GUNDAM WAR SD

-神魔の銃剣士-

第8章「兄妹の心」

 

 

 兄、フォールの仇はリュウガではなくソウマとロアだった。真実を知ったオータムが彼らに怒りを燃やして、オータムリボンを振りかざした。
 ロアが疾風双刃剣を振りかざし、オータムリボンを反らした。
「リボンを砕けば数が増える。そうしないようにする方法はある。」
 冷静に動きや技を見計らうロアに、オータムが驚愕する。
「でも、オータムブレードはたくさんある!」
 オータムがリュウガに差し向けていたオータムブレードを、ロアへ飛ばした。
「速さは数を凌駕する。そして正確に狙えば、操れないほどに木っ端微塵となる。」
 ロアが疾風双刃剣を高速で動かし、駒かいオータムブレードを正確に突いた。オータムブレードがさらにバラバラになり、塵のようになった。
「オータムブレードに全部攻撃するなんて・・ここまで砕かれたら全部を動かせないし、動かしても威力が弱くなってる・・・!」
 体力の消耗が大きくなり、オータムがその場に膝をつく。
「オータムさん!・・これ以上戦いを続けたら・・・!」
 マーズがオータムの危機に焦りを感じていく。
「打つ手がなくなったか。せめて兄のいる天へ送ってやる。」
 疲弊しているオータムに、ロアが近づいていく。
「やめろ・・これ以上傷つけるな・・これ以上、命を奪うな!」
 激情を膨らませたマーズが、体からオーラを発した。
「これが、あの子の秘められた力か・・」
 ソウマが彼を見て、興奮を覚えて微笑む。
「僕が相手をするから、ロアはその子を・・」
「分かった。」
 ソウマがマーズの前に立ちふさがり、ロアが聞き入れた。
「そこをどいて、ソウマさん・・2人とも、これ以上罪を重ねないで・・・」
「もっと力を発揮して・・戦いに加わるなら、僕を楽しませてよ・・」
 呼び止めるマーズに向かって、ソウマが手招きをする。
「やめろと言っているんだ!」
 マーズが怒号を放って突っ込んだ。ソウマも蒼天刃を手にして、高速で彼を迎え撃つ。
 マーズが振り下ろしたマルスカリバーを紙一重でかわして、ソウマが蒼天刃を振りかざした。
「うっ!」
 体中を切り付けられて、マーズが目を見開いた。
「止めないと・・僕が、止めるしかないんだ!」
 彼は力を振り絞り、振り向き様にマルスカリバーを振りかざした。
「ぐっ!」
 マーズの一閃で体を切り付けられて、ソウマが激痛を覚える。
「ま、また僕がこんな傷を負わされるなんて・・・!」
 ソウマが顔を歪めて痛みに耐える。
「ソウマ、また油断したか・・それを注すべきだと言っているのに・・・!」
 ロアがソウマに対して毒づいてから、マーズの動きに注意する。
「オータムさんから離れて・・これ以上、戦いを続けさせない・・・!」
「敵対勢力は始末しなければならない。たとえオレたちよりも力が及ばない敵でも・・」
 忠告するマーズに、ロアも対峙する。
「オレはソウマのように油断しない・・お前も暗黒の銃剣士の敵として排除する・・・!」
 ロアが目つきを鋭くして、高速で飛びこみ疾風双刃剣を振りかざす。マーズがマルスカリバーを使うが、ロアの斬撃に体を切り付けられた。
「攻撃の後に反撃を食らうことは、オレはしない。」
 ロアが冷静にマーズの動きを捉えて、振り向き様に疾風双刃剣を振りかざした。
「戦いをやめろと、言っている!」
 マーズが全身に力を入れて、マルスカリバーから光があふれ出した。
「何っ!?」
 さらなる底力を発揮したマーズに、ロアが驚愕する。
 マルスカリバーから放出された光は、ロアの繰り出す高速の斬撃を押し返し、彼を吹き飛ばした。
(なんという力だ・・ソウマもロアも完全に押し切っている・・・!)
 リュウガがマーズの力に脅威を感じていく。
「メフィスト様から力を与えられたオレたちをも上回るというのか!?・・これでは、拘束も打倒もかなり厳しい・・・!」
 マーズが自分たちの力を上回っていると痛感し、ロアが危機感を覚える。
「ソウマ、ここは引き下がるぞ・・・!」
「待ってよ、ロア・・まだ僕は負けちゃいない・・・!」
 ロアが呼びかけるが、ソウマは不満げに言い返す。
「このままマーズと戦い続ければ、ただでは済まないぞ・・・!」
「そんなことにはならない・・僕は強くなってるんだから・・・!」
 ロアが忠告しても、ソウマはマーズへの敵対を続ける。
「ソウマさん・・もうあなたに、悪いことはさせない・・・!」
 マーズがソウマに言って、マルスカリバーを構える。そのとき、リュウガはマーズの体に付けられている傷が深まっていることに気付いた。
