GUNDAM WAR SD

-神魔の銃剣士-

第7章「真の仇」

 

 

 ロアがリュウガに対して優位に立ったものの、マーズの発揮した力に手傷を負い、ソウマは不満を感じていた。
「あの2人・・また必ず勝負するんだから・・・」
「その次の勝負は、傷を治して体力を回復してからだ。」
 うずうずしているソウマをロアがなだめる。
“リュウガを倒し損ねたのか。”
 そのとき、ソウマたちの頭の中に声が響いてきた。
「メフィスト様・・・!」
 ロアが緊張を覚えて、ソウマと共にメフィストの言葉に集中する。
「申し訳ありません。リュウガを追い込んだのですが、他の邪魔者が・・」
“リュウガと行動を共にしている銃剣士か。今のソウマを負傷させるとは、それだけの力を持っているということか。”
 頭を下げるロアに、メフィストが言葉を返す。
「メフィスト、リュウガは僕たちのところに戻るつもりはないみたいです。やっつけてもいいですか?」
“構わん。それと、もう1人の銃剣士、こちらに引き込めるようなら連れてこい。”
 ソウマが聞くと、メフィストが命令を下した。
「メフィスト様のご命令とあらば・・しかしあの少年は戦いに消極的のようで、リュウガほどではないですが、我々を拒絶しています。」
 ロアはマーズを味方に引き入れることを懸念する。
“判断はお前たちに任せる。我々に決して従わないと判断したときは、リュウガと共に始末しろ。”
「分かりました。そのようにいたします。」
 メフィストがさらに命令を送り、ロアが聞き入れた。メフィストとの連絡を終えて、ロアがひと息つく。
「メフィスト様、あのマーズという少年のことを気に掛けている。」
「確かにリュウガに負けないくらいの力は持ってるみたいだね・・僕に攻撃を当てたくらいだから・・」
 ロアとソウマがマーズのことを考える。
「それで、その子を仲間にするつもりなの?」
「もちろんだ。メフィスト様のために、オレたちは行動しているのだから。」
 ソウマが聞いて、ロアが命令に従うことを告げる。
「分かったよ、ロア。でもあの子の勝負は僕にやらせて。」
「いいのか?リュウガよりマーズの相手をしても・・」
「今はあの子に、僕の力を見せつけてやりたいって思っているんだよ・・」
「そうか。ならばリュウガの相手はオレがすることになるな。」
 マーズと戦おうとするソウマの考えを、ロアは受け入れた。
「ありがとう、ロア。今夜はぐっすり寝て、明日の勝負に備えるよ。」
 ソウマは大きく腕を伸ばしてから、ベッドに行って横になった。
「オレたちは確かに力が飛躍的に増した。だがリュウガもあの力の解放を身に着け、マーズという未知数の存在もいる。油断や慢心は命取りになる・・」
 ロアがリュウガとマーズへの警戒を強めていく。
「まだまだ力を付けたほうがいい・・今はスピードはオレが上だが、いつそれを追い抜かれるか分からない。あの限界突破も、いつか制御できるようになるだろう・・」
 彼は呟いて、疾風双刃剣の1本を手にした。
「その前にヤツを討ち、確実に勝利する・・・!」
 リュウガ打倒の意思を強くして、ロアも次の戦いに備えた。

