GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-31「決意はひとつに」

 

 

 シンたちの猛攻により、キラたちは討たれた。アークエンジェル、エターナルの撃墜により、三度起こった戦争は沈静化した。

 しかしシンたちも無傷というわけではなかった。

 ソラを庇ったハルは負傷し、左腕を骨折。シンはキラを討った直後、デスティニーが爆発に巻き込まれたことで負傷して意識を失った。

 デスティニーもファルコンも損傷が激しく、修復を行うにしてもかなりの時間が必要となった。

 

 戦いを終えたミネルバ、ネフィリムはシンたちを乗せたまま、プラントに帰還してきた。そしてシンとハルはその医療施設に運ばれ、精密な療養を受けることになった。

 その施設を訪れたルナマリアとブラッド。2人はまずハルのいる病室に来た。

「ホーク隊長、ブラッドさん・・」

 ハルがルナマリアたちに声をかけていた。2人が来たとき、ハルは起きていて落ち着きを見せていた。

「ハル、腕の調子はどう・・?」

「はい・・腕はまだ全然ですけど、他は大丈夫です。とてもまともに動ける状態ではないんですが・・」

 ルナマリアの問いかけに、ハルが右手を動かしながら答える。彼の左腕は包帯が巻かれていて首から下げられている。

「ソラはどうしているのですか?」

「今はシンの様子を見に行っている。私たちもこの後に行くわ。」

 ハルが聞くと、ルナマリアが深刻な面持ちを見せて答える。

「シンさんはまだ意識が戻っていないです・・体の傷のほうはほとんど治ってきていますが・・・」

「そうか・・アイツは自分の全てを賭けて、キラ・ヤマトやラクス・クライン、オーブを倒そうとしていたから・・・」

 ハルが説明すると、ブラッドがシンのことを考える。

「すみません、隊長・・大変なときなのに、何もできなくて・・・」

「今は体を治すことに専念して。それがあなたの任務。」

 謝るハルにルナマリアが微笑んで言いかける。

「私はシンのところへ行く。入れ違いにソラとアンジュさんが来るから・・」

「はい・・ありがとうございます、ホーク隊長・・」

 言いかけるルナマリアにハルが感謝を口にした。ルナマリアとブラッドが病室を後にした。

(まだ後処理でみんな忙しいのに、僕は何もできずに・・・ソラだって大変なことになっているのに・・)

 今の自分を無力を感じていくハル。その最中、ハルはキラたちとの戦いを思い返していく。

(僕・・ソラを守ったんだよね・・・?)

 ソラを庇った瞬間を思い出すハル。しかし彼はその瞬間に、ファルコンが損傷して意識を失った。

(僕だって・・ソラを守ることができた・・みんなを守ることも・・・)

 ソラに対する思いと行動がハルの自信につながっていた。この思いを胸に秘めて、ハルはベッドに横になった。

 

