掛け声を上げて、ハチが答える。2人も夜に休息を取ってから、修行の旅に出たのだった。

 

 

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