(今の過剰に力を発揮している状態が、コイツの体に負担を掛けている・・オレの紅蓮態と同じ状態だ・・・!)
 マーズが力を限界以上に引き出していることをリュウガは理解した。その力を制御できずに暴走させていることも。
(己の怒りのために、己の命を捨てようとしているか・・!)
 自分が傷つくのも考えないまま力を振るうマーズに、リュウガが複雑な気分を感じていた。
「これは、無理やりにでも撤退させるしかない・・・!」
 ロアが一気にスピードを上げて、ソウマを抱えてマーズから逃げた。
「逃げないで・・もう悪いことはさせない!」
 マーズがソウマたちを追いかけようとする。そのとき、彼の前にオータムが回り込んできた。
「あの2人を倒すのはあたしよ!邪魔しないで!」
「君も、戦いをやめるんだ・・・!」
 自分の手でソウマたちを倒そうとするオータムにも、マーズが鋭く言う。
「何度も言わせないで・・邪魔をするなら容赦しないって・・!」
 オータムが敵意をマーズに向けて、オータムリボンを振りかざす。
「やめろと言っている!」
 マーズがマルスカリバーを振り下ろすと、刀身から閃光が放たれた。光はオータムリボンを押し返し、周囲にあるオータムブレードを消滅させた。
「そんな!?・・紅蓮の銃剣士だけじゃなく、コイツにもオータムリボンが通じないなんて・・・!?」
 マーズの力を痛感して、オータムが愕然となる。
「でもだからって、ここであの2人を追わなかったら、兄さんが浮かばれない・・!」
 彼女は敵討ちを諦められず、ソウマたちを追う。
「だから復讐や争いはいけないって!」
 マーズがオータムを狙って、マルスカリバーを振り下ろして光の刃を飛ばした。
「オータムリボン!」
 オータムがとっさにオータムリボンを振りかざした。光の刃は光のリボンを打ち破った後、彼女の横を通り抜けた。
(反らせた!?・・ううん・・あたしがやらなくても、向こうが反れた・・・!)
 オータムがマーズの攻撃に対して脅威と疑問を感じていく。マーズが疲弊して、前のめりに倒れた。
「体が動かない・・・戦いを止めなくちゃいけないのに・・・」
 弱々しく声を発するマーズが、必死に起き上がろうとする。
「ただ止めようとする本能だけで動いている・・そのために力ずくでオレたちを止めようとする、戦いで戦いを止めるという支離滅裂の状態になっている・・」
 矛盾しているマーズに、リュウガが呆れ果てていた。
「このままでは力を使い続け、死を迎えることになる・・」
 毒づいたリュウガが素早く近づき、マーズの首の後ろに手刀を叩き込んだ。マーズが意識を失い、再び倒れて動かなくなった。
「これでとりあえずは落ち着いたか・・」
 リュウガがマーズを見下ろしてひと息つく。
「どういうつもり!?・・助けたくらいで、あたしが心を入れ替えて許すと思ってるの・・!?」
 オータムがリュウガに振り返り、不満の声を上げる。
「勘違いするな。コイツにいつまでも危険な力を使い回されたくないと思っただけだ。この暴走状態が誰にとっても危険だということを、オレもお前も思い知ったはずだ・・」
 リュウガが投げかけた言葉に、オータムは反論できなかった。マーズが発揮した強大な力を、彼女も痛感させられていた。
「ホントだったの?・・兄さんを殺したのは、アンタじゃなくあの2人だったのは・・・」
 オータムが気持ちを落ち着けてから、リュウガに問いかけた。
「フォールという男はオレは覚えている。ヤツと勝負し勝ったが、オレはとどめを刺してはいない。」
 リュウガがフォールのことを思い出して答える。
「だが、ソウマたちがとどめを刺していたことは知らなかった・・オレたちを陥れるためにしたというのか・・・」
 彼はソウマたちの企みに苛立ちを感じていく。
「ホントにアンタじゃないみたいだね・・でもアンタが暗黒の銃剣士だったことは同じで、アンタが兄さんを追い詰めなければ・・!」
 オータムは真実を知っても、リュウガへの憎悪を絶やさない。
「それも確かだ。そのことに対するオレの罪は否めない。だがオレにはやることがある。ソウマとロアは必ず倒す・・・!」
「アイツらを倒すのはあたしよ!邪魔するなら、アンタから先に倒すよ!」
 互いにソウマたちを倒す意思を示し、リュウガとオータムが敵意を向け合う。
「争ってはいけない・・争っても、辛くなるだけだよ・・・」
 そのとき、気絶させられたはずのマーズが意識を取り戻して、声を振り絞ってきた。
「もう目が覚めたのか!?・・強めに打ったはずなのに・・・!?」
 リュウガがマーズの底力に驚かされる。
