GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-25「届かない祈り」

 

 

 アスランを倒し、カガリを手にかけたシン。オーブが実質壊滅に追い込まれたことに、シンの心は揺れていた。

 動きを止めていたデスティニーに、ルナマリアのインパルスが駆けつけてきた。

「シン・・大丈夫・・・!?

 ルナマリアに声をかけられて、シンが我に返る。

「アスランは・・オーブは・・・?」

「ルナ・・・カガリを・・オーブを倒した・・・アスランも・・・」

 ルナマリアが問いかけると、シンが声を振り絞るように答える。

「アスラン・・・私、止めることができなかった・・・」

「いや・・アスランも、1度決めたら聞かないから・・戦う前に会って、分かり合えなかったときから・・・」

 自分に責任を感じていくルナマリアに、シンが言葉を投げかける。

「オレは後悔しない・・オレもアスランも心に決めて、その決意のために戦ったのだから・・・それでもオレには、オーブやキラたちのやり方を許せない・・アイツらに味方したアスランも・・」

「シン・・・」

 シンの新たなる決意に、ルナマリアは戸惑いを募らせていく。

「ブラッドは?・・キラがいたってことは、アイツまさか・・・!?

 シンが緊張を感じながら、ブラッドの行方を探る。

“シン、お前は無事のようだな・・”

 そのとき、ジャッジにいるブラッドがシンに通信を送ってきた。

「ブラッド!・・よかった・・今どこだ・・?」

“山岳のほうだ。ジャッジが損傷して、動けなくなっている・・”

 シンが答えると、ブラッドが自分の位置を伝える。デスティニーとインパルスのレーダーが、ジャッジの反応を捉えた。

「ミネルバ、ブラッドの救助を!」

“シンさん!・・は、はい!”

 シンの呼びかけに、ミネルバにいるマイが答える。ミネルバがジャッジを発見して、インパルスとファルコンに運ばれて収監された。

 損傷しているジャッジのコックピットから、ブラッドが出てきた。

「ブラッド、大丈夫か・・!?

「あぁ。オレは大丈夫だが、ジャッジは修復しないといけない・・大口叩いておいたくせにこのザマだとは・・」

 心配の声をかけるシンに、ブラッドが深刻さを浮かべて答える。

「いや、相手がフリーダムじゃ・・」

「そのフリーダム相手に、お前は優位に立っていた・・ヤツが相手でも言い訳にしかならない・・」

「ブラッド、もう自分を責めないでくれ・・無事でいてくれただけでも、オレは嬉しいんだ・・」

 悔やむブラッドにシンが励ましの言葉を送る。彼に勇気づけられて、ブラッドが微笑みかけた。

「これでオーブ軍は壊滅状態となりましたね・・」

 アンジュがやってきてシンたちに声をかけてきた。

「私たちはオーブを討ちたかっただけ・・そこに住む人を手にかけるような人殺しやテロがしたいわけじゃない・・」

 ソラも声をかけて、真剣な面持ちを見せる。

「それに、敵はまだ世界からいなくなったわけじゃない・・」

 ソラが続けて投げかけた言葉を聞いて、ルナマリアたちが緊張を覚える。

「ラクス・クライン・・キラ・ヤマト・・・」

 かつて自分が屈した相手。自分の全てを狂わせた相手を倒す決意を、シンは改めて固めていた。

「私たちはオーブから離れるわ。アークエンジェルもアカツキも、フリーダムもオーブから離れていった・・」

 ミーナもやってきてシンたちに状況を話した。

「オレたちも無傷ってわけじゃない・・オレたちも体勢を整えないと・・」

「ジャッジも修復すればまた戦える・・それまでにオレは体を休めておくところだし、ドギーたちにも連絡を入れておきたい・・」

 シンとブラッドが声を掛け合って、ルナマリアたちが頷く。

「もしもアークエンジェルが宇宙に上がってエターナルと合流するなら、オレたちもネフィリムと合流することになる・・」

 ブラッドはさらに話をして、上に目を向ける。彼の意識はドギーたちのいるネフィリムに向いていた。

 