 シンはまだ意識が戻らない。ベッドで横たわっている彼のいる病室に、ソラ、マイ、アンジュは訪れていた。

「シンさん・・・」

 眠り続けているシンを見つめて、ソラが心を揺さぶられていく。

「全てを賭けて、キラ・ヤマトを・・ラクス・クラインを倒した・・真っ直ぐに平和のために戦ったシンさんが、報われないなんてこと、あり得ない・・・」

「ソラ・・・」

「お嬢様・・・」

 シンを思うソラの呟きを聞いて、マイとアンジュが戸惑いを覚える。

「絶対に目を覚ますよ・・シンさんは・・・!」

「ソラ・・そうだよ!シンさんはどんなことだって乗り越えるスーパーエースなんだから!」

 ソラに続いてマイもシンへの思いを口にする。

「シンさんの体は大丈夫です。意識を取り戻すのを待ちましょう。」

 アンジュが声をかけてソラとマイが頷く。

「それじゃ、ハルのところへ行こう・・」

「うん・・」

「はい。」

 ソラの呼びかけにマイとアンジュが答える。彼女たちはシンのいる病室を後にした。

 その途中の廊下で、ソラたちはルナマリア、ブラッドと会った。

「ハルは落ち着いているわ・・表面上はね・・・」

 ルナマリアからハルのことを聞いて、ソラとマイが当惑を覚える。

「腕の骨折以外は全然問題はない。だがアイツは何もできない自分を無力だと思い込んでいるようだった・・」

「ハル・・・」

 ブラッドが続けて言いかけると、ソラがハルのことを考えて戸惑いを感じていく。

「シンさんはまだ意識が戻っていないです・・でも、見てあげるだけでも大事だと思います・・」

「ありがとう、ソラ・・私もそう思ってるわ・・」

 ソラから励ましの言葉を贈られて、ルナマリアが微笑みかける。

「それじゃ、また後で・・」

「はい。」

 声を掛け合って歩き出すルナマリアとソラ。ブラッド、マイ、アンジュも歩き出していった。

 

 ターミナルで整備を続けていたミネルバ。武装や収容しているMSのチェックと修繕に、クルーたちは付きっきりになっていた。

 ミネルバを外から見つめているミーナに、ドギーが声をかけてきた。

「ネフィリムも修理が大変だけど、これで何もかも一件落着って感じだ。もう戦いも終わったわけだし。」

「そうね・・でも後処理も大変よ。これからのこともね・・」

「これからのことも?だって戦争は終わって・・」

「プラントをまとめていたラクス・クラインが死に、最高評議会を始めとして混乱を深めている。それを改めてまとめるのは、並大抵のことでは不可能です。」

 ミーナが口にした問題に、ドギーが悩まされていく。

「ソラが自分たちのことを明かしている以上、彼女を支持する人が増えてくるでしょう。でも、ソラ・ブルースカイとしての自分が指示されることを、彼女は望んでいない・・」

「名前や権力でまとめることになる・・ラクスたちと同じになっちまう、か・・」

 苦言を呈して、ミーナとドギーが危機感を感じていく。

「これからはみんなが、自ら答えを出さないといけないのよ・・たとえ力が弱く、相手が力で屈服させようとしてきても・・」

「屈服したら、生きながら死んでいることになる・・今までのように・・・」

「時期に評議会を含めてまとまりが整うけど、それまで時間がかかるわね・・」

「まだ安心も油断もできないってことか・・他のヤツらに喝を入れないとな・・」

「私たちのほうでも注意をしておくわ。どっちにしても、安心できる状況にならない理由が他にあるけど・・」

「シンのことだったら必ず目を覚ますさ。ブラッドも死んだりしないって言ってるし。」

「私たちもそう思っている。希望を切り開いた彼が、ここで命を落としたら報われない・・」

「当然だ。アイツは絶対にまた目を覚ます。そしてまた自分の戦いをするさ。」

 それぞれの決意とシンへの思いを口にして、ミーナとドギーはそれぞれミネルバとネフィリムに戻っていった。

 

 シンのいる病室に来たルナマリアとブラッド。ブラッドは病室の入り口のそばで立ち止まり、ルナマリアがシンに歩み寄る。

「シン・・やっと戦いが終わったんだよ・・やっと、シンが願ってた平和がやってきたんだよ・・それなのに、肝心のあなたがいなくてどうするのよ・・・」

 ルナマリアがシンに向けて囁くように言いかける。

「私、待っているから・・みんなも待っているから・・必ず帰ってきて・・シン・・・」

 祈るように言葉を投げかけるルナマリア。彼女は気を引き締めなおして、病室を後にする。ブラッドが彼女からシンに視線を移す。

「シン・・ネフィリムやジャッジは、オレたちだけじゃない。ザフトの整備士たちが修復してくれている・・お前がいる部隊が、オレたちを助けてくれている・・・」

 ブラッドもシンに向けて声をかけていく。

「感謝している・・お前にも、ザフトにも・・・」

 ブラッドはシンに礼を言うと、続いて病室を出ていった。

 

