GUNDAM WAR -Mark&Ark-
FINAL PHASE「運命の未来」
キラとの戦いは終わった。
ミネルバがプラントに戻り、シンは医療施設に運ばれた。彼の体に重傷はなく、すぐに病室での安静を過ごすことになった。
「シン・・・」
病室にいたルナマリアとソラがシンの身を案じる。その病室にハルとブラッドもやってきた。
「ハル・・・」
「もう1度戦いの場となった宙域を捜索したけど、何の異常もなかった・・」
声をかけたソラに、ハルが説明をする。
「フリーダムやキラ・ヤマトが生き延びた形跡は今までで見つかっていない・・シンが確実に仕留めたと見てもいいのね・・」
ルナマリアが戦況を思い返して、キラのことを考えていく。
(シン・・今度こそ・・今度こそキラを倒したのね・・あなた自身の意思で、あなたの力で・・・)
シンが自分の意思で自分の進む道を選び、自分の力で倒すべき相手を見出して倒したと、ルナマリアは実感していた。
そのとき、眠りについていたシンがゆっくりと目を開いた。
「シン!」
「えっ!?」
ルナマリアが声を上げて、ソラとハルが驚きを覚える。
「シン、大丈夫!?ここはプラントの医療施設よ!」
「プラント・・・フリーダムは・・キラはどうなった・・・!?」
ルナマリアの声に答えて、シンが周りを見回す。
「あなたが倒したわ、シン・・何度も戦場となった宙域を捜索したけど、キラは見つからない・・・」
「そうか・・遺体も手がかりも見つかってないか・・・」
ルナマリアから話を聞いて、シンが安堵とも不安ともいえない複雑な気分を感じていた。
「シンさんはもう少し休んでいてください。プラントも地球も宇宙も、騒動が落ち着いてきていますし、私たちだけでも何とかできます・・」
ソラが微笑んでシンに言いかける。
「だけど・・・」
「戦いをなくしたい、みんなを守りたいって気持ちは、私たちにもあります。シンさんが戻ってくるのは、体を治して休んでからです。」
言葉を返すシンをソラが呼び止める。ハルもソラと一緒にシンに微笑みかけていた。
「ここはあなたの負けね、シン。少し病室でおとなしくしてて・・」
「ルナ・・分かった。何かあったら呼んでくれ。そのときは今度こそ行くからな・・」
ルナマリアにも言われて、シンは彼女たちの思いを受け入れることにした。
「では私たちは行きます。また戻って来たときに会いに来ます・・」
ソラがシンに挨拶をして、ハルとともに病室を出た。ルナマリアも続けて病室を出ようとした。
そのとき、ソラたちと入れ違いにアテナがやってきた。
「アテナ・・シンの意識が戻ったわ・・」
「シン・・・!」
ルナマリアから話を聞いて、アテナがシンを見つめて戸惑いを浮かべる。
「目が覚めたのね・・よかった・・・」
「アテナ、生きててくれたのか・・よかった・・・」
互いの無事を目の当たりにして、アテナとシン。アテナが歩み寄り、シンと手を取り合って握手を交わした。
「シンのおかげで、私は長らえることができた。戦いにも、生活にも生き延びることが・・」
「アテナ・・君がこうして生きていてくれて、よかった・・・」
感謝するアテナにシンが安堵の笑みをこぼす。しかしすぐにアテナの表情が曇った。
「それでも、私の命は長くない・・近いうちに、私は死を迎えることになる・・・」
「アテナ・・・」
自分の胸に手を当てるアテナに、シンも沈痛さを感じていく。
ソルネの手術によって、エクステンデッドの呪縛から解放されたアテナ。それでも薬の投与によって縮まった寿命を常人に戻すことはできない。
「私は残りのわずかな命を、精一杯生きる・・心を通わすことができる、あなたたちと一緒に・・・」
「アテナ・・先のことは分かんないけど、寿命が近いなんて思わないでくれ・・生き抜くことを、これからもずっと平和に暮らしていくことを考えてほしい・・・」
「シン・・・そうね・・極力気にしないようにして、これからの平和を生きていく・・戦いのない、この平和を・・・」
シンに励まされて、アテナが微笑んで頷いた。
「私もソラたちも、あなたをサポートするからね。ソラもアンジュもあなたを招待したいと言っているそうね。」
ルナマリアもアテナに励ましの言葉を送る。
「うん・・みんなには感謝しても足りないほどよ・・本当にありがとう、みんな・・・」
心からの感謝を浮かべて、アテナが目から涙をあふれさせる。
「私はブルースカイ家に戻るわ。私もルナマリアたちと一緒にプラントの周辺宙域の警備に出ることになるけど・・」
「改めてよろしくね、アテナ。そして必ず、無事に戻りましょう。」
アテナとルナマリアが話を交わして、握手をして思いを分かち合う。2人やみんなが幸せを感じていることに、シンも安らぎを感じていた。
