GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-39「ハル」

 

 

 フリーダムと交戦したシンのデスティニー。2機の衝突の中で不可思議な感覚に襲われたことでシンが動揺し、その隙を突かれてデスティニーがフリーダムに負傷させられる。

 駆けつけたブラッドのジャッジに助けられたデスティニー。ブラッドは勝機を見出すことができず、2機は撤退に踏み切った。

「シン!・・くっ!気を失ってしまったのか・・・!」

 呼びかけてもシンからの応答がなく、ブラッドが毒づく。

「フリーダム・・追いかけてきているか・・・!」

 フリーダムが追ってきていることを確かめて、ブラッドがさらに危機感を感じていく。

 フリーダムがビームライフルで撃ってきた。ブラッドが反応し、ジャッジがデスティニーを抱えたままビームを回避する。

(これではスピードが出ない・・だが、シンを置いていくわけには・・・!)

 思うように逃げることができず、ブラッドが焦りを募らせる。フリーダムが放つビームを、ジャッジはとっさにビームシールドを出して防ぐ。

(このままでは、オレも・・・!)

 絶体絶命を痛感するブラッド。フリーダムがレールガンを展開してきた。

 そのときフリーダムに向かってビームが飛んできた。キラが反応し、フリーダムがビームをかわす。

 デスティニーとジャッジの救援に、ミネルバとネフィリムが駆けつけてきた。

「ブラッド、シン、大丈夫か!?遅くなってすまない!」

「ドギー・・牽制だけにしろ!フリーダムに近づかれたら、確実に落とされるぞ!」

 互いに呼びかけるドギーとブラッド。ネフィリムからダークスが次々に発進していく。

「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、いくわよ!」

 ルナマリアの乗るコアスプレンダーが、ミネルバから発進する。コアスプレンダーは続けて射出されたチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットと合体して、フォースインパルスとなる。

「今のうちにシンをミネルバに!その間に私が食い止める!」

 ルナマリアが呼びかけて、インパルスがビームライフルを手にして構える。

「今は言うとおりにするしかない・・すぐに戻る!」

 やむなく彼女の言葉を聞いたブラッド。ジャッジがデスティニーを連れて、ミネルバに向かう。

「デスティニー・・ミネルバ・・ここで僕が・・・!」

 キラがミネルバにも目を向けて、フリーダムがビームライフルを構える。

「させない!」

 そこへルナマリアのインパルスがビームライフルを発射してきた。キラはこれに気付き、フリーダムが軽やかにビームをかわす。

「インパルス・・・あれも、僕の力を奪った・・・!」

 キラの脳裏に、シンが乗っていたインパルスにフリーダムを貫かれた瞬間がよぎってきた。

「もう僕は倒れない・・大切な人を奪ったものを、全て討つ・・・!」

 キラが目つきを鋭くして、フリーダムがビームライフルでインパルスを狙い撃ちする。回避したインパルスに、フリーダムは続けてレールガンを発射する。

「うっ!」

 インパルスが両腕を狙撃されて、ルナマリアが衝撃に襲われる。

「ミネルバ、チェストフライヤー、フォースシルエット!」

 ルナマリアが呼びかけて、インパルスが分離してチェストフライヤーとフォースシルエットをフリーダムにぶつけようとする。が、フリーダムはビームブレイドを発した両足を振り上げて、チェストフライヤーをなぎ払う。

 ミネルバから新たに射出されたチェストフライヤー、フォースシルエットと合体しようとするコアスプレンダーに、フリーダムがビームライフルの銃口を向ける。

「させるか!」

 そこへダークスたちが駆けつけて、フリーダムに向けてワイヤーを伸ばす。キラが気づき、フリーダムが回避行動を取るが、続けて飛んできたワイヤーに手足を絡まれる。

 しかしフリーダムは両足からビームブレイドを、両手の甲からビームダガーを発して、ダークスのワイヤーを切り裂いた。

「何っ!?

