GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-45「ソラ」

 

 

 クライン派のアジトはザフトによって徹底的に調査が行われた。

 キラはフリーダムを駆り逃亡。クライン派のメンバーは全員死亡。脱出を図るもザフトに回り込まれ、それでも逃走を図って撃墜されたか、特攻を仕掛けて散華した。

 隠れ家には地球、プラントの情勢に関する情報と、現在活動しているフリーダムのデータがまとめられた形跡があった。しかしメンバーによるものか、データの大半は消去されていて、断片的なものしか収集することができなかった。

「なるほど。ここでフリーダムの、キラ・ヤマトのバックアップをしていたようね・・」

「私たちが来ると気付いて、情報を取られることを危惧して・・」

 ミーナとマイが現状について口にする。

「フリーダムは、レーダーの範囲外に移動しています・・」

「でもフリーダムは修復を受けることはできない。あの機体も特殊な構造と武装がそろっているから・・」

 マイがさらに報告して、ミーナが小さく頷く。

「シンたちに休息を取るように。整備班は各機のチェックを。」

 ミーナはクルーに指示を出して、肩の力を抜いて椅子にもたれた。

(進展したのはフリーダムの襲撃の停止への効力だけ・・他の人たちから直接真意を聞き出すことができなかった・・・)

 敵を討てても誰も救えなかったことを、ミーナは心の中で悔やんでいた。

(ここで迷うのは命取りになりかねない・・相手は進化したフリーダムなのだから・・・)

 ミーナは自分に言い聞かせて気を引き締めなおす。

「私も小休止するわ。何かあれば呼び出して・・」

「分かりました、艦長。」

 ミーナが言いかけて、マイが頷く。マイはレーダーを注視して、ミネルバの周辺の警戒に集中した。

 

 ミネルバの廊下で、ソラは1人で窓から外の宇宙をじっと見つめていた。彼女はこれまでの自分たちの戦いを思い返していた。

(最初は、デュランダル議長の人柄や言動、方針に憧れを抱いていた・・この人なら、世界をうまくまとめて平和を取り戻してくれると・・)

 ソラがデュランダルのことを思い出していく。

(平和のための防衛策、デスティニープラン。管理によって完全な平和を実現させるこのプランに、私も賛成した。でもキラやラクスたちによって議長が討たれ、プランは崩壊した・・)

 メサイア攻防戦にてデュランダルの死とデスティニープランとともに平和が崩壊したことも、ソラは思い出す。

(世界はクライン派の思い通りになってしまった・・偽物の平和でみんなを自分たちの思い通りにして、自分たちの間違いを正そうとしない・・本当の平和を取り戻さないとって思った・・)

 ソラも自ら戦いに赴いたときのことを思い出していた。

(そのとき、行方不明になっていたシンさんが戻ってきた・・シンさんも、本当の平和を取り戻そうと立ち上がっていた・・)

 シンの消息不明と帰還、そして決意。彼の体験してきた戦いと姿が、ソラを奮い立たせた。

(そして私たちは、クライン派を倒して本当の平和を取り戻しつつある・・最後に、平和の敵になっているキラ・ヤマトを倒せば・・・!)

