GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-37「破壊の使者」
オーブ壊滅から3ヶ月が過ぎた。
シンは心身ともに回復して、医療施設から退院し、ミネルバに戻っていた。ハルは腕の骨折がほぼ直り、リハビリに励んでいた。
アテナはソルネ、スーラとともに改めてプラントに移動してきた。そこで療養を続けたアテナだが、体を完全に改善させることにはできなかった。
投与された薬は完全に体から拭い去ることができず、体への影響が残っていた。長くて半年の寿命と申告された。
「お前はもう戦わないでくれ・・生き抜いてくれ・・残された命で・・・」
シンはアテナにそう告げて、任務に戻っていった。生きていてほしいというシンの真っ直ぐな思いを、アテナは素直に受け止めることにした。
その思いが向けられているのが自分ではなくステラだとしても、生きていてほしいという願いが込められている。アテナはそう思っていた。
ハルのリハビリに付き合っていたソラ。ソラはハルの休憩中に、アンジュと連絡を取っていた。
「ハルも頑張っているよ。私も時間が空いたときにシュミレーションを重ねている・・」
“クライン派も鎮圧されたものと思われます。ミネルバやネフィリムと協力して、調査を続けます。”
互いに自分たちの状況を話し合っていくソラとアンジュ。
“それとお嬢様に頼まれていました機体。ハルさんの戦闘データとファルコンのデータを元にしまして、完成しました。”
「完成した・・よかった・・」
アンジュからの報告を聞いて、ソラが喜びを覚える。
“ただ最終調整はハルさんに見ていただかなくては・・いきなり実践投入するのは、不具合が起きないとも限りませんので・・”
「それはそうだけど・・ハルも腕が完治したという診断と、操縦の許可はもらっていないし・・」
“そうですか・・うまく使えるようになるまではまだ時間がかかるみたいですね・・・”
「ここまで我慢して、じっくり時間をかけてきたんだから。焦りは禁物ってね。」
“お嬢様・・ハルさんに伝えてください。待っていますと・・”
「アンジュ・・うん。確かに伝えるよ・・」
アンジュとの連絡を終えて、ソラが笑みをこぼした。
「焦らずムリせず・・私もハルも・・・」
自分に言い聞かせるように呟いて、ソラはハルの病室に戻っていった。
ソラとの連絡を終えたアンジュが、肩を落としてため息をついた。
「アテナさんとスーラさんに頼まれたこと・・お嬢様やみなさんに黙っているのが辛いです・・・」
アンジュはアテナたちからあることを頼まれ、ソラやシンを含めた他の人に言わないよう口止めされていた。
ブルースカイ家地下の開発部に収容されている、開発や調整が行われている機体。その中の2機はクレッセントとトリトンである。
アンジュはアテナたちから密かに、クレッセントとトリトンの修復と調整を頼まれていた。戦闘に加わることが知られれば、シンたちに止められることは確実。アテナはそう考えて、アンジュに頼んだのである。
「またお嬢様に言われてしまいますね・・・」
知られたらソラから不満を言われてしまうと思い、アンジュは苦笑を浮かべていた。
(クライン派は鎮圧を済ませつつある。でもどこかで何かを企んでいないとも限らない・・まだ警戒を続けないといけない・・)
アンジュが真剣な面持ちを浮かべて、心の中で呟く。彼女は平和を実感しながらも、嵐の前の静けさも感じていた。
プラント周辺の宙域の見回りを行っていたミネルバ。シンのデスティニー、ルナマリアのインパルスも発進して、パトロールをしていた。
「もう隠れ潜んでいる気配もなさそうね・・クライン派の攻撃もなくなっているし・・」
