GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-26「決戦」

 

 

 アスランとカガリの死に、キラとラクスは涙を流していた。

「僕は何もできなかった・・力があったのに、アスランもカガリも、オーブも守れなかった・・・」

「キラは私たちのために、世界のために一生懸命でした・・その思い、アスランもカガリさんも分かっています・・」

 自分を責めるキラをラクスが励ましていく。

「アスランもカガリも何も悪くない・・それなのに、どうして・・・僕は許せない・・シンが・・ザフトが・・・!」

「キラ、憎しみで戦ってはいけません・・それでは本当の平和には結び付きませんし、アスランとカガリさんのためにもなりません・・」

「それは分かってるよ・・憎しみは、新たな憎しみや戦いを生んでしまう・・・」

 ラクスの呼びかけを受けて、キラが言葉を返す。

「私たちが倒れることが、世界のためになるとは思えません。このまま彼らが敵を倒すだけの道を進んでしまったら、世界は混迷を極めたままになってしまいます・・」

「僕が止める・・シンやみんなの気持ちは分かるけど・・こんなこと、させたらいけないんだ・・・」

 込み上げてくる感情を抑えて、自分たちのやるべきことを確かめるラクスとキラ。

「少しお休みになってください。私たちも発進に備えます。」

「うん・・ありがとう、ラクス・・本当にゴメン・・・」

 ラクスが声をかけて、キラが答える。ラクスは微笑んでから、キラの部屋を後にした。

「ラクス・・・アスラン・・カガリ・・・」

 大切な人たちへの思いを胸に、キラも備えるのだった。世界の命運を賭けたシンとの戦いに。

 

 シンとルナマリアの抱擁を目の当たりにして、ソラは涙をこらえることができなかった。彼女は自分のシンへの思いが遂げられないことを痛感していた。

(分かってたはずなのに・・シンさんは、ホーク隊長のことを大切にしてた・・そのことは分かってたことなのに・・・)

 割り切っていたと思っていたのに、素直に割り切れない。ソラは自分の気持ちに整理がつかなくて、悲しみを抑えられなくなっていた。

(諦めたくない自分が、私の中にいる・・)

 自分の気持ちに嘘がつけなくて、ソラが涙をこぼしていく。

「ソラ・・」

 そこへハルがやってきて、ソラに声をかけてきた。

「ハル・・・な、何・・?」

 ソラが涙を拭ってから、ハルに振り返った。

「えっと・・どうかしたのかって・・辛そうなソラが通っていったのが見えたから・・」

「ハル・・・エヘヘ・・情けないところ見せちゃったかな・・」

 ハルが言いかけると、ソラが作り笑顔を見せる。

「すごいよね、シンさん・・あのジャスティスを倒したし、オーブだって・・」

 ソラがシンについて話していく。

「戦争を終わらせることとか平和とか、その気持ちが人一倍だし、腕も心も強いし・・その思いを、ラクスたちは踏みにじって・・・」

「ソラ・・・シンさんは本当にすごいよね・・僕なんかじゃ全然、足元にも及ばないよね・・・」

 ソラの話を聞いて、ハルが自分の無力を痛感していく。

「僕じゃ全然敵わない・・シンさんなんてとても・・ホーク隊長のほうが僕より上なのに・・・」

「ハル・・・」

 自分を責めていくハルにソラが戸惑いを感じていく。

「このままじゃ僕は役立たずになってしまう・・僕のできることなんて、もう・・」

「ハル、そんなことは・・・!」

 ソラがたまらずハルに励ましの言葉を投げかける。ハルが我に返って、ソラを見つめる。

「ゴメン、ソラ・・僕の方が取り乱しちゃって・・」

「ハル・・・そうだよね・・私にだってやらないといけないことがあるんだよね・・自分のことで泣いてる暇なんて・・」

 謝るハルを前にして、ソラが自分に言い聞かせていく。

「ソラ・・僕にも、やらないといけないことがあるんだよね・・」

「うん・・だからハルは役立たずなんかじゃない・・・」

 物悲しい笑みを浮かべるハルに、ソラが励ましの言葉を送る。

「ソラに気を遣おうとしたのに、僕が励まされることになるなんて・・・」

「お互い、頑張ろう・・世界の未来のために、大切なものを守るために・・」

 ソラがハルに向けて手を差し伸べてきた。ハルも気を引き締めなおしてから、彼女の手を取って握手を交わした。

 