「ソラ・・」

 決意を募らせていたところで声をかけられ、ソラが我に返る。振り返った彼女の前に、ハルがいた。

「ハル・・・」

「もしかしてソラも、いろいろ思い出していたかな?・・僕も、今までのことを思い出していたよ・・」

 戸惑いを見せるソラに、ハルが自分のことを話す。

「僕はただ単純な憧れを持っていただけだ・・戦争を止めた英雄だという噂を鵜呑みにして、勝手に憧れて、本当は誰が悪いのかも分かってなかった・・・」

「ハル・・それは、そのときのハルが、表向きの現状しか見ていなかっただけ・・でも今は違う・・ううん、みんなも本当の真実も気付いた・・」

「遅すぎたのかもしれない・・みんなも僕も・・・」

「でもみんな、間違いを正して、それぞれの信じる道を、自分で選んで進んでいる・・私もハルも、シンさんも・・」

 自分を責めるハルをソラが励ます。彼女はハルに寄り添って、優しく抱きしめる。

「私もシンさんへの思いと信じる気持ちが強かった・・でも今はハル、あなたへの思いと感謝のほうが強くなってる・・」

「ソラ・・・」

「真面目で真っ直ぐで、みんなを守ろうと一生懸命になっている・・ハルの優しさに、私は心を動かされた・・・」

 ソラが正直な想いを伝えて、ハルが戸惑いを募らせていく。

「一緒に守ろう、ハル・・私たちのいるこの世界を・・・!」

「ソラ・・・うん・・」

 ソラの想いにハルが頷く。2人は改めて、平和と自分たちの幸せを守る決意を固めた。

 

 デスティニーのチェックを終えてドックから出てきたシン。廊下を歩く彼が、ソラとハルを目撃する。

「ハル・・ソラ・・・」

 2人が想いを伝え合っている姿を、シンはただただ見守っていた。彼はソラたちも純粋に想いを寄せ合っていると思っていた。

「ソラもハルも、それぞれの思いを打ち明けているのね・・」

 そこへルナマリアも来て、シンに声をかけてきた。

「ルナ・・」

「シン、あなたは本当に、世界の平和のための犠牲になるの?・・戦い続けるって運命を、ずっと背負っていくつもりなの・・!?

 戸惑いを見せるシンに、ルナマリアが寄り添ってきた。

「ルナ・・今、キラを倒すことができるのはオレだけだ・・ヤツを倒しても、他に戦争を仕掛けてくるヤツが出てくるかもしれない・・そのときのために、オレが・・・」

「そうやって、責任も運命も、何もかも背負って、シンは・・・」

 決意を口にするシンに、ルナマリアが寄り添って抱きしめてきた。

「私も戦い続ける・・世界のために、みんなのために・・・」

「ルナ・・ルナまで背負う必要はないんだ・・これはオレが背負うと、オレが決めたことだから・・」

「だったらこれは、私自身で決めること・・シン、私も戦い続けることを背負う・・・」

「ルナ・・・」

 ルナマリアも自分のことを自分で決めていることに、シンは複雑な心境を感じていた。

「だったら、生きてみんなで帰ろう・・失うことの悲しみを、オレたちは知っているから・・・」

「シン・・・うん・・・」

 シンが投げかけた言葉にルナマリアが頷く。2人も抱きしめ合って、互いの想いを確かめ合っていた。

「そろそろ行こう、ソラたちのところへ・・」

「あぁ・・」

 ルナマリアの声にシンが答える。2人がソラとハルの前に出て声をかけた。

 

 サポートをしてくれたクライン派を失ったキラ。彼はフリーダムを駆り、別のデブリ帯まで来ていた。

 フリーダムはその中の1つに到着した。そこには1つのハッチがあり、開かれた先にフリーダムが入った。

 フリーダムは反転して、ゆっくりと奥に進んでいく。その先には1機の巨大武装があった。

 「ミーティア」。フリーダム、ジャスティスのための巨大武装である。クライン派はミーティアを1機用意していた。

(次がシンたちとの決着のときになる・・だから、ザフトも連合も、完全に殲滅しなければ・・・!)

 キラが心の中で意思を呟いていく。

(みんなが僕のために、ミーティアを残してくれた・・今度こそ、僕が全てを終わらせる・・・!)

 世界への敵意を募らせるキラ。フリーダムがミーティアを装備する。

(アスラン、カガリ、ムウさん、マリューさん、バルトフェルドさん・・ラクス・・・)

 キラが自分の大切な人たちのことを思い出していく。かけがえのない仲間たちはもういない。失わせた悲劇をもたらした世界を討つことが、キラの唯一の戦う理由となっていた。

(僕は戦う・・みんなが安心できる世界に、僕が変える・・・!)

