GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-42「終わらない戦いへ」
キラのフリーダムと交戦するルナマリアのインパルス、ブラッドのジャッジ、ハルとソラのファルコン。そこへアテナのクレッセント、スーラのトリトンが駆けつけた。
「私とアテナで遠距離からけん制!ハル、あなたは接近して体勢を崩して!」
「はい!分かりました!」
ルナマリアが指示を出して、ハルが答える。
「オレがヤツにできた隙を突く、か・・!」
「トリトンは今のファルコンほどじゃないけど、スピードはある。ファルコンがフリーダムの体勢を崩せば・・・!」
スーラが言いかけて、ソラが頷く。
「確実に作戦が行える相手でないことは分かっている・・だから窮地に追い込まれる覚悟もしなければならない・・・!」
「ブラッド、あなたは補給とジャッジの措置を。レールガンだけでは・・」
自分たちを戒めるブラッドにルナマリアが呼びかける。
「ここは聞き入れるしかないようだ・・すぐに戻る!」
ブラッドが答えて、ジャッジがネフィリムに戻っていく。
「私たちで攻撃を仕掛けるわよ・・最悪、ブラッドが戻ってくるまでの時間を稼ぐぐらいは・・!」
ルナマリアが投げかけた言葉に、ソラたちが頷く。インパルスたちが散開して、フリーダムを迎え撃とうとしていた。
アテナとスーラの加勢は、シンも目の当たりにしていた。
「アテナ・・どうしてこっちに・・・!?」
戦わなくていいと言って聞かせたアテナが戦いに出ていることに、シンは驚愕を覚える。
「止めないと・・このままじゃ、殺される・・・!」
シンが思い立って、部屋から出ようとした。
「行くのか、シン・・・」
そのとき、誰もいないはずの部屋の中でシンは声をかけられた。彼は後ろにレイが立っているように感じた。
「レイ・・・」
足を止めたシンが振り返らずに答える。
「お前が飛び込もうとしているのは、決して終わることのない戦いになるかもしれないぞ。仮にまたキラ・ヤマトを倒しても、ヤツは何度も現れるかもしれない。ヤツに勝るとも劣らない、それ以上の敵が出てくる可能性もあるんだぞ。」
「そうかもしれない・・だけど、ルナやソラ、ブラッドやハル、アテナたちみんなが危険な目にあっているのに、オレだけ安全なところに隠れて、逃げているわけにはいかない・・・!」
忠告を投げかけるレイに、シンが自分の気持ちを口にする。
「あのとき、ステラを逃がしたときのようにか。」
レイが投げかけた言葉に、シンが息をのむ。彼はかつてステラを戦いや危険から遠ざけようとして、ミネルバから連れ出したことを思い出していた。
「助けたい一心でお前は彼女を連れ出し、オレも生きられる命があるならと思い協力した。結果としてはそれは報われることはなかったが・・」
「そんなことは・・・!」
「だがお前のその優しさは、平和を取り戻すために必要なのは間違いない。今、ルナマリアを助けるためにも・・」
困惑を浮かべるシンに、レイがさらに言いかける。
「シン、お前はもう、自分が守るべき未来を見定めているはずだ・・」
「オレが守るべき未来・・ルナ、ソラ、ハル、ブラッド、アテナ・・・」
レイの言葉を受けて、シンが自分の大切な人を思い浮かべていく。
「レイ・・お前は今でも、デスティニープランが、デュランダル議長が正しいと思ってるのか・・・?」
「それが平和の1番の形だとオレは思っている・・今もオレと同じ考えだとしても、議長が目指したのと同じ平和を実現させる力はないと、お前は思っているんだろう・・?」
レイと互いに問いを投げかけて、シンが小さく頷く。
「ならば、お前はお前の願う平和のために戦え。お前が誰よりも世界が平和になることを願っていると思うなら、お前の歩く道が平和につながる道になる。」
「レイ・・・」
「お前の選んだ道を進め。たとえそれが結果的に、議長が指し示した平和と食い違っていたとしても・・」
