GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-34「新たなる運命」
宇宙への発進準備を整えていたアテナ、ソルネ、スーラ。シャトルを発進させる前に、ソルネは1度ミネルバに連絡を入れようとした。
「ミネルバ、応答してください。今から発進。そちらへ・・」
呼びかけたソルネの耳に、イザークたちと交戦するミネルバの戦闘音が入ってくる。
「攻撃されている・・ミネルバが・・・!?」
ソルネが口にした言葉に、アテナとスーラも緊張を覚える。
「追い込まれているようだわ・・このままではミネルバが・・・!」
「助けに行くのか?・・ヤツらはかつて敵だった相手だ。オレたちが助ける義理はない。」
言いかけるソルネにスーラが忠告を投げかける。
「でも、あの艦はシンが乗っていた艦・・私を助けようとした、シンの・・」
アテナがシンへの謝意を口にする。彼女のシンへの思いが揺るがないものとなっているのを、スーラは悟った。
「お前がそこまでザフトのパイロットに感情移入するとは・・だがオレたちにはまともに戦える機体がない。」
アテナの思いを受け止めながらも、スーラは戦う術を持ち合わせていないことを口にする。彼の言葉にアテナもソルネも困惑を見せる。
「トリトンも損傷が激しく、また修復が完了していない。オレが単独でミネルバを守ることもできない・・」
「スーラ・・・」
自分の戦うことができないという悔しさを秘めるスーラに、アテナは戸惑いを感じていた。
ザクたちの射撃に追い込まれていくミネルバ。そこへルナマリアのインパルスが駆けつけ、ミネルバに合流した。
「大丈夫ですか、リアス隊長!?」
「ルナマリア・・ミネルバはまだ大丈夫よ・・でも、このままでは最悪の事態も時間の問題になってくる・・・!」
ルナマリアが呼びかけて、ミーナが答える。
「こんなところでやられるわけにはいかない・・シンのところへ帰らないと・・・!」
抵抗の意思を強めるルナマリア。彼女はシンへの思いも募らせていた。
ルナマリアたちを助けようとするシンの意思を受け止めて、アンジュは彼を医療施設から連れ出そうとしていた。
「あ、あの・・いけません!まだ意識が戻ったばかりです!動かしたら危険です!」
医師や看護師たちがやってきて、シンとアンジュを止めに来た。
「病室に戻ってください!精密検査をしないと・・!」
「これからの彼の診察は、ブルースカイ家が請け負います!きちんとした医療設備を配備しますので!」
戻るよう促す医師に対し、アンジュが必死に呼びかける。
「どうしても止めるのでしたら、力ずくでも押し通ります!」
アンジュに強く言われて、医師も看護師たちも押し黙る。彼らに鋭い視線を向けてから、アンジュはシンを連れて歩き出した。
「アンタ・・そこまでオレのことを・・・」
「あなたの強い決意に、私が心を打たれた。それだけのことです・・」
戸惑いを見せるシンにアンジュが自分の思いを口にする。
「ところで、オレをどこに連れていくんだ・・?」
「ブルースカイ家です・・その武装施設の奥に、アレはあります・・」
シンの問いかけにアンジュが真剣な面持ちで答える。2人は施設の近くに止めていた飛行艇に乗った。
包囲網を敷いてきたザフトの部隊に、ブラッドたちは行く手を阻まれていた。迫り来る艦とザク、グフの数の多さで、ネフィリムもブラッドもダークスも打開の糸口を見出せないでいた。
「これではミネルバのところへ行けない・・・!」
「それどころか、このままではオレたちもやられてしまう・・・!」
ダークスのパイロットたちが危機感を感じていく。
「弱音を吐いていると命を失くすぞ!ヤツらを打ち倒して、早くミネルバに向かうぞ!」
その彼らにブラッドが檄を飛ばす。不安を振り切ったパイロットたちが、相手のMSの撃破に専念する。
(シンの乗る艦だ・・このまま何もできずに見殺しにすることなどできるか・・・!)
シンへの思いを感じていくブラッド。
(やっと取り戻した平和なんだぞ・・それなのにそれがぶち壊されたら、お前が報われないではないか・・・!)
