GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-38「自由の堕天使」

 

 

 突然のフリーダムの出現。ザフト、連合問わずに攻撃と破壊を続けるフリーダムを止めるため、ミネルバは地球に向かっていた。

 シンもルナマリアもミーナも、倒されたはずのフリーダムに対して気が気でなくなっていた。

「艦長、オレを先に行かせてください。デスティニーも大気圏を突破できます。」

 シンが真剣な面持ちでミーナに呼びかけてきた。

「確かにデスティニーは大丈夫ね。でもシン、あなたのほうは大丈夫・・?」

 するとミーナがシンに心配の声をかけてきた。

「倒されたはずのフリーダムが現れて、少なからず動揺しているんじゃないかと・・余計な心配だったならいいけど・・」

「本当に余計な心配です・・また現れても、倒すだけだ・・」

 シンがミーナの心配に言葉を返す。

「シン・・・」

 迷いを感じていないシンだが、ルナマリアは彼が心の中で動揺を感じているのではないかと不安を感じていた。

「分かったわ、シンくん・・デスティニー、発進準備。」

「はいっ!」

 シンの申し出を聞き入れて、ミーナが呼びかけてマイが答える。

「ルナ、先に行ってくる・・オレがアイツを今度も・・・!」

「シン・・気を付けてね・・追いついたら、私もすぐに出るから・・」

 言いかけるシンにルナマリアも声をかける。

「ありがとう、ルナ・・行ってくる・・」

 シンはルナマリアの肩に軽く手を添えてから、指令室を飛び出した。

 

 同じ頃、ネフィリムもフリーダムの出現を探知して、ブラッドたちも驚きを隠せないでいた。ブラッドたちはミネルバや他の部隊の動きと状況を把握して、ネフィリムも地球を目指していた。

「あのフリーダムがまた現れるなんて・・・!」

「今度は以前のフリーダムではない。戦闘力だけでなく、戦い方も違っている・・・!」

 ドギーとブラッドがフリーダムのことを話していく。

「以前のフリーダムは武装を集中的に攻撃していた。全くというわけではなかったが、直接命を奪おうとすることはしなかった・・だが・・」

「今回は確実に破壊を狙ってる・・無差別な大量殺戮者と化している、完全に・・・!」

「何にしても、このままアイツを野放しにするつもりはないんだろ、ブラッド!?

「当然だ・・ヤツは今まで以上に世界を乱してきている・・やっとつかんだ平和と安らぎだ・・壊されてたまるものか・・・!」

 ドギーが投げかける言葉にブラッドが頷く。

「ミネルバからデスティニーが発進した!先に地球へ降りるようだ!」

 オペレーターがデスティニーの動きの捕捉を報告する。

「オレもジャッジで出る!ジャッジも大気圏を抜けられる!シンは先にフリーダムと戦うつもりなのだろう!」

「ブラッド・・気を付けてくれ、ブラッド!相手はフリーダムだからな!」

「あぁ!分かっている!」

 ドギーからの言葉を受けて、ブラッドが笑みを浮かべて頷く。ブラッドはドックに向かい、ジャッジに乗り込んだ。

「ブラッド・J・クロノス、ジャッジ、発進する!」

 ブラッドの乗るジャッジがネフィリムから発進した。

 

「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」

 シンの乗るデスティニーがミネルバから発進する。ミネルバから先行して、デスティニーが加速して地球へ向かい、大気圏に突入する。

 大気圏を突破して地球の空を飛行するデスティニー。そのままフリーダムを目指して前進する。

(また現れたフリーダム・・乗っているのはアイツなのか・・・!?

 シンが倒したはずのキラのことを考えていく。

(いや、ありえない・・アイツはオレが貫いて押し込んで、さらにエターナルと一緒に爆発したはずだ・・それで生きていられるわけがない・・・!)