 ソウマたちとの戦いで受けた傷を自ら手当てしたリュウガ。彼の戦う意思とソウマの敵対に、マーズは苦悩を深めていた。
「ソウマさんは悪い人じゃない・・あんな自分勝手が本心のわけがない・・・!」
 ソウマを信じようとして、マーズが体を震わせる。
「だがあれが今のヤツだ。オレたちを陥れ、暗黒の銃剣士の高い地位に上り詰めたヤツらだ。」
 リュウガが低い声でマーズに言いかける。
「それは違います!きっと暗黒の銃剣士の誰かに操られて、あんなことを・・・!」
「そんな甘いことを言っても、ヤツらはオレたちを倒しに来る。言葉で説得するだけでは、ヤツらは止まらない。」
「それでも傷つけ合うのはダメです!争い合って、傷つけ合っても、何もいいことはないです・・・!」
「オレの仲間が浮かばれなくても、戦いをやめるべきだというのか?」
 戦いを否定するマーズを、リュウガが問い詰める。
「オレの仲間の死をいいことにするならば、オレは許しはしない・・お前でも・・・」
「そんなに敵討ちがしたいというんですか!?・・そのことも、その友人も望んでいるのですか・・・!?」
「命を落としている以上、確認はできない。だがアイツが無念であることは、オレはアイツの死の間際で痛感している・・」
「だからソウマたちを討つことを考えているのですか・・・」
 頑なに復讐を果たそうとするリュウガに、マーズは困惑していく。
「お前はソウマと親しかったようだが、そのときのソウマとは別人と思うしかない・・」
「そう言われて、そう思えるわけないですよ・・ソウマさんはソウマさんなんですから・・・!」
 リュウガから言われても、マーズはソウマを信じ続け、争いを止める意思を貫く。
「そこまで意固地になるなら勝手にしろ・・だが、オレの邪魔をするなら、お前もオレの敵だ・・・!」
「リュウガさん・・・そんなに復讐をしたくて仕方がないんですか・・・!?」
 憎悪をむき出しにするリュウガに、マーズが心を揺さぶられる。
「オレの戦いは死と隣り合わせだが、それでも敵を倒すことを考えている。オレを止めようというなら、オレかお前、どちらかが命を落とすことを覚悟することだな・・」
 リュウガはそう言って次の旅と戦いに備えて休息に入った。
「リュウガさん・・・」
 リュウガに返す言葉が見つからず、マーズは落ち込んだ。
(どうしても戦って倒さないと、戦いは止められないの?・・誰かが死なないと、戦いは終わらないものなの・・・!?)
 戦いに対する迷いと苦悩を深めて、マーズはどうしたらいいか分からなくなった。

 リュウガたちとソウマたちの対決から一夜が過ぎた。
 リュウガに兄を殺されたと思い、怒りを燃やすオータム。彼女はリュウガに再挑戦しようと、サイクロンシティに来ていた。
「この前はやられたけど、今度はそうはいかないよ・・あたしがリュウガをやっつけてやるんだから・・!」
 オータムがいら立ちを噛みしめて、体を震わせる。
「そのための新しい技も思いついたよ・・オータムリボンをフル活用する大技を・・・!」
 彼女が持っているオータムリボンを見つめて、新技の確認をする。
「兄さん、もうちょっと待ってて・・兄さんの仇、必ずとるから・・・!」
 兄への想いも募らせて、オータムはリュウガを追って、街中の捜索を始めた。

