GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-36「ルナマリア」

 

 

 シンの療養と艦体の修理のため、ミネルバとネフィリムはプラントに戻ってきた。アテナたちへは少し戻るようにと、ミーナは連絡を入れていた。

 未だに緊張の解けない状況に、ミーナは困惑を抱えていた。

(オーブもクライン派も討って、ジュール隊の襲撃も撃退した・・でもクライン派の残党がどこかに潜んでいるかもしれない・・)

 ミーナが現状を考えて、深刻さを募らせていく。

(ソラやアンジュさん、シンくんの言葉が世界に伝わったけど、ラクス・クラインやオーブを信じている人はまだ少なくない・・市民が暴徒となって牙を向けてこないとも限らない・・)

 さらに思考を巡らせていくミーナ。

(落ち着くまで、まだ時間がかかる・・時間が長くなる・・)

 事態がまだ沈静化していないことに、ミーナは苦悩を深めていた。

 

 医療施設に連れ戻されたシン。彼は診察の後、ハルと同じ病室に移された。

「よかった、シン・・命に別状がなくて・・」

 シンの診察の結果を聞いて、ルナマリアが安堵を覚える。

「だが完全に完治するまではここで休まないと。でなければいつまでたっても、治るものも治らない・・」

「そうね。シンもハルも、しっかり休ませないと・・」

 ブラッドが言いかけて、ルナマリアが頷く。

「オレたちにはまだやることが残っている・・大方片付くまでは、またここに来れそうにない・・」

「まだ事態は沈静化していない・・ここで油断したら、今までしてきたことがムダになりかねない・・」

「これからもよろしく頼む・・リアス艦長にも言っておいてくれ・・」

「分かった・・こちらこそよろしく、ブラッド・・」

 ブラッドとルナマリアは声を掛け合って、ネフィリムとミネルバが修理を受けているターミナルに戻っていった。

 