 パイロットたちが驚愕し、ダークスたちがワイヤーを切られた反動で体勢を崩す。

「接近戦用の武装も増えている・・!」

「今まで以上に武器の塊だぞ・・!」

 ダークスのパイロットたちがフリーダムに脅威を感じていく。フリーダムがビームライフルで、ダークスたちを狙撃していく。

「うあっ!」

 ダークスがビームに貫かれて、次々に撃墜されていく。

「近づきすぎるな!距離を取れ!」

 ドギーがパイロットたちに指示を出す。コアスプレンダーが再びインパルスへの合体を果たす。

「陣形を立て直して!私が援護するから!」

「あ、あぁ!」

 ルナマリアが呼びかけて、ダークスのパイロットが答える。インパルスがビームライフルを構えて、銃口をフリーダムに向ける。

「倒す・・僕の大切な人を奪ったもの、全て・・・!」

 キラが低く言いかけて、フリーダムが銃砲を展開する。

「ロックされたわ!全速後退!」

 ミーナが指示を出して、ミネルバが後ろに下がる。同時にネフィリムも後退する。

 フリーダムが銃砲を一斉放射した。ビームが次々にダークス、ザク、グフに命中していく。

「ぐっ!うっ!」

 インパルスが回避と盾の防御でビームをかいくぐろうとするが、左足を狙撃される。

「ルナマリア!みんな!・・くそっ!フリーダム!」

 ブラッドが憤りを覚え、デスティニーをミネルバに送り届けたジャッジが飛び出す。ジャッジがビームライフル2つを手にして、レールガンも展開させて同時発射する。

 フリーダムが素早くかわし、ジャッジとビームの攻防を繰り広げる。

「ネフィリムとミネルバはここから離れろ!シンを死なせるな!」

 ブラッドがルナマリアたちに呼びかける。

「私も援護に回るわ!私だってやれる!」

 ルナマリアも呼びかけて、ジャッジとともにフリーダムをけん制しようとする。

「現宙域を離脱!フリーダムを振り切るのよ!」

「はいっ!」

 ミーナが呼びかけ、マイが答える。フリーダムの動向を警戒しながら、ミネルバとネフィリムが離れていく。

 フリーダムが右手のビームライフルをビームサーベルに持ち替えて、ジャッジに向かってスピードを上げてきた。

 ブラッドが即座に反応し、ジャッジがフリーダムに詰め寄られるより早く動き出し、後方に下がって距離を取ろうとする。

「ジャッジでも紙一重の回避が限界か・・!」

 フリーダムからの回避も気を抜けないことを痛感するブラッド。ルナマリアも緊張を募らせるばかりになっていた。

 キラがインパルスとジャッジの動きを細大漏らさず把握していく。フリーダムがジャッジに向けてビームライフルを発射し、直後にジャッジに飛び込む。

 ビームはかわしたジャッジだが、その動きに迫ったフリーダムが振りかざしたビームサーベル右わき腹を突かれる。

「ぐっ!」

 衝撃と火花がコックピットにも及び、ブラッドがうめく。

「ブラッド!」

 ルナマリアが叫び、インパルスがフリーダムに向けてビームライフルを発射する。フリーダムは軽やかにかわし、インパルスに向かっていく。

 インパルスがビームサーベルに持ち替えて振りかざすが、フリーダムにビームサーベルで右腕を切り裂かれる。

「キャッ!」

 ルナマリアが悲鳴を上げて、インパルスが突き飛ばされる。そこへジャッジがフリーダムを狙ってレールガンを発射する。

 フリーダムもレールガンを発射して、ビームを相殺する。続けてフリーダムが複相ビーム砲を発射し、ジャッジは回避が間に合わず、右腕を狙撃される。

(ぐっ!・・このままでは・・・)

 窮地に追い込まれて、ブラッドが危機感を募らせる。フリーダムがジャッジに向けてレールガンの銃口を向ける。

「これではかわし切れない・・!」

 絶体絶命を痛感するブラッド。損傷しているジャッジは回避が間に合わない。

 そのとき、フリーダムが放ったレールガンのビームが向かう先にいたジャッジが突然消えた。

 キラが目つきを鋭くして、周囲に視線を向ける。その先にジャッジはいた。

 ジャッジの腕をつかんでいたのはファルコン。ソラとハルが乗ったファルコンXである。

「これは・・ファルコン・・ハル、お前なのか・・・!?