彼は意思を強くして、ジャッジがザク、グフを狙って次々に射撃していった。
イザークのグフがミネルバに向かっていく。その前にルナマリアのインパルスが立ちふさがり、ビームサーベルをぶつけ合う。
「往生際の悪いヤツらが!」
「私たちは死ぬわけにいかないの・・死ぬぐらいなら、あなたたちを倒してでも!」
互いに言い放つイザークとルナマリア。グフとインパルスがつばぜり合いを繰り広げる。
そこへディアッカのザクがビーム砲を発射してきた。ルナマリアとイザークが気づき、インパルスとグフが離れて、ビームをかわす。
その瞬間、グフがビームウィップを伸ばしてきた。ビームウィップはインパルスのビームサーベルを絡め取り、破壊する。
「しまった・・!」
ルナマリアが毒づき、インパルスがビームライフルを手にしてグフをけん制する。
「ミネルバ、フォースシルエットを!」
ルナマリアがミネルバに呼びかけたときだった。ミネルバのシルエットシステムを射出するハッチが、ビームを受けて爆発を引き起こす。
「ダメです!シルエット、射出できません!」
マイがミーナとルナマリアに向けて状況を報告する。シルエットを交換できなくなり、装備を万全にできなくなったインパルスは、一気に劣勢に立たされた。
「これで終わりにしてやる!」
イザークが言い放ち、グフがインパルスに迫る。インパルスはビームライフルでけん制するしかできなくなっていた。
アンジュに連れられて、シンはブルースカイ家の邸宅まで来た。ブルースカイ家は大きな邸宅や広い庭など、優雅さが強調されていた。
「ここが、ブルースカイ家・・」
「はい。1階から上はみなさんが考える豪邸の構造となっています。」
戸惑いを見せているシンに、アンジュが説明をしていく。
「ですがここにはエアポートやターミナルも完備されていまして、地下には開発ベースもあります。」
アンジュが口にしたこの言葉に、シンが眉をひそめる。
「あなたに託したいものは、その開発ベースにあります。密かに開発と調整が進められていまして・・」
アンジュは説明を続けながら、邸宅に入り、その中の廊下のある地点の壁に触れて、隠されていたエレベーターを開けた。2人はエレベーターに乗って地下に下りていく。
地下にたどり着いて、シンとアンジュがエレベーターから降りた。2人はさらに歩いて廊下を進んで、突き当りの扉の前まで来た。
「この先にそれはあります。極力この扉の出入りを避けるように言い渡して、隔離させてあります。」
アンジュは言いかけると、扉の横のセンサーに顔を近づけた。センサーに目、手の指紋で承認させて、番号を入力しなければ扉は開かない仕様になっていて、扉を開けられる人物は限られたわずかとなっている。
セキュリティの承認を得たことで、扉が開いた。部屋の中には1機の機体が立っていた。
「これは・・・!」
シンはその機体を目の当たりにして驚きを見せる。その機体の造形は、彼が乗っていたデスティニーと酷似していた。
「シンさん、あなたのデスティニーの機体データとあなたの戦い方を参考にして、開発と調整を続けてきました。デスティニーの発展型と言える機体“マークデスティニー”です。」
「マークデスティニー・・」
アンジュが説明をして、シンが戸惑いを見せる。
「デスティニーが使っていた武装を強化しただけでなく、不憫のないように扱える形になっているのです・・ただし・・」
「ただし・・」
「パイロットへの負担も、他の機体を超える大きさです。マークデスティニーのテストを行おうとしましたが、乗りこなせた人は今までで誰もいません。私もお嬢様も・・」
アンジュがシンに注意を投げかける。
「マークデスティニーにはハイパーデュートリオンにさらに核エンジンが1つ搭載されていて、それにより他の機体を凌駕するエネルギーを発揮しますが、その巨大なエネルギーがパイロットにも負担をかけるのです・・」
「だからみんな、乗りこなすことができなかったのか・・・」
アンジュの話を聞いてシンは納得する。
「私はあなたの強い意思を受け止めて、この決断をしました。マークデスティニーを乗りこなし、お嬢様やみなさんを助け出してくれると確信して・・」
「アンジュさん・・・」
「調整と発進準備は完了しています。あなたが最終チェックを済ませていただければ・・・」
アンジュに言われて、シンが真剣な面持ちを見せて頷いた。彼は眼前の機体「マークデスティニー」のコックピットに乗り込んだ。
(本当にデスティニーの発展型のようだ。コックピットもデスティニーと似ていて、さらに操縦技術を求められる・・・!)
新たなるデスティニーの操作と性能を実感していくシン。
「ハッチを開けます!うまく動かすことができるなら、ここプラントからミネルバのいる地点まですぐに行けます!」
アンジュが呼びかけて、デスティニーの置かれている部屋の天井が開いていく。シンはチェックを終えて、発進に備える。
(お願いです・・どうかシンさんの力に・・・!)
自分たちの思いをシンに託し、アンジュが天井の先の空を見上げた。
(オレは守るんだ・・この本当の平和を・・オレの大切な人たちを・・・!)
「シン・アスカ、デスティニー、いきます!」
決意を胸に秘めるシンの乗るデスティニーが動き出し、飛び上がる。ブルースカイ家から飛び出したデスティニーは、さらにプラントを飛び出して宇宙を飛行する。
その動きはかつてのデスティニーをもはるかに超えていた。
イザークたちの攻撃に、ルナマリアたちは窮地に追い込まれていた。
(このままじゃやられる・・何か方法を・・・!)
