GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-40「堕ちた自由」

 

 

 世界の敵に回されたキラたち。彼らは決意を固めたシンたちを迎え撃った。

 キラのフリーダムはシンのデスティニーによって貫かれ、炎上するエターナルに押し込まれて爆発した。その巨大な炎の中でキラは果てたと思われていた。

 だがキラは死んでいなかった。宇宙に流されたのをクライン派の残党に救われた。

 手術を受けて一命を取り留めたキラ。しかし救出された時点で体の損傷が激しく、生命維持のための器具を体に埋め込めることになった。

 療養と回復で、キラは人並みの身体機能を取り戻すことができた。だが瀕死の重傷だった体以上に、彼の心に刻まれた傷は深かった。

 アスラン、カガリ、マリュー、ムウ、ラクス。自分の大切な人たちを失い、キラはかつてない絶望に襲われた。

 戦いのない世界のため、みんなのため、平穏のために力を振るっただけなのに、なぜこのような苦痛を強いられなければならないのか。キラは心の中でひたすら問いを投げかけたが、答えは返ってこなかった。

 自分に突き付けられた現実が理不尽だと感じて、キラが感情を募らせていく。憎悪を膨らませた彼は、ついに心を凍てつかせることになった。

 キラは世界の全てを敵だと認識するようになった。自分の大切な人を奪った全てを滅ぼすことしか、彼は考えなくなっていた。

 不憫なく体を動かせるようになり、さらに運動やMSの操縦もこなせるようになったキラは、救出してくれたクライン派に、新たなフリーダムの製造を申し出た。

 申し出を聞き入れたクライン派は、今まで以上の性能と戦闘力を備えたフリーダムを完成させた。さらにジャスティスの武装の一部や、ビームサーベルの高周波も導入された。

 ラクスやアスランたちの思いと力を集約させた最高のフリーダム「アークフリーダム」が誕生した。

 キラの操縦技術と思いに依存させたストライクフリーダムと違い、アークフリーダムは狙ったもの全てを破壊することに特化している。まさに破壊の使者である。

 新たなフリーダムに乗ったキラは、自分に理不尽を押し付けた世界、特に自分の思いと大切な人を直接手にかけたシンへの憎悪を心身に宿らせた。

 そしてオーブ壊滅から3ヶ月後にキラは行動を開始し、世界への攻撃を開始したのだった。

 

 束の間の休息を取っていたキラが目を覚ました。今の自分に押し寄せる悪夢の現実を振り払おうとしながら、キラはフリーダムを動かす。

「みんなを奪ったこの世界を、僕が滅ぼす・・・」

 弱々しく呟くキラの起動により、フリーダムが飛翔する。

「そのための力、そのための思い、そのための決意が、今の僕にはある・・・」

 心を凍てつかせ、迷いや情を捨てたキラが、再び戦いに赴く。

「今の世界を壊して、僕が本当の平和を取り戻す・・・」

 キラが目つきを鋭くして、フリーダムが加速して移動していった。

 

 キラとの戦闘で意識を失ったシン。ミネルバの医務室のベッドで眠りについていた彼は、夜明け前に意識を取り戻した。

「よかった・・意識が戻った・・」

 医務官がシンを見て喜びを見せる。

「こ・・ここは・・・」

「ここはミネルバの医務室だ。君は意識を失って、ホーク隊長にここまで運ばれた。体のほうは軽傷で済みましたが・・・」

 声を上げるシンに医務官が説明する。

「今、艦長と隊長に報告します。それから、また身体チェックをします。」

 医務官がシンに呼びかけてから、指令室に連絡を入れる。シンが自分の頭に手を当てて、記憶を呼び起こしていく。

(オレはあのフリーダムに・・キラにやられて・・・その直前にオレは、おかしな感覚に襲われた・・)

 シンはさらに、デスティニーとフリーダムの激突の中できらめいた閃光に巻き込まれたときのことも思い出していた。

(あの感覚の中のオレは、何もできなかった・・体の自由が利かなくて、全てを見られているかのようだった・・・)