 ブラッドがファルコンの姿を見て声を上げる。

「ブラッドさん、ホーク隊長、大丈夫ですか!?

「遅くなってすみません!」

 ファルコンに乗っているハルとソラが呼びかけてきた。

「ソラ!?ソラも一緒にいるの!?

 ソラの声にルナマリアが驚く。彼女とブラッドは、今のファルコンにハルとソラの2人が乗っていることを悟る。

「ホーク隊長とブラッドさんは撤退を!ここは僕たちが食い止めます!」

 ハルが呼びかけて、ファルコンが両手にそれぞれビームサーベルを手にして、フリーダムに飛びかかる。

「待って!以前のフリーダムじゃ・・!」

 ルナマリアが呼び止めようとしたとき、ファルコンとフリーダムがビームサーベルをぶつけ合った。ファルコンの動きは今のフリーダムに負けず劣らずの域にまで達していた。

「速い・・スピードだけなら、ジャッジと同等・・・!」

 ファルコンの性能を目の当たりにして、ブラッドが息をのむ。

「ブラッド、今のうちに撤退を!」

「あ、あぁ・・!」

 ルナマリアが呼びかけて、ブラッドが答える。だが負傷しているインパルスとジャッジは、スピードを最大まで上げることができなくなっていた。

「隊長たちは思うように動けないみたいだ・・・!」

「ハル、私に代わって!ここは牽制して、ルナマリアたちを連れて脱出する!」

 声を上げるハルにソラが呼びかける。

「ソラ・・分かった!任せる!」

 ハルが聞き入れて、ファルコンの操縦の権限をソラに渡す。ファルコンがフリーダムとの距離を取り、2つのビームライフルに持ち替えて射撃する。

 ファルコンがフリーダムに向けてビームライフルを発射する。ビームのスピード、正確性、連射、それらもスピードに特化したものとなっていた。

 キラも的確にファルコンとビームの動きを見切っていたが、フリーダムは回避が間に合わず、ビームシールドでの防御も見せた。

「今のうちに隊長たちを!」

「うんっ!」

 ハルの呼びかけにソラが頷く。ファルコンが戦闘機型に変形して、フリーダムから離れる。

「ルナマリア、ブラッド、ファルコンにつかまって!」

 ソラの呼びかけにルナマリアとブラッドが頷く。インパルスとジャッジがファルコンをつかむ。

「よし!全速前進!」

 ファルコンが一気にスピードを上げて、フリーダムの前から去っていった。

「逃げられた・・あんなのが出てくるとは・・・!」

 ファルコンの登場に対して、キラが目つきを鋭くする。

「今は引き返すことにしよう・・気分を落ち着かせてからじゃないと・・・」

 キラはソラたちを追いかけようとせず、1度引き上げることにした。

 

