GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-49「シン」

 

 

 デスティニーとフリーダムの損傷は、ルナマリアたちも確認していた。それでも戦闘力が衰えない2機に、彼女たちは驚くばかりだった。

「シンさん・・キラも、あんな状態になっても戦っている・・・!」

「あれでも、援護に行くことができない・・逆にシンさんの足を引っ張ることになる・・・!」

 ソラとハルがシンたちの攻防を見つめて、緊張を募らせる。

「信じるしかない・・シンが勝つって・・・」

 ルナマリアがシンへの信頼を口にする。

「ルナマリアさん・・シンさんだけです・・キラを倒すことができるのは・・・!」

 彼女の言葉を受けて、ソラが小さく頷いた。ハルもブラッドもシンを信じていた。

 

 プラント周辺に展開しているザフト部隊が、防衛線の確認を取る。

「ビームやデブリが飛び火してくる可能性がある!絶対にプラントへの直撃を阻止しろ!」

 部隊の指揮官がパイロットたちに指示を出す。

「デスティニーの救援にも手を回したほうが・・!」

「ダメだ!我々が手を出しても足手まといになる!命取りになりかねないぞ!」

「しかし、このまま手をこまねいているようなこと・・・!」

「託すしかない・・ザフトが開発し、さらに進化を遂げたデスティニーを・・その力を強固な意思で振るうシン・アスカを・・・!」

 声を荒げるパイロットたちに、隊長が呼びかける。彼はシンに全てを託すしかないと思っていた。

 

 満身創痍に陥るデスティニーとフリーダム。シンもキラも精神が限界に達していたが、退こうとしない。

(オレは戦う・・戦いのない世界を取り戻すために・・たとえアンタが、何度オレの前に出てきても・・・!)

 シンが戦意を強めたまま、キラを、フリーダムを見据える。

(アンタはいつも、オレの前にいた・・アンタはオレたちにも、悲劇を振りまいていた・・・!)

 シンの脳裏に、これまでの自分の記憶がよみがえってくる。

 オーブで家族とともに平穏に暮らしていたシン。オーブが、家族が戦火に巻き込まれた戦場に、キラの駆るフリーダムはいた。

 戦いのない世界のためにザフトに入って戦いを続けていたときにも、フリーダムが立ちはだかった。

 そして、自分が守ろうとしたステラを手にかけたのも、キラとフリーダムだった。

 フリーダムの怒りを強めたシン。戦闘シュミレーションを重ねたシンのインパルスが、フリーダムを貫き打ち倒した。

 だがフリーダムは新たな姿と力となって、またもシンの前に立ちふさがった。

 1度はキラに屈したシンだが、新たに決意を固めて挑むことを心に決めた。

 シンはルナマリア、ソラたちと力を合わせて、オーブを、クライン派を、そしてキラを討った。

 しかしキラは生きていた。瀕死の重傷から復活を果たし、世界を滅ぼそうとする破壊の使者となって。

(何度現れても、オレはもうアンタに屈しない・・この先アンタが何度立ちふさがろうと、オレは戦い続ける・・この戦いの運命を、オレは受け入れる!)

「オレ自身の意思で!」

 シンが声を振り絞り、デスティニーがビームソードを構えて飛びかかる。フリーダムもビームサーベルを手にして、デスティニーが振りかざすビームソードとぶつけ合う。

「僕は全てを滅ぼす・・僕の大切な人を奪った全てを・・・!」

 世界への憎悪を募らせるキラ。フリーダムとデスティニーがさらにビームサーベルとビームソードをぶつけ合い、衝撃で互いに突き飛ばされる。

 フリーダムが残された全ての銃砲を展開して一斉発射する。デスティニーはスピードを上げて、ビームをかいくぐる。

 詰め寄ろうとするデスティニーに対し、フリーダムは距離を取って射撃、砲撃を狙う。

「逃がさない!アンタの暴挙を、オレがここで終わらせる!」

「僕は終わらない・・終わるのはお前たち・・この世界だ・・!」

 強い意思と敵意をぶつけ合うシンとキラ。デスティニーがスピードを上げて、フリーダムとの距離を詰めようとする。

(オレはもう、大切な人を失いたくない・・今のこの世界を、みんなを守るために・・・!)