ルナマリアが周辺を調査して呟く。
「シン、体は大丈夫・・・?」
ルナマリアが唐突にシンに心配の声をかけてきた。
「まだ、体に痛みがあるとか、意識に何か異常が・・」
「ルナ・・オレは大丈夫だ。痛みもおかしいところもない。このデスティニーを動かしていても、そんなに負担はかからなくなったし・・」
シンが落ち着いた様子でルナマリアに答えてきた。
「もう大丈夫だ。心配かけてゴメン、ルナ・・・」
「シンが謝ることはないよ。シンは私たちを何度も助けてくれて、みんなを守っているんだから・・」
謝るシンにルナマリアが弁解を入れる。
「私も守るために立ち向かうよ・・シンを、みんなを守るために・・・」
「ルナ・・ありがとう・・・」
声を掛け合って、ルナマリアとシンが微笑み合っていた。
“2人とも任務中よ。私情を挟みすぎないように。”
そこへミネルバにいるミーナからの注意が入ってきた。
「おしゃべりは後にしたほうがいいわね・・」
「そうみたいだ・・」
ルナマリアとシンが苦笑をこぼして、機体の操縦と調査に集中する。その後2人やミーナたちの調査は進められたが、宙域での異常は見られなかった。
そしてデスティニーとインパルスはミネルバに戻っていった。
「異常ありませんでした。ネフィリムのほうでも異常は確認できなかったそうですね・・」
「今日まで調査を続けてきたけど、襲撃の様子もない・・」
ルナマリアとシンがミーナに報告する。
「プラント内も大きく変動している。評議会も議員が変わり、方針も各々の意思が尊重される形になっていったわ。オーブとは違う形の中立で。」
「これでやっと平和になったんだ・・戦いのない世の中に・・・」
ミーナの話を受けて、シンが世界に平和が戻ったことを実感していく。その平和を自分たちがつかみ取ったことも。
「もしもこの平和を壊そうとしてくる敵が出てきたら、オレは立ち向かいます・・もう誰にも、悲劇を体感させたくない・・・」
「シン・・・」
揺るぎない決意を見せるシンに、ルナマリアは戸惑いを感じていた。
「私も立ち向かいます・・世界の平和のために・・」
ルナマリアもシンとミーナの前で決意を口にした。
「別部隊に調査を交代し、本艦は1度引き上げます。」
ミーナが指示を出し、ミネルバが別部隊に連絡を入れてから、プラントに引き上げていった。
ミネルバの交代として、ザフトの別部隊が調査に乗り出していた。
「クライン派の残党どころか、襲撃者の1人も出てきてないじゃないか。」
「あんまりムダな労働するのも困りものだなぁ・・」
ザクを操縦する部隊のパイロットたちが愚痴をこぼしていく。
“お前ら、気を抜くな!手抜きは命取りだぞ!”
「は、はい!すみません!」
艦長からの怒号が響き、パイロットたちが慌てて答える。
「通信切ってあるかどうか確信しないと・・!」
「す、すまない、すまない・・」
パイロットたちが気を引き締めなおして、調査に集中する。
そのとき、ザクのレーダーが1つの熱源を捉えた。
「これは、何だ!?・・は、速い!」
「隕石じゃない・・その軌道じゃない・・・MS!」
パイロットたちが声を荒げる。レーダーが捕捉してほどなくして、熱源の正体がザクのモニターに入ってきた。
「あ、あれは!」
パイロットたちが驚愕の声を上げた瞬間だった。ザク2機がその直後に切り裂かれて、爆発を起こした。
ザク2機の位置情報が消えたことに、部隊の艦や他のパイロットたちに緊張が走った。
「情報を整理しろ!熱源の正体を突き止めろ!」
「はっ!」
艦長の呼びかけに答えて、オペレーターが情報収集に当たる。
「熱源、こちらに向けて接近してきます!」
「迎撃だ!近づけさせるな!」
オペレーターの報告を受けて、艦長が命令を出す。各艦がビームやミサイルを発射するが、機影は素早くかいくぐっていく。
