GUNDAM WAR SD

-神魔の銃剣士-

第1章「紅蓮の銃剣士」

 

 

銃剣士。
銃と剣を武器と力とする騎士の総称。

神のもたらす聖なる力と、闇が込められた魔の力。
相反する力を宿した善と悪の銃剣士。

それぞれの力が、意志と共に交錯する。


 「光聖界」。主に聖なる力を持つ者を祖先とした世界で、複数の国で住民がそれぞれ平穏な生活を送っていた。
 しかし一部の国で争いが起こり、徐々に広がり他国にまで及ぶようになっていた。
 各国に不安が広がり、戦乱が強まった国から亡命する人も増えていた。
 戦火に巻き込まれた荒野の国「フレアワールド」にいた1人の少年も。
 名前はマーズAGE-FX。フレアワールドの国王直属の銃剣士を父に持つ彼は、強い銃剣士になれる才能を持っていると見込まれていた。
 しかし本格的な修行を初めて間もなく、フレアワールドが襲撃されてマーズは国を出ることになった。
(僕はどうしたらいいんだろう?・・他のところに行っても、きっと暗黒の銃剣士が襲ってくるし・・・)
 隣の国への移動をするマーズだが、これからのことをはっきりできず、苦悩を深めていた。
(そもそも次の国へ無事にたどり着けるかどうかも分かんないのに・・・)
 彼は不安を膨らませて、足取りも重くなっていた。
(自分の銃剣の使い方は分かるけど、それをうまく使った戦い方までは覚えていない・・僕が銃剣士として戦うなんて・・・)
 マーズは自信が持てず、段々と塞ぎ込むような気分に陥っていく。
(助けて・・誰か、この世界の争いを止めて・・・!)
 怯える彼は争いがなくなることをひたすら願っていた。

