GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-44「戦いの楔」
キラを陰から支えていたクライン派。プラント、地球に見つからないように身を潜めながら行動していた彼らだが、ついに隠れ家を発見されることになった。
「とうとう見つかってしまったか・・・!」
「ザフトの各部隊がこちらに向かっている・・!」
クライン派のメンバーが声を荒げていく。
「フリーダムの修復は!?」
「完了しています!」
メンバーたちがさらに声をかけ合い、修復されたフリーダムに目を向ける。
「キラ様、あなたは脱出してください!」
「ここは我々が食い止めますので!」
メンバーたちが宇宙に目を向けているキラに呼びかけてきた。
「だけど、それではみなさんが・・・」
「あなたには、今のこの混迷を打ち破る使命があります!それを実現できるのはあなただけ!」
声を荒げるキラに、メンバーが呼びかける。
「だからあなたは、こんなところで倒れてはいけないのです!」
「あなたが思い描く理想の世界を、あなたの手で実現するたために!」
「キラ様は行ってください!今の世界の混迷を終わらせるために!」
メンバーたちに呼びかけられて、キラが戸惑いを感じていく。
「みんながそこまで言うなら・・だけど、絶対に生きて、ここから脱出するんだ・・・!」
「分かっております・・私たちが倒れることは、世界のためにも、あなたのためにもなりませんから・・!」
頷いて呼びかけるキラに、メンバーたちが答える。修復が完了しているフリーダムに、キラが乗り込んだ。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行く・・・!」
キラの駆るフリーダムが施設から飛び出していった。
クライン派の討伐のため、ザフトの部隊や戦艦が続々と隠れ家の地点へ向かっていく。ミネルバもその地点を目指して航行していた。
「もうすぐ、エリアKL88に入ります。ザフト部隊、続々とエリアに集結しています。」
マイがレーダーと通信を確かめて、ミーナに報告する。
「みんな、準備と覚悟はできている?」
ミーナがドックに呼びかけて、シンたちに忠告を投げかける。
「みんな、フリーダムは、キラはオレが相手をする・・」
シンがルナマリアたちに呼びかけてきた。
「フリーダムに対抗できるのはデスティニーだけだ。アイツを野放しにすれば、クライン派を潰させまいとしてくるはずだ・・」
シンが状況と戦力を考慮して語りかける。
「最低でも、オレがキラを食い止める。その間にみんなはクライン派を叩いてくれ・・」
「シン・・・」
シンの呼びかけにルナマリアが戸惑いを覚える。
「フリーダムのスピードも考えに入れると、やはりスピードがカギになる。集中して戦いに臨むぞ・・」
「分かっています!スピード勝負なら、ファルコンは負けません!」
シンの言葉を受けて、ソラが意気込みを見せる。
「ルナマリア、あなたはソラとハルを指揮して、敵人員を包囲。極力拘束に努めるように。」
「分かりました。」
ミーナからの指示にルナマリアが真剣な面持ちで答える。
“ミネルバ、オレたちもMSを発進させる。”
そのとき、ネフィリムにいるブラッドがミネルバに向けて通信をしてきた。
“ミネルバは各機の戦力は高いが、数の少なさは否めない。ジャッジとダークスも同行させてもらうが、構わないか?”
