GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-24「戻らない思い」
絆をつなげた親友。
敵対し、錯綜を経てともに戦った仲間。
ともに志を同じくした戦士。
それぞれの意思をぶつけ合った敵。
平和と正義のために苦悩し戦い続けた男が今、散華した。
デスティニーのビームソードに貫かれて、ジャスティスは爆発した。その閃光の中にアスランは消えた。
「アスラン!」
キラの悲痛の叫びがオーブの虚空にこだました。
「オレがアスランを倒した・・オレが選んだ戦いで、オレ自身の意思で・・・」
込み上げてくる様々な感情を噛みしめて、シンが呟く。デスティニーがフリーダムにゆっくりと振り返る。
「アンタたちは自分たちの勝手を押し付けてばかり・・だから倒されることになったんだ・・・!」
シンがキラに向かって声を振り絞る。
「アンタも、ここで倒す・・オーブもここで滅ぼす・・・!」
「アスランは何も悪くない・・ただ平和のために、大切な人を守るために頑張っていただけなのに・・・!」
鋭く言いかけるシンと、アスランの思いを噛みしめるキラ。
「許せない・・・でも、憎しみで戦っても、何もいいことないし、アスランが戻ってくることにもならない・・・!」
込み上げてくる激情を必死に抑えるキラ。ビームソードを構えるデスティニーに、フリーダムも両手に持っているビームサーベルを構えた。
ジャスティスが倒される瞬間を、カガリも目撃していた。
「そんな・・アスランが・・・!」
アスランの死にカガリが絶望に襲われていく。
「カガリ様!こちらにザフトのMSが迫っています!」
「フラガ隊長もアークエンジェルも劣勢です!」
オーブ兵たちがカガリに向けて、焦りを込めた報告をしてくる。
「市民の避難は完了しているか・・・!?」
「はい!」
振り絞るように問いかけるカガリに、兵士が答える。
「お前たちも市民と合流しろ・・私もMSで発進する・・!」
「カガリ様、何を仰るのですか!?それではカガリ様が・・!」
指示を出すカガリに兵士たちが驚愕を見せる。
「私はオーブの代表だ。私だけ引き下がって、人々を見捨てるようなマネはできない・・!」
「ウズミ様のお言葉をお忘れですか!?オーブの理念を受け継ぐ者がいなければ、本当の意味でオーブが滅ぶことになります!」
呼びかけるカガリに兵士の1人が言葉を返してきた。この言葉を聞いたとき、カガリは父、ウズミ・ラナ・アスハの言葉を思い返していた。
「お父様・・・私も、まだ受け継がせる役目を果たしていないのですね・・・」
ウズミが託した思いを感じ取って、カガリは冷静さを取り戻していく。
「アスランも、そう考えるだろうな・・・これよりこのオーブ政府を破棄。我々も脱出し、避難している市民と合流する。」
「カガリ様・・この状況では、やむを得ないですね・・・!」
カガリが切り出した指示に、兵士たちは渋々聞き入れるしかなかった。
アスランが倒されたことは、アークエンジェルのマリューたちにも知れ渡っていた。
「そんな・・アスランくんが・・・!」
込み上げてくる感情を噛みしめて、マリューが冷静さを保とうとする。
「カガリ様はムラサメ隊とともに政府を離れます!」
オペレーターがマリューにカガリたちのことを報告する。
「カガリさんが生き残れば、オーブは立て直せるわ・・私たちが向こうの注意を引き付けて、カガリさんたちに近づけさせないようにします。」
カガリたちを守るため、マリューが指示を出す。
「ミネルバ、本艦に接近してきます!」
クルーの呼びかけにマリューがモニターに目を向ける。アークエンジェルにミネルバが接近して、トリスタンを発射してきた。
「ゴットフリート、ってぇ!」
マリューが号令を下し、アークエンジェルがビームを回避して、ゴットフリートで迎撃する。ミネルバもビームを紙一重でかわす。