 ターミナルではミネルバとネフィリム、それぞれの機体の修復が進められていた。ソラとマイはミネルバの近くで艦体を見つめていた。

「危ないところだったね・・あのとき、もしもシンさんが来てくれなかったら、私たち、どうなってたか・・」

「うん・・でもまたシンさんに負担をかけてしまった・・疲れの残っていた体で、新しいデスティニーに乗って・・」

 マイが安心を見せるが、ソラは深刻さと沈痛さを感じていた。

「私にもっと力があれば・・・」

「ソラ・・ソラには全然力あるじゃない!パイロットだし、ブルースカイ家だし!」

 自分の無力さを覚えるソラに、マイが弁解を入れる。しかしソラは逆に気落ちしてしまった。

「私が大事だと思っているのは、自分の力で、自分の答えと決意に基づいて立ち向かう力のこと・・ブルースカイ家の力を振る舞っては、クライン派と同じ・・」

「ソラ・・・」

「だから私は、ブルースカイであることをずっと隠してきたんだよ・・自分の力で戦いたかったから・・」

 自分の考えを口にするソラに、マイが戸惑いを感じていく。

「結局、この考えはムチャクチャになっちゃった・・だから、今のがホントの平和だって、きっぱり言えなくて・・」

「ソラ・・・本当の平和って、何なんだろうね・・・」

 ソラがため息をつくと、マイが物悲しい笑みを浮かべてきた。

「私もラクス・クラインのしてきたことが正しいことだったとは思えない・・でもだからって、私たちがやってきたことも、どこかで誰かを悲しませていることに・・」

「だからって、間違っていることが正しいことにされていいことにはならない・・平和を乱す敵が、平和の使者だなんて・・・」

「私たちも、絶対正しいってわけじゃ・・・」

「私たちはそんなつもりはないよ・・何が正しいかは、どの道を進んでいくかは、人それぞれ・・ただ、悪いこと、平和を壊すことには立ち向かわないと・・」

 世界や平和のあり方には迷いのないソラに、マイは困惑するばかりになっていた。

「世界を乱していたオーブもラクスも倒した。後は事態を鎮静化させていけば・・・」

「やっと、戦いのない世界に戻る、か・・・」

 ソラの話を聞いて、マイが肩を落としてため息をつく。

「私たちは大切なものを守るために戦う・・大切なものを失わないためにも・・」

 そこへルナアリアがやってきて、ソラとマイに声をかけてきた。

「ルナマリア・・シンさんとハルは・・・?」

「病室で休んでいるわ、2人とも。今のうちにしっかり治すようにと、ハルには言っておいたよ。」

 ソラの問いかけに、ルナマリアが落ち着いた様子で答える。

「そちらには何か情報は届いていない?」

「他の部隊がクライン派の残党狩りに乗り出しています。ミネルバとネフィリムは修繕に専念するように、とのことです・・」

 ルナマリアが質問を投げかけると、マイが報告をする。

「となると、私たちも休息を取ることになりそうね・・でも、いつまだ出ることになるか分からないから、艦のそばにいないと・・」

 ルナマリアが投げかけた言葉に、ソラとマイが頷いた。ルナマリアはミーナに会うため、ミネルバの艦内に入っていった。

 ルナマリアは艦長室に来て、そのドアをノックした。

「ルナマリアです。失礼します。」

「どうぞ。入って。」

 ミーナの返事を聞いてから、ルナマリアは艦長室に入った。

「シンは安静に眠っています。ハルの治療も順調です。」

「分かったわ。ありがとう・・また、シンに助けられてしまったわね・・」

 ルナマリアが報告すると、ミーナが困惑気味に言いかける。

「シンくんを頼りにしていないわけじゃないけど、甘えるのもよくない・・私たちも、しっかりしないと・・」

「分かっています・・今度は私たちが、シンを守る番です。」

 檄を飛ばすミーナに、ルナマリアも言いかける。

「ですが今は、私たちには艦や機体の修復を急ぐように言われている。あなたたちパイロットにも待機が命じられているわ。」

「はい。マイからも聞いています・・私たちには丁度いい休息ですね・・」

 ミーナからさらに言われて、ルナマリアが物悲しい笑みを浮かべる。

「それでルナマリア、この際だから、あなたはシンのそばについていてあげて。」

「えっ・・?」

 ミーナからの言葉にルナマリアが戸惑いを覚える。

「ソラにもハルのそばについているように言っておくから・・何かあれば連絡するから、そちらも何かあれば知らせて・・」

「リアス艦長・・ありがとうございます。」

 ミーナの計らいを受けて、ルナマリアが感謝を口にする。

「行ってあげなさい。ミネルバには私たちがいるから・・」

「はい・・失礼します。」

 ミーナに言われて、ルナマリアは敬礼を送ってから艦長室を後にした。

(再会できても、事態が事態だったから、ゆっくりできなかったからね・・こんなときぐらい・・・)

 ミーナが椅子にもたれて、ひとつ吐息をつく。

(大切な人がいるなら、そばにいてあげないのはよくない・・私にはいない・・タリアさんも、デュランダル議長も・・)

 命を失った大切な人への思いを胸に秘めて、ミーナが沈痛な面持ちを浮かべていた。

 

 ミーナの許可を得て、医療施設に戻ってきたルナマリア。彼女はシンが寝ている病室に来た。

「シン・・リアス艦長が行くように言ってくれて・・・」

 眠っているシンにルナマリアが囁いてきた。

「またシンに助けられちゃったね・・いつもシンに助けられてばかりで・・」

 ルナマリアがシンに向かってさらに言いかける。シンに感謝する一方で、ルナマリアは彼に甘えてしまっていると考えて、辛さを感じていた。

「私、シンに何もしてあげられないのかな・・シンばかりが辛い思いを引き受けて、抱え込んで・・」

 自分の思いを口にしていくあまり、ルナマリアは目から涙を浮かべていく。

「私は何もできないの!?・・私には、少しでもシンの辛さを引き受けることもできないの・・・!?