「オレは戦う!戦い続ける!その運命を、オレ自身の意思で受け入れる!」

 シンが言い放ち、デスティニーがさらにスピードを上げてフリーダムに迫る。デスティニーが振りかざしたビームソードを、フリーダムが正確にかわす。

「お前が僕たちの全てを奪った・・たとえ世界を壊すことができなくても、お前だけは僕が討つ・・・!」

「オレはアンタにはやられない!オレには大切なものと、自ら背負った使命がある!」

 憎悪を募らせるキラにシンも言い放つ。フリーダムが放つビームを、デスティニーがかいくぐり突っ込む。

「シン・・お前だけは、僕が必ず!」

 キラが声を振り絞り、フリーダムが両手でそれぞれビームサーベルを握る。

「何度でも、オレはアンタを倒して、戦いのない世界を取り戻す!」

 シンも言い放ち、デスティニーがビームソードを構えて飛び込む。フリーダムが残された全ての銃砲を発射してビームを放つ。

 デスティニーは高速で飛び込み、ビームをかいくぐる。

「今度は逃がさない!」

 シンが言い放ち、デスティニーがビームをかいくぐり突っ込む。デスティニーが突き出したビームソードが、フリーダムに迫る。

「絶対に倒す・・お前は、この手で!」

 デスティニーのビームソードが捉える瞬間、フリーダムがビームサーベルを突き出した。ビームソードとビームサーベルが互いに命中する。

 ビームソードはフリーダムの胴体を、ビームサーベルはデスティニーの頭部と左わき腹を貫いていた。

 2機のビームとエネルギーの閃光が2機自身を、そして周辺の宙域をも包み込んだ。

 

 光の粒子で満ちあふれた精神世界。その空間の真っ只中で、シンとキラは向かい合っていた。

「キラ・・・!」

「シン・・・!」

 互いの姿を視認するシンとキラ。2人は互いに向けて鋭い視線を向け合う。

「全てはアンタが、オレの全てを奪ったことから始まった・・しかもアンタは戦いを繰り返して、自分を押し付け続けていった・・・!」

「それでも僕は、戦いを止めないとって思った・・僕がやるしかないと思って・・・」

「それでオレや他のヤツの命や、大切なものを奪っていいことにならない・・・!」

「それでも僕は、戦いを止めるために・・・!」

「そのつもりでいるアンタは、戦いを生み出す敵になってしまったんだよ・・・!」

 言い返そうとするキラに、シンが強い意思を持って言い放つ。

「オレは戦う・・アンタのような世界の敵と・・アンタが何度出てきても、オレが何度でも倒す・・!」

 シンが決意を口にして、右手を強く握りしめる。

「オレは、オレの意思で・・戦う運命を受け入れる!」

 シンが飛びかかり、キラに拳を叩き込んだ。その瞬間、キラは自分の何かが壊れたような感覚を覚えた。

「こ・・これが・・お前の、感情・・・」

 シンの意思と決意を痛感して、キラが揺さぶられる。

「君の全てを・・ううん・・この世界の全てを壊したのは・・僕だった・・・」

 絶望に襲われていくキラが、シンから離れていく。

「アンタがまた現れても、オレは何度でもアンタを倒す・・オレが戦い続ける限り、アンタの思い通りにはさせない・・・!」

 揺るぎない決意を口にするシンから、キラは力なく遠ざかっていった。

(みんな・・・僕は・・僕のわがままを押し付けていた・・だから僕は・・僕の思い通りにはならない・・・)

 キラの脳裏に、アスランたち仲間たちとこれまでの自分の思い出と戦いがよみがえってくる。しかし自分がしてきた全てが自分たちの破滅と全ての混乱を招いたことを、キラは思い知らされていた。

(もう、僕の居場所は・・どこにもない・・・)

 完全に絶望感に包まれたキラは、霧散するように消えていった。

 

 シンのデスティニーとキラのフリーダムの激突と、爆発の閃光。まばゆい光と衝撃を、ルナマリアたちも痛感していた。

「シンさん・・シンさん!」

 閃光の中に消えたシンに、ソラが叫び声を上げる。

「シンくんの、デスティニーの消息は!?

