GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-32「救いの手」

 

 

 ミネルバのミーナと連絡を取っていたソルネ。その彼女の前にスーラが現れた。

「あなたは・・スーラ・ネレウス・・・!」

 ソルネがスーラを目にして緊迫を覚える。スーラが銃を取り出して、銃口をソルネに向ける。

「お前たちは我々ケルビムや連合を裏切り、ザフトやコーディネイターに組した。お前たちを野放しにするわけにはいかない。」

「・・そうね・・私は処罰されても仕方がないわ・・でもアテナは見逃して・・彼女を生かしてあげて・・・」

 低く告げるスーラに対し、ソルネは観念を見せる。

「それはアテナ次第だ。もしも彼女も戻ることを拒むなら、お前と同罪ということになる・・」

 スーラはさらに言って、ソルネに銃を突きつける。

「スーラ!」

 そこへ声が飛び込んできて、ソルネとスーラが視線を移す。アテナがやってきて、スーラをじっと見つめていた。

「アテナ・・・」

「もう負けたのよ・・私たち連合は・・私たちや他の部隊が束になっても、今のザフトを倒すことはできない・・力で勝つだけでなく、意思を挫くことも・・・」

 目つきを鋭くするスーラに、アテナが切実に呼びかける。

「私も、今もザフトを敵視する意識がどこかにある・・でも、私を助けようとしてくれたことも事実・・」

「騙されるな。自分たちの思惑通りにしようとしているに過ぎない。人質にすることも可能・・」

 呼びかけるアテナだが、スーラはシンたちを信用しない。

「もしも人質にしようとしてきて、私たちがどうするか、あなたも分かるはずよね、スーラ・・?」

 アテナが口にしたこの言葉を聞いて、スーラが眉をひそめる。自分たちは連合の戦うためだけに存在する兵士。人質にされようと分かった時点で、従わずに反逆し続ける。たとえそれで死ぬことになっても。

「ザフトのシン・アスカは、本気で私を助けようとした・・自分の軍に離反しかねない覚悟で、私を助けようとした・・向こうは、自分の大切な人と私を重ねているようだけど・・」