「速い・・この動き、この速さ、この正確さ・・・!」
迎撃に出たザクやグフをビームとビームサーベルで次々に撃破していく機体に、艦長は緊迫を募らせていく。
「まさか!?」
複数のビームを一斉発射してきた機体の姿を一瞬目撃して、艦長がその正体を確信して目を見開いた。その直後、その宙域にいた部隊の機体や艦が全て撃墜された。
ミネルバがプラントに戻ってから少したってからのことだった。ミーナたちに別部隊が襲撃を受けて全滅したことの知らせが届いたのは。
「まさか、オレたちがいなくなった途端に攻撃が・・・!」
シンが襲撃を迎え撃てなかったことを悔やむ。
「気に病まないで、シンくん。偶然私たちがいなくなった後に敵が来ただけのこと・・」
ミーナがシンに呼びかけて落ち着かせる。
「それで、襲撃者の正体は分かったのですか・・・!?」
ルナマリアがミーナに状況を聞く。
「送られてきた通信の中に、気がかりな言葉があったの・・撃墜される直前に出た言葉・・・」
ミーナが緊張を感じながら、言葉を切り出した。
「フリーダム、と・・」
「えっ!?」
ミーナが口にした言葉に、シンとルナマリアが耳を疑った。
「そんな・・そんなバカな!?フリーダムは、キラはオレが倒した!出てくるはずがない!」
「落ち着いて、シンくん・・まだ情報が確定したわけではないわ・・!」
驚愕の声を上げるシンにミーナが呼びかける。シンは何とか動揺を抑えようとする。
「正体が確定的になるまでは下手に動けないわ。分かり次第、私たちも動き出す。それまで待機よ・・」
ミーナに呼び止められて、シンは感情を抑えながら頷いた。
「それで他の部隊は?連合は?」
「どこも敵の正体を探ることに専念している。他も迂闊には出ていけないみたい・・」
ルナマリアが聞いて、ミーナが深刻さを込めて答える。
「敵MS、地球に降下していきます!」
レーダーと通信に注視していたマイが報告をする。それを聞いてシンたちが緊張を募らせていく。
機体は高速を維持したまま、大気圏を突き抜けて地球に降下していった。
地球でも地球連合が警戒態勢を敷いていた。連合の各部隊が機体の正体の確認を進めて、迎え撃とうとしていた。
「敵機体はザフトの部隊を攻撃し、地球に降下してこちらに向かっている!どれほどの力を備えているかまだ計り知れん!警戒を怠るな!」
連合の艦の艦長が檄を飛ばす。
(プラントは、コーディネイターは我々との協力関係を持ち寄り、技術提供など協力に尽力してくれるほどになった・・そのザフトに牙を向けることは、我々にも矛先を向けているのと同列!)
かつては敵対していたプラントに対して協力的になっているナチュラル。ザフトを攻撃した敵への怒りを、連合はぶつけていた。
「敵機、攻撃を開始!射撃とサーベル攻撃でこちらのMSと戦艦を撃墜させています!」
オペレーターが艦長に向けて状況報告をする。
「敵機、本艦をロックしてきました!」
「回避しろ!」
艦長の号令で、艦が回避しようとした。が、機体の速く鋭い射撃が艦の中心を貫いた。
「うわあっ!」
艦の指令室にも爆発と火が飛び込んできた。艦長もクルーも巻き込まれて、艦は爆発を起こして、下の海に墜落した。
これまで素早く攻撃を続けていた機体がスピードを弱めた。機体が連合にその正体を明かした。
形状、武装、動き。細かな差異は若干あったが、その姿はフリーダムそのものだった。
「間違いないとのことです・・今、連合を攻撃している機体は、フリーダムです!」
マイが行き交う通信を拾って、情報を報告していく。フリーダム出現の知らせに、シンたちは緊迫を募らせていた。
「間違いなかったみたいね・・敵機はフリーダムに間違いない・・・!」