 他の移動する人たちと合流して、マーズは隣国である「サンドワールド」にたどり着いた。
「ここで休んでから、また別の国へ移ろう・・戦いが届いていないその場所へ・・・」
 彼は次に行く国の場所を地図で確認して、次の日に出発しようと考えていた。
「これでどんどん争いから離れていけばいい・・・・」
 出発に備えて休もうとしたマーズ。
 そのとき、突然揺れが起こり、マーズや周囲にいた人々が顔を上げた。
「な、何だ!?」
 マーズが周りを見回して、広場の方へ移動していく。
(地震じゃない・・この揺れは、何かがぶつかった衝撃・・・!)
 揺れの正体に気付いて、彼が警戒を強めていく。
「これは攻撃!?・・誰かが攻撃してきた・・!?」
 マーズが緊迫を膨らませると、数人の男たちが姿を現して、彼らの方へ近づいてきた。
「こんなところに逃げていたか。」
「オレたちから逃げ切れると思ったら、大間違いだぜ・・!」
 ジープに乗って数人の銃剣士が現れた。「ザクナイト」、「グフナイト」、「ズゴックナイト」と呼ばれる銃剣士の兵士たちである。
「ここに逃げてきた者の中に、銃剣士が紛れているはずだ。」
「我々の前に差し出せ!協力しないなら力ずくで捜させてもらうぞ!」
 ザクナイトたちが人々に向かって命令を言う。彼らに対して恐怖を覚えて、人々が思わず後ずさりする。
「分からないなら1人ずつオレたちの前に出てこい!オレたちで確かめる!」
「従わないならそいつも命はないと思え!」
 グフナイト、ズゴックナイトたちも人々を脅す。
「銃剣士じゃないと分かればすぐに解放する。」
「オレたちは銃剣士とその味方を始末したいだけだ。無関係なヤツを巻き添えにしたくない。」
「穏便に済ませたいから、みんなも協力して、早くやってしまおう。」
 ザクナイトたちが銃剣士の捜索を進言して、人々に向かって手招きする。
「ではまずお前だ。来い。」
 ザクナイトに呼ばれて、男の1人が前に出てきた。
「僕は剣も銃も、武器は何も持っていない!銃剣士ではない!」
 男が自分のことを必死に話す。
「確かに武器は持っていない。銃剣士ではないな・・よし、次だ。」
 グフナイトが呼びかけて、ザクナイトたちが人々のチェックを続けていく。
(大変だ・・調べられたら、僕はあの人たちにひどいことをされてしまう・・・!)
 自分は確実に捕まってしまうと思い、マーズが不安を覚える。
「次だ。そこのお前、出てこい。」
 ザクナイトが命令して、マーズが恐怖を募らせる。しかし呼ばれているのは彼ではなかった。
「どうした?早く出てこい!」
 ザクナイトが怒鳴るが、呼ばれているその青年は従わない。
「貴様、我々に歯向かう気か・・!?」
「さっさと前に出るんだよ!」
 ズゴックナイトがいら立ちを浮かべて、グフナイトの1人が青年を引っ張り出そうとした。
「ぬっ!?」
 しかしグフナイトはつかんでいる青年の腕を動かすことができない。
「なんて力だ・・ビクともしない・・・!」
「貴様!」
 グフナイトがうめき、ザクナイトが殴りかかろうとした。すると青年が跳んでザクナイトの拳をかわした。
「よけただと!?」
「間違いない・・この動き、銃剣士だぞ・・!」
 ザクナイトが驚愕して、ズゴックナイトが青年の正体に気付く。
「銃剣士は我々に従うか、死刑になるかのどちらかしかない・・大人しくついてこい!」
 ズゴックナイトが青年に向けて命令する。すると青年が1つため息をついた。
「オレはもう、誰の指図も受けるつもりはない・・オレを動かせるのは、オレだけだ・・」
 青年が低い声で言って、ザクナイトたちに反発する。
「我々に逆らうとは、実に愚かだな・・!」
「貴様を葬り、他の銃剣士への見せしめにしてくれる!」
 ザクナイトたちがいら立ちを浮かべて、青年に迫って取り囲む。
「力はあるようだが、数では勝てはしない!」
「これが分からないバカなら死ぬだけだぞ!大人しく言う通りにしろ!」
 ザクナイト、グフナイトたちがそれぞれ剣、銃を手にして構える。
「オレを倒そうとするなら、命を捨てる覚悟で来い・・」
 青年が低い声で言って、両手を強く握りしめる。
「いつまでもいい気になるな、小僧!」
「他の銃剣士への見せしめのため、貴様はここで死んでもらう!」
「オレたちに従わなかったことを後悔しながらあの世に逝け!」
 ザクナイト、グフナイト、ズゴックナイトたちが一斉に青年に飛び掛かる。青年が背中に背負っていた剣を手にして、力強く振りかざした。
 剣は身の丈近くあるもので、重量もある。その剣から炎のような光があふれて、刀身をさらに大きく見せていた。
(銃剣士の象徴である剣や銃といった武器・・でもあの人の剣は、ものすごく大きい・・・!)
 マーズが剣を構える青年を見て、戸惑いを覚える。
「ずい分と見栄を張っているもんだな・・!」
「そんな大きな剣なら、重さも相当のものだろう。そんなもの、ろくに振り回せるものか!」
「我々の連携と強さに敵いはしない!身の程を思い知れ、小僧が!」