「いい加減にしてよ!バカみたいに戦いをやめろって、何度も何度も!戦いをやめて、それで何もかも解決するの!?」
 オータムが不満を膨らませて、マーズに怒鳴る。
「結局アンタも、戦いをやめさせるってわがままを押し付けてるだけじゃない!アンタだって、相手に一方的に考えを押し付けてるだけ!」
「そんなことはない・・争いが起こってほしくないのは、みんな思っているはずだよ・・・!」
「全員が好きで戦ってるわけじゃない!それでも戦わないといけないんだよ!仇を取るとか、自分や仲間を守るとか!」
「だからって、戦いが起こったら、誰かが傷つく・・関係のない人まで・・・!」
 オータムが言い返すのを聞き入れずに、マーズが訴え続ける。
「愚かなことだ・・オレたちみんな、話にならない・・」
 互いに考えを押し付けるだけの自分たちに、リュウガは呆れ果てていた。
「これじゃ、今は敵討ちしても気持ちが晴れないじゃない・・・」
 オータムも気が滅入り、戦意を失ってため息をついた。
「今はソウマとロアを倒すのが最優先・・それに備えて体を休めておかないと・・・」
「ヤツらを倒すのはオレだ・・オレの仲間の仇、必ず討つ・・・!」
 オータムとリュウガがソウマたちの戦いのための休息を考える。
「アンタの殺された仲間って、どんな人だったの・・・?」
 オータムがリュウガに問いかけてきた。2人の話にマーズも耳を傾けた。
「オレとオレの仲間は、ソウマたちが入ってくる前から暗黒の銃剣士だった。物心ついたときから、オレは暗黒の側で生きてきた・・」
 リュウガが腰を下ろして、自分の過去を語り始めた。
「ライアン・レジェンドガンダム。まさに伝説に刻まれるのではないかというほどの力の持ち主だった・・」
 彼は友、ライアンのことをマーズたちに打ち明けた。
「ライアン・レジェンドガンダム・・」
 話を聞いていたマーズが呟く。
「ライアンは今よりも1つ前の王者、オーガ・プロヴィデンスガンダムの息子だった。ライアンはオーガの力の全てを叩き込まれ、オレと初めて会ったときには、オーガに近い実力を持つようになっていた・・」
「オーガ・・暗黒の銃剣士の王者として、世界の戦いを引き起こした張本人・・・!」
 リュウガの話を聞いて、マーズがオーガのことを思い出す。
「オーガはトップとして厳格な男だったが、ライアンは仲間思いのヤツだった・・オレは孤独だったが、アイツが初めて仲間と言えるヤツだったかもしれない・・」
「アンタにも、いい仲間っていうのがいたみたいだね・・・暗黒の銃剣士じゃなかったら、素晴らしいっていうところだけどね・・」
 リュウガが話を続けて、オータムが皮肉を口にした。
「オレとライアンは切磋琢磨して、互いに強くなっていった。その最中にオーガが王者から退き、ライアンが王者の座に就くことが決まった。だがそれから程なくして、アイツは死んだ・・・!」
 さらに語るリュウガが、ライアンの死も思い返して両手を握りしめる。
「ソウマとロアが奇襲を仕掛け、オレたちは負傷し、ライアンはオレを庇った・・・!」
「それでソウマたちを倒そうと思ったんですか・・・」
 ソウマたちへの怒りを増すリュウガに、マーズが困惑する。
「あたしの兄さんはアンタに負けて、その後すぐにその2人に殺された・・暗黒の銃剣士がいなかったら、兄さんは死なずに済んだのに・・・!」
 リュウガに対する不満を持ち続けるオータム。
「オータムさん、あなたのお兄さんはどんな人だったのですか・・?」
 マーズがオータムにフォールのことを聞く。
「兄さんは優しく強い人だったよ。“グランドワールド”の中じゃ1番強さだったし、兄さん以上の素晴らしい心の持ち主はいないって言われてたよ・・」
 オータムがフォールのことをマーズたちに話していく。
「あの日もグランドワールドを守るために、先頭に立ってみんなを守ってた・・暗黒の銃剣士から・・」
「その中でオレと戦ったということか・・」
「そうだよ!侵略してきたアンタたちに、兄さんは立ち向かったんだよ!」
「あぁ・・オレはフォールに勝利したが、命は取っていない・・戦う力が残っていないヤツと戦っても、オレにとっては意味がないからな・・」
 フォールのことを話すオータムに、リュウガがフォールとの戦いのことを口にする。
「だが、ソウマとロアはその後に、フォールのとどめを刺した・・・!」
 リュウガがソウマたちのことも言って、オータムが怒りを感じていく。
「あの2人が、兄さんのホントの仇・・・!」
 オータムが呟き、リュウガもマーズもソウマたちのことを考えていた。