「それじゃシン、また来るからね・・」
「あぁ・・オレもしっかり休んで、戻るからな・・」
声をかけ合い微笑むルナマリアとシン。ルナマリアとアテナがシンの病室を後にした。
(オレ、実現できたのかな・・本当の、戦いのない世界を・・・)
病室で1人きりになったところで、シンが心の中で自分の思いを確かめる。
(たとえ終わっていなくても、オレは戦い続ける・・戦いを起こそうとする敵と、オレは戦い続ける・・・)
“それを自ら選んだ、か・・”
シンは耳に声が入ってきた。彼の視界にはレイの幻が映っていた。
「レイ・・・」
一瞬戸惑いを浮かべたシンだが、すぐに落ち着いて頷いた。
「ゴメン、レイ・・お前やデュランダル議長の考えに逆らうことになって・・・」
“これがお前が選択した、戦いのない世界への道なのだろう?なら気を遣うことはない・・このまま、お前の信じる道を進んでいけばいい・・”
謝るシンにレイが微笑みかける。
“オレは未来を目指そうとしなかったが、お前はお前の未来を選んだ。世界のために、平和のために戦いを続ける道を・・・”
「レイ・・・」
“お前が選び進んでいく道を、オレは信じる。そして、彼女も・・”
戸惑いを感じているシンに自分の思いを告げるレイ。彼の隣に現れたのは、ステラの幻だった。
“シン・・”
「ステラ・・・!」
微笑みかけてくるステラに、シンが戸惑いを募らせる。
“シンも、見つけた・・明日を・・ホントの明日を・・”
「ステラ・・ステラの明日を、オレは守れなかった・・オレにもっと力があれば・・・」
“ううん・・ステラも、明日、見つけた・・シンの明日、ステラも見守る・・・”
「オレの明日が、ステラの明日か・・ありがとう、ステラ・・・」
思いを口にするステラに、シンが微笑んで感謝した。
“シン、お前の目指す未来、見守っていくぞ・・・”
“シン・・みんな、一緒・・・”
レイとステラがシンたちと世界の未来を確信して、姿を消した。
(オレは戦う・・オレがあらゆる戦いを止める・・オレのこの手で・・この力で・・・)
強固な決意を胸に秘めて、シンは再びベッドに横たわった。
療養を終えたとき、新たな戦いに身を投じることになる。シンはその決意を自ら決めていた。
ルナマリアたちリアス隊を中心として、プラント、地球、その周辺の宙域の警護が続けられた。しかしこれ以上の生存者は発見されず、戦闘行為も見られなかった。
そしてキラとの戦いが終わって数日後。シンが療養を終えてルナマリアと合流して、警備に当たった。
シンたちの勝利で戦いのない世界が確立に向かっていた。ところがプラントによる平和を快く思わない者、キラやラクスの意向に賛同している者が、反発のための準備を整えようとしていた。
しかしアンジュたちブルースカイ家が監視と警戒の目を光らせていた。
シン、ルナマリア、ブラッドの乗るデスティニー、インパルス、ジャッジがデブリ帯の奥のターミナルに近づいた。
「ザフト!?なぜこの場所が!?」
反プラント派のメンバーたちが、シンたちに居場所を突き止められたことに驚愕する。
「お前たちの企みは、徹底してオレたちが潰す。これ以上、平和を壊す戦いを起こさせるものか・・!」
ブラッドがメンバーたちに向けて、揺るぎない意思を口にする。
「このまま・・こんなことで終わってなるものか・・・!」
メンバーたちが抵抗の意思を見せて、発砲しながら逃走を図る。
「どこまでも平和を壊そうとして・・・!」
シンが目つきを鋭くして、デスティニーがビームライフルを発射した。ビームと爆発にメンバーたちが巻き込まれた。
「こちらの指示に従うなら、これ以上の攻撃はしないわ・・・!」
ルナマリアもメンバーたちに忠告を送る。しかしそれでもメンバーたちは従わない。
「死んだほうがマシだっていうのか・・そうやって命を奪っていくのか、お前たちは・・自分の命さえも・・・!」
シンが憤りを噛みしめて、デスティニーが右手を突き出して、パルマフィオキーナでメンバーたちを吹き飛ばした。
「お前たちのようなヤツらの身勝手で殺された人がいる・・生きたくても生きられない命もある・・だから、死んだほうがマシだなんて考え、起こすんじゃない・・・!」
メンバーたちに対する歯がゆさを募らせるシン。
「何も悪くない人が傷つかないようにするために、オレが戦いを受け入れる・・オレが平和のために、戦い続ける・・・」
「シン・・・」
決意を口にするシンに、ルナマリアが戸惑いを感じていく。
「戻ろう。みんなが待ってる・・」
シンがルナマリアたちに呼びかけたときだった。デスティニーにソラからの連絡が入った。
“クライン派に賛同する人たちが潜んでいました!今の居場所も発見しました!”