 ハルがベッドにもぐっている病室のドアがノックされた。ドアが開いて、ハル、マイ、アンジュが入ってきた。

「ハル、私たちも来たよ・・」

 ソラが声をかけると、ハルが顔を出してきた。

「ソラ、マイ・・みんなも来てくれたんだね・・・」

 ハルがソラたちを見て微笑みかける。彼の表情に陰りがあるのを、ソラは気づいた。

「ありがとう、ハル・・あのとき、私のことを守ってくれて・・・」

 ソラがハルに感謝を投げかけてきた。

「もしもハルが飛び込んできてくれなかったら、私はここにいなかった・・ハルが無事でいてくれたのが、私、すごく嬉しい・・」

「でも、僕にもっと力があったら、もっとうまく助けることができたかもしれない・・」

 自分の正直な気持ちを告げるソラだが、ハルは自分の無力さを責める。

「そんなことないって・・ハルはホントに強い・・そして勇気がある・・」

「勇気・・僕に、勇気が・・・」

「うん。私やみんなを助けようとするハルの気持ち、私は感じたよ・・」

 ソラに励まされて、ハルが戸惑いを感じていく。

「僕は・・ソラを守れたことを誇っていいのかな・・・」

「いいよ♪ハルは自信持っていいんだよ♪」

 呟きかけるハルにマイも呼びかけていく。

「それでもどうしても自分を弱いなんていうんだったら、これからまた頑張っていけばいいんだよ・・あ、でも今はちゃんと休んだほうが・・」

「マイ・・ソラ・・・」

 マイとソラに励まされて、ハルはだんだんと落ち着きを取り戻していく。

「何か飲み物でも買ってきましょう。マイさん、すみませんが付き合ってもらえませんでしょうか?」

「えっ?あ、はい・・」

 アンジュが声をかけて、マイが頷く。2人がソラを残して病室を出た。病室はソラとハルの2人だけとなった。

「ハル・・・ホントに無事でよかった・・・ハル・・・」

 ソラがハルの前で感情をあらわにする。彼女が目から涙をあふれさせる。

「もう、あんなムチャしなくていい・・もう自分が生きることを優先させていいから・・・」

「ソラ・・・」

 涙ながらに呼びかけるソラに、ハルが戸惑いを募らせる。

「これからは私が、ハルを守るから・・・!」

「ソラ・・・僕は、そんな・・・」

「これが、今の私の願い・・わがままだと言われても構わない・・ゴメンね、ハル・・ムチャクチャなこと言って・・・」

 困惑するハルに、ソラが泣きついてくる。ソラの純粋な思いを感じて、ハルの心もまた揺れていた。

「ソラ・・・僕・・僕は・・・」

 ソラの思いに対して、ハルは返事をすることができなかった。

 

 マイを連れて病室を出たアンジュ。買い物と言った彼女だが、それはソラとハルを影から見守っていた。

「ソラもハルも元気を取り戻せてないみたい・・」

「ハルさんを守ってあげたいと思っているお嬢様と、自分をまだ弱いと思っているハルさん・・何か、私たちにあの2人に何か支えをしてあげられたら・・」

 困った顔を浮かべるマイと、深刻さを感じていくアンジュ。

(ハルさんが使っていたファルコンの戦闘データを分析して、さらに強い戦力を生み出さないといけない・・)

 アンジュが心の中で考えを巡らせていく。

(そしてあれは・・戦争が終わった今では、もう使われなくなることになりそう・・)

 さらに考えを巡らせていくアンジュ。彼女はソラとハル、そしてシンのことを思っていた。

 

