GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-43「大切なもの」
キラのフリーダムの襲撃を辛くも退けたシンたち。しかし各地の被害は散見され、スーラはアテナを庇って命を落とした。
自分のためにスーラが死んだことに、アテナは絶望に打ちひしがれていた。
「スーラが・・私のために・・・!」
「アテナ・・・」
深く落ち込むアテナを見て、ソラも胸を痛める。
「アテナさんは、僕たちやみんなの力になりたいと思って・・そしてスーラさんは、そんなアテナさんを守ろうと・・・」
ハルもアテナとスーラの思いを感じて、戸惑いを募らせていた。
「僕はまだ弱い・・新しい力をつかんでも、守ることができない・・・」
「それはオレのほうだ、ハル・・」
自分を責めていたハルの前に、シンがルナマリアと一緒にやってきた。
「シンさん・・ルナマリアさん・・・」
「オレが迷ったから・・戦うことに迷ったから・・みんなに迷惑をかけて、スーラを・・・」
ハルがソラと一緒に戸惑いを見せて、シンが自分の迷いを悔やむ。
「シンは悪くない・・私が出しゃばらなければ、こんなことには・・・!」
アテナが顔を上げて、シンに弁解する。
「アンジュさんにもわがままを言って・・本当に、ごめんなさい・・・!」
「アンジュ・・アンジュは、あなたたちに言われて、仕方なく・・・」
アテナの言葉を聞いて、ソラがアンジュのことを考えて深刻さを募らせる。
「もう、オレは迷わない・・たとえオレの進んでいく道が、戦いしかない未来しかなくても・・・」
シンがルナマリアたちに自分の決意を口にする。
「世界を、みんなを守るために、オレは戦い続ける・・アイツのように、世界をムチャクチャにして、みんなを傷付けようとするヤツと・・・!」
「シン・・・」
「シンさん・・・」
揺るがない意思を宿したシンに、ルナマリアとソラが戸惑いを感じていく。
「私もこれ以上、大切な人がいなくなってしまうのは耐えられない・・みんなが傷つく世界も、我慢できない・・・!」
ソラも困惑を振り切り、決心を口にする。
「私も戦います・・そしてどんなときも、必ず生きて帰ります・・・!」
「僕も世界を、みんなを守るために戦います!みんなの悲しみを増やさないためにも!」
ハルも続けて自分の決意を口にする。自分たちがキラに力が及ばないことを痛感して、2人はさらに強くなろうと考えていた。
「ありがとう、みんな・・だけどオレのこの決意は、オレ自身が選んだ戦いの道だ・・それに巻き込む形になってしまうんだぞ・・・」
「僕たちはそんなふうに思ってはいません!僕たちにとっても、これは自分で選んだ道ですから!」
歯がゆさを見せるシンにハルも自分の意思を口にする。
「私たちは戦いますよ、シンさん。私たちの戦いを、私たちの意思で・・」
ソラも揺るがない意思を口にする。
「ソラ・・ハル・・・」
シンが2人を見て戸惑いを募らせる。ルナマリアとアテナにも目を向けて、シンは1つの幸福を感じていた。
「オレは家族を失い、大切な人を失った・・だけど、かけがえのない人たちとつながりが持てた・・・」
シンがルナマリアたちを見て、自分の思いを口にする。
「悲しさや悔しさも感じてきたけど、みんなとこうしてともにいられるこの瞬間への道のりを、オレは後悔していない・・」
「シン・・・」
「みんなのいるこの世界を守るために、オレは戦う・・戦い続ける・・・!」
シンの揺るぎない思いを聞いて、ルナマリアが戸惑いを募らせていく。
「まずはアイツを・・キラを倒す・・今のアイツは、世界をムチャクチャにする敵になっているから・・オレがアイツをそうさせてしまったから・・・」
キラ打倒を改めて心に誓い、シンは自分の部屋に戻っていく。