 ロアに連れられて撤退したソウマだが、まだ戦えると思って撤退に納得していなかった。
「どうして帰ったんだよ?・・僕はこのまま戦っても、リュウガにもマーズにも負けなかったのに・・」
「だがそうだとしても、負傷は避けられなかった。オレたちが戦う相手はリュウガたちだけではない。」
 不満を口にするソウマを、ロアがなだめる。
「オレたちは力を求めて暗黒の銃剣士となった。暗黒の銃剣士の中で上に上り詰めるように、オレたちは手を尽くしてきた。」
「そうだね・・そのためにリュウガとライアンに不意打ちをした。結果ライアンが死に、彼の代わりに僕たちが王者の後継者の仲間入りをした・・」
 ロアとソウマが暗黒の銃剣士になってからのことを思い出す。
「僕は強くなりたくて、より力が手に入りそうな暗黒の銃剣士に回った。」
「オレも力を求めた。愚かしき世界をこの手で正すために。」
 ソウマとロアが暗黒の銃剣士となった理由を口にする。理由や考え方は違ったが、力を求めた点は共通していた。
「メフィスト様たちに受け入れられるまで、全てがうまくいった。しかしそこで満足してはいけない。」
「うん・・もっと強くなりたい・・そのためなら僕は、リュウガとかと戦っていくよ。」
 ロアが話を続けて、ソウマが力への渇望を見せる。
「そのために僕たちはここまでやってきたんだからね・・」
 ソウマが微笑んで、ロアが頷く。2人もこれまでの戦いを思い返していた。

 

 

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