「レイ・・ありがとう・・・」
後押ししたレイにシンが感謝を口にした。レイの姿が消えたと感じてから、シンは改めて部屋を出た。
「お前は、本当にそれでいいのか・・・?」
廊下に出たところで、シンはまた声を耳にした。その声はアスランのものだった。
「これで本当に、世界が平和になると思っているのか!?・・新たな憎しみや悲しみが生まれて、世界はますます混乱することになる・・」
「今のキラみたいに、か・・・」
忠告を呼びかけるアスランに、シンが言葉を返す。
「確かにアイツをあんなふうにしてしまったのはオレだ・・だけど、世界を混乱させたのは、アンタたちも同じだ・・・」
自分たちの行為に責任を感じながらも、シンはキラやアスランたちへの反感も向ける。
「他の人たちのことを分かった気になって、全然分かろうともしなくて、力ときれいごとを押し付けた。戦いを止めるどころか、ますます戦いと悲劇を増やしていった・・それがアンタたちだ・・・」
「シン・・・!」
「アンタたちは戦いを止めるどころか、戦いの火種になっている・・今のキラはなおさら・・だから、オレがアイツを止める・・アイツのせいで、世界や大切な人が傷つくことになるなら、オレはみんなを守るために戦う・・たとえそれが、終わることのない戦いだとしても・・・!」
「お前は、戦いの連鎖の中にい続けるというのか!?・・終わらない戦いという運命から抜け出せなくなるんだぞ・・・!」
「それでみんなが幸せに暮らせるなら、みんなを守れるなら・・・!」
呼び止めようとしてくるアスランだが、シンの決意は固まっていた。
「たとえそれで平和を取り戻し、みんなを守れたとしても、お前は救われないんだぞ・・・!」
「オレ自身で決めたことだ・・たとえ救われなくても、オレは後悔しない・・・!」
歯がゆさを浮かべるアスランに、シンは揺るぎない意思を示す。
「それにオレは、もう1人じゃない・・仲間がいるし、オレたちに思いを託した人もいる・・レイのように・・ステラのように・・・」
自分の思いや自分を支えてくれる人のことを胸に宿していくシン。彼は目の前にステラがいるように感じていた。
「シン・・・ステラ・・シンのそばにいるよ・・シンの願いが叶うの、見届けるよ・・・」
「ステラ・・・」
微笑みかけてくるステラに、シンが戸惑いを浮かべる。
「オレはステラを守ることができなかった・・だけどみんなは・・絶対にオレが守る・・・」
「シン・・・ステラ、ずっとシンのそばにいる・・シンやみんなが幸せなら、ステラも幸せ・・・」
互いに思いを伝え合っていくシンとステラ。ステラの思いを背に受けて、シンは前に進めると実感していた。
「シン、本当にいいのか!?・・・取り返しのつかないことになるかもしれないんだぞ・・・!」
「それがみんなを守るためになるなら・・オレが決めたことなら・・・」
アスランの再三の忠告も聞き入れることなく、シンは自分の意思を貫こうとしていた。
「それがお前の戦いなのか・・いつ終わるか分からない・・終わることがないかもしれない戦い・・・」
やるせない面持ちを浮かべたまま、アスランはシンのそばから姿を消した。
「オレは行く・・みんなを守るために、オレは戦い続ける・・・」
「シン・・・ステラ、これからもシンを見てる・・・」
歩き出すシンに優しく囁いてから、ステラも彼のそばから姿を消した。
「ステラ・・ありがとう・・・オレは行く・・・」
ステラとレイへの感謝を口にして、シンは歩き出した。迷いと苦悩を振り切った彼は、ルナマリアたちを守るために戦場に戻ろうとしていた。
キラのフリーダムをけん制し、追い込もうとするルナマリアたち。だがフリーダムの動きはさらに加速して、インパルスたちは振り切れなくなってきた。
「フリーダムのスピードが上がってきている・・・!」