 地球上のザフトのターミナル。ソルネがアテナの様子を見守りながら、シンたちの動向を耳にしていた。

 そんなとき、眠り続けていたアテナが意識を取り戻して目を開いた。

「わ・・・私・・・」

 アテナが声を上げたのを耳にして、ソルネが振り返った。

「アテナ、意識が戻ったのね・・」

「あなたは、ボルフィード主任・・ここは、どこですか・・・?」

 声をかけるソルネの前で、アテナが体を起こして辺りを見回す。

「驚かないで聞いて・・ここはザフトの施設よ・・」

「ザ、ザフト!?・・私たち、捕まったの・・!?

 ソルネの説明を聞いて、アテナが驚きの声を上げる。

「ザフトのデスティニーのパイロット、シン・アスカくんがあなたを助けて連れ出したのよ。シンくんは私にあなたを治療するよう頼んできたわ・・」

「私に!?・・敵である私を、どうして・・・!?

「戦いに駆り出されているあなたを死なせたくないからだそうよ・・シンくんは、あなたそっくりの姿のエクステンデッド、ステラ・ルーシェと交流を持っていたそうだし・・」

 説明をしていくソルネだが、アテナはシンのこの行動が理解できなかった。

「それで、デスティニーは?・・ミネルバは・・・?」

「情報が逐一届いてくるわ・・彼らザフトの攻撃を受けて、オーブ軍は壊滅・・代表、カガリ・ユラ・アスハも戦死したとのことよ・・」

 アテナが投げかけた質問に、ソルネが真剣な面持ちで答える。

「オーブが・・中立国が事実上の壊滅・・ザフトと連合の衝突が本格的に・・・!」

「いいえ・・今のザフトが倒そうとしているのは、キラ・ヤマトとラクス・クライン・・」

 アテナが緊張を膨らませると、ソルネが深刻さを込めて答える。

「あのフリーダムと・・確かに武力介入しては戦況を混乱させたから、敵視するのは当然だけど・・」

 疑問を募らせていくアテナだが、答えを見出すことができないままだった。

「ミネルバはエターナルを攻撃するために、宇宙に上がったわ・・」

「宇宙に・・本格的な戦闘に発展することになりそう・・・」

 ソルネとアテナがさらに緊張を募らせていく。2人はこれからの戦いが激化することと、その後の世界の変動を予感していた。

 