「分かったわ。ルナマリアたちとともに本拠地に突入して。」
ブラッドの申し出をミーナが聞き入れた。ルナマリア、ソラ、ハルも頷いた。
「MS発進準備。パイロットは搭乗機へ。」
ミーナのアナウンスの中、シンたちがそれぞれの機体に乗り込む。
「今度こそ終わらせる・・世界をムチャクチャにするアイツらの暴挙を・・・」
「ソラ・・そうだ・・僕たちの手でこの戦いを終わらせて、みんなと一緒に帰るんだ・・・」
ソラが決意を口にして、ハルが頷く。ミネルバのハッチが開かれ、機体が発進に備える。
「シン・アスカ、デスティニー、いきます!」
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、いくわよ!」
「ソラ・アオイ・・」
「ハル・ソーマ・・」
「ファルコン、出ます!」
「アテナ・アルテミス、クレッセント、出撃する!」
シン、ルナマリア、ソラ、ハル、アテナがデスティニー、コアスプレンダー、ファルコン、クレッセントで発進する。コアスプレンダーがチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットと合体して、フォースインパルスとなる。
「ブラッド・J・クロノス、ジャッジ、発進する!」
ブラッドのジャッジもネフィリムから発進して、デスティニーたちと合流する。
「オレはフリーダムを警戒する!みんなは包囲と攻撃に専念してくれ!」
「分かったわ!任せて、シン!」
呼びかけるシンにルナマリアが答える。デスティニーがインパルスたちの後方上に移動して、援護に回る。
「それじゃみんな、行くわよ!」
「はいっ!」
ルナマリアの呼びかけにソラとハルが答える。ブラッドも頷いて、デスティニーに1度視線を向けた。
デスティニーたちの姿を、フリーダムに乗っているキラも目撃した。
「シン・・シンたちも来たのか・・・!」
シンたちの登場に、キラが憎悪を募らせていく。
「やらせない・・これ以上お前たちに・・・!」
キラが目つきを鋭くして、フリーダムがデスティニーに向かって飛び出す。彼の接近を、デスティニーのレーダーとシンが捉えた。
「フリーダム!・・やっぱり出てきたか、キラ!」
シンのデスティニーがインパルスたちから離れて、フリーダムを迎え撃つ。2機が同時に手にしたビームライフルを発射して、ビームがぶつかり合い相殺する。
「みんなは先に行け!オレがキラを食い止める!」
シンがルナマリアたちに呼びかけて、デスティニーとフリーダムが同時にビームサーベルの銃口を向け合う。
「シン!・・ソラ、ハル、先を急ぐわよ!」
「ルナ・・分かりました!」
戸惑いを感じるのをこらえて、ルナマリアが呼びかけて、ソラが答える。インパルスたちが加速して先を急ごうとする。
「行かせない・・・!」
キラが目つきを鋭くして、フリーダムが翼を展開して、搭載されているドラグーンを射出した。
ドラグーンはインパルスたちに向かってビームを放ってきた。だがジャッジが手にしたビームライフルの射撃に阻まれる。
「このまま突っ走れ!フリーダムに追いつかれたら終わりだぞ!」
「ブラッドさん・・ありがとうございます!」
呼びかけるブラッドにハルが感謝する。インパルス、ファルコン、ジャッジが先を急ぐ。
フリーダムが追撃しようとするが、デスティニーが行く手を阻む。
「アンタの相手はオレだ!ここから先へは行かせないぞ!」
「それは僕のセリフだ!」
シンとキラが言い放ち、フリーダムがドラグーンを動かしてデスティニーを狙う。ドラグーンによるビームの包囲を、デスティニーは素早く正確に回避していく。
「宇宙にいるから有利などと思ったら、大間違いだ!」
言い放つシンの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされて、視界がクリアになる。
フリーダムのドラグーンがさらにビームを放つが、シンが即座に反応し、デスティニーが素早くかわしていく。
デスティニーがビームソードを手にして、フリーダムに詰め寄る。キラが反応し、フリーダムがスピードを上げてビームソードをかわす。