「シン・・私たちも今のうちに体を休めておこう・・」
「はいっ!」
彼のことを気にしながらも呼びかけるルナマリアに、ソラとハルが答える。彼らも次の出撃に備えて、それぞれ休息に入った。
アテナも気分を落ち着けようとして、立ち上がって移動した。
地球上のザフトのターミナルにて修復と補習を行っていたミネルバ。その間にミーナとブラッドはキラ、フリーダムへの対処を話し合っていた。
「フリーダムは永久式のエネルギーエンジンを搭載している。でも整備いらずというわけではない・・」
「彼の後ろにバックがいるということだな・・クライン派の残党と見ていいのだろうが、どこを隠れ蓑にしているか・・」
ミーナとブラッドがキラやクライン派について考えを巡らせる。
「プラントとザフトも徹底して残党の捜索に当たっているけど・・」
「地球上にもプラント近辺にもそれと思しき状態も見られない・・」
「私たちの監視の目の届かない場所にいるのかもしれないわね・・他の部隊やプラントにも、捜索範囲の拡大を申し出たほうがよさそうね・・」
「そこのところは頼む。オレはジャッジの修復が完了次第、ドギーたちのところへ戻り、捜索に加わるつもりだ。」
それぞれの考えを伝え合うミーナとブラッド。
“ブラッド!・・みんなも無事のようだな・・!”
そのとき、ネフィリムにいるドギーがミネルバに通信をしてきた。
「あぁ。間一髪というところだったが・・」
ブラッドが答えて、ドギーが安堵を見せてきた。
「キラ・ヤマトのバックアップをしている者たちの居場所を突き止める。ドギーたちもレーダーで探索してくれ。」
ブラッドがドギーに向けて呼びかける。
「ジャッジの修復が完了次第、オレはそっちに合流する。それまではレーダー探査に留めておくんだ。」
“分かった。みんなにも言っておくぞ。”
ブラッドからの言葉を受けて、ドギーは通信を終えた。
「シンたちにはオレが直接このことを伝えておく。リアス艦長たちはミネルバの任務を。」
「分かったわ、ブラッドくん。」
ブラッドの声にミーナが頷く。ブラッドがきびすを返して指令室から出ようとした。
「ブラッドくん・・あなたやドギーくんたちには、本当に感謝しているわ・・あなたたちがいなかったら、間違いなく撃墜されていたわ・・今回・・ううん、クライン派との戦いのときに・・・」
ミーナから感謝をされて、足を止めたブラッドが戸惑いを覚える。自分たちがこれほど称賛されたことに、彼自身意外だった。
「あなたたちが勝ち残れたのは、あなたたちの力だ。そうでないと言い張るのなら、それはオレたちではなくシンの力なのだろう・・・」
ブラッドは言葉を返してから、改めて指令室を出た。
(そう・・私は無力なのかもしれない・・ここまで勝ち残れたのも、ブラッドくんやシンくんに助けられてきたからに過ぎない・・・)
自分には何の力になれず、シンやルナマリアに任せ切りになっていると思い、ミーナは苦悩を深めていく。
(私も何とかしないと・・ただ命令するだけの人間にはなりたくない・・・)
気を引き締めなおして、ミーナはミネルバ艦長としての責務に集中するのだった。
ミネルバでの自室に戻っていたシン。ベッドに腰を下ろしていた彼は、マユの携帯電話を手にしていた。
「あのときが全ての始まりだった・・父さんと母さん、マユが死んで・・力を求めて・・・」
自分の過去を振り返り、シンが携帯電話を握りしめる。
「戦いを終わらせるために戦って、自分が強くなっていくのを実感して・・それでもオレは守れなかった・・レイを、議長を、ステラを・・・」
大切な人を守れず、戦いにも敗れた自分たちをも思い返して、シンは悔しさを噛みしめる。
「それからオレは屈し続けていた・・倒すべきだった敵に・・それではオレはオレでいられなくなる・・・」