「何をバカな・・ヤツらはザフトでコーディネイター・・オレたち連合の敵だぞ・・」

「もう今は、ナチュラルもコーディネイターも関係ないのかもしれない・・少なくとも彼は、人種のことは考えていない・・・」

 敵意を見せるスーラに対して、アテナはシンへの信頼を示す。彼女は徐々に無意識に、シンへの信頼を感じるようになっていた。

「彼は私を救おうとした・・結果、私はソルネの手術を受けて、命を長らえた・・といっても、それでも私の寿命は短いほうだけど・・・」

 アテナが自分の胸に手を当てて、自分の寿命を痛感する。ソルネの手術によって一命を取り留めたものの、彼女は寿命がわずかに伸びたに過ぎない。

「アテナ・・そうまでして、お前は生きたいのか・・・?」

 スーラが問い詰めると、アテナが真剣な面持ちで頷く。

「そこまでして、アテナに生きようとする意思を植え付けたというのか、あのデスティニーのパイロットは・・」

 スーラがシンに対する感情を巡らせていく。

「だが、ヤツのためにマキが・・・」

「分かってる・・私が1番裏切っているのは、マキや、ザフトやオーブ軍によって命を奪われた者たち・・」

 スーラがさらに言うと、アテナがさらに悲痛さを噛みしめる。

「償いをすることになる・・私の残りの命を懸けて・・・」

「そこまで己の意思で生きようとするのか・・・」

 あくまで生きようとするアテナに、スーラも心を揺さぶられていく。ソルネも2人の会話を聞いて、戸惑いを感じていく。

「種族を超えて命を救うとは・・オレ個人としては、アテナ、お前をみすみす死なせるようなことはしたくはない・・」

「スーラ・・・」

 呟きかけるスーラに、アテナが戸惑いを見せる。

「ソルネ、決してアテナを死なせるようなことはするな・・・」

「スーラ・トリトン・・あなた・・・」

 呼びかけてきたスーラに、ソルネが当惑する。スーラが銃を構えたまま、ソルネから通信機を奪い取る。

「ミネルバか?オレは連合のケルビムに乗艦していたスーラ・ネレウスだ。」

 スーラがミーナに向かって呼びかけてきた。

「アテナの護衛に回る。だがお前たちザフトに寝返ったわけではない。それは忘れるな。」

“えぇ。分かったわ。今は所属も人種も関係ない。互いが手を結んで、苦しんでいる人を助けていくことが大事だから・・”

 スーラからの呼びかけに、ミーナが納得する。スーラが通信機をソルネに返した。

「そういうことです。これから出発の準備を・・」

「ソルネ・・スーラ・・・」

 ソルネに声をかけられて、アテナが戸惑いを募らせていく。

「ありがとう、ソルネ・・すまない、スーラ・・本当にありがとう・・」

「オレはオレと同じ存在を死なせたくないだけだ・・お前たちと違い、オレは今も連合のパイロットだ・・」

 感謝するアテナに、スーラは表情を変えずに言葉を返す。立ち去っていく彼に、アテナが笑みをこぼした。

 

 ハルの病室にいたソラが、彼への思いに駆り立てられていく。その病室にアンジュがやってきた。

「お嬢様、そろそろミネルバにお戻りを・・出発されます・・」

「アンジュ・・・うん。もう戻るね・・・」

 アンジュに声をかけられて、ソラが頷く。

「ハルさんとシンさんは私がそばについていますので・・」

「分かった・・ハル、私行くね・・」

 ソラがアンジュに答えて、ハルに視線を移す。

「ハル、また来るからね・・シンさんにもよろしくね・・」

「うん・・早くこの腕を治して、ミネルバに戻らないと・・」

「焦ったらダメだって・・って、私も焦ってないと言ったらウソになっちゃうけどね・・」

 深刻さを込めて言いかけるハルに呼びかけて、ソラが苦笑いを浮かべる。

「それじゃ、行ってくる・・・」

 ソラはハルとアンジュに言うと、病室を後にした。

 

 キラやアスラン、ラクスが戦死したことで、プラント内でも混乱を極めていた。評議会でも今後の動向についての決断が、誰も出せないでいた。

 そして評議会やザフトの中には、キラたちを手にかけたことを激しく嫌悪している者たちもいた。

 イザーク・ジュールが指揮するジュール隊もその者に含まれていた。

「こんな・・こんなバカなことがあるか!」

 イザークが憤りを抑えきれず、そばの壁に握り拳を叩きつける。

「アスラン・・まさかアイツが、こんなことに・・・!」

 イザーク隊に所属するディアッカ・エルスマンもアスランたちの死に歯がゆさを募らせていく。

「オーブもクライン派も倒れ、世界はまた混乱に向かうことになる・・そんなふざけたことにさせてたまるか!」

 イザークがさらに声を荒げて、憤りで体を震わせる。

「野放しにすればさらに取り返しのつかないことになる!その前にミネルバを叩く!」

「一応聞いとくけど、あの艦はザフトなんだぜ?同士討ちってことになるんじゃないのか?」

「ふざけるな!ヤツらは裏切り者だ!勝手な考えでエターナルを攻撃したんだぞ!」

 ディアッカが気さくな素振りを見せると、イザークがさらに怒号を放つ。

「“ボルテール”発進準備!ミネルバの動きを決して見逃すな!」

 イザークはディアッカたちに言い放つと、この場を離れていった。

「すっかり怒り新党だな、うちの隊長さんは・・」

 ディアッカがイザークの態度に呆れた素振りを見せる。ところがすぐに彼の顔から笑みが消える。

「今のこの状況・・本当に笑い事じゃないな・・・」

 ディアッカも気を引き締めて、旗艦、ボルテールの発進に備えた。

 