「その武器は受けるわけにはいかない・・・!」
キラが言いかけて、フリーダムがレールガンを発射する。デスティニーはこの砲撃もかわす。
そしてデスティニーとフリーダムが、ビーム砲とカリドゥスを同時に発射して、ビームを相殺する。
「シン・・今はお前の相手をしているわけには・・・!」
「アンタの思い通りにはさせない・・世界をムチャクチャにはさせるか!」
鋭く言いかけるキラと、怒りを込めて言い放つシン。フリーダムとデスティニーが激しく対立していた。
キラを外へ行かせてから、自分たちも脱出に向かうクライン派のメンバー。次々にザフトの部隊が迫ってきている状況に、メンバーたちは焦りを募らせていた。
「急がないと、どんどん退路をふさがられるぞ・・!」
「急げ!キラ様の思いを踏みにじるわけにはいかない!」
メンバーたちが必死に脱出を試みる。彼らは廊下を抜けて、小型艇にたどり着いた。
「早く乗れ!すぐに発進する!」
「他の者たちも別ルートで脱出しているでしょう!」
「グズグズしていると、我々の脱出もできなくなる・・!」
メンバーたちが小型艇に乗り込んで、他のメンバーも脱出しているのを信じて発進した。
メンバーたちが次々に脱出してくるのを、ルナマリアたちが目撃する。
「脱出してきたわ・・回り込まないと・・・!」
「私が回り込んで呼びかける!みんなも他に脱出してくる人や機体を見つけたら、忠告して!」
アテナが言いかけて、ルナマリアが彼女たちに呼びかける。
「もしも攻撃して来たら・・・!?」
「撃墜も仕方ないけど、それは本当に最後の手段にして・・・!」
ソラの問いかけに、ルナマリアが深刻さを込めて念を押す。
「はい・・僕たちは人殺しがしたいわけじゃないですからね・・・」
ハルが答えて、ソラが小さく頷く。2人は怒りや憎しみに駆り立てられてはいなかった。
「それじゃみんな、周りに警戒して・・・!」
「分かりました!」
「えぇ・・!」
ルナマリアの声にハルとアテナが答える。各機が散開して、インパルスが小型艇の前に回り込んだ。
「止まりなさい!こちらの指示に従うなら、危害は加えないわ!」
ルナマリアが呼びかけて、インパルスが手にしたビームライフルの銃口を小型艇に向ける。
「ザフト・・ラクス様を手にかけた悪魔が・・・!」
「逃げるしかない・・ここで屈すれば、ラクス様とキラ様の思いを踏みにじることになる・・・!」
「しかし、ザフトに見つかって、逃げ切れるとは・・!」
クライン派のメンバーがインパルスを前にして緊迫を募らせる。小型艇でインパルスたちから逃げ切るのは不可能に近いと、彼らは痛感していた。
「他に船はないのですか!?ポッドでも何でもいいです!」
そのとき、メンバーの1人が声をかけてきた。
「お前、何をするつもりだ!?・・まさか、1人で・・!?」
「よせ!わざわざ命を捨てるつもりか!?」
「そうしなければ、我々は全滅です!みなさんは同時に、全速力で脱出を!」
他のメンバーたちの反論に言い返して、青年が小型艇に乗っているポッドに乗り込もうとした。だがメンバーの1人に殴られて、気絶させられる。
「こいつを頼む!特攻は私がする!」
別のメンバーの1人が呼びかけて、青年の代わりにポッドに飛び乗った。
「よせ!」
他のメンバーの呼び止めを聞かずに、メンバーはポッドを発射させてインパルスに向かっていく。
「行け!」
「お、おのれ!」
ポッドの中のメンバーが叫び、同時に小型艇が転回して逃走する。
「待ちなさい!」
ルナマリアが言い放つが、インパルスにポッドが直撃する。
「これ以上、お前たちに世界は乱させない!」
ポッドにいたメンバーが絶叫を上げて爆発の中に消えた。
(自分の望む理想のためなら、自分の命まで・・・!)
「止まりなさい!従わないのなら撃つ!」
クライン派の理念に心を揺さぶられながらも、ルナマリアが言い放ち、インパルスが小型艇にビームライフルの銃口を向ける。ロックオンされても、小型艇は止まることなく進行していく。
(シンやキラほどじゃないけど、私は1年の間に射撃を徹底的に磨いてきた・・動きを止めることはできるはず・・・!)