 キラの生存を信じられず、シンは激情を募らせていた。

「誰が乗っていても、オレはフリーダムを倒す・・今度も!」

 込み上げてくる感情を振り切り、シンが目つきを鋭くする。デスティニーが加速して、フリーダムを目指す。

 そしてデスティニーのレーダーが、フリーダムの熱源を捉えた。

「あそこか・・!」

 シンがいきり立ち、デスティニーが前進する。炎と煙が漂う空の中心にいるフリーダムが、駆けつけたデスティニーに振り向いてきた。

「アンタ、キラなのか・・・乗ってるのはキラ・ヤマトなのか!?

 シンがフリーダムに向けて呼びかける。

「デスティニー・・シン・アスカ・・・僕の全てを奪った・・・」

 フリーダムから低い声が響いてきた。その声色から、フリーダムのパイロットがキラであることを、シンは確信させた。

「生きてたのか、キラ・・・だけど何で・・あのとき、アンタはエターナルと一緒に・・・!?

 シンがキラに疑問を投げかける。

「あの爆発で生き残れるわけがない・・生き残れても、機体をここまで使いこなして動かせるわけがない・・・!」

「あのとき僕は死んだ・・死んだと思った・・でも僕は生きていた・・手術を繰り返して、体中に生命維持のための器具を施されて・・・」

 声を荒げるシンに、キラが低い口調のまま言いかける。

 キラはデスティニーに胴体を貫かれたフリーダムと、炎上するエターナルの爆発に巻き込まれた。宇宙空間でのこの爆発で生き残ることはまずできない。できても瀕死の重傷は免れない。

 キラは爆発から宇宙に投げ出されて、生死の境をさまよっていた。しかし彼はクライン派によって救われ、緊急手術を施された。

 体に生命維持のための器具を埋め込まれ、全身が手術跡など傷跡が残っていた。しかし以前から変わっていたのは体だけではなかった。

 アスランやカガリ、ラクス。大切な人を全て失った絶望と心の傷は、体の傷以上に深かった。

 かつてない絶望と悲劇、憎悪に見舞われて、キラの心は完全に凍てついていた。自分の全てを奪われた激情に突き動かされる彼は、勢力問わず武力を攻撃することを心に決めていた。以前は避けていたコックピットへの直撃もためらうことなく。

「僕は全てを許さない・・大切なものを奪った、この世界を・・・」

 キラが低く言いかけて、フリーダムがデスティニーを狙って、ビームライフルを発射する。シンは反応し、デスティニーが素早く動いてかわす。

「生きて戻ってきたと思ったら、まだそんなふざけたことを・・世界をムチャクチャにして、みんなから何もかも奪ったのはアンタたちだろうが!」

 シンが怒りを覚えてキラに言い放つ。デスティニーもビームライフルを手にして発射するが、フリーダムも素早くかわす。

「自分たちのしてきたことを棚に上げて、やっと取り戻した平和をまた壊して!」

「僕はみんなを守りたかった・・それを、君たちが・・・!」

 シンの怒号にキラも鋭く言いかける。デスティニーとフリーダムがライフルによるビームの攻防を繰り広げる。

「自分たちだけが無事でいようとするヤツらが!」

 怒りを膨らませたシンの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 デスティニーがビームソードを手にして、ビームサーベルほどの大きさにする。フリーダムの射撃をシンは即座に反応して、デスティニーが紙一重でかわしてみせる。

 フリーダムもビームサーベルに持ち替えて、デスティニーに向かっていく。デスティニーが迎え撃ち、ビームの刃をぶつけ合う。

「くそっ!」

 シンが毒づき、デスティニーが左手を突き出してパルマフィオキーナを放とうとした。だが同時にフリーダムがレールガンを発射してきた。

「ぐっ!」

 狙撃の爆発でデスティニーが吹き飛ばされ、シンがうめく。フリーダムが突っ込んでビームサーベルを振りかざすが、デスティニーは体勢を整えて、回避して距離を取る。

「前より強くなっている・・フリーダムの性能と武装だけじゃない・・キラの力も・・・!」

 フリーダムだけでなくキラ自身も強くなっていることに、シンが毒づく。

「だけど、強くなっているのは、お前だけじゃない!」

 シンが言い放ち、デスティニーがビームソードの刃を大きくする。デスティニーがビームソードを振りかざすが、フリーダムは素早く動いてかわす。

(デスティニーの剣から高周波が出ていることを分かっているか・・それでも、オレはお前を倒す!今度も!)