 戦闘の後処理と警戒を兼ねて、アテナの引き取りに向かうミネルバ。発進に備えるミネルバに、ソラも戻ってきた。

「リアス艦長、ただ今戻りました。」

「発進準備は整っているわ。これから地球に向かう。」

 敬礼を送るソラにミーナが言いかける。

「あの子を、アテナを連れてくるんですね・・」

「今はもう、ザフトも連合も関係ない。療養をプラントで行うことが決まりました。ソルネさんの立会いの下で。」

 ソラが言いかけて、ミーナが真剣な面持ちで説明する。

(シンさんが助けようとしたアテナ・・シンさんの思いを、私たちが踏みにじるわけにはいかない・・・)

 ひとつの決意を固めていくソラ。彼女の肩に、ルナマリアが手を優しく乗せてきた。

「今動かせる機体はインパルスとザク3機。ネフィリムにはジャッジの修復が完了しているけど、ミネルバとは別宙域になるからあまり頼りにできない・・」

「ホーク隊長・・・」

 ルナマリアから話を聞いて、ソラが戸惑いを見せる。

「もう“ルナマリア”でいいよ。私の上官の受け売りだけど、戦場に出たら階級も成績も関係なから・・」

「隊長・・・はい、ルナマリア!」

 ルナマリアに微笑みかけられて、ソラが笑顔を見せて答えた。

「本艦はこれより地球へ向かいます。ミネルバ、発進!」

 ミーナが号令をかけて、ミネルバが地球へ向けて発進した。

 

 プラントを出たミネルバの動きを、ジュール隊が捉えた。

「ミネルバ発進しました!」

 ボルテール内でオペレーターがミネルバの動きを報告する。

「ネフィリムは10分前に、先の戦闘宙域に向けて発進しています!」

「よし!ボルテール発進だ!ミネルバの追跡に出る!」

 報告を聞いたイザークも発進の号令を下す。ボルテールもミネルバを追ってプラントから発進した。

 

 イザークからの呼びかけを受けていた別働隊。ブラッドたちの動向を監視していた部隊も、ネフィリムの追走を行おうとしていた。

「我々はあの反乱分子の艦を狙うぞ。」

 部隊の指揮官が各隊員に指示を出す。

「ミネルバはジュール隊が追撃に向かっている。ヤツらの主な戦力は艦の他、1機の強力な機体と複数の黒の量産機だ。だが数で言えば我々のほうが有利。」

 指揮官が隊員たちに呼びかけていく。

「同時攻撃を仕掛けて一気に叩く!追い込まれることがあっても決して怯むな!」

「はっ!」

 指揮官が檄を飛ばし、隊員たちが答える。各艦がネフィリム追撃に向けて、続々と動き出した。

 

 ハルの病室に残っていたアンジュ。2人ともソラのことを気にしていた。

「どうしても、気になってしまいますね・・ソラやみんなのこと・・・」

「そうですね・・大丈夫という確信はあるのですが、気にしてしまうのが否めないですね・・・」

 ソラのことを口にするハルに、アンジュも苦笑いを浮かべる。

「ソラやみんなのそばにいられない自分が、悔しいです・・僕に強さがあれば・・・」

「あのとき、あなたはお嬢様を守るために飛び出しました。それだけでも強さです。世界を正しく変えられるほどの・・」

 また自分の無力を痛感していくハルに、アンジュが励ましの言葉を送る。

「それでも納得できないのなら、また守ってあげてください。お嬢様を、みなさんを・・」

「アンジュさん・・そうですね・・・」

 アンジュの言葉を受けて、ハルが微笑みかける。

「では連絡することがありますので・・すぐに戻ってきますね・・」

 アンジュはそう言うと、ハルの病室を後にする。そして施設の外に出たところで、彼女は通信機を取り出した。

「アレの調整はどうなっていますか?」

“既に完了しています。起動できますし、全ての武装も使用可能です。ただしアレを動かす力の持ち主はいません。あなたやソラお嬢様でも・・”