「攻撃の手を止めないで!一気に攻めるわ!」
ミーナが呼びかけて、ミネルバがイゾルデを発射する。射撃がアークエンジェル右翼に命中する。
「ムラサメ隊、発見!政府官邸から出てきます!」
マイがカガリたちが「ストライクルージュ」とムラサメで出ていくのを発見した。
「脱出を図るつもりだけど、押さえないと・・・!」
ミーナが呼びかけて、ミネルバがアークエンジェルを振り切ってカガリたちに向かっていく。
「気づかれてしまった・・絶対にカガリさんたちに近づけさせないで!」
マリューが焦りを感じながら、カガリたちを守るべく指示を出す。アークエンジェルがミネルバの進行を阻む。
「アークエンジェル・・あくまでオーブ首脳陣を守ろうとしているのね・・!」
敢然と立ちはだかるアークエンジェルとマリューたちに、ミーナが毒づく。
「まずはアークエンジェルを叩くしかない・・敵艦より降下!同時にタンホイザー、発射準備!」
彼女がクルーたちに指示を出す。彼女は地上に当たらない角度で陽電子砲を発射しようとしていた。
「ミネルバ、陽電子砲、発射体勢です!」
「このままではカガリさんたちに被害が及ぶ・・こちらもローエングリンで迎撃します!」
クルーが呼びかけて、マリューも迎撃態勢を取る。カガリやオーブへの被害を防ぐために、彼女は決断を下す。
(絶対に守るわ・・カガリさん・・・!)
彼女が今までにないほどの緊張を感じていく。アークエンジェル、ミネルバがともに陽電子砲の発射準備を整えた。
そのとき、アークエンジェルのローエングリンの砲門が爆発を起こした。
「えっ!?」
「別方向からの攻撃です!これは・・!」
声を荒げるマリューにオペレーターが言いかける。アークエンジェルを攻撃したのは、ソラのドムだった。
「これ以上、お前たちのいいようにはさせない!」
ソラがアークエンジェルに向かって叫ぶ。
「ってぇ!」
ミーナの号令とともに、ミネルバがタンホイザーを発射した。撃たれたと思い、マリューが無意識に目を閉ざす。
「マリュー!」
そのとき、アークエンジェルの前にムウのアカツキが飛び込んできた。アカツキがアークエンジェルを庇って、タンホイザーの砲撃を受ける。
「すぐに回避して!アカツキは陽電子のビームも跳ね返すわ!」
ミーナが呼びかけて、ミネルバが急速上昇する。アカツキに当たっていたビームが反射して、ミネルバがいた場所に飛び込んだ。
「大丈夫か、マリュー!?」
「ムウ・・・!」
呼びかけるムウにマリューが戸惑いを覚える。
「カガリたちは脱出した!オレたちも脱出しろと言ってきている!」
「しかし、それではオーブが・・!」
「アイツがいればオーブは立て直せる!今のオレたちは極めて劣勢だ!オレたちも撤退するしかないぞ!」
ムウに言われて、マリューは迷いを振り切り決断を下す。
「敵艦とMSを離しながら、本艦も引き上げます!」
マリューの指示にクルーたちもムウも頷いた。
「このまま逃がすわけにはいかない!」
「シンの思い、報われずに終わるなんて認めない!」
ハルとルナマリアが言い放ち、ファルコンとインパルスがアカツキを追う形で駆けつけてきた。
「ちっ!いつまでもしつこくしてくれちゃって!」
ムウが毒づき、アカツキがアークエンジェルを守るように動いて、ビームライフルでインパルスとファルコンを引き離す。
「ホーク隊長、僕がアカツキに飛び込みます!援護をお願いします!」
「ハル、ムチャはやめなさい!」
呼びかけるハルをルナマリアが呼び止める。ハルは聞かずに、ファルコンが飛び出してアカツキに向かっていく。
ファルコンが振りかざした2本のビームサーベルを、アカツキがビームサーベルと盾で受け止める。
「いい加減にしろよ!そんなにオレたちが邪魔なのかよ!?」
「あなたたちのしたことで、どれだけの人が死んだと思ってるんだ!?」