 シンがいきり立ち、デスティニーがフリーダムを狙ってさらに飛びかかる。

 そのとき、フリーダムが2本のビームサーベルを組み合わせてきた。するとビームの刃がデスティニーのビームソードと同じ大きさになった。

「何っ!?

 思いもよらなかったことに驚愕するシン。デスティニーとフリーダムがビームソードを振りかざしてぶつけ合う。

 その瞬間、2機のビームソードから衝撃が発して周囲に広がった。同時にシンはかつてない違和感を覚えた。

(な・・何だ!?・・何も感じない・・何も、聞こえない・・・!?

 自分が襲われている状態にシンが驚愕して目を見開く。白んだ光は目に入っているが、体は何も感じないし何も聞こえてこない。

(どういうことなんだ!?・・体が、言うことを聞かない・・・!?

 体を動かそうとしたシンだが、思うように動かない。そもそも体が動いているのかという感覚も感じられない。

(アイツは・・キラは・・フリーダムはどこだ・・・!?

 シンはキラ、フリーダムの居場所を確かめる。

 次の瞬間、シンの眼前で広がっていた白い光が消えて、元の戦場の光景に戻る。彼の目の前にフリーダムはいた。

 何が起こっていたのか分からず、困惑を振り切れないシン。動きが止まっているデスティニーに向けて、フリーダムがビームソードを振りかざしてきた。

 シンが我に返り、デスティニーがビームソードを振りかざす。だが迎撃が遅れたデスティニーが、ビームソードを弾かれて手放してしまう。

「しまった!」

 シンが窮地を覚えて声を上げる。デスティニーがフリーダムに向けて、ビームブレイドを発した左足を振りかざす。

 するとフリーダムも左足を振りかざしてきた。その足にはビームブレイドが発せられていた。

「何っ!?