 ミネルバと、滞在しているターミナルではエターナルやアークエンジェルの行方の捜索を行っていた。

「3時間前はF277の地点で静止していたんだけど、ブラッドから手を出すなって言われてて、アンタらと合流するために離れたから・・」

 ドギーが自分たちの状況をミーナに伝える。

「相手はエターナル。ドム部隊の戦力も相当なものです。慎重になるのは当然です。」

 ミーナが真剣な面持ちでドギーに言葉を返す。

「エターナルはあなた方の監視がなくなったのを見計らって移動したのね・・そして、宇宙に上がったアークエンジェルと合流しているでしょう・・」

「これで向こうは、本格的にこっちに攻撃を仕掛けてくることになるだろな・・」

「私たちは倒さないといけない・・本当の平和のために・・」

「もうアイツらのいいようにされるのは、我慢ならねぇ・・・!」

 ミーナと会話をして、ドギーは今までの世界の状況に対する憤りを感じていた。彼らはこの苦境から脱する好機を、千載一遇と考えてつかもうとしていた。

「生きるか死ぬか・・ここで勝ち抜けないようなら、死んだほうがマシだ・・・!」

「でも私たちは生き残る・・私たちに生きていてほしいと思っている人もいるのだから・・」

 共通の決意を確かめ合うドギーとミーナ。

「あなた方には、本当に感謝しています、ドギーさん、リアス艦長・・」

 アンジュがやってきて2人に声をかけてきた。

「別にアンタの言いなりになったつもりじゃない。オレたちはオレたちの戦いをしているだけだ。」

「私たちもシンくんの決意に共感しただけ。言いなりなっているわけでないのは、ラクス・クラインに対してもあなたたちに対しても同じです。」

 ドギーとミーナが自分たちの考えをアンジェに告げる。

「分かっています。私たちもただ、明らかに間違っていることを正しいことのように振る舞っていることと、その言いなりになっていることが許せないだけです。」

 アンジュも2人の考えを汲み取って、真剣な面持ちで答える。

「お嬢様もシンさんも、その姿勢で戦い続けています・・」

 アンジュが言いかけて、自分の胸に手を当てる。

「私もただ見ているだけでいるつもりはありません。私も戦闘に出ます。」

「アンジュさんも・・!?

「私はブルースカイ家の親衛隊長です。MSの操縦は心得ています。」

 微笑みかけるアンジュに、ミーナが戸惑いを見せる。

「ご協力、感謝します。ただし私たちの指示には従っていただきます。陣形や戦況の把握も、乱れれば自滅につながります。」

「分かっています。よろしくお願いします。」

 申し出を聞き入れるミーナに、アンジュが小さく頭を下げた。

「マイ、エターナルとアークエンジェルの動きは・・?」

「まだつかめません。ザフトのレーダー網をかいくぐっている可能性が高いです・・」

 ミーナが声をかけて、マイが報告する。アークエンジェルもエターナルも、ミネルバのレーダーに引っかからない。

「焦ることはないわ。私たちも万全な状態で戦いに臨みたいところだから・・」

「リアス艦長・・はい・・・」

 ミーナの言葉を受けて、マイが小さく頷いた。

 

 アークエンジェルでもエターナルでも、アスランやカガリの死の悲しみに包まれていた。しかしいつまでも悲しみに暮れているわけにはいかないと、キラたちは気を引き締めなおしていた。

「今のミネルバの、ザフトの行動は、私たちや世界に大きな影響をもたらすことになります。それは血で血を洗う悲惨な争いの世界となってしまいます。」

 ラクスがキラたちに向けて呼びかけていく。

「未来のある世界のため、私たちは立ち向かわなくてはなりません。その後に破壊という罪と責められても、夢と未来を壊す敵に勝たなくてはなりません・・」

「僕はやるよ。みんなを守るために、アスランとカガリの正義と思いが報われるように・・」

 ラクスに続いてキラも言いかける。マリューたちが真剣な面持ちで頷いた。

「武装、機体の整備は完了している。いつでも出られるわ。」

「向こうも体勢を整えている頃だろうな・・」

 マリューがラクスに言いかけて、ムウがミネルバのことを考えて呟く。

「もう迷っていられない・・行こう・・・」

 キラが言いかけて、ミネルバとの、ザフトとの、シンとの戦いに備える。

(僕は戦いを終わらせる・・シン、たとえ君を倒してでも・・・)

 キラは迷いを抑えて、シンを倒すことも厭わない覚悟を決めていた。

 

 同じ頃、ミネルバも武装と機体の整備を完了させていた。

「戦いの準備は整ったわ。おそらく次の戦いが、アークエンジェル、エターナルとの最後の戦いになるでしょうね・・」

 ミーナがシンたちに向けて呼びかけていく。

「私たちは、世界の本当の敵に従って生きていた・・でも私たちはその過ちに気付くことができた・・本当の平和は、エゴに虐げられて生きながら死んでいることではない。多くの人が心から納得できるよう、抗い立ち向かうことです。」