 不可思議な感覚に困惑するシン。彼はそれが魂の感覚であるかのようだと思っていた。

(ということはアイツには・・オレの全てが見えていたということか・・オレの過去も、オレの考えも、決意も思いも・・・)

 シンは自分のことをキラに見抜かれたという不安を覚えた。しかし今のキラが自分に干渉してくるのかという疑問も、シンは感じていた。

「シン!」

 医務官の連絡を受けて、ルナマリアが医務室に来た。ソラとハルも医務室の入り口で足を止める。

「シン、気が付いたのね・・よかった・・・」

「ルナ・・・ゴメン・・心配かけて・・・」

 安心を見せるルナマリアに、シンが戸惑いを見せながら謝る。

「ううん、いいよ・・シンが無事だっただけで・・・」

 ルナマリアが首を横に振って微笑みかける。しかし彼女がシンとともに表情を曇らせる。

「まさかフリーダムが・・キラさんが生きていたなんて・・・」

「それも以前とは全然違う・・フリーダムも、アイツも・・・」

 深刻さを浮かべるルナマリアとシン。シンは新たなフリーダムが、今までを凌駕する戦闘力と武装を備えているだけでなく、完全なる破壊の権化と化していることを実感していた。

「今のキラさんは、世界の全てを、特にシンさんを憎んで攻撃を広げている・・向こうは、僕たちが自分の全てを奪ったと思い込んでいるから・・」

 ハルが深刻な面持ちでシンたちに言いかけてきた。

「バカなこと言わないで、ハル!世界をムチャクチャにしたのは向こうだよ!自分たちのしたことを棚に上げて、私たちを憎むなんて、自分勝手も甚だしい!」

 するとソラが不満の声を上げてきた。ところがハルの口にした言葉が、シンは引っかかった。

(オレはキラのやっていることをどうしても見過ごせなかった・・世界を守るために、オレはアイツと戦った・・そのはずなのに・・・)

 シンはキラたちと、キラたちと戦う自分たちを思い返していく。

(それがアイツを、さらに危険な存在にしてしまったっていうのか・・・!?

 世界の平和のために自分たちがしたことが、さらに世界を危険にさらす事態を招いたと考えてしまい、シンが苦悩を深めていく。

「どうしたの、シン・・!?

「シンさん、大丈夫ですか!?

 そこへルナマリアとソラに声をかけられて、シンが我に返る。

「どこか、痛いところがあるんですか・・・!?

「あ、あぁ・・大丈夫だ・・特に痛いところは・・・」

 ハルも心配の声をかけると、シンが微笑んで答える。彼の笑みが作り笑顔だと、ルナマリアは思っていた。

「みなさん、シンさんの身体チェックを行いますので、1度外へ・・」

 医務官が声をかけて、ルナマリアたちは1度医務室を出ることにした。ルナマリアたちは医務室の前の廊下で待つことにした。

「悪いのはキラのほう!自分勝手に世界をひっかきまわして、それで正義の味方みたいに振る舞って!」

 ソラが再び不満の声を上げる。

「キラさんたちも、大切なものを守るために、戦いを終わらせるために戦っていた・・ただ、そのやり方と考え方が間違っていただけ・・・」

「そんなことない!アイツらは自分たちを守ろうとしていただけ!」

「そういうなら僕たちだって・・世界という自分たちを守っているだけなんだよ・・・」

 不満の声を上げるソラに、ハルが皮肉を口にしていく。憤りを感じながらも、ソラはハルにこれ以上反論できなかった。

「今のキラは私たちの敵・・この世界を破壊しようとする敵になってしまったのよ・・」

 ルナマリアが投げかけた言葉に、ソラもハルも困惑を感じていく。

「そんな破壊行為を止めないといけないことは確実よ。そして、シンに頼ってばかりじゃいられないことも・・」

「ルナマリア・・・」

 1つの決意を告げるルナマリアに、ソラが戸惑いを感じていく。

「私たちも戦います。そのための力も思いも、私たちにはある・・」

 ソラが言いかけて、ハルと顔を見合わせて頷き合う。2人は強い絆とファルコンでつながっていた。

「みんなを守ることが1番大事なこと。それは自分たちが生き残ることでもあるから・・」

「自分たちが生き残る・・私たちが・・・」

 ルナマリアの言葉にソラが呟く。みんなのためにも自分も生きて帰らないといけないと、彼女もハルも思っていた。

 