「分かった。すぐに戻る・・」
ソラからの報告を受けてシンが答える。デスティニーたちがミネルバに帰艦し、ミネルバがプラントに戻っていった。
アンジュたちブルースカイ家の調査により、プラント評議会やザフトに紛れていたクライン派残党の正体が暴かれ、包囲された。
「まだだ・・我々はまだ、こんなところで倒れるわけには・・・!」
追い込まれたクライン派のメンバーが打開の糸口を探る。
「あなたたちの思い通りにはさせません!あなたたちは正義や平和を語って、自分たちの力を見せつけて押し付ける実力行使を繰り返してきました!その暴挙、野放しはしません!」
アンジュがメンバーたちに向けて言い放つ。ソラとハルも来て、メンバーたちを見据える。
「私たちは戦い続ける・・戦いを終わらせて平和を取り戻したいっていう気持ちは、みんな同じはずだから・・」
揺るぎない意思をくちにするソラ。
「分かち合おうとせずに自分たちの思い通りにして、戦いを起こしたり平和を壊そうとしたりする人たちと、僕たちは戦う・・・!」
「もうあなたたちに、プラントも地球も思い通りにはさせない!」
ハルとソラが言い放つと、アンジュがメンバーたちを連行する。
「攻撃を仕掛けなければ、殺害はしません。なのでこちらの指示に従ってください。」
アンジュが忠告して、メンバーたちを連れてこの場を後にした。その直後、ソラとハルがミネルバがプラントに戻るのを目にした。
「丁度戻ってきたみたいだね、シンさん。」
「うん・・」
ハルが声をかけて、ソラが頷く。2人も歩き出して、入港したミネルバに向かった。
ミネルバから降りてきたシン、ルナマリア、ブラッドに、ソラとハルが駆けつけた。
「クライン派の残党は今、アンジュが連れて行きました。」
「これで戦いの世界に近づいていくのね・・私たちが、その世界を導き出す・・」
ソラが報告して、ルナマリアが小さく頷いた。
(オレはこれからも戦い続ける。オレが戦いを起こそうとするものを倒す・・)
シンが心の中で決意を呟いていく。
(たとえオレがこの先にどうなるとしても、戦いを終わらせるためなら・・オレ自身で決めたんだ。この運命を背負う、この選択を・・)
戦いの運命を背に受けて、シンは決意を固める。
戦いのない世界のために、自分に安息が訪れることがなくても構わない。今のシンに後悔も迷いもなかった。
それからシンたちの行動により、戦争は終息に向かい、反乱も沈静化に向かっていた。
キラとの戦いが終わってから半年がたった。
ソラとハルはアンジュとともにブルースカイ家に戻っていた。アンジュがソラたちに紅茶とケーキを用意する。
「ありがとうございます、アンジュさん。」
「お嬢様もハルさんもお疲れ様です。何かあれば連絡しますので、どうぞおくつろぎください。」
感謝するハルに答えて、アンジュは一礼してから部屋を出た。2人きりになったところで、ソラとハルが顔を見合わせた。
「アテナさん、これで幸せだったのかな・・・?」
ハルが切り出した話を受けて、ソラも表情を曇らせる。
この2週間前にアテナは亡くなった。戦いから遠ざかっていたアテナは、穏やかな時の中で息を引き取った。
アテナは戦いの悲劇も後悔も感じていなかった。彼女は残された命を精一杯生き抜いた。
アテナの生涯は幸せのまま終えたと、シンたちは思っていた。
「幸せだったよ・・そうじゃなかったら、最後に笑ってなんていられないはずだよ・・・」
「うん・・シンさんもルナマリアさんもそう思っていたし・・・」