「みんな、ブラッドとシンたちがオーブを倒したぞ!」

 ブラッドからの通信を受けて、ドギーがクルーたちに報告する。クルーたちが喜びや驚きなど、様々な反応を見せていた。

「あとはラクス・クライン・・エターナルか・・オレたちも戦うことになるな・・」

 ドギーが口にしたこの言葉に、クルーたちは表情を曇らせる。

「オーブは倒したって言っても、まだフリーダムが残ってるんだよな・・」

「だけど、こっちにはシンとブラッドたちがいるんだ・・!」

「アイツらのためにもオレたちも命懸けにならないと!」

 クルーたちが不安や意気込みを見せていく。

「ブラッド、シン、オレたちも力になるからな・・・!」

 シンたちへの信頼を募らせて、ドギーも次の戦いに備えるのだった。

 

 ミネルバの攻撃から辛くも脱出することができたアークエンジェル。だがアスランとカガリを助けられなかったことを、クルーたちは気に病んでいた。

「アスランくんとカガリくんが・・・」

 マリューも2人の死に胸を締め付けられるような悲しみに襲われていた。

「すまない・・オレが援護できなくて・・・」

 ムウがマリューに声をかけてきて、自責を浮かべる。

「ムウのせいじゃないわ・・あなたは私たちやオーブを守るために・・」

「いや、守れなかった・・オーブも、アスランもカガリも・・・」

 マリューが弁解を入れるが、ムウは納得できなかった。

「オーブがやられた今、ザフトが次に攻撃を仕掛けるのは・・」

「ラクスたち・・エターナル・・・」

 マリューが口にした言葉に、ムウも続ける。2人は更なる不安を禁じ得なかった。

「本艦とMSの修繕が完了次第、エターナルと合流します。もう私たちには、迷いを抱いている暇もないわ・・」

「分かってる・・これ以上、大切なものを失うわけにいかないからな・・」

 マリューの呼びかけにムウが頷く。アークエンジェルでは艦やMSの修復を急いでいた。

「ところで、キラくんは・・・?」

「・・・今は、そっとしといたほうがよさそうだ・・・」

 マリューがキラのことを聞くと、ムウが深刻な面持ちを見せてきた。キラの心境を察して、マリューも鎮痛の面持ちを浮かべた。

 

 アスランとカガリの死に、キラは打ちひしがれていた。彼はアークエンジェル内でアスランが使っていた部屋に来ていた。

(アスラン・・カガリ・・何で・・・)

 キラが悲しみを募らせて、部屋の壁にもたれかかる。

(どうして・・2人が死ななくちゃいけないんだ・・2人とも、何も悪いことはしていないのに・・ただ平和のために、真っ直ぐに頑張っていただけなのに・・・!)

 アスランとカガリの死があまりに理不尽に感じて、キラがたまらず壁に握った手を叩きつける。

(僕の中に、許せない気持ちが・・でも憎しみをぶつけても、アスランたちは救われないし、新しい憎しみを生むだけだ・・それは絶対にダメだ・・・!)

 憎しみで戦っても何も報われないと自分に言い聞かせて、キラは冷静さを取り戻そうとする。

(戦いを終わらせるのが、僕のやるべきこと・・今起きている戦いも、僕の手で・・・)

 自分が果たさなくてはならないことを思い返して、キラが真剣な面持ちを浮かべた。

(ザフトが次に狙ってくるのは・・エターナル・・ラクス・・・)

 キラはラクスに対して一抹の不安を覚える。キラはラクスを守る決意を、さらに強くするのだった。

 