「捜索しています!まだ発見できません!」

 ミーナが呼びかけて、マイが答える。マイは必死にレーダーを注視して、デスティニーを探す。

「私たち、探してみます!ハル、行こう!」

「うん!」

 ソラが呼びかけて、ハルが答える。ファルコンがデスティニーを探しに動き出す。

「私も行くわ、2人とも!」

「オレはこの周辺を回ってみる。3人とも気を付けろ。」

 ソラたちに呼びかけるルナマリアに、ブラッドが言いかける。

「分かった!ここをお願い!」

 ルナマリアが答えて、インパルスがファルコンを追う形でデスティニーを探しに向かった。

「他の部隊にも、警戒を怠らないように伝えて・・!」

「は、はい!」

 ミーナがさらに呼びかけて、マイが他の部隊や艦に通信を送った。

 

 デスティニーの行方を追って、ルナマリアのインパルスとソラ、ハルのファルコンが宙域を進行する。

「シン・・どこ!?・・どこにいるの・・・!?

 ルナマリアが必死の思いでシンを探し続ける。

「デスティニーは高い動力を備えているMS・・たとえシンさんが気絶していても、遠すぎなければデスティニーの反応がつかめないことはない・・!」

「あの爆発でも、そんなに遠くまで飛ばされるわけがない・・シンさんはきっと、この近くにいる!」

 ハルとソラが言葉を交わして、シンとデスティニーを探す。

「シン、これからでしょ・・シンはこれから戦い続ける運命を選んだんでしょ・・だから、こんなところで死ぬはずないでしょ・・・!」

 ルナマリアが捜索を続けながら、シンへの想いを膨らませていく。

「だから絶対に戻ってきて・・どこまでやれるか分かんないけど、私も、シンの力になりたい・・・!」

 ルナマリアもこれからもシンを支えたいと考えていた。たとえそれがシンと同じく、自分が救われることのない道だとしても。

「必ずこの辺りのどこかに・・必ずいる・・・!」

「シンさん、どこなんですかー!?応答してください!」

 ソラも思いを口にして、ハルがさらに声を張り上げる。

「あっ!・・この反応・・デスティニー!」

 ハルがレーダーにデスティニーの反応を確かめて、声を上げる。

「どこ!?ハル、どこ!?

 ソラが声を上げて、ルナマリアとともにレーダーと周辺に目を向ける。インパルスのレーダーにもデスティニーの反応が映った。

「気を付けて、2人とも・・フリーダムの反応はないけど、生き延びているかもしれない・・・!」

「はい・・注意します・・・!」

「分かりました・・・!」

 ルナマリアが呼びかけて、ソラとハルが答える。インパルスとファルコンが反応のしたほうに向かう。

 2機が来たのはデスティニーとフリーダムが最後に激突した地点から離れていた。

「ここまで飛ばされたってこと・・・!?

「あの爆発、相当なものだったから・・・」

 ソラが声を上げて、ハルが言いかけて周りを見回す。

「シン・・・シン!」

 ルナマリアが目を見開いて叫ぶ。彼女の目がデスティニーの姿を捉えた。

「シン、大丈夫!?返事をして、シン!」

 ルナマリアが呼びかけるが、シンから返事がない。インパルスが損傷しているデスティニーに近寄る。

(デスティニーは、手足と頭部が損傷しているけど、ボディはまだ・・!)

 シンが無事だと信じるルナマリア。インパルスのコックピットから出て、彼女は外からデスティニーのコックピットのハッチを開ける。

 コックピットにはシンがいた。外傷は見られなかったが、彼は意識を失っていて動かない。

「シン!しっかりして、シン!」

 ルナマリアがシンに寄り添って呼びかける。するとシンが唇を震わせて、声を発した。

「シン・・早く連れて行かないと・・・!」

「ルナマリアさん!」

 意を決するルナマリアに、ソラの声が飛び込んできた。ファルコンもインパルスとデスティニーのそばに駆けつけてきた。

「シンさんは大丈夫なんですか!?