 フリーダムの新たな武装にシンがさらに驚愕する。デスティニーとフリーダムがビームブレイドをぶつけ合う。

 デスティニーは今度は右足のビームブレイドを繰り出す。するとフリーダムはビームソードを振りかざしてきた。

 デスティニーの右足がビームソードに切り裂かれて吹き飛ばされる。

「ぐっ!」

 シンが衝撃にあおられてうめく。さらに迫るフリーダムに、デスティニーがビーム砲を発射して牽制する。

 フリーダムがとっさにビームシールドを展開した。ビーム砲のビームが速射で威力を強くしていなかったため、直撃されるも爆発で押されるにとどまった。

 フリーダムが即座に、ドラグーン以外の全ての銃砲を展開して一斉発射した。

 デスティニーが両手を前に突き出して、ビームシールドとパルマフィオキーナを起動させる。胴体へ向かっていたビームは防いだが、頭部、両肩、左足を狙撃された。

「ぐあぁっ!」

 狙撃されたデスティニーの衝撃と爆発がコックピットにも襲い掛かり、シンが絶叫する。機動力が弱まったデスティニーが力なく落下していく。

「デスティニー・・シン・・この手で、倒す・・・!」

 キラが冷徹に呟き、フリーダムがデスティニーに狙いを定める。フリーダムは再び一斉放射を仕掛けようとしていた。

 そのとき、フリーダムに向けてビームが飛んできた。気づいたキラが反応し、フリーダムが一斉放射をやめてビームを回避する。

 フリーダムに攻撃を仕掛けたのは、大気圏を突破して駆けつけてきたジャッジだった。

「シン、大丈夫か!?応答しろ!」

 ブラッドがシンに向かって呼びかける。デスティニーはその下の、木々の広がる森に落ちた。木々がクッションのようになって落下の衝撃を和らげることになった。

「シン、しっかりしろ!・・意識を失ってしまったのか・・・!」

 シンからの応答がないことに毒づくブラッド。ジャッジがフリーダムに振り返る。

「フリーダム・・まさか本当に生きているとは・・・!」

 ブラッドがフリーダムを実際に目にして、危機感を募らせる。

「今までよりも性能が格段に上がっている・・ここは引き下がるしかないが、このジャッジでも、デスティニーを連れて逃げ切れるか・・・!」

 ブラッドがフリーダムの力を痛感していく。

「だが今は引くしかない・・シンを連れ出さなければ、確実にフリーダムはシンを殺しにかかる・・・!」

 シンとデスティニーの救出を優先させるブラッド。ジャッジが左手に持つビームライフルを発射して、フリーダムをけん制する。

 その一瞬の隙に、ブラッドがデスティニーに向かっていく。ジャッジが右手でデスティニーの腕をつかんで、機体を持ち上げて加速する。

「逃がさない・・君たちは、必ず僕が倒す・・・!」

 キラが低く言って、フリーダムがデスティニーとブラッドを追って飛び出した。

 

 ハルを連れてブルースカイ家に向かったソラ。そこでは連絡を受けていたアンジュが待っていた。

「お待ちしていました、お嬢様、ハルさん。」

 アンジュが声をかけると、ソラが真剣な面持ちで頷く。

「あの新しい機体ですね。まずは直接ご覧になってください。」

 アンジュがソラとハルを案内して、2人が付いていく。3人はブルースカイ家地下の施設にやってきた。

 そしてソラたちは1つの機体の前で足を止めた。

「こ、これは・・・!」

 ハルがその機体を目の当たりにして驚く。その機体はファルコンに酷似していた。

「ファルコン・・ファルコンだ・・・!」

「そうです。武装や機動力はもちろん、スピードも飛躍的に向上させている。“ファルコンX(エックス)”です。」

 動揺を見せているハルに、アンジュが説明をする。

「ハルさん、あなたと、お嬢様の機体です。」

「僕と・・ソラの機体・・・!?

 アンジュが口にした言葉に、ハルが疑問符を浮かべる。

「ファルコンXは操縦するパイロットを切り替えられます。双方が承認することで操縦の権利を移すことができるのです。」

「そういうことですか・・でもそれで僕とソラの機体って、どういうことなんですか・・・?」

「開発の際、以前のファルコンだけでなく、あなたとお嬢様の戦闘データも参考にさせていただきました。ハルさんは接近戦、お嬢様は射撃のレベルが高いのです。」

 さらに疑問を感じていくハルに、アンジュがさらに説明する。

「ファルコンXはスピード重視ですが、近距離戦も遠距離戦もこなせます。ハルさんとお嬢様がうまく切り替えて使いこなしていけば、デスティニーやジャッジ、インパルスに負けず劣らずの戦いができます。」

「アンジュさん・・僕のために・・・」

 微笑みかけるアンジュに、ハルが戸惑いを感じていく。

「ハル、行こう・・シンさんを、みんなを助けに・・・」

 ソラも声をかけて微笑んできた。ハルも笑みをこぼして頷いた。

「行ってください、2人とも・・シンさんを支えて、みなさんをお守りください・・」

「アンジュ・・うん!」

 呼びかけるアンジュにソラが頷く。彼女とハルがファルコンに乗り込んで、起動させた。

「ハッチ開け!発進準備!」

 アンジュの指示を受けて整備士たちがコンピューターを操作する。ファルコンの上のハッチが開かれる。

「発進準備完了!発進どうぞ!」

 アンジュがソラとハルに呼びかける。

「ソラ・アオイ・・」

「ハル・ソーマ・・」

「ファルコン、出ます!」

 ソラとハルが声をそろえて、ファルコンが飛び上がり、ブルースカイ家から飛び出していった。

 

 

次回予告

 

自分には力がないと思っていた。

守ることができないと思っていた。

自分の形で、自分のやり方で、自分の大切な人たちを守ればいい。

迷いを振り切った少年は、少女とともに戦場に舞い戻る。

 

次回・「ハル」

 

希望の空へ、飛び立て、ファルコン!

 

 

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