 感情を抑えられなくなり、ルナマリアが泣き崩れる。

「こうして、シンのそばにいることしか・・私には・・・!」

「そんなこと、あるか・・・」

 そのとき、ルナマリアに向けて声がかけられた。眠りから覚めたシンが、彼女を見つめていた。

「シン・・シン・・!」

 ルナマリアが目を見開いて、動揺を膨らませていく。

「シン・・・まだ、寝ていないとダメだって・・・」

 ルナマリアが心の整理がつかないあまり、シンを呼び止めようとする。

「ゴメン、ルナ・・心配かけて・・・」

「シンが謝ることはない・・シンは私たちを助けてくれた・・こんな、ボロボロになってまで・・・」

 謝ってきたシンに、ルナマリアが謝意を示す。彼女の目からこぼれ落ちてくる涙が、シンのいるベッドのシーツをぬらしていく。

「もうシンがムチャしなくてもいいように・・私も、強くなりたい・・シンのように、強くなりたい・・・!」

「ルナ・・そこまで思いつめることはない・・みんなを助けたいって、オレが決めたことなんだから・・」

 強さを求めるルナマリアに対して、シンが自分の正直な思いを口にする。

「今回だって、オレがアンジュに頼み込んだことだ・・ルナが気に病むことはない・・」

「それでも・・私はシンの力に・・・」

 シンが言いかけるが、ルナマリアは自分を無力だと言い続ける。するとシンが首を横に振ってきた。

「オレがザフトに戻らなくなってから、ルナは新しいミネルバで、みんなのために戦ってた・・みんなを守っていたのは、間違いなくルナだ・・」

「シン・・・」

「だから、ルナに力がないなんてことはない・・みんなを守りたいと思ってる、ルナの強さだ・・」

「シン・・・私の、強さ・・・」

 シンに励まされて、ルナマリアが戸惑いを募らせていく。彼女はさらに涙をこぼしていく。

「守ってくれてありがとう、ルナ・・みんなを・・プラントを・・・」

「シン・・・私が、みんなを守っていた・・・」

 シンが投げかけた感謝の言葉を聞いて、ルナマリアが戸惑いを感じていく。

「自信を持っていいんだよね・・私・・・」

「あぁ・・これからはオレがみんなを守るけど・・力を、貸してほしい・・・」

 心を揺さぶられるルナマリアを、シンが優しく抱きしめてきた。彼からの抱擁に、ルナマリアの動揺は一気に高まった。

「シン・・・私も立ち向かうよ・・シンが求め続けてきた、この平和のために・・・」

「ルナ・・ホントに、ありがとう・・・」

 自分の決意を口にするルナマリアに、シンは改めて感謝した。

 