 シンが意識を取り戻したことは、ミーナとブラッドにも伝わった。

「意識が戻ったのはよかったけど、シンに残っている負担がどういうものなのかはまだ把握しきれていない・・・」

 ミーナがシンのことを考えて呟いていく。

「これからも身体チェックを続ける必要があるけど・・フリーダム・・キラ・ヤマトくんの動き次第では・・・」

「万全の状態でなくても戦うことになるかもしれない・・少なくともアイツ自身が、戦いに出ようとする・・」

 一抹の不安を覚えるミーナに、ブラッドが言いかける。世界や大切なものを守るためにシンは戦いに向かうと、2人は思っていた。

「ミネルバ艦長としては、出撃の許可は出せないところだけど・・」

「シンが戦おうというなら、自ら出撃を申し出てくるところだろう。たとえ艦長であるあなたが却下しても・・」

「どうするかは本人次第・・シンくんだけでなく、ルナマリアにもあなたにも、私にも言えること・・・」

「オレは、いや、オレたちはオレたちが生きられるようにするために戦う・・かつての世界にはオレたちの居場所はなく、今にはそれがある・・・」

「私たちも似たような理由よ。自分たちやプラントだけでなく、地球に住む人類も守りたい・・ナチュラルとコーディネイター、ともに・・」

「人種も出身も関係ない、か・・分け隔てなく分かり合えるのが、1番いい平和だろうな・・」

 自分たちの考えを口にしていくミーナとブラッド。しかし2人も誰も、本当の平和への道を見つけられないでいた。

 