 ザクナイト、グフナイト、ズゴックナイトたちがいら立ちを見せて、青年に向かって一斉に飛びかかる。青年が剣を振りかざして、ザクナイトたちを吹き飛ばした。
「何っ!?」
 他のザクナイトたちがこの瞬間を目の当たりにして驚愕する。
「どういうことだ!?あの剣を軽々と振っただと!?」
「コイツ、パワーはとんでもないぞ・・・!」
 グフナイトとズゴックナイトたちが脅威を覚えて、思わず後ずさりする。
「何をしている!?早くヤツを倒すんだ!」
 他のズゴックナイトが怒鳴って、ザクナイトたちが青年に飛び掛かる。
「力の差も理解できないのか・・」
 青年が呟いて、剣を再び振りかざす。ザクナイトたちが一閃で吹き飛ばされて、宙に跳ね上げられた。
「近づくこともできない・・何というパワーだ・・・!」
「貴様、何者だ!?ただの銃剣士ではないな!?」
 グフナイトが驚愕し、ズゴックナイトが青年を問い詰める。
「オレの名はリュウガ。この銃剣は“紅龍刃(こうりゅうじん)”だ。」
 青年、リュウガが名乗って、紅龍刃を構える。
「リュウガ・・紅龍刃・・まさか貴様、あの紅蓮の銃剣士か!?」
「紅蓮の銃剣士・・リュウガ・デスティニーガンダム・・・!?」
 ズゴックナイトたちがリュウガに対して驚きを隠せなくなる。
(紅蓮の銃剣士・・戦場を業火であふれた地獄に変えるという噂が絶えないと言われている、最強の銃剣士・・・!)
 マーズがリュウガの話を思い出して、緊張を膨らませる。
(追っ手の銃剣士がかわいく思えてしまうくらいだよ・・よりによって、あんなとんでもないのと一緒にいたなんて・・・!)
 この場もすぐに戦場になると思い、彼は絶望に襲われていた。
「でたらめだ!あの紅蓮の銃剣士が、力のないヤツらに紛れて行動している理由がないだろう!」
「しかし少なくとも、ヤツはただ者ではありません!我々をたやすく一掃するほどです・・!」
 ズゴックナイトが否定するが、ザクナイトがリュウガに脅威を感じて後ずさりする。
「これでも暗黒の銃剣士か!?銃剣士の拘束と処罰が我々の任務!従う以外にない!」
「そうだ・・この男を我らの軍門に下さなければ、我らの命がなくなるのだ!」
 ズゴックナイト、グフナイトがいきり立ち、リュウガに近づいていく。
「オレに関わるな・・少しでも生き延びたいならな・・・」
 リュウガが低い声で告げて、紅龍刃を動かす。
「ヤツにあの剣を振らせるな!その前に叩けばいいだけだ!」
 ズゴックナイトが命令してザクナイト、グフナイトたちがそれぞれ武器を手にして、リュウガ目がけて繰り出した。
「これで紅龍刃を振り下ろす前に、ヤツはこちらの剣を食らうことになる・・!」
 リュウガに攻撃を当てることができると思い、ズゴックナイトが笑みをこぼした。
 その直後、リュウガの繰り出した一閃が、グフナイトたちの攻撃よりも速く放たれた。
「何っ!?」
「があっ!」
 驚くグフナイトたちがリュウガに斬られて倒れた。
「バカな!?・・ヤツには付け入る隙もないというのか・・!?」
 ズゴックナイトもリュウガの力に気圧されて、無意識に体を震わせた。
「だが、ここで引き下がれば、処罰されるのは目に見えている・・・!」
 上官の命令は絶対だと自身に言い聞かせて、ズゴックナイトたちがリュウガに飛び掛かる。
「愚かな・・・」
 リュウガがため息をついて、剣を手にしたズゴックナイトに紅龍刃を振りかざす。
「ぐあっ!」
 ズゴックナイトが吹き飛ばされて、激しく地面を転がる。紅龍刃の一撃で、彼の剣が折れていた。
「オ、オレの剣が一撃で・・・!?」
 ズゴックナイトが恐怖して、鋭い視線を向けてくるリュウガから逃げ出す。
「う、動くな!」
 ズゴックナイトがマーズに近づいて捕まえて、折れた剣を近づけて人質にした。
「すぐに武器を捨てて我々に従え!さもないとコイツの命はないぞ!」
「あ・・ぁぁぁ・・・!」
 ズゴックナイトがリュウガを脅して、マーズが緊迫を募らせる。
「ひ、人質を取った・・・!」
「しかし、銃剣士には逆らえない・・・!」
 周りにいた人は恐怖して、ズゴックナイトから離れて、マーズを助けようとしない。
「他のヤツは利口のようだ・・お前も武器を捨てて投降するんだ!」
 ズゴックナイトが人々を見て笑みを浮かべてから、リュウガに警告する。マーズは恐怖を膨らませて、言葉が出なくなっていた。
 しかしリュウガは紅龍刃を捨てず、構えて切っ先をズゴックナイトに向けた。
「貴様、聞こえないのか!?これが見えないのか!?従わなければコイツが死ぬと言っているのだぞ!」
「そいつとは何の関わりもない。そいつを助けるためにお前たちに従う理由はない。」
 怒鳴るズゴックナイトに、リュウガが冷徹に言い返す。
「正気か!?そんなにコイツが死んでもいいなら、望み通りに・・!」
 ズゴックナイトがいきり立ち、マーズに剣を当てようとした。その瞬間、紅龍刃の先からビームが放たれ、ズゴックナイトの持つ剣と腕に当たった。