 ソラもミーナから言われて、医療施設に来ていた。彼女はハルのいる病室を訪ねた。

「ソラ・・ミネルバでの仕事は・・・?」

「修復に専念するようにって。私たちも待機することになったんだけど、リアス艦長がここに行ってあげてって・・」

 ハルが声をかけると、ソラがため息まじりに答える。

「そう・・リアス艦長が・・・」

「シンさんにはルナマリアがついてるって・・もう2人には敵わないよね・・腕前も、気持ちも・・」

 ハルが戸惑いを見せて、ソラが自分の無力さを感じて物悲しい笑みを浮かべる。

「私に、もっと力があったら・・・」

「そんなこといったら・・僕の方が全然弱い・・ミネルバが、ソラたちが大変なことになっていたのに、何もしなかったなんて・・」

「でもそれは、仕方のないことだよ・・ハル、その腕じゃ・・・」

「それでも・・僕はソラやみんなの力になれていない・・・」

 ソラが弁解を入れるが、今度はハルが自分の無力さを噛みしめていく。

「ううん・・ハルは、私を守ってくれた・・・」

「ソラ・・・でも・・・」

「そこまで自分が弱いって言い張るなら、今のケガを治してから、力を付けていこうよ・・私と一緒に・・・」

 ソラが投げかけたこの言葉に、ハルが戸惑いを覚える。ソラがハルを優しく抱きしめてきた。

「今度は私が、ハルを守る・・支え合っていくっていうのが、1番いいのかも・・・」

「支え合っていく・・・僕と、ソラが・・・」

「お、お互い、強くなっていこうってことだよ・・・!」

 戸惑いを募らせていくハルに、ソラが頬を赤らめる。

「みんなを守れるくらいに強くなれば、もうこんなモヤモヤした気分になることも、自分を責めることもなくなるってこと・・・!」

「ソラ・・・強くなればいい・・・」

 ソラに励まされて、ハルは不安を和らげていく。ソラも気分を落ち着かせて微笑みかける。

「一緒に頑張ろう、ソラ・・シンさんやホーク隊長に負けないように・・・」

「ハル・・・うん・・私たちも、負けていられない・・・」

「必ず腕を治して戻ってくるから・・少し待っていて・・」

「うん・・待ってるよ、ハル・・・」

 それぞれの決意を秘めて、ハルとソラが頷き合った。2人はそれぞれ涙を拭って、笑顔を見せ合った。

 

 1度ハルの病室を出たソラは、アンジュと連絡を取っていた。

「それで、私はハルに、ルナマリアはシンさんのそばにいることになったから・・」

“分かりました。私たちはクライン派の残党の捜索と討伐を続けます。”

 ソラが事情を説明して、アンジュが納得する。

「それと、アンジュたちに1つ頼みたいことがあるんだけど・・」

 ソラがアンジュに頼みごとをしてきた。

「ハルのために、新しい機体を用意してほしいんだけど・・・」

“機体を、ですか?・・しかし、1から作り出す形になりますが・・”

「だったらファルコンを、ハルの戦闘データを参考にすれば・・・」

“あの機体を・・となると、スピード重視の機体になりますが・・・”

「それでお願い・・ハルの馴染みある機体に近いほうが、ハルも扱いやすくなるはず・・インパルスのデータとシンさんの戦い方を参考にして開発、調整されたデスティニーのように・・」

“お嬢様・・分かりました。開発部にそのように伝えておきます。”

「ありがとう、アンジュ・・私たちのわがままを聞いてくれて・・・」

“全てはお嬢様のためです。ですが今は、お嬢様やシンさんだけでなく、みなさんのために何かをしてあげたいと思うようになっています・・”

 感謝を言うソラに、アンジュが自分の正直な気持ちを口にしていく。

“ハルさんにも、彼自身が思う形に強くなっていってほしいと、私も思います・・”

「アンジュ・・・ホントにありがとう・・・」

 願いを告げるアンジュに、ソラは再び感謝を送った。連絡を終えたソラが、自分の気持ちを確かめていく。

(ハルに強くなっていってほしい・・私も、強くなりたい・・シンさんたちを助けられるくらいに・・・)

 思いを胸に秘めてから、ソラはハルの病室に戻っていった。

 

 それからザフトやアンジュたちの行動により、クライン派の残党は次々に拘束されていった。考えを改めた者もいたが、抵抗して戦士の末路を辿った者も少なくなかった。

 しかしラクスたちの意思を受け止めていた者たちの思いは、次第に弱められていった。

 誰かの言いなりになることでも、ラクスたちに屈することでもない。本当の平和、本当の正しさはそれぞれが見出さなければならない。

 シンやソラの思いはプラントに、地球に、様々な世界に伝わっていた。

 

 

次回予告

 

平和は取り戻された。

しかし戦火はまたも世界に投じられた。

あらゆる武力を討つ影。

それは、怒りの炎に焼かれた戦士。

 

次回・「破壊の使者」

 

真の平和、守り抜け、デスティニー!

 

 

作品集

 

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