「大丈夫!私の声に反応しているわ!」

 ソラが呼びかけて、ルナマリアが答える。

「このままデスティニーごとシンを連れていくわ・・!」

「分かりました!このままミネルバへ・・!」

 ルナマリアが声をかけて、ハルが答える。インパルスとファルコンをデスティニーを抱えて、ミネルバに向かっていく。

「ミネルバ、デスティニーを発見しました!そちらへ帰艦します!医療班に準備をお願いします!」

“ホーク隊長!・・はい!直ちに連絡します!”

 ルナマリアが呼びかけて、マイが喜びを込めて返答する。

「シン、帰ろう・・ミネルバに・・プラントに・・・」

「シンさん・・戻ってきてくれて・・よかった・・・」

 ルナマリアが優しく声をかけて、ソラもシンの無事に安堵を感じていく。インパルスたちがミネルバに戻り、着艦した。

 ドックに駆けつけていた救護班が搬送の準備を整える中、ルナマリアがデスティニーのハッチを開けて、シンを出す。

「すぐに応急処置を!絶対に死なせないで!」

「はい!」

 ルナマリアの呼びかけに、救護班の1人が答える。救護班はシンを医務室に連れていく。

「アテナ、あなたもミネルバに戻って。プラントに戻るわ。」

“分かったわ、リアス艦長・・”

 ミーナが呼びかけてアテナが答える。クレッセントもミネルバに着艦した。

“ブラッドもミネルバに乗せてもらえないか?オレたちは少し見回りをしてみるぞ。”

 ネフィリムにいるドギーがミーナに呼びかけてきた。ジャッジもゆっくりとミネルバに着艦した。

「すまない・・ジャッジは負傷しているが、オレは何ともない・・」

「念のためです。チェックだけでも受けてください・・」

 ジャッジから出てきたブラッドに、医務官が注意を入れる。ブラッドは頷いて、シンに続く形で医務室に向かった。

「ミネルバ、プラントに向けて発進。」

 ミーナの指示の下、ミネルバがプラントに向けて進行した。その最中も、シンたちは医務室にて療養を受けていた。

 

 ネフィリムやザフトの他の艦隊はその後も戦場の宙域に残り、捜索を行った。キラ生存の可能性を否定できず、他の生存者がいることも想定してのものだった。

 宙域に放り出されたパイロットやクルーは数名見つかった。しかしそのいずれもが死亡していた。

 フリーダムもキラの姿も、ドギーたちは見つけることができなかった。

「生存者、見つからず、か・・味方も敵も・・」

 人が見つからなかった事態に、ドギーが肩を落とす。

「偽物の平和を振りかざしていたヤツらは、今度こそ滅んだってことか・・やっと、オレたちが望んでた平和を取り戻せたんだな・・」

 戦いが終わり本当の平和が戻ったことを、ドギーは実感していた。

「何もかも消えちまったら、死んだかどうかもハッキリしないんだろうな・・あのとき、キラ・ヤマトが完全に消えたのを、ハッキリ見えてなかったんだが・・」

「ドギー、もうよそうぜ。これ以上探るのも勘繰るのも・・」

 呟きかけるドギーに、クルーが呼びかけてきた。

「そうだな・・オレたちもいったん出直しだ。プラントに戻るぞ。」

「了解!」

 ドギーの呼びかけにクルーたちが答える。ネフィリムもプラントに向けて引き返した。

 

 

次回予告

 

真の平和が戻っても、安息が訪れても、シンの戦いは終わらない。

平和のために終わりのない戦いに身を投じる。

戦いの運命を自らの意思で受け入れたシン。

その先にあるのは、果たして・・・

 

次回・「運命の未来」

 

平和の宇宙(そら)へ、飛べ、ガンダム!

 

 

作品集

 

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