 オーブの壊滅とアスラン、カガリの死はエターナルにも伝わっていた。

「アスラン・・・カガリさん・・・!」

 この事態にラクスは涙を隠せなくなっていた。

「ザフトはオーブを壊滅させた。国民は避難させて、ザフトも彼らには手を出していないようだが・・立て直しは極めて困難だろう・・」

 バルトフェルドが現状を確認して呟く。

「アークエンジェルは修復を完了次第、宇宙に上がるとのことだ。オレたちと合流してくる。」

「世界のため、平和のためと称して、私たちを討とうとしている・・ですがそれは、本当の平和のためにはなりません・・」

 彼の言葉を受けて、ラクスが真剣な面持ちで言いかける。

「私たちは戦わなくてはなりません。私たちを滅ぼそうとする者たちと・・」

「ラクス様・・」

 ラクスの話を聞いて、ダコスタが戸惑いを覚える。

「私たちは今と未来を歩いているのです。過去に背を向けてもいけませんが、囚われるのもよくはありません・・」

「シンのヤツ・・前のように、過去に囚われているばかりじゃないようだ・・だからこそ、余計にほっとけないんだけどな・・」

 ラクスに続いてバルトフェルドもシンたちを止める決意を口にする。

「オレたちにとって不本意になるが、もうアイツは、打ち倒すしかない・・」

 バルトフェルドが口にした言葉に、ラクスもダコスタも深刻さを込めて頷いた。2人にとってもシンたちを倒すことは不本意だった。

 

 ブラッドの修復や他のMSの整備を続ける中、ミネルバは飛翔して宇宙に上がった。ターミナルに向かう途中、ミネルバにネフィリムが合流してきた。

「こちら、戦闘艦、ネフィリム。オレは代表のドギーだ。」

「ミネルバ艦長、ミーナ・リアスです。あなた方の協力、感謝いたします。」

 ドギーとミーナが通信で声を掛け合う。

「オレたちはオレたち、そしてブラッドとシンの判断で行動する。それがそっちの作戦にのっとってのものなら、詳細を戦闘前に確認しておきたい。」

「もちろんそのつもりよ。ターミナルに到着したら、あなた方と直接お会いしたい。」

「そうしよう。ではターミナルで会おう。」

 通信を終えたドギーとミーナ。ネフィリムとミネルバがターミナルに到着した。

 ザフトの中にはブラッドやドギーたちへの懸念を抱いている者が少なくない。ネフィリムはターミナルに滞在している兵士たちから、厳重なチェックを受けることになった。

「ハァ・・えらく手厳しく調べられたぞ・・」

「オレもだ・・ザフトにとってはオレたちは厄介者だ。当然の措置というものだ。」

 肩を落とすドギーにブラッドが言いかける。

「すまない、みんな・・迷惑がかかって・・」

「当然の措置だと言っただろう。お前でもそうしたはずだ。逆の立場でも、オレも・・」

 謝るシンにブラッドが弁解を入れる。

「アークエンジェルはエターナルと合流して、オレたちに攻撃を仕掛けてくるだろう。オレたちが自分たちを脅かす敵ということは、十分認識できているはずだから・・」

「今度はオレたちは、迎え撃つことになるのか・・」

 ブラッドに答えて、シンは深刻な面持ちを浮かべる。シンはキラたちを倒すことを、改めて心に誓っていた。

「シン・・・」

 そこへルナマリアがやってきて、シンに声をかけてきた。

「ブラッド、また後でな・・」

「あぁ。何かあれば知らせる。と言っても、オレより先にミネルバの誰かが先に知らせるだろうが・・」

 ブラッドと声を掛け合って、シンはルナマリアと一緒に場所を変えた。

 

 ルナマリアとともにミネルバの廊下に移動してきたシン。シンもルナマリアも深刻な表情を浮かべていた。

「アスラン・・・これで、よかったのかな・・私たちのしたことは、本当に正しかったのかな・・・?」

 ルナマリアが不安を込めてシンに言いかける。

「レイだったらきっと、世界のため、デュランダル議長のためだからって言って、全然迷いも後悔もしないのに・・」

「かもな・・オレはレイみたいに迷いを捨てるなんてことはできない・・オレたちが今やってることは、絶対に正しいことだってわけでもないかもしれない・・」

 皮肉を口にするルナマリアに、シンが深刻さを込めて言いかける。

「でも、アイツらが好き勝手なままでいるくらいなら、オレはアイツらを倒す・・そうしなければ、オレたちは生きながら死んでいるのと同じだ・・」

「そのために、ラクス・クラインとキラ・ヤマトを倒す・・向こうはこっちが何を言っても聞こうとしなくて、勝手なことを言って自分を押し付けてくる・・」

 シンとルナマリアが言葉を掛け合って、小さく頷いていく。

「オレは戦う・・平和を乱すアイツらを、絶対に野放しにしない・・・」

「シン・・私も戦う・・でないと、レイやアスランが浮かばれないと感じてるから・・」

「ありがとう、ルナ・・でも、絶対にムチャはしないでくれ・・もう、大切な人を失いたくないから・・」

「それは私も同じ・・私もシンを失いたくないから・・きっとみんなも、大切な人を失いたくないのは、同じだから・・」

 それぞれの思いを口にして、シンとルナマリアが抱きしめ合った。2人は再会と決意を分かち合っていた。

 2人のいる廊下のそばに、ソラがいた。彼女は胸を締め付けられるような気分を感じていた。

「ソラ・・・?」

 ソラが涙ながらに駆けていくのを目撃して、ハルが当惑を覚えた。

 