「キラ・ヤマト、フリーダム、行く!」

 キラの駆るフリーダムが、ミーティアを伴って発進した。

 

 ネフィリムにて休息と周辺の警戒をしていたドギーたち。彼らのいる指令室にブラッドが入ってきた。

「まだフリーダムは出てこないか・・」

「あのすばしっこいフリーダムを捕捉するなんてなかなかできないぞ・・できても迎撃に出る前に攻撃を食らっちまう・・」

 ブラッドが声をかけると、ドギーが滅入った素振りを見せる。

「情けないことを口にするな。補給源を絶たれたヤツは、最後の攻撃を仕掛けてくるに違いない。」

「その攻撃目標がどこか、か・・地球の連合本部か、プラントか・・」

「どちらにしても、一瞬の油断も命取りになるぞ・・」

「了解、隊長!全力でやらせてもらうぜ!」

 檄を飛ばすブラッドに、ドギーが意気込みを見せる。他のクルーたちも笑みを見せていた。

「やっとここまでたどり着いた・・追われる立場だったオレたちが、世界に必要とされている・・」

 ブラッドがこれまでの自分たちの戦いを思い返していく。

「ドーガ隊長、ゴード・・もうこれ以上、かけがえのない仲間を失うわけにいかないですよね・・・」

「ブラッド・・・」

「オレたちは死ねない・・他の仲間も、死なせるわけにはいかない・・・!」

 決意を口にするブラッドに、ドギーたちが真剣な顔で頷いた。

 

 ミネルバもネフィリムも、他のザフト艦体もキラの行方をまだ突き止めていない。ソラもアンジュと連絡を交わしていた。

“こちらでもキラ・ヤマトとフリーダムの行方を追っているのですが・・・”

「追い詰められたアイツが何を仕掛けてくるか分かんない。もしかしたら、プラントに直接攻撃を仕掛けてくるかもしれない・・」

“分かっています。プラントに滞在しているザフト部隊も警戒レベルを最大にしています。こちらでも各機の準備を整えています。”

「ありがとう・・でも深追いはしないで・・アンジュやみんながいなくなっても、悲しくなるのは間違いないから・・」

“分かっています。みなさん生きて、平和を取り戻しましょう・・”

「うん・・それじゃ、また後で・・・」

 ソラは微笑んでから、アンジュとの連絡を終えた。

(失いたくないのはアンジュ、あなただって同じなんだから・・この戦いが終わったら、ブルースカイ家に戻るよ・・ハルと一緒にね・・・)

 胸に秘めている決意を募らせていくソラ。彼女はベッドに横たわり、束の間の休息を取って就寝した。

 

 ミネルバやネフィリム、他のザフト部隊のキラ捜索は続いていた。

 宇宙宙域の施設や艦隊が次々に壊滅を被る事態が起こっていた。その発生地点は、徐々にプラントに近づいていた。

「この被害状況、速度・・・間違いない・・フリーダムね・・!」

「プラント周辺の部隊の警戒レベル、密になっています。」

 警戒を強めるミーナに、マイが報告をする。

「ネフィリムに連絡を。本艦は進路をプラントに向けます。」

「分かりました。」

 ミーナの指示に答えて、マイが通信を取る。ミネルバがプラントに戻ろうとしていた。

 

 周辺の施設や部隊の被害報告を受けて、ザフトはプラント周辺の警戒を強めていた。

「フリーダムは一瞬にして距離を詰めてくる。レーダーに反応がないからといって油断するな。」

「はいっ!」

 隊長の呼びかけにオペレーターたちが答える。彼らはレーダーやモニターへの集中を怠らない。

「それでもとても太刀打ちできる相手でないことは閃光承知だが・・・」

 自分たちのすることが全て苦肉の策にもならないことを、隊長は痛感していた。

 そのとき、レーダーに高速で動く反応が現れた。

「レーダーに反応!この速度・・フリーダムです!」

「何っ!?