必死に打開の糸口を探るルナマリア。そのインパルスにザクたちがビームトマホークを持って飛びかかってきた。
「ルナマリア!」
ルナマリアの危機にミーナがたまらず叫ぶ。ルナマリアも一瞬死を覚悟した。
そのとき、インパルスに迫っていたザクたちが、横から飛んできたビームに貫かれて爆発を起こした。
「えっ・・!?」
突然のことにルナマリアが驚きを覚える。
「な、何だ・・!?」
ディアッカもイザークたちとともに驚きを見せる。彼らの視界に、虚空にきらめく紅い光が入ってくる。
紅い輝きを翼から発しながら、マークデスティニーが駆けつけてきた。デスティニーは左手に持ったビームライフルで、さらにザクを射撃する。
インパルスの前でスピードを落としたデスティニー。
「デ・・デスティニー・・・!?」
ルナマリアは一瞬目を疑った。彼女はすぐに目の前にいる機体が、以前とデスティニーと違うが、形状が酷似していることを実感した。
デスティニーは再び動き出し、腰に搭載されている「シュペール・アロンダイトビームソード」の柄を手にした。以前のアロンダイトビームソードと違い、刀身が完全なビームの刃である。ビームの出力は調整可能で、ビームサーベルほどからデスティニーがこれまで使っていたビームソード以上の大きさまでできる。
デスティニーはビームソードをビームサーベルほどの大きさにして、スピードを上げる。ザクがデスティニーに飛びかかるが、デスティニーの素早い一閃と射撃で次々に撃破されていく。
「くそっ!このままやられるかよ!」
ディアッカががいら立ちを口にして、ザクがデスティニーに向けてビーム砲を発射する。が、デスティニーは素早くビームを回避し、両腰に搭載されているビーム砲を展開、発砲する。
「ぐっ!」
ディアッカが即座に反応して、ザクがビームを回避する。
デスティニーがビームソードの出力を上げて、ビームの刃を大きくする。巨大な光の刃をデスティニーが振り下ろし、ボルテールに命中させた。
「おわあっ!」
クルーたちが悲鳴を上げて、ボルテールの爆発に巻き込まれる。
「ボルテールが・・!」
撃墜されたボルテールに、ディアッカが驚愕する。
「アイツ・・・!」
イザークがデスティニーにいら立ちを見せる。
「ルナ、大丈夫か・・・!?」
「その声・・・シンなの!?」
デスティニーからシンが呼びかけて、ルナマリアが彼の声を聞いて驚きを覚える。
「今は安全なところへ移動するんだ!ルナもリアス艦長も!」
「シンくん・・分かったわ!ありがとう!」
呼びかけてくるシンに、ミーナが感謝の言葉を送る。
「本艦は現宙域を離脱!体勢を整えるわ!」
「は、はいっ!」
ミーナが指示を出し、マイが答える。ミネルバが安全圏までの移動を開始する。
「行かせるか!」
イザークがミネルバを追いかけようとするが、グフの前にデスティニーが立ちふさがる。
「ルナはソラを助けて、ミネルバと一緒に行ってくれ!」
「シン・・・!」
呼びかけるシンにルナマリアが戸惑いを覚える。
「オレは大丈夫だ・・オレが食い止めている間に、ルナはみんなを守ってほしい・・!」
「シン・・分かった・・気を付けて・・・!」
シンの言葉を聞き入れて、ルナマリアが頷いた。インパルスがソラのザクを助けに向かう。
「これ以上、オレの大切な人を苦しめさせるか!」
「よくもぬけぬけと!ザフトやプラント、世界を混乱を陥れた裏切り者が!」
言い放つシンにイザークがいら立ちを募らせる。
「世界を混乱させたのはアイツら・・キラもラクスもアスランもオーブも、自分勝手に世界を作り変えた・・・!」
シンが自分の感情をあらわにしていく。
「倒さないといけない・・アイツらに味方しようとする、アンタたちも!」
シンは言い放ち、デスティニーがビームソードを構える。
「いつまでも・・いつまでもいい気になるな!」
イザークがいきり立ち、グフとデスティニーが同時に飛び出した。
シンのデスティニーに救われたルナマリアのインパルス。インパルスは動くのがやっとの、ソラのザクに駆け寄った。
「ソラ、大丈夫!?」
「ル・・ルナマリア・・・」
ルナマリアに呼びかけられて、意識を失っていたソラが答える。
「ミネルバは・・みんなは・・・!?」
「安全な場所に向かってる・・シンが、デスティニーが来たのよ・・・」
「シンさんが・・・!?」
ルナマリアからの言葉を聞いて、ソラが驚きと戸惑いを覚える。
「私たちもミネルバを追いかけるよ。あなたを連れていくぐらいはできる・・」
「ルナマリア・・・ありがとうございます・・・」
ルナマリアの言葉を受けて、ソラが感謝の言葉を口にする。インパルスがザクを支えて、ミネルバに向かって前進する。
(もしかしてアンジュ・・あのデスティニーをシンさんに・・・!?)
ソラはアンジュが、シンにデスティニーを託したことを確信した。
(お願い、シンさん・・無事でいて・・・)
新たな力と決意を宿したシンに、ソラは思いを向けていた。
次回予告
新たな力を手にしたシン。
戦場に戻った彼に向けられるのは、正義か敵意か?
それぞれの感情と激情がぶつかり合う先にあるのは?
揺るぎない決意は、さらに強固となった。
己が信念、見せつけろ、グフ!