 ミネルバがターミナルに向かっていた間も、修復が進められていたジャッジ。ターミナルに入ってからペースが速まり、ジャッジの修復は完了した。

「これでまた戦える。何度もやられるわけにいかない・・」

「今度はオレたちも戦うぜ、ブラッド。お前とシンをしっかり援護してやる。」

 決意を新たにするブラッドに、ドギーが意気込みを見せる。

「もう地獄の日々を味わうのはゴメンだ・・ドーガ隊長の思いを遂げるためにも・・」

 ドギーが深刻さを込めて口にした言葉を聞いて、ブラッドもガルのことを思い出す。

「シンも自分なりの答えを見出している。もちろんオレたちもだ・・ただ共通の敵がいるというだけだとしても・・」

「今のオレたちにはシンがいる。ザフトも味方になってくれている・・オレたちだけじゃ、どうにもなんなかった・・」

「アイツの信念を、オレたちでも報われるようにしないと・・」

「もちろんそのつもりだぜ。なぁ、みんな!」

 ブラッドと会話を交わして、ドギーがネフィリムのクルーたちに呼びかける。クルーたちが答えて意気込みを見せる。

「みんな・・オレたちの意思を貫き、そして生き残るぞ・・!」

「おおっ!」

 ブラッドの声にドギーたちが答える。次の戦いを乗り越えたときに真の平和があると、ブラッドたちは信じていた。

 

 宇宙に上がってきたアークエンジェルは、周囲への警戒を強めているエターナルと合流した。再会したラクスとマリューが握手を交わした。

「みなさん、ご無事で何よりです・・」

「私たちはね・・でも、アスランくんとカガリさん、オーブが・・・」

 声をかけてきたラクスに、マリューが沈痛な面持ちを浮かべる。

「私がついていたら・・」

「ラクスさんたちには、ラクスさんたちのやることがあったのです。みんなを守れなかったのは、私の判断が至らなかったから・・」

 それぞれ自分に責任を感じていくラクスとマリュー。ラクスが何とか話を切り替えようとする。

「ところで、キラは・・?」

「キラくんは、部屋にいるわ・・会いに行くの・・?」

 ラクスの問いかけにマリューが答える。ラクスは頷いてから、アークエンジェルのキラの部屋に向かった。

「ラクスさん・・・キラくん・・・」

 キラだけでなくラクスの心配を感じていたマリュー。彼女は気持ちを切り替えて、アークエンジェルの修繕に専念することにした。

 

 アークエンジェル内の自分の部屋にいたキラ。彼が出てこない部屋をラクスが訪ねてきて、ドアをノックしてきた。

「キラ・・・」

 ラクスの声を耳にして、キラが顔を上げて振り向いた。ドアが開かれて、ラクスが部屋に入ってきた。

「ラクス・・・僕は・・・」

 ラクスを目の当たりにして、キラが戸惑いを見せる。ラクスもキラの前で悲しみをあらわにする。

 アスランとカガリの死の悲しみに突き動かされるように、キラとラクスが強く抱きしめ合う。

「ラクス・・・アスランが・・カガリが・・・」

「キラ・・・」

 込み上げてくる悲しみを痛感して、キラとラクスは涙を流していた。

 

 

次回予告

 

悲しみと怒り、決意と激情。

様々な思いが交錯し、心が揺さぶられていく。

揺るぎない決意を抱くシンと、強き意思を示すキラ。

運命と自由の宿命に、終止符は打たれるのか・・・?

 

次回・「決戦」

 

永久なる未来へ、飛び立て、エターナル!

 

 

作品集

 

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