ムウとハルが互いに言い放つ。ファルコンと組み付いているアカツキに、インパルスが飛び込んでビームサーベルを突き出す。
「ぐっ!」
アカツキの右腰にビームサーベルがかすめて、ムウがその衝撃に襲われてうめく。
「ムウ、撤退して!私たちも引き上げるわ!」
「くっ・・オレたちもここまでか・・・!」
マリューの呼びかけにムウが渋々とした反応を見せつつ頷く。アカツキがビームライフルでインパルスたちを引き離しながら、アークエンジェルとともに離れていく。
「逃がさない!」
ソラがアークエンジェルに向かってビームバズーカを発射する。
「ヘルダート、コリントス、ってぇ!」
マリューが号令を下して、アークエンジェルからミサイルが放たれる。ミサイルはドムの砲撃に命中して爆発を起こして、煙を巻き起こした。
「なっ!?」
声を荒げるソラ。煙で視界が遮られて、ルナマリアもハルもアークエンジェルとアカツキを見失う。
煙が消えたときには、アークエンジェルの姿は消えていた。
「いない・・爆発と煙で海中に潜った可能性が高い・・・!」
ハルがアークエンジェルに逃げられたことを毒づく。
「シンは、まだキラと・・!?」
ルナマリアがシンを心配して、彼を探す。
「ミネルバ、デュートリオンビームを!シンの援護に向かいます!」
ルナマリアが呼びかけて、インパルスがミネルバからから照射されたデュートリオンビームを受ける。エネルギーを回復させたインパルスが、デスティニーのいる地点に向かった。
ビームサーベルで素早く切りかかるキラのフリーダム。だがシンのデスティニーに回避と迎撃をされて、フリーダムは切りつけることができないでいた。
「これ以上はやらせない・・オーブも・・カガリも・・・!」
カガリたちを守ろうと必死になるキラ。
「このまま戦い続けても不利になるだけ・・一気に決めるしかない・・・!」
キラが思い立ち、フリーダムが砲門を展開して、デスティニーに向けて一斉放射する。シンは反応し、デスティニーがビームをかいくぐり、飛び込んでいく。
デスティニーがビームソードを振り下ろし、フリーダムが2本のビームサーベルを振りかざす。
デスティニーの左腕は切り落とされたが、フリーダムも左肩と左足を深く切り裂かれた。
「ぐっ!・・フリーダムの動きが・・・!」
操縦が利かなくなって落下していくフリーダムに、キラが愕然となる。フリーダムが地上に落下して、完全に動きが鈍っていた。
「フリーダム・・アンタが1番許せないけど・・今は・・・!」
シンは呟いてから視線を移す。彼の視界は脱出を図るカガリのストライクルージュとムラサメたちを捉えていた。
「アークエンジェルとアカツキは無事に脱出しました!」
「フリーダム損傷!敵機、こちらに向かってきます!」
ムラサメのパイロットがカガリに向けて次々に状況の報告をする。フリーダムを振り切ったデスティニーが迫ってくるのを、カガリも目撃する。
「キラ・・シン・・・追いつかれたら確実にやられる・・全速力で振り切るんだ!」
キラとシンのことを気にしながら、カガリがムラサメのパイロットたちに呼びかける。
「ダメです!敵機のスピードが格段に速いです!」
パイロットが声を荒げる。デスティニーが追いついてきて、ムラサメの1機をビームソードで切り裂いた。
「シン!・・私たちを、オーブを滅ぼして、何かつかめると思っているのか!?」
カガリがシンに対して憤りを募らせる。ムラサメたちが迎撃態勢を取るが、デスティニーに次々に切り裂かれていく。
「カガリ様、お逃げください!我々がヤツを食い止めます!」
パイロットがカガリに呼びかけて、ムラサメがさらにデスティニーに立ち向かう。
「やめろ、お前たち!命を落とすだけだ!」
カガリが呼び止めるが、命懸けで立ち向かうムラサメは、デスティニーによってことごとく撃破されていく。