 ソラよりも先に医療施設を後にしたマイとアンジュ。彼女たちはルナマリア、ブラッドと合流する。

「お嬢様は少し遅れて戻るようです。もう少しだけ、ハルさんのそばにいさせてあげてください・・」

「それは構わないわ・・今、私たちは休養を言い渡されているから・・」

 言いかけてきたアンジュにルナマリアが言葉を返す。

「オレはネフィリムに戻る。念のため、ジャッジの修復をしておいたほうがいいと思う・・」

「ミネルバのMSで動かせるのはインパルスだけ・・ザクを収容することも考慮されているけど・・」

 ブラッドも声をかけると、ルナマリアもミネルバの状況を告げる。

「クライン派は壊滅しましたが、残党がどこにいるか分かりません。用心に越したことはないですからね・・」

 アンジュが口にした言葉にルナマリアたちが頷く。

「私はシンさんとハルさんのそばにいます。何かあれば連絡しますので・・」

「はい・・お願いします、2人のこと・・」

 アンジュが言いかけて、ルナマリアが頷く。

「それと、アテナさんとソルネさんのことも・・2人も、シンさんが守ろうとしてた人だから・・」

「うん・・2人も、私たちに任せて・・」

 アンジュにアテナとソルネのことを言われて、ルナマリアが答える。

(シンは彼女をあの子、ステラと重ねている・・だから助けようとしているのもある・・私も重なりを感じてないわけじゃない・・)

 ルナマリアが心の中でアテナのことを考えていく。

(でも彼女自身はそのつもりはない・・私もシンも分かってはいるけど・・・)

 アテナへの思いを感じて、深刻さを覚えるルナマリア。それでもシンがアテナを助けたいと思う気持ちを消せないことを、彼女は分かっていた。

「では私たちはこれで。ソラにも来るようにお願いします。」

「分かりました。」

 ルナマリアとアンジュが声を掛け合う。ルナマリアとマイはミネルバに、ブラッドはネフィリムに戻っていく。

(お嬢様・・シンさん・・ハルさん・・・)

 シンたちのことを思って、アンジュは彼らのいる医療施設に戻っていった。

 

 ネフィリムに戻っていたブラッド。彼はドギーのいる指令室に来た。

「ブラッド、シンの様子は・・?」

「まだ眠ったままだ。時期に目を覚ますだろう・・」

 ドギーが声をかけて、ブラッドが真剣な面持ちで答える。

「今は信じて待つしかない。シンに対しては・・」

「ブラッド・・・」

 呟きかけるブラッドにドギーが戸惑いを覚える。

「ジャッジの状態は?」

「ほぼ修理が終わってる。このまま進めれば明日には万全になってるだろう。」

「そうか・・ザフトが協力してくれて助かった・・・」

「ただその前にチェックをしてくれ、ブラッド。うまく動かせるかどうかは、パイロットがやってもらわないと・・」

「あぁ。すぐに行く。シンが動けない以上、オレが尽力しなければ・・」

「オレたちがいることを忘れんなよ、ブラッド。」

 ブラッドがドギーに言いかけてから、ドックに向かっていった。

 

 地球上のザフトのターミナルに在沖していたアテナとソルネ。ミネルバから来た連絡がソルネに届いた。

「これからそちらに・・?」

“えぇ。プラントのほうが設備が整っているので、そのほうがいいと。上からの了承もいただいているし・・”

 疑問を投げかけるソルネに、ミネルバにいるミーナが説明をする。

“ただ、引き続きあなたに力を貸してほしいとも思っている・・頼んでもいい・・?”

「私は構わないわ。人種も部隊も隔てなく、アテナを助けようとした彼の意思を、私は遂行する・・」

 ミーナからの申し出をソルネが引き受ける。

「完全にオレたちを裏切ってしまったようだ、お前たちは・・」

 そこへ声をかけられて、ソルネが視線を移す。その先にいたのはスーラだった。

「あなたは・・・!?

 ソルネが緊迫を覚えて息をのむ。スーラは彼女に鋭い視線を向けていた。

 

 

次回予告

 

命を守るために、かつていた部隊を裏切った者。

その者が行うのは、破滅か防衛か?

アテナを守るソルネを前にしたスーラの答えとは?

世界が向かうのは集結か、混迷か?

 

次回・「救いの手」

 

小さな命、守り抜け、ミネルバ!

 

 

作品集

 

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