ミーナが振り絞るように言いかけて、シンとルナマリアに目を向ける。
「乗っているのが誰で、何の目的でこのようなことをしているのかは分からない。でもこのまま野放しにしていい相手ではないし、最も気を引き締めなければいけない敵でもあることは確かよ・・」
ミーナが注意を投げかけると、シンとルナマリアが真剣な面持ちで頷いた。
「本艦も地球に向けて発進します!パイロットは搭乗機にて待機!」
ミーナが指示を出して、ミネルバがチェックを済ませてプラントから発進した。
突如出現し、ザフト、連合問わず攻撃を仕掛けてきたフリーダム。連合や地球にいるザフトが攻撃を仕掛けていくが、フリーダムのサーベルと銃砲、速さのある攻撃の前に次々に返り討ちにされていった。
かつては武装やカメラを削ぐことで戦いを止めてきたフリーダム。しかし今はコックピットも避けることなく、破壊、撃墜させていた。
完全に無差別に攻撃を繰り返すフリーダムを、連合もザフトも迎撃態勢を敷いていた。しかしフリーダムの高速の攻撃の前に、なすすべなく倒されていった。
かつては戦争を終わらせた原動力と見なされたフリーダム。だが今回は世界を滅ぼそうとする存在と化していた。
「全てを滅ぼす・・・全てを奪った全てを・・・」
フリーダムのコックピットから低く鋭い声が発せられる。向かってきたMSや戦艦に対し、フリーダムは両手にそれぞれビームサーベルを手にして飛びかかった。
フリーダムの出現はソラとハルにも伝わっていた。倒されたはずのフリーダムが現れたことに、ソラは耳を疑い、ハルも驚愕を隠せなかった。
「フリーダムが・・そんな・・!?」
ソラが落ち着きなく声を荒げていく。
「行かないと・・シンさんなら大丈夫だけど・・何かイヤな予感がする・・・!」
「ソラ・・だったら僕も・・・!」
外へ出ようとしたソラに呼びかけるハル。するとソラがハルに駆け寄ってきた。
「ダメだって、ハル・・ほとんどよくなっているけど、まだ医師の許可が・・!」
「今度こそ・・今度こそみんなを守りたい・・僕もみんなの力になりたいんだ・・・!」
「だけど、それでケガが悪化したら・・・!」
「今行かないときっと後悔する・・シンさんじゃないけど、そんな気がするんだ・・・」
呼び止めるソラだが、ハルの決意は固かった。
「まだ許可を出していない以上、勝手に出ていかれては困ります。」
そこへ医師が看護師と一緒にやってきて、ハルとソラに声をかけてきた。
「せ、先生・・これは、その・・・」
ソラが気まずくなって口ごもる。すると医師がため息をついてから笑みを見せてきた。
「と、言いたいところですが、君の腕の負傷は完治していますよ、ハルくん。」
「えっ・・・!?」
医師からの思わぬ発言に、ハルもソラも驚きを隠せなくなる。
「シンくんのことがあったからムチャはさせたくなくて・・申し訳なかったです・・」
「先生・・・」
事情を説明する医師に、ハルが戸惑いを感じていく。
「それじゃ・・もう行っても・・・」
「ただムチャは許しませんよ。必ず戻ってきてください。もう1度診察をさせてください。」
ソラが言いかけて、医師が真剣な面持ちで言いかけてきた。ソラとハルが顔を見合わせて、笑みを浮かべて頷き合った。
「ハル、1度ブルースカイ家に来て・・あなたに託したいものがあるから・・」
「ソラ・・・うん・・分かった・・」
ソラが呼びかけて、ハルが頷く。2人は病室を出て、ブルースカイ家に向かうことにした。
次回予告
倒されたはずの自由の翼。
戦いを止めてきたその力は、全ての破壊を求めていた。
驚きを抱きながらも立ち向かうシン。
運命と自由の戦いが、再び幕を開ける。
地獄の業火、解き放て、フリーダム!