「だからまた立ち上がったんだね、シンは・・・」
呟いていたところで声をかけられて、シンが振り向く。彼の部屋にルナマリアが入ってきた。
「ルナ・・・」
「ゴメン、シン・・勝手に入ってきちゃって・・・」
戸惑いを見せるシンに、ルナマリアが微笑みかける。
「私も、アスランがメイリンを連れて脱走していなくなって、すごく辛かった・・失うことの辛さを、私も痛感した・・・」
ルナマリアもシンに自分の悲しみを告げた。
「私のわがままなのはよく分かってる・・でも、1人でいたくないから・・・」
ルナマリアが悲しさを浮かべて、シンに寄り添ってきた。
「お願い・・少し、一緒にいさせて・・・」
「ルナ・・・オレもホントは、ルナと一緒にいたかったんだ・・・」
シンがルナマリアを優しく抱き寄せる。
「もう離れたくない・・誰1人、大切な人を失いたくない・・・」
「私もだよ・・シン・・・!」
自分たちの想いを伝え合い、シンとルナマリアはそのままベッドの上に横たわった。
負傷した機体や武装の修復が続くミネルバのドック。ハルはファルコンを見つめて、自分の思いを確かめていた。
「今度こそ守ってみせる・・僕たちの力でみんなを・・僕が、ソラを・・・」
「ありがとう、ハル・・・」
呟いていたところで、ハルが後ろから抱きつかれた。ソラが駆け寄ってきて声をかけてきた。
「ソラ・・僕は、別に・・・!」
ハルが動揺して、慌ててソラから離れる。
「いいよ。悪いなんて全然思ってない。むしろ嬉しいんだから・・」
「ソ、ソラ・・・」
ソラが笑顔を見せてきて、ハルが戸惑いを見せる。
「私たちには、きちんとみんなを守れる力があるよ・・シンさんをピンチから救ったこともあるし・・」
「でも、シンさんやルナマリアさんに比べたら・・」
「それでも、私たちにだって守ることはできる・・私たちにしかできないことも、きっと出てくる・・・」
自分を無力だと感じているハルに、ソラが真剣な面持ちで呼びかける。
「ハルが守ってくれたこと、私は感謝してる・・・」
「ソラ・・・」
「私にもハルにも、守りたいっていう気持ちが強くなってる・・だから、守れないなんてこと、もうない・・あるなんてことにさせたくない・・・!」
戸惑いを募らせるハルに、ソラが再び抱き付いてきた。
「一緒に戦おう、ハル・・そして、一緒に帰ろう・・・」
「ソラ・・・僕は・・・」
呼びかけてきたソラを、ハルも優しく抱きしめる。2人の決意と想いが入り混じり、互いに安らぎを感じていた。
「もう僕は諦めない・・みんなを、守るんだ・・僕もソラ、君と一緒に・・・」
「ハル・・ありがとう・・・私たちで、守るよ・・世界を・・みんなを守ってみせる・・・」
それぞれの決意を口にして、ハルとソラがファルコンに振り向く。ファルコンが自分たちの、みんなを守るための力だと実感していた。
ミネルバがターミナルにて修繕を受けてから数日がたった。フリーダムも負傷していたこともあってか、その間にキラが襲撃をしたという知らせはなかった。
ミネルバとデスティニーたちの修繕は完了し、ミネルバは宇宙に上がることも可能となっていた。
ソラはブルースカイ家にいるアンジュに連絡を取っていた。
“申し訳ありません、お嬢様・・やはり無理やりにでも止めるべきでした・・”
「もう過ぎたことだよ、アンジュ・・アンジュもアテナたちのことは消極的だったんだし・・」
謝罪するアンジュにアテナがため息まじりに答える。
“クライン派の残党の行方を追っていますが、未だに手がかりさえも・・”
「分かった・・ありがとう、アンジュ・・調査を続けて・・」
“了解です。分かり次第、そちらへ連絡します・・”
「ありがとう、アンジュ・・それじゃ・・・」
アンジュに感謝をして、ソラは通信を終えた。
(アンジュも力を貸してくれてる・・私も負けていられない。)