ソラの言葉を受けて、ハルが小さく頷いた。
「戦いは終わったんだ・・アテナさんは、戦いのない世界の中で、平和に過ごせたんだ・・・」
「シンさんがアテナさんを救った・・シンさんの願いが、実現したんだよ・・」
「アテナさんも僕たちも、シンさんを支えることができた・・・」
「長く続いていたあの偽物の平和を、私たちが止めたんだよ・・・」
ハルと言葉を交わして、ソラが立ち上がり、彼を抱きしめてきた。2人は自分たちだけの幸せも芽生えていることを実感していた。
「シンさんとルナマリアさんは、まだ戦いを続けているのかな・・戦いのない世界を守るために・・・」
「私たちも、シンさんたちと合流するよ。私たちだって、シンさんを支えることができるんだから・・」
呟きかけるハルにソラが微笑みかける。2人は想いに背中を押されるように、唇を重ねた。
(私たちだって守れる・・この世界を、みんなの平和を・・・)
自分たちにも力がある、本当の平和が訪れて揺るがないものとなった。長く抱いていた願いが叶ったと、ソラは思っていた。
そして自分とハルが幸せをつかんだことも。
シンとルナマリアはオーブの慰霊碑を訪れていた。
オーブはザフトの攻撃で中立国、国家としての機能が壊滅的になっている。無法地帯と化してもおかしくない状態にあったが、国内や周辺でも争いは起こっていない。
「また、ここに来れるとは・・・」
シンが慰霊碑を見つめて呟く。
「ここでオレはアイツを出会って、アイツに何もかも縛られた・・でも今は、オレはアイツを振り切った・・・」
「キラ・・ラクス・・あの人たちね・・・」
慰霊碑にてキラと対面したときのことを思い返すシンに、ルナマリアが戸惑いを見せる。
「オレは最初、アイツに言った。“いくらきれいに花が咲いても、人はまた吹き飛ばす”と・・そしてアイツはオレに言った。“いくら吹き飛ばされても花を植える”と・・」
自分とキラの言葉を思い出していくシン。
「だがそれは結局きれいごとだ・・自分たちの勝手を押し付けるための・・・そんなことを受け入れたらダメなんだ・・」
「シン・・・」
「花が吹き飛ばされることのない、荒らされない世界を作らないといけない・・花が枯れるまで咲き続けられる、平和の世界を・・・」
シンの決意を聞いて、ルナマリアも真剣な面持ちで頷く。
「その平和のための戦いを選んだ・・シンも、私も・・・」
「そして最終的に、オレが救われないことになったとしても・・・」
ルナマリアの言葉に頷いて、シンが慰霊碑に背を向ける。
「迷いも後悔もない・・オレが自分で選んだ選択だから・・・」
自分の意思と決意を貫くシンが、1人歩き出す。
今の世界を守らなければ未来はない。過去を切り捨てては今も未来も守れない。
まして理屈をこねて自分を押し通したところで、本当の平和は訪れない。明確な信念と覚悟を持たなければならない。
シンの意思と決意、覚悟は確立していた。
「オレは戦う。戦い続ける・・そして必ず生きて、ルナやみんなのところに帰る・・・」
「シン・・私もシンと一緒に戦う・・ずっとシンのそばにいるよ・・・」
ルナマリアも決心を口にして、シンを追いかけていく。
「ありがとう、ルナ・・行こう。みんなを守るために・・・」
ルナマリアに感謝して、シンは戦いの場に戻っていった。自ら選んだ、果てしない戦いに。
世界の真の平和は訪れた。
しかし争いの火種が完全に消えたわけではない
その戦いに、自らの意思で身を投じることを決めたシン。
真の平和と、彼の戦いは終わらない。