 朝、目が覚めたリュウガは、すぐに宿屋を後にして1人でソウマとロアを追っていった。
(逃がしはしないぞ、ソウマ、ロア・・オレは紅蓮態を制御して、必ずお前たちを倒す・・・!)
 ソウマたちへの憎悪を抱えたまま、リュウガはサイクロンシティの中心街を歩いて離れていく。
「まだついてくるつもりか?オレたちを止めるために・・」
 リュウガが前を向いて歩きながら、後ろを歩くマーズに声を掛けた。
「このままにしておいたら、あなたかソウマさんのどちらかが死ぬことになる・・そんなことはさせません・・」
「そのためにお前が死ぬかもしれない・・その覚悟はあるのか・・?」
「死ぬつもりはありません・・死なせるつもりもありません・・それが僕の覚悟だと思っています・・・!」
「ならばオレとお前が戦うことを頭に入れておかないとな・・」
 マーズの決意を聞いて、リュウガがため息混じりに言う。
「お前以外にも、オレをつけてきている奴がいる・・」
 リュウガがマーズに背を向けたまま告げる。別の追跡者に気付きながらも、リュウガは再び歩き出した。
「あっ!」
 マーズが慌ててリュウガを追いかける。2人は街外れの草原で足を止めた。
「ここなら全力でやれるだろう。姿を見せたらどうだ?」
 リュウガが声をかけて、マーズが周りを見回す。追跡していたオータムが姿を見せた。
「お前か。敵討ちでオレを倒しに来たのか?」
「当然だよ!アンタを倒す以外に、アンタに用はない!」
 リュウガが声をかけて、オータムが言い放つ。
「この短期間でオレとの力の差を埋められるとは思えない。何か策を思いついたか、それとも力の差が分からないのか?」
「いい気になってられるのも今のうちだよ!今日こそあたしの手でアンタを倒す!」
 肩を落とすリュウガに対し、オータムが怒りを膨らませる。
「待って、2人とも!敵討ちをしても悲しくなるだけだよ!」
 マーズが2人の間に入って呼び止める。
「邪魔しないで!邪魔するなら一緒にやっつけるよ!」
「話し合って考えを伝え合わなくちゃ、争いは終わらないよ!戦って倒すことばかり考えていたら、辛さが広がるだけだよ!」
 鋭い視線を向けるオータムを、マーズが呼び止める。
「ゴチャゴチャ言って邪魔してくるなら、もう容赦しないよ!」
 オータムが怒って、オータムリボンを手にした。
「どけ、マーズ。そいつはどうしてもオレと戦わなければ気が済まないようだ・・」
 リュウガもマーズに言って、両手を強く握りしめる。
「もはや言葉は意味はない。倒すか倒されるか、どちらかだ。」
 リュウガが言って、背中にある紅龍刃を手にした。
「リュウガさん、やめてください!あなたも!」
 マーズが声を張り上げて呼び止めると、リュウガが目つきを鋭くして紅龍刃を振り、退くように促す。
「どきません・・どいたらあなたたちは・・・!」
 それでも下がらないマーズに向かって、リュウガが突っ込んで拳を繰り出した。
「うっ!」
 マーズが体に拳を叩き込まれ、突き飛ばされて激しく転がった。
「どけ・・これ以上邪魔をするなら、オレも容赦はしない・・・!」
 リュウガが倒れたマーズに忠告して、オータムに視線を戻す。
「礼は絶対に言わないわよ・・ただ思いっきり戦えるってだけなんだから・・・!」
 オータムが言って、オータムリボンを振りかざして伸ばした。リュウガが紅龍刃を振りかざして、リボンを断ち切る。
「それでオレを捕まえることはできない。その動きはすでに見切っている。」
「まだだよ!まだまだ!」
 冷静に告げるリュウガに言い返して、オータムがオータムリボンを振り続ける。
「ムダなことを・・」
 リュウガがまた紅龍刃を振って、オータムリボンを断ち切っていく。
「やはり力の差を理解していないか・・」
 リュウガがオータムを狙って紅龍刃を振り上げた。
 そのとき、断ち切られた光のリボンが動き出して、リュウガに向かって飛んできた。リュウガが反応してリボンを回避する。
「これがあたしが思いついた新しい技“オータムブレード”だよ!」
 オータムが笑みを浮かべて、リュウガに言い放つ。分離した光のリボンを、彼女は操作して包囲していた。
「多数の銃剣を射出して攻撃する。そのやり方はオレには通用しない・・」
 リュウガは冷静に告げて、紅龍刃を大きく振り下ろす。その衝撃で光のリボンを吹き飛ばそうとした。
 しかしリボンはその鋭さで衝撃と突風を突き破り停滞していた。
「そういうやり方じゃ、あたしの新技は破れないよ!」
 オータムが言い放って、光のリボンを操作する。リュウガが紅龍刃を振りかざして、リボンを弾いていく。
「そうやって壊しても、数が増えて細かくなるだけだよ!」
 オータムが数が増えていくリボンの破片を操作していく。リュウガが対処しきれなくなり、リボンで体を切り付けられていく。
「リボンを攻撃すればするほど数が増えて、逆に追い込まれていくのか・・・!」
 起き上がったマーズがオータムブレードについて考える。
「ならば使い手である本人を倒すまでだ・・!」
 リュウガがオータムを見据えて飛びかかり、紅龍刃を振りかざす。オータムが回避行動をとりながら、オータムリボンを振りかざして防御する。
 紅龍刃を当てられたオータムリボンの光のリボンが砕けて、オータムブレードの数が増えた。
「その手も逆効果だよ!」