 オペレーターの報告に隊長が声を上げる。次の瞬間、彼らのいる指令室が一瞬にして光に包まれた。

 隊長の乗る艦を含めた艦隊が、次々にビームやミサイルに狙撃された。撃ったのはミーティアを装備したフリーダムだった。

「終わらせる・・僕が終わらせる・・全てを・・・」

 キラが低く呟いて、プラントのほうに目を向ける。彼はフリーダムを加速させて、プラントへと進行した。

 

 フリーダムのプラント進攻の知らせは、ミネルバとネフィリムにも次々に届いていた。

「フリーダムのスピードが速い・・ミネルバより先に、プラントにたどり着いてしまう・・・!」

 プラントが攻撃されてしまうことに、ミーナが危機感を覚える。

「リアス艦長、オレが追撃に出ます・・!」

 シンが指令室に来て、ミーナに申し出てきた。

「デスティニーなら、プラントにつく前にフリーダムに追いつけます・・プラントが攻撃される前に、アイツを食い止めます・・!」

「焦りは禁物よ、シンくん・・あなたが倒れてしまったら、フリーダムを止められる人がいなくなってしまうのよ・・!」

 呼びかけるシンをミーナが制止させようとする。しかしシンは引き下がろうとしない。

「だからこそです・・オレがアイツを止めないと、プラントも世界も・・・!」

「止めても行くつもりなのね、シンくん・・・!?

 問い詰めるミーナにシンは真剣な面持ちで頷いた。

「分かったわ・・ただし深追いは絶対にしないで・・私たちが来るまで足止めにとどめていて・・・!」

「はい、艦長・・・!」

 頷くミーナの忠告に、シンも頷いた。

「本艦は全速力を維持。デスティニーは先行。フリーダムの進攻を止めます。」

「了解!」

 ミーナが指示を出して、マイが答える。シンは頷いてから、ドックへと向かった。

「シンさん・・・」

 ドックにいたソラがシンに声をかけてきた。ルナマリアもハルもすぐに各々の機体に乗り込めるようにしていた。

「オレが先に出て、キラを食い止める・・プラントに手を出す前に止める・・!」

「でもそれだとシンさんが危険に・・!」

 声をかけるシンにハルが声を上げる。

「みんなが来るまで時間を稼ぐ・・みんなの力も信じてる・・・!」

「シン・・ありがとう・・すぐに追いつくから・・!」

 信頼を口にするシンにルナマリアが感謝する。

「僕たちもすぐに援護に行きますから!ファルコンならすぐですよ!」

 ハルも意気込みを見せて、シンが微笑んで頷いた。

「行くよ、オレ・・必ずみんな生きて、一緒に帰ろう・・!」

 シンの言葉にルナマリアたちが頷いた。シンは発進に向けてデスティニーに乗り込んだ。

(オレたちで終わらせるんだ・・アイツの攻撃を・・そしてオレは世界のために、戦い続ける・・・!)

 揺るがない決意を胸に秘めて、シンはデスティニーとともに発進に備えた。デスティニーの眼前のハッチが開かれた。

「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」

 シンの駆るデスティニーがミネルバから発進した。デスティニーは一気に速度を上げて、キラのフリーダムを追った。

 

 高速を維持したまま前進するキラのフリーダム。彼はついにプラントを視認した。

「着いた・・この手で終わらせる・・悲劇の全てを・・・!」

 キラが目つきを鋭くして低く呟く。フリーダムがミーティアを構えて、狙いをプラントに向けた。

 そのとき、1つのビームがフリーダムに向かって飛んできた。キラは反応して、フリーダムがビームをかわす。

「プラントへの攻撃はさせませんよ、キラ・ヤマト!」

 キラに向けて呼びかけられる声。それはドムに乗ったアンジュの声だった。

 

 

次回予告

 

プラントで火ぶたが切られた戦い。

世界を、大切な人を守るため、シンは立ち向かう。

大切なものを失った孤独と絶望を知る2人。

それぞれの感情がぶつかり合い、宇宙を照らす。

 

次回・「両翼の決闘」

 

迫る脅威、押し返せ、ドム!

 

 

作品集

 

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