「お前たち・・・!」
かけがえのないオーブ軍の兵士たちの死に胸を締め付けられながら、カガリは彼らの思いを汲み取って、この場を離れていく。
だが追走するデスティニーがビーム砲を発射して、カガリのストライクルージュは走行を阻まれる。
「結局アンタも、部下や仲間を見捨てて、自分だけ生き残ろうとするのか・・・!?」
「・・・お前に何が分かる・・私に逆らってまで、私を守るために命を散らした者の思いが、お前に分かるのか!?」
鋭い視線を投げかけるシンに、カガリが怒りを爆発させる。
「お前の家族を死なせてしまったのは私の落ち度だ・・それはすまないと思っている・・だが、お前が今やっているのは、お前の家族を殺したヤツと同じことだぞ!」
「アンタたちが死なせたんだろうが!」
謝意を示すカガリだが、逆にシンの怒りを逆撫ですることになった。
「シン!」
「やっぱりアンタたちは討つしかない・・身勝手なきれいごとばかり口走るだけ・・・!」
声を上げるカガリに、シンは怒りだけでなく失望も感じていた。
「本当の平和に、屁理屈ときれいごとを押し付けてばかりのアンタたちは、いてはいけないんだ・・・!」
シンが意思を示し、デスティニーがビームソードを構える。
「カガリ様、早くお逃げを!」
そこへムラサメが駆けつけて、デスティニーを食い止めようとする。
「どけ!」
シンが叫び、デスティニーがムラサメを振り切ってストライクルージュに向かっていく。ストライクルージュがビームライフルを手にして発砲しながら、デスティニーから離れようとする。
(アンタたちは何も変わらない・・オーブもキラもラクスも・・・!)
シンが心の叫びをあげて、デスティニーがムラサメたちをなぎ払いながら、ストライクルージュに詰め寄る。
(本当の平和を世界にもたらすのは、もうアンタたちがいるだけで実現しない・・・!)
決意を強めていくシン。デスティニーがビーム砲を発射して、ストライクルージュのビームライフルを吹き飛ばす。
(もうこれ以上、アンタたちには屈しない・・アンタたちが世界をいいようにするのを、見過ごしたりしない!)
ビームサーベルに持ち替えたストライクルージュに、デスティニーがビームソードを振りかざす。ビームサーベルがストライクルージュの右腕ごとなぎ払われる。
「オレは今度こそ、アンタたちを倒す!」
シンが言い放ち、デスティニーがビームソードを振り上げる。
「シン・・私たちがお前にした罪は、どうやっても償えないのか・・・!?」
シンに決して消えることのない怒りを植え付けてしまったと悔やむカガリ。デスティニーが振り下ろしたビームソードが、ストライクルージュ目がけて振り下ろされた。
白く激しい光にカガリが包まれる。
(私は・・どうすればよかったんだ・・・シン・・・お父様・・・)
白む視界の中で絶望していくカガリ。その瞬間、彼女は目の前にアスランが現れたような気がした。
(アスラン・・・)
カガリがアスランと一緒に微笑みかけた。彼女はこの瞬間、アスランとまた会えたと思った。
デスティニーに切り裂かれて、ストライクルージュは爆発を起こした。オーブの代表が故郷の空で散った。
「これで・・オレたちの悲劇の過去が終わった・・・父さん・・母さん・・マユ・・・」
シンが家族への思いと悲しみを噛みしめていく。
「もうこれで・・きれいごとで誰かが傷ついたり、命を落としたりすることはない・・・」
安堵の言葉を口にするシンが、目から涙を流す。そのことに彼自身は気づいていなかった。
その涙が喜びなのか悲しみなのかも、シンには分からなかった。
次回予告
オーブは滅びた。
全てを狂わせた相手の壊滅に、シンの心が揺れる。
この先に何があるかは分からない。
それでも本当の平和を取り戻せるなら・・・
険しき道、駆け抜けろ、デスティニー!