「があっ!」
 剣を弾かれた上にその腕にも痺れが起きて、ズゴックナイトが顔を歪める。傷つくことなく解放されたマーズが、とっさに彼から離れた。
「だが、お前のような卑怯なやり方を見せられると、実に不愉快だ・・・!」
 リュウガが目つきを鋭くして、紅龍刃からさらにビームを放つ。紅龍刃は剣だけでなく、銃砲としても使える武器である。
「何もしなければ見逃すつもりだったが・・お前のようなヤツは、この世界から消えろ・・・!」
 リュウガが紅龍刃からビームを放って、ズゴックナイトの体を貫いた。
「がはあっ!」
 ズゴックナイトが絶叫を上げて、仰向けに倒れた。致命傷を負った彼に、リュウガが近づいてきた。
「なぜ貴様が我々に逆らう!?・・そんなことをすれば、あの方々が黙っていないぞ・・・!」
 ズゴックナイトが顔を上げて、声を振り絞る。
「あの方々?・・暗黒の銃剣士の支配者か・・・!?」
 リュウガが目を見開いて、彼を問い詰める。
「そうだ・・たとえ貴様でも、暗黒の銃剣士の支配者と戦力には遠く及ばん・・たとえ貴様に敗れても、あの方々の命令に背くことは決してできん・・・!」
 ズゴックナイトがリュウガに向けて笑い声を上げる。リュウガが憎悪を募らせて、紅龍刃をズゴックナイトに突き立てた。
 ズゴックナイトが命を失い、動かなくなった。
「や、やりやがった・・・!」
「コイツ、本気で我々に逆らうつもりか・・・!?」
 残りのザクナイト、グフナイトたちがリュウガに対して息を呑む。
「オレたちももう戻れない・・失敗して戻れば、処罰されるだけだ・・・!」
「逃げるんだ・・逃げるしかない!」
 絶望したザクナイトたちがリュウガから逃げ出していった。
「なんてことだ・・暗黒の銃剣士の怒りを買うようなことを・・・!」
 戻ってきた人々がリュウガの行為に対して不安を見せてきた。
「連中はオレたちも反逆者だと見て、もっと強い戦力で攻めてくるぞ!」
「ダメだ、もう・・私たちは確実に殺される・・・!」
 人々も暗黒の銃剣士に狙われると思い、恐怖をあらわにする。
「やめろ、みんな!彼は最狂の銃剣士だ!手向かえば殺される!」
 他の人がリュウガを恐れて呼びかける。彼らがリュウガから次々に離れていく。
 その中でマーズだけが逃げずに、リュウガのそばに残った。
「お・・・お願いします・・あなたについていきたいんです・・!」
 マーズが震えながら、リュウガに近づいてお願いをしてきた。
「あなたと一緒にいれば、僕も強くなれる・・そう思ったんです・・・!」
「お前、強くなりたいのか・・?」
 自分の考えを言うマーズに、リュウガが問いかける。
「ならば他を当たるんだな。オレはオレだけで戦いを続けていくつもりだ。それも、お前が想像しているよりも危険な戦いをだ・・オレについていけば、強くなるどころか、すぐに死ぬことになるぞ。」
「このまま逃げても、今回みたいに襲われて捕まって、最後に死ぬことになる・・どのみち死ぬんだったら、強くなれる可能性に賭けたほうがいい・・あなたを見て、そう思ったんです・・・!」
 忠告をするリュウガに、マーズが今の本心を口にする。マーズは強いリュウガに心を動かされていた。
「ならばお前に言う。オレはある2人の男への復讐を考えている。オレと友を欺き、友を手に掛けた・・ヤツらを倒すことが、オレの目的だ・・」
「復讐・・その相手が、暗黒の銃剣士の中にいるのですか・・・?」
「あぁ。野心のためにオレたちを裏切り、地獄に叩き落とした罪は重い・・・!」
「その敵を討つために戦う・・そのためなら手段を選ばないと・・」
 リュウガの話を聞いて、マーズは彼が確実に戦いの中心に身を置く覚悟を持っていることを痛感する。
「仮にも銃剣士ならば覚えておくことだ・・戦いは思っている以上に甘くはない・・特にオレの戦いは・・・」
 リュウガはマーズに警告して、1人歩き出す。
「でもあなたが、僕の分かっている中で唯一の希望です!世界中で争いを引き起こしている暗黒の銃剣士を倒す希望です!」
 マーズが感情を込めて、リュウガに信頼を寄せた。
「オレに希望を託してもムダだ。オレはお前たちと何の関わりも持っていない。お前が捕まったことも殺されそうになったことも気にしていないヤツに、全てを任せるな・・」
「それでも僕はあなたに賭けたい・・僕自身も強くなって、叶うなら、僕がこの戦いを終わらせたい・・・!」
 冷たくあしらうリュウガを追いかけて、マーズが本心を言う。リュウガと出会ったことで、マーズは戦いを止める決意が芽生えていた。
「オレは誰も助けるつもりはない・・それでもいいなら勝手にしろ・・だが邪魔をするなら容赦なく斬り捨てる・・」
 リュウガが言葉を返して、マーズが笑みをこぼす。町を離れるリュウガに、マーズがついていった。

 

 

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