 語りかけていくミーナに、シンとソラが頷いていく。

「世界の敵の打倒はもちろんですが、私たちには果たさないといけない使命があります。それは生きて帰ること。それを忘れないで・・」

 ミーナが思いを込めた言葉に対して、シンたちが敬礼を送る。

「シンくん、ルナマリア、ブラッドくん、ハル・・えっと・・・」

 ミーナが声をかけていって、ソラへの言い方について迷いを見せる。

「“ソラ”でいいです。“ソラ・アオイ”で・・」

 するとソラが微笑んでミーナに答えてきた。

「ソラ・・世界の敵に立ち向かい、生きて帰るように・・」

「はいっ!」

 ミーナの呼びかけにシンたちが答えた。

「本艦はこれより作戦行動に入る。各員持ち場へ。」

 ミーナが指示を出し、ミネルバがターミナルから発進した。

「よし!ネフィリムも出るぞ!」

 ドギーの指示でネフィリムも発進していった。

 

 ミネルバとネフィリムが動き出したのを、アークエンジェルとエターナルも捉えた。

「動き出したか。それじゃオレたちも動き出すか。」

「今度は僕たちが立ち向かう番ですね・・」

 バルトフェルドとキラが声を掛け合っていく。

「彼らを今ここで止めなくては、誰も彼らの力を止めることができなくなってしまいます。決して屈してはなりません。」

 ラクスが投げかけた言葉に頷いてから、キラはヒルダ、マーズ、ヘルベルトとともにドックに向かった。

 アークエンジェルでもムウが、生き残ったムラサメのパイロットたちをまとめていた。

「これは敵討ちでも、命を捨てる戦いでもない。オレたち自身を、そして世界と大切なものを守るための戦いだ。捨て身や庇い立てで命を散らすようなことは絶対にするな。」

「はい!フラガ隊長!」

 ムウの呼びかけにパイロットたちが答える。

“ミネルバ、こちらへ向かってきています!”

 オペレーターからの報告がムウたちに伝えられる。

「よし、みんな・・絶対に死ぬなよ・・・!」

「はっ!」

 ムウの呼びかけにパイロットたちが答えた。彼らはそれぞれの機体に乗り込んで、発進に備える。

「ムウ・ラ・フラガ、アカツキ、出るぞ!」

 ムウの乗るアカツキがアークエンジェルから発進する。アカツキには宇宙用ユニット「シラヌイ」が搭載されていた。

 アカツキに続いてムラサメも続々と発進していく。

「行くよ、お前たち。後れを取るんじゃないよ。」

「オレたちに今までそんなことあったか?」

「今度は退屈しなくて済みそうだ。」

 ヒルダ、ヘルベルト、マーズが声を掛け合う。3機のドムがエターナルから発進する。

(アスラン、カガリ、行くよ・・・)

 フリーダムのコックピットで、キラがアスランとカガリのことを思う。彼の意識の中に、2人の微笑む姿が浮かび上がっていた。

「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」

 キラの乗るフリーダムがエターナルから発進した。

「ミーティア、リフトオフ!」

 バルトフェルドの指揮の中、エターナルから巨大兵器「ミーティア」が射出されて、フリーダムが装備する。キラたちはシンたちとの戦いに向かうのだった。

 

 動き出したキラたちを、ミネルバもネフィリムもキャッチしていた。

「こちらが動けば向こうも動く。でも今回はメサイアのときと同じ。通常の後手の介入ではない・・」

 アンジュがキラたちの動きを見て呟く。

「今度こそ、本当の平和を勝ち取ります・・何者の勝手に縛られない、本当の平和を・・」

 シンやソラたちに思いを託しながらも、自らも戦いに臨もうとするアンジュ。彼女は一筋の希望を見出していた。

 

 

次回予告

 

最大の戦いが始まった。

大切なもの、大切な人を守る戦い。

それは敵に立ち向かう意思と強靭なる自由のどちらか。

答えが示されるときが来る。

 

次回・「果てしない閃光」

 

守るべきもののため、輝け、アカツキ!

 

 

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