1年間の鍛錬を思い返して、ルナマリアが自分に言い聞かせて集中力を高める。インパルスがビームライフルを発射して、小型艇の左翼をかすめた。
「うっ!」
小型艇がバランスを崩し、船内が揺さぶられてメンバーたちがうめく。小型艇はその先のデブリに直撃した。
「うわあっ!」
小型艇が爆発を起こして、メンバーたちが巻き込まれて悲鳴を上げた。
「正確に当てられたけど・・助けることはできなかった・・・!」
敵対していたとはいえ、拘束に留まれなかったことに、ルナマリアは無力さを痛感していた。
「ルナマリア、拘束は成功しましたか・・・!?」
そこへソラからの通信が入ってきた。
「止めたわ・・船は大破・・乗員の生存は絶望的よ・・・」
「こちらもです・・逃走を強行して・・威嚇にも応じなかったので・・・」
ルナマリアとソラが互いの状況を伝え合う。
「私もよ・・」
「オレもだ・・自分の意思を貫こうとする志には感服するところだが・・」
アテナとブラッドもルナマリアたちに報告する。
「基地内のチェックを行うわ。みんなは周辺の警戒を・・」
「分かりました・・ルナマリアさん、気を付けて・・・!」
指示を出すルナマリアにハルが答える。インパルスが隠れ家の中に侵入して着地し、ルナマリアが拳銃を手にして外に出る。
ルナマリアは周囲への警戒をしながら、慎重に廊下を進んでいく。中の部屋を調べて回る彼女だが、人1人見つけることができない。
(やっぱり、全員脱出を試みたみたいね・・)
隠れ家にいたクライン派がいなくなったと判断して、ルナマリアが構えていた銃を下げる。
「施設内には誰もいません。センサーにも反応がありません。」
彼女はミネルバへ連絡を取り、ミーナたちに呼びかける。
“分かったわ。後は調査部が捜索を行うわ。あなたは機体に戻り、ソラたちと合流するように。”
「はい。ただちに。」
ミーナからの指示を受けて、ルナマリアはインパルスに戻っていった。
キラのフリーダムが操るドラグーンのビームをかいくぐり、シンのデスティニーは徐々に距離を詰めてきていた。
フリーダムとデスティニーが同時に、ビームブレイドを発した右足を振りかざしぶつけ合う。
そのとき、キラはクライン派のメンバーが全員脱出に失敗したことを直感した。
(みんな・・・!)
自分を支えてくれた仲間の死に、キラが心を揺さぶられる。
「お前たちは・・みんなを・・・!」
「オレたちの大切な人を手にかけて、それを悪いとも思わないアンタがそれを言うのか!」
怒りを口にするキラに、シンが感情を込めて言い放つ。
「オレたちのしていることも、本当は正しくないことなのかもしれない・・それでもみんなを守るために、この世界から悲劇を消すために、オレは戦う!」
シンが自分の思いと決意を口にして、デスティニーがビームソードを構える。
「オレは戦いの運命を、オレ自身の選択で受け入れる!そしてオレの手で、アンタを止める!」
「オレはお前たちを、僕たちに悲劇を与えたこの世界を許さない・・僕が敵を全て打ち倒す!」
キラもシンに向けて怒号を放つ。
「でも今は、みんなのことを思うなら、ここは1度引き下がるしかない・・・!」
キラは歯がゆさを噛みしめながら、フリーダムを駆ってシンのデスティニーから離れていく。
「待て!」
シンが叫び、デスティニーがビーム砲を発射するが、フリーダムはビームを受けることなく姿を消した。
「また逃げられた・・・だけど、これで・・・」
キラに逃げられたことの悔しさを感じながらも、シンは落ちつきを払っていた。
「平和に大きく近づいた・・」
クライン派を討伐し、キラのフリーダムの供給源を絶ったことに、シンは平和が戻ろとしているのを実感していた。
次回予告
平和の瞬間、そして最後の戦いは近い。
悲劇を終わらせて、生き残って一緒に帰る。
混乱の根源の殲滅から、想いを寄せる相手との約束。
数々の激闘の中、少女の思いに変化が起こっていた。
2人の絆、つなげ、ファルコン!