 意識を取り戻したシンは、医務官による身体検査を受けた。シンに命の別状はなく、受けていた軽傷も睡眠中に回復が進んでいた。

「リアス艦長はいつあのフリーダムが攻撃を仕掛けてくるか分からないと仰られていた。なのでこの束の間に休息を取ったほうがいいとのことで、私もそう判断するよ。」

「そうですか・・ありがとうございました・・」

 医務官からの報告を聞いて、シンがお礼を言う。

「ただ、精神面はまだ安定していないようだ。だからまだ慎重に・・」

「分かりました・・おとなしくしています・・」

 医務官からの注意を聞いて、シンは小さく頷いた。

「では自室に戻ります。何かあれば連絡を・・」

「分かりました。お大事に・・」

 医務官に挨拶をして、シンは医務室を後にした。その廊下にはルナマリアたちがいた。

「シン・・・」

「ルナ・・みんな・・・」

 ルナマリアとシンが互いに戸惑いを見せる。ソラもハルもシンへの心配を抱えていた。

「みんな・・心配かけてしまって・・ゴメン・・・」

「ううん・・私こそ、シンの力になれなくて・・・でも、これからは私が、シンを守るから・・・」

 謝るシンにルナマリアが寄り添う。2人のやり取りにソラもハルも動揺を覚える。

「ありがとう、ルナ・・みんなも・・だけど、オレは・・・」

「こういうときぐらい、私たちに頼って・・何でもかんでも、1人で背負い込まないで・・・」

 戸惑いを見せるシンにルナマリアが想いを伝える。

「そうですよ、シンさん。みんなを守りたいって気持ちは、私たちにもあります。」

「そして僕たちは必ず生きて帰ってきます!悲しい思いをさせてもいけないですから!」

 ソラとハルも自分たちの決意をシンに伝える。

「みんな・・・」

 みんなの気持ちを受け止めて、シンは戸惑いを覚える。みんなを守ろうとしている自分が今、大切な人たちに守られていることに、彼は心を揺さぶられていた。

「今は休んでいて、シン・・私がシンを守る・・そして、シンの前に帰ってくるから・・・」

「ルナ・・・」

 寄り添うルナマリアにシンは戸惑いを募らせていく。シンはルナマリアを優しく抱きしめた。

「だから待ってて・・シンが元気になるのを、私も待っているから・・」

「ルナ・・みんな・・・ありがとう・・オレのために・・・」

 微笑むルナマリアにシンが頷く。2人が離れて、ルナマリアがソラとハルに目を向ける。

「リアス艦長のところに行くわよ。私たちがみんなを守るのよ・・」

「マイも一生懸命にキラの行方を追っているから・・」

 ルナマリアとソラが声をかける。3人はミーナとマイのいる指令室に向かった。

「オレは、今はじっとしているしかないか・・・」

 自分が出てくる余地がなくなり、シンはやむなく自室に戻ることにした。

 

 地球連合もザフトも、キラの行方と動向を探ろうと躍起になっていた。キラに気付かれないように、慎重に、十分に距離を取りながら。

「この方角は、連合の中央本部のあるほうだ・・・!」

「まさか、ヤツの次の狙いはそこか・・・!」

 グフのパイロットたちが、キラの動きを見て声を掛け合う。

「すぐに他の部隊に連絡!連合にも支給通達を!」

 パイロットたちが連絡を図ろうとした。だがそのとき、彼らの乗るグフが突然ビームに撃たれて爆発を起こした。

 狙撃したのは、ビームライフルを手にしたフリーダム。キラは尾行、監視をしていた機体に気付いていた。

「僕を・・僕たちを追い詰めようとする敵は、確実に倒す・・その拠点も・・・」

 キラが呟いて、改めて連合本部のほうに目を向ける。

「キラ・ヤマト、フリーダム、行く・・・!」

 キラがフリーダムを駆り、連合本部を目指して加速していった。

 

 キラの追跡が途絶えていく事態は、すぐにザフトの他の部隊に伝わった。彼らはその情報からキラの動きと狙いを絞り込んだ。

「フリーダム、連合の中央本部が次の狙いか・・」

「ようやく向こうとの関係も修復してきたというのに・・」

 ザフトの上層部が状況を確認して話し合っていく。

「各隊に救援と迎撃に向かうように。もちろんミネルバにも知らせるように。」

「はっ!直ちに!」

 上層部からの命令で、兵士が答えて行動を開始する。彼らからの指示がザフトの各部隊やミネルバに通達された。

 

 上層部からの指令を受けたミネルバ。ミーナはブラッド、ドギーと連絡を取り合って、キラの行方を追っていく。

「私たちはキラ・ヤマトの追撃に出ます。フリーダムによる破壊行為は、何としてでも止めなくてはなりません。」

“オレたちもヤツの動きを追う。ヤツを野放しにすれば、オレたちにも矛先を向けてくるからな。”

 自分たちの意思を示すミーナとドギー。

“リアス艦長、シンはどうしている?”

 ブラッドがミーナにシンについて訊ねる。

「自室で休んでいるわ。ルナマリアも待機するように呼びかけてくれたわ。」

“それでいい。アイツは大切なものを守るためにムチャをするヤツだから。今の状態でそれをやるのは酷だからな・・”

「えぇ・・では、これから中央本部に向けて航行します。」

“分かった。では後で。”

 シンに対する深刻さを抱えたまま、ミーナはブラッドたちとの通信を終えた。

「本艦はネフィリムとともにフリーダムの追撃に出ます。第一種戦闘配備。」

 ミーナが艦内に向けて指示を出す。

(シン、私たちもやるよ・・今度は、シンの分まで・・・!)

 ルナマリアが心の中で、シンの分も戦う決意を固めていた。

 

 

次回予告

 

たった1人に全てを背負わせない。

自分も守るために戦い、そして帰ってくる。

ルナマリア、ソラ、ハル、ブラッド。

シンを思う彼らの意思が、戦場で交錯する。

 

次回・「決意の戦場」

 

思いを背負い、飛び立て、インパルス!

 

 

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