「ファルコンも、このままじゃいつ攻撃を受けてしまうか分からない・・・!」
ルナマリアとハルがフリーダムの動きに焦りを感じていく。
「それでも振り切って、フリーダムを倒さないと!・・このまま、アイツのいいようになんて、させない・・!」
ソラが言いかけて、フリーダムの動きに集中する。
「もう逃がさない・・今度は確実に仕留める・・・!」
キラが低く呟き、フリーダムが両手にビームサーベルを手にして加速してきた。ルナマリアがとっさに反応し、インパルスがビームサーベルで迎撃しようとするが、腕ごとフリーダムに切り落とされる。
「うっ!」
「ルナマリアさん!」
衝撃に襲われるルナマリアに、ハルが声を上げる。ファルコンが加速して、フリーダムに迫ってビームサーベルを振りかざす。
キラは反応して、フリーダムがファルコンのビームサーベルをかわす。すかさずレールガンを発射するフリーダムだが、アテナのクレッセントが発射したビームとぶつかり相殺される。
「みんな、離れて!私が引き離す!」
アテナが呼びかけて、クレッセントがビーム砲を発射する。しかしフリーダムにかわされ、クレッセントが詰め寄られる。
「くっ!」
フリーダムにビーム砲を切り裂かれて、クレッセントが体勢を崩す。フリーダムが即座にビームサーベルを振りかざそうとする。
「アテナ!」
そこへスーラのトリトンが飛び込み、フリーダムに向けてビームサーベルを振りかざす。キラが反応し、フリーダムが回避して、ビームサーベルを改めて振りかざす。
「ぐっ!」
トリトンがビームサーベルを持っている両腕を切り裂かれて突き飛ばされ、スーラが衝撃に揺さぶられて顔を歪める。
「スーラ!」
アテナが叫び、クレッセントがビームライフルを手にして発射する。フリーダムがトリトンへの追撃を止めて、クレッセントのビームをかわす。
「スーラ、あなたは離れて!」
アテナが呼びかけ、クレッセントがビームサーベルを手にして構える。
「アテナもだよ!」
ソラも呼びかけて、ファルコンもフリーダムに向かっていく。ファルコンが振りかざしたビームサーベルを、フリーダムもビームサーベルで受け止める。
その直後、フリーダムが右足を振りかざしてきた。右足から発せられたビームブレイドが、ファルコンの腕を切り裂いた。
「なっ!?」
「今のフリーダムにも、ビームブレイドが・・・!」
ファルコンの損傷に、ソラとハルが声を荒げる。クレッセントがビームライフルを発射するが、フリーダムにかわされて詰め寄られる。
「うっ!」
クレッセントがフリーダムのビームサーベルに腕を切り裂かれる。その衝撃に揺さぶられて、アテナがうめく。
体勢を崩しているクレッセントに、フリーダムがビームサーベルを突き立ててきた。アテナの対処が間に合わず、クレッセントが回避できない。
「アテナ!」
そこへスーラのトリトンが飛び込んで、クレッセントの前に来た。トリトンがクレッセントを突き飛ばして遠ざけた。
「スーラ・・・!?」
目を見開いたアテナの視界の中で、トリトンがフリーダムのビームサーベルに貫かれていた。
「アテナ・・逃げろ・・・お前は・・生きろ・・・!」
トリトンのコックピットの中で、スーラが声を振り絞る。
「スーラ・・あなた・・・!?」
「お前は絶対に死んではいけない・・お前だけでも・・生き抜け・・アテナ・・・!」
目を見開くアテナに向けて、スーラが微笑んで呼びかける。フリーダムのビームサーベルを引き抜かれたトリトンが落下して、空中で爆発を起こした。
「スーラ!」
爆発の中に消えたスーラに、アテナが悲痛の叫びを上げる。かけがえのない仲間を失った悲しみに、アテナが襲われる。
「スーラが・・私のために・・私を守ろうとして・・・!」
絶望感で心を満たして、アテナが体を震わせる。彼女は完全に戦意を揺さぶられていた。
「お前も、ここで倒す・・・!」
キラが低く呟き、フリーダムが再びクレッセントにとどめを刺そうとする。