アンジュやたくさんの人たちからの支えに感謝して、ソラは自信を取り戻す。彼女はミーナ、マイたちのいる指令室に来た。
「シドル隊からの通信です!クライン派の残党と思しき集団の隠れ家を見つけたとのことです!」
そのとき、ミネルバに伝わった通信をマイが報告してきた。
「場所はエリアKL88!デブリ帯に紛れて潜んでいた模様!」
「うまく隠れていたようだけど・・うまく包囲しないと、逃げられることになる・・」
彼女から情報を聞いて、ミーナが目つきを鋭くする。
「ミネルバとMSの修復は?」
「本艦、各機体ともに修復完了しています!」
ミーナからの問いかけにマイが答える。
「これより、クライン派残党の討伐に向かいます。本艦も発進し、宇宙に上がります。」
ミーナが指示を出し、ミネルバが発進準備に入る。マイが艦内にいるシンたちに呼びかける。
ソラも指令室を出て、廊下でハルと対面した。
「クライン派の残党が見つかったって!」
「えっ!?」
ソラが投げかけた言葉に、ハルが声を上げる。
「ミネルバも宇宙に上がるのね。」
ルナマリアもシンとともに2人の前にやってきた。
「問題はアテナだ・・オレとしては、やはりミネルバから降ろすか、少なくても安全な場所に連れていきたいと思ってるけど・・」
「アテナの決断を尊重したい・・ということね・・」
本心を口にするシンに、ルナマリアが付け加える。ソラとハルもアテナのことを気にして、表情を曇らせる。
「私も戦うわ。もちろん、必ず生きて戻ることを約束する・・」
そこへアテナが来て、シンたちに決意を告げた。
「私は生きなければいけない・・スーラとマキのため、私を助けてくれたあなたたちのために・・」
「アテナ・・・」
ソラがアテナに戸惑いを感じていく。アテナの思いを受け止めて、シンは頷いた。
「分かった、アテナ・・みんな、絶対に生きて、帰ってこよう・・この戦いを終わらせて・・・」
シンが頷いて、ルナマリアがアテナに手を差し伸べてきた。
「一緒に帰ろう、アテナ・・ここがあなたの・・私たちの家だから・・・」
「ルナマリア・・シン・・・」
戸惑いを覚えるアテナが、ルナマリアの手を取って握手を交わした。
「ありがとう・・・みんな、ありがとう・・・」
アテナがシンたちに感謝して、目から涙をあふれさせていた。
(オレたちは一緒に戦う・・オレたちの手で、キラ・ヤマトを止める・・オレの手で止めないといけないんだ・・・!)
シンが心の中で揺るぎない決意を募らせる。自ら戦いの運命を受け入れる決意を、彼は固めていた。
「これより本艦は、クライン派討伐のために発進します。」
ミネルバが発進準備を完了して、ミーナがクルーたちに呼びかける。
「ミネルバ、発進!」
ミーナの号令とともに、ミネルバがターミナルから発進。宇宙へと上がっていった。
大気圏を突破して、宇宙に上がったミネルバ。艦の姿勢制御を働かせた後、再びミーナがクルーたちに呼びかけた。
「プラントからも討伐隊が出撃しています。本艦も部隊と合流し、クライン派への攻撃を行います。」
ミーナの言葉がシンたちに伝わっていく。
「あの戦闘以後、フリーダムは表立った行動を見せていない。機体の修復が理由と思われるが、また現れる可能性があります。」
ミーナのこの言葉を聞いて、シンが目つきを鋭くする。
「フリーダムの出現と攻撃に、十分注意するように。遭遇したら絶対に深追いしないこと。」
ミーナからの注意がシンたちに伝わる。それでもシンたちの決意は変わることはなかった。
次回予告
世界を揺さぶり続ける戦乱。
その根源を断つため、シンたちは戦いの真っただ中に飛び込む。
戦いを終わらせる、悲劇を終わらせる。
2人の男の対決は、より熾烈となっていく。
戦火の連鎖、断ち切れ、インパルス!