 オータムがそのオータムブレードも動かして、リュウガの体にぶつける。耐えるリュウガだが、彼女から引き離される。
「ここからどんどん追い込んでいくよ・・それでアンタに、兄さんの痛みを思い知らせる・・!」
 オータムが声と力を振り絞り、多数のオータムブレードを動かしてリュウガに立て続けにぶつけていく。
(オータムさん・・体力の消耗が激しい・・・!)
 オータムの様子を見て、マーズが不安を覚える。
(砕かれる度に数を増やしていくリボンの破片・・その全てを操作するのは、並大抵の力じゃできないはず・・消耗もそれだけものすごい・・・!)
 オータムブレードのリスクに気付いたマーズ。
(止めないと・・このままブレードを使い続けたら、取り返しのつかないことになってしまう・・・!)
 彼は自分の体に力を入れてから、マルスカリバーを手にした。
「2人とも、もうやめるんだー!」
 マーズがマルスカリバーを振り下ろして、地面を切り裂いた。リュウガとオータムの間の地面に亀裂が入り、衝撃でオータムブレードが押し返される。
「えっ!?オータムブレードが全部跳ね返された!?」
 オータムがマーズを見て驚きを覚える。
「もうやめて・・争いや復讐を正しいことだと、僕はどうしても思えない・・!」
 マーズが声を振り絞って、リュウガたちを呼び止める。
「邪魔しないでって言ったでしょ!邪魔をするなら、アンタも倒すよ!」
 オータムが言い返して、オータムリボンを剣の形にして構える。
「あなたたちのどちらかが相手を傷つけるくらいなら、僕が戦いを止める・・僕の力を使って・・・!」
「勝手なことを言うじゃない・・戦っちゃダメだって散々言っておきながら、結局力ずくで戦いを終わらせようとするなんてね・・!」
 鋭く言い放つマーズに馬鹿馬鹿しさを覚えて、オータムが笑い声をあげる。
「御託を並べてても、目的のために戦いをするのは同じってことじゃない・・!」
「それは・・・でも、このままどちらかが傷ついたら・・・!」
 軽蔑するオータムに、マーズが必死に言い返そうとする。
「オレも言ったはずだ。戦いに介入するなら、お前も倒される対象になる・・」
 リュウガがマーズに忠告してから、全身に力を入れる。彼が背中から赤い翼を広げて、紅蓮態となった。
「リュウガさん・・本気で僕とオータムさんを・・・!?」
 全力を出したリュウガに、マーズが驚愕する。
「これが戦いであり、オレの復讐の道だ・・オレの行く手を阻むものは、何であろうと倒すだけだ・・・!」
 リュウガが紅龍刃をマーズに向けて言い放つ。ソウマたちへの復讐を果たすことだけを考え、リュウガは戦いを続けていた。
「さすがリュウガ。君はそうでなくちゃね。」
 そのとき、ソウマがロアと共に現れて、リュウガが振り返った。
「ソウマ、ロア・・!」
 1度紅蓮態を解除したリュウガが、ソウマたちに鋭い視線を送る。
「暗黒の銃剣士ね・・アンタたちも、あたしが倒すべき相手よ!」
 オータムが言い放って、オータムリボンの先をソウマたちに向ける。
「兄さんの仇、必ず討つ・・あたしの兄さん、フォール・シャイニングガンダムの仇・・!」
「フォール・シャイニングガンダム・・お前たち、“セゾンシティ”の銃剣士か。」
 オータムの言葉を聞いて、ロアが思い出す。
「そうだよ!アンタたちが襲ってきたせいで、シティのみんなも兄さんも!」
「セゾンシティに攻め込んだとき、最後まで抵抗を続けたのがフォールだったな。」
 怒りを募らせるオータムに、ロアが冷静に語っていく。
「アンタたちもだけど、その前に紅蓮の銃剣士を倒す!」
 オータムがソウマたちに言ってから、リュウガに視線を戻す。
「これはいい。君、リュウガを仇だと思っているみたいだね。」
 ソウマが彼女に向かって無邪気に笑う。
「勘違いしているみたいだけど、君のお兄さんを殺したのはリュウガじゃないよ。」
「えっ・・!?」
 ソウマが言った言葉に、オータムが耳を疑う。
「どういうこと!?・・あたしを惑わそうとしても、そうはいかないよ!」
「ホントだよ。確かにリュウガは君の兄さんと戦って勝ったけど、とどめは刺してない。だってとどめを刺したのは、僕たちなんだから・・」
 問い詰めるオータムに、ソウマが真実を告げた。
「何ですって!?・・・兄さんを殺したのは、アンタたちだって・・!?」
「そうだ。リュウガと戦った後のお前の兄に、オレたちは近づいた。まだ暗黒の銃剣士に歯向かおうとしていたので、その場でとどめを刺した。」
 愕然となるオータムに、ロアが説明していく。
「暗黒の銃剣士に仇名す敵を倒したのは確かだが、リュウガ、お前たちを出し抜く算段につながった。」
「オレたちを陥れるために、コイツの兄を始末したのか・・・!?」
 リュウガも怒りを感じて、ソウマたちを睨みつける。
「狙ったわけじゃないけど、そういうことになるね。」
「ソウマ、ロア、貴様・・・!」
 笑うソウマにリュウガが憎悪を募らせる。
「アンタたちが・・あたしの兄さんを・・・許せない・・絶対に許せない!」
 オータムが怒りの矛先をソウマたちに向けて、オータムリボンを振りかざした。
「オレたちに狙いを変えてきたか。ならばオレたちが倒すまでだ。」
 ロアが言いかけて、疾風双刃剣を手にした。

 

 

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