「アテナ、逃げて!早く!」
ルナマリアが呼びかけるが、アテナの耳に入っていない。フリーダムがクレッセントに対し、ビームサーベルを構えた。
そのとき、2つのビームブーメランが飛び込んできた。キラが反応し、フリーダムがクレッセントから離れてビームブーメランをかわす。
続けてフリーダムに向けてビームが飛び込む。フリーダムがビームシールドを展開して防ぐ。
「あれは・・・!」
ソラがビームが飛んできたほうに目を向ける。フリーダムの前に立ちはだかったのは、シンの駆るデスティニーだった。
「シン!」
「シンさん!」
シンの登場にルナマリアとソラが声を上げる。デスティニーがクレッセントのそばに近づく。
「アテナは早く下がれ!他のみんなも!後はオレがやる!」
シンがアテナたちに呼びかけて、フリーダムに目を向ける。
「でも、私・・私・・・!」
「オレのことはいい!みんなは撤退することだけ考えろ!」
困惑しているアテナに、シンがさらに呼びかける。
「アテナ、ここはシンに任せて、体勢を立て直そう・・!」
「ルナマリア・・・分かったわ・・・」
ルナマリアからも呼びかけられて、アテナが小さく頷いた。クレッセントがインパルス、ファルコンとともにミネルバに戻っていく。
「シン・・今度こそ・・今度こそお前を・・・!」
キラがシンに対して憤りを感じていく。
「オレはもう迷わない・・たとえ永久に戦い続けることになったとしても・・・!」
シンが自分の思いと見つめ合い、決意を固めていく。
「世界の平和を、大切な人を守るために、オレは戦う!」
目つきを鋭くしたシンの中で何かが弾けた五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。
デスティニーがビームソードを手にして、フリーダムに向かっていく。キラも目つきを鋭くして、フリーダムもビームサーベルを構える。
2機の高周波を発するビームの刃がぶつかり合い、激しい衝撃を巻き起こす。
「お前が全てを奪った・・僕の大切なものを、全て・・・!」
キラが低い声音で言って、フリーダムがビームサーベルを振りかざして、デスティニーを引き離す。
「そうだ・・結果的にオレは、アンタの全てを奪った・・だがアンタたちは、オレやみんなの全てを奪ってきた!」
シンがキラに向けて言い放つ。
「オレはアンタを止める!たとえこれから先、戦い続けることになるとしても!」
シンが決意を言い放ち、デスティニーがビームソードを構えて飛びかかる。フリーダムがビームソードを回避するも、デスティニーは2機のビーム砲を発射する。
フリーダムもカリドゥスと2つのレールガンを発射して、デスティニーのビームを相殺する。その直後、デスティニーが飛び込み、フリーダムにビームソードを振りかざす。
フリーダムがビームソードをかわし、右足のビームブレイドを振りかざす。デスティニーも右足のビームブレイドを振りかざしてぶつけ合う。
ビームブレイドの衝突が相殺され、デスティニーが左手を伸ばしてパルマフィオキーナを放つ。キラが反応して、フリーダムが左手のビームサーベルでデスティニーの左腕を切り裂いた。
その直後、デスティニーがビームソードを振りかざして、フリーダムの左肩から左腕を切り裂いた。
「ぐっ!」
攻撃を受けたことと衝撃で、キラがうめく。劣勢を痛感したキラは、1度引き下がることを決める。
「逃げたか・・・追いかけるべきかもしれないけど、今はみんなを・・・!」
シンはキラを追おうとはせず、ルナマリアたちを助けることを優先させた。
「スーラ・・・!」
守ってくれたスーラの死に、アテナの心は悲しみに包まれていた。
次回予告
平和を壊す悲劇を止めるために。
果てしない意思と運命を背負うことを決めたシン。
破壊の根源は絶たなくてはならない。
彼らはまた、宇宙へと舞い戻る。
決意の未来へ、飛び立て、クレッセント!