 アンジュが質問を投げかけると、通信の相手が答える。

「そうですか・・・ですが、動かすことのできる人が1人います。いつでも稼働できるようにしておいてください。」

“分かりました。そのように。”

「それともう1機、開発してほしい機体があります。」

 アンジュがさらに呼びかけていく。

「機体データを送りますので、その発展型を手掛けてもらえますか?」

“発展型ですか。難度の作業となりますが、やってみます。”

 アンジュは言いかけて、通信の相手との連絡を終える。それからアンジュはその相手にデータを送った。

(これでみなさんの力になるなら・・・お嬢様・・シンさん・・・ハルさん・・・)

 シンたちへの思いを募らせていくアンジュ。ソラが追い求めている世界と平和のため、アンジュは尽力を惜しまなかった。

 

 施設に戻ってきたアンジュは、また1度シンの病室を訪ねた。シンはまだ眠り続けている。

(シンさん、目を覚ましてください・・あなたが帰ってくるのを、みなさん、ずっと待ち望んでいます・・・)

 アンジュがシンを見つめて、心の中で願っていく。

(初めはあなたへの憧れでした。あなたの戦いと平和への思いが、お嬢様を突き動かしたのです。その思いを踏みにじった相手への怒りもまた・・)

 アンジュがシンやソラのことを思い返していく。これまでのソラの戦いの日々も。

(任務中に消息不明となったシンさん。あなたもあなたで、平和のための答えを探し続け、そして見つけたのですね・・そして私たちの前に帰ってきたあなたは、力だけでなく、心も強くなっていた・・)

 戻ってきたシンの戦いも、アンジュは思い返していく。

(そしてオーブを、クライン派を倒した。これで混迷は消えて、本当の平和が世界に戻ってきた・・でも私たちは待ち望んでいます。シンさん、あなたが目覚めるのを、あなたが世界のために立ち向かう姿を・・)

 シンの目覚めを心待ちにするアンジュ。彼女は眠り続けているシンをじっと見守っていた。

 そのとき、眠っていたシンが目を開けた。

「シ、シンさん・・・!?

 瞬きをするシンにアンジュが声を上げる。

「オ・・オレ・・・」

「シンさん・・・先生、来てください!目を覚ましました!」

 声をもらすシンを見て、アンジュが慌てて医師と看護師に呼びかけた。それからすぐに医師たちが駆けつけて、シンの様子を見た。

 長い時間眠っていて、それから目を覚ましたばかりからか、シンはまだ意識がもうろうとなっていた。しかし心身ともに回復に向かっていると、医師たちは判断した。

「シンさん・・・よかった・・本当によかった・・・」

 シンの目覚めにアンジュが安堵と喜びを感じていた。

 

 地球を目指しているミネルバ。その航行をボルテールが追走していた。

「ミネルバの艦影、捉えました!」

 オペレーターがイザークに報告をする。

「よし。ここからは1個小隊で進行する。ミネルバを包囲するぞ。」

 イザークがディアッカや他の部下たちに呼びかける。

「今のミネルバの主力はインパルスだけ。他は量産型。デスティニーとファルコンは損傷が激しく出せない。」

「ミネルバを叩くなら今のうちということだな。」

 言いかけるイザークにディアッカが続ける。

「ミネルバ討伐の任務を果たすだけだ!減らず口を叩く力は、戦闘に取っておけ!」

 イザークが怒鳴って、指令室を出ていく。

「そうだな。今度も気を引き締めないといけない相手だからな・・」

 ディアッカが気さくさを消して真剣な面持ちを見せる。彼も出撃に備えてドックに向かった。

 

 

次回予告

 

戦いを潜り抜けて取り戻した平和。

だがそれは、完全なものではなかった。

追い求める理想に異を唱える者の反逆。

ソラたちの戦いは、まだ終わっていない。

 

次回・「遠い幸せ」

 

揺るがない幸福、手繰り寄せろ、インパルス!

 

 

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