 ソラとハルのファルコンに助けられたルナマリアたち。キラのフリーダムから離れたミネルバとネフィリムは、付近のターミナルにで修繕を受けていた。

 デスティニーの損傷も浅くなかったが、エンジンには損傷がなく、シンも意識を失い、軽い傷を受けただけで済んでいた。

「ソラ、ハル・・あなたたちがあのファルコンに・・・?」

 ルナマリアがファルコンに目を向けて、ソラとハルに声をかける。

「私がアンジュに頼んだんです。ハルの力になる機体を・・」

 ソラもファルコンに目を向けて言いかける。

「スピードだけなら、初代や黒のデスティニーに勝るとも劣りません。みなさんの援護ぐらいはできるはずです。」

「感謝しています。アンジュさんに、ソラに・・」

 ハルも言いかけて、視線をソラに移す。2人は顔を見合わせて微笑み合った。

「もう僕、自分が無力だなんて思いません・・僕にも力があることを、ソラが教えてくれた・・」

「あのとき、ハルは私を守ってくれた・・今度は私がハルを守る・・ハルの気持ちを受け止めて、力を合わせていきたい・・・」

 互いに自分たちの決意と思いを告げて、ハルとソラは頷いた。

「ソラ・・ハル・・あなたたちは、一緒に戦うことを心に決めたのね・・・」

 2人の思いを受け止めて、ルナマリアが微笑む。

「新しいファルコンについて、詳しく聞かせて。これからの任務でどのような戦い方をするべきなのかを考えるためにも・・」

「はい。分かりました、ホーク隊長。」

「それと、ソラには言ってあるけど、これからは“ルナマリア”と呼んで。一緒に力を合わせて任務に臨むんだから、堅苦しくするのはなしということで・・」

「そんな・・上官を呼び捨てだなんて・・」

「私が許可するから、構わないわ。」

「そうですか・・それでは、これからもよろしくお願いします、ルナマリアさん。」

 ルナマリアに言われて、ハルが微笑みかける。

「あなたもガンコなほうだね。シンにはさすがに負けるけど・・」

 ルナマリアがハルに苦笑をこぼす。ルナマリアはハルからさらに詳しく、ファルコンについて話を聞いた。

「ハル・・自信が戻ったね、ハル・・・」

 ソラがハルの様子を見て安心を感じていく。

(私も守るよ・・ハルを・・みんなを・・ハルを失わせない・・・)

 ハルたちを守ること、ハルとともにみんなを守ることを、ソラは改めて誓っていた。

 

 デスティニーから連れ出されて、ミネルバの医務室のベッドで眠っていた。手当ては済んでいたが、彼はまだ眠っている。

 ミーナとブラッドが医務室を訪れ、シンの様子を見ていた。

「今のシンが簡単にやられるとは思えない。たとえ今回現れたフリーダムが、以前を大きく上回る戦闘力と武装を備えていたとしても・・」

 ブラッドがシンのことを考えて呟く。

「何かがあったのだろう・・単純に考えても、デスティニーとフリーダム、2機の力は巨大だ・・」

「2機がぶつかり合ったことで、大きな干渉エネルギーが生じた・・シンがそれに影響された可能性があるわね・・」

 ブラッドに続いてミーナも言いかける。

「シンとデスティニーだから、この負傷だけで済んだのかもしれない・・他だったら、もしかしたらそのエネルギーに巻き込まれただけで、致命的なダメージを被ることになる・・」

「その干渉エネルギーの正体が分かれば、対応できないとは言い切れないだろう・・」

「そのことは、こちらでも調べてみるわ。」

「こちらでもだ。お互い、慎重になったほうがいい。フリーダム以上に、焦りが天敵だ・・」

 ミーナとブラッドが考えをまとめて、シンにもう1度目を向けてから医務室を後にした。

 

 シンたちをあえて追わずに引き上げたキラ。彼は新たなフリーダムのコックピットの中で、1人休息を取っていた。

(全てが敵・・世界の全てが、僕を追い込む・・・)

 体を休めている間も、キラは世界への憎悪を募らせていた。

(特にアイツ・・シン・・・)

 キラがシンのことを思い出して、さらに憤っていく。

(アスラン・・カガリ・・ラクス・・みんな・・・みんなを、僕から奪った・・・絶対に、許せない・・・)

 シンを1番の敵だと認識するキラ。全てを失った彼は、全てを憎み壊すだけの心しかなくなっていた。

 

 

次回予告

 

どうしてこんなことになってしまったのか?

ただみんなを守りたかった、戦いを終わらせたかっただけなのに。

全てを失ったキラの心は、完全に凍てついていた。

世界の全てを敵に回した彼が持つのは、完全なる破壊の力。

 

次回・「堕ちた自由」

 

悲劇の青空へ、舞い上がれ、フリーダム!

 

 

作品集

 

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