GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-22「金色の霹靂」

 

 

 シンを呼び止めることができなかったキラとアスラン。2人の乗るフリーダムとジャスティスが、アークエンジェルに帰艦してきた。

「キラくん、アスランくん・・シンくんは・・・?」

 マリューが心配を込めて声をかけると、キラが首を横に振る。

「シンは完全にオレたちを世界の敵だと認識している・・オレたちが世界をかき乱し、支配しているのだと・・」

「私たちはそんなつもりなどない・・しかし、アイツにとって私たちは、全てを奪った敵であり、世界を狂わせている存在なんだ・・・」

 アスランが言いかけて、カガリがシンに対する歯がゆさを浮かべる。

「かつてのシンは、その考え方を怒りや憎しみで練り上げてきた。そしてデュランダル議長やレイの言われるままに・・でも今のシンはそのどちらでもない・・」

「怒りも迷いもない・・自分で答えを出している・・・」

 アスランに続いてキラも言いかける。

「でも、これで多くの人が悲しい思いをするのはいけない・・話し合いができなかった以上、何としてでも止めないと・・」

 キラが自分の考えをアスランたちに告げる。戦うしかないことを懸念しながら、アスランたちは頷いた。

「国民のいる市街地や避難地帯に戦火が及ぶのが1番まずい。その前にせめて食い止めて、人々の安全を・・」

 カガリがオーブの国民の避難と防衛を最重要と提言する。

「私たちが最前線に向かいます。そして私が改めて向こうに呼びかけます。」

 マリューが呼びかけて、アークエンジェルの指揮を執る。

「ムラサメ隊は国民の避難を最優先に。攻撃をしてくる機体や艦を近づけさせないように。」

 カガリもオーブ軍に向けて指示を出す。

「ラクスは・・エターナルはどうなっているんだ?」

「まだ動きはない。周辺に他の機体もいないそうだし・・」

 アスランがラクスたちのことを聞いて、キラが答える。オーブにもアークエンジェルにも、エターナルからの連絡や信号は送られておらず、アークエンジェルはエターナルの位置情報をつかんでいた。

「今はオーブ防衛に専念しよう。ラクスも、きっとそうするから・・」

「すまないな、キラ・・」

 言いかけるキラにアスランが笑みをこぼす。

「本艦はミネルバと接触します。アークエンジェル、発進!」

 マリューが指示を出し、アークエンジェルが接近してくるミネルバに向かって前進していった。

 

 オーブへの進撃を前にして、シンはアテナとソルネをターミナルに降ろすことにした。

「このままミネルバに乗せていたら危険になる・・アンタたちを保護するように、リアス艦長が打診してくれている・・」

「あなたの、アテナを助けようとする思いのために、他のザフトの人たちが動くとはね・・他のことにもいろいろ驚かされたけど・・」

 事情を話すシンに答えて、ソルネが苦笑をこぼす。

「私の役目は命を扱う・・ここまで私を頼ってくれたあなたを、私は信じることにするわ・・」

「オレは彼女を助けたかっただけだ・・・オレはあのとき、彼女とそっくりな子を・・ステラを助けられなかった・・・」

 信頼を寄せるソルネに自分の考えを告げて、シンがステラのことを思い出す。

 もうあのような悲劇を繰り返したくない。たとえステラが受け入れるつもりでいたとしても、自分まで素直に受け入れるだけでいたくない。シンはこの思いにも突き動かされていた。

「たとえあなたが守ろうとしていた人をアテナに重ねても、アテナはあなたのその思いを100%理解するとは言えない。それでも助けたいというのは、わがままだと言われても文句は言えない・・」

「それでも助けたいって気持ちに、ウソは付けないじゃないか・・」

 ソルネが注意を促すと、シンが自分の率直な考えを口にする。

「・・そうね・・こういうのは理屈じゃない・・言葉だけで表せるものではないわ、人の感情は・・」

 ソルネが納得して、思わず笑みをこぼす。

「アテナのことは私に任せてもらうわ。そして目を覚ましたときに、あなたたちのことを話すわ・・」

「あぁ・・お願いだ・・」

 アテナの保護に努めるソルネを信じて、シンが頷く。彼は真剣な面持ちのまま、ミネルバに戻っていった。

(私たち、これでよかったのかしら・・地球連合の一員だった私にとって、これは反逆なのに・・・)

 自分がしていることを気にして、ソルネが沈痛な面持ちを浮かべる。

(もう考えても仕方がない・・私は、この道を進んでしまったのだから・・逆らって死んでしまう道もあったのに・・・)

 込み上げてくる迷いを振り切って、ソルネがアテナを連れて施設の中に入っていった。

 

 キラ、アスランがシンと対面したこととミネルバの動きは、ラクスたちのいるエターナルにも伝わっていた。

「我々もオーブの援護に向かったほうが・・」

 ダコスタが不安を感じて進言する。

「オーブにはアスランとフラガ隊長がいるし、今はキラも滞在している。やられたりはしない。」

 バルトフェルドがダコスタに言いかける。

「たとえ世界の誰もがシンたちに肩入れしたとしても、オレたちはこの混乱に屈するつもりはない。キラもアスランもカガリも、みんなもそのつもりでいる。」

 バルトフェルドの言葉を聞いて、ダコスタはただただ頷いていた。

「ダコスタくん、エターナル周辺に接近してくる者はいないか?」

「本艦周辺に熱源は感知されません。攻撃してくる敵機は見られません。」

 バルトフェルドに呼びかけられて、ダコスタがレーダーとモニターを確認して答える。

「こちらを警戒してはいないのか・・今はオーブということなのか・・・」

「今は信じることです。みなさんが本当の平和のために尽力されることを・・カガリさんたちの、オーブの無事を・・」

 呟きかけるバルトフェルドに、ラクスが言いかける。

「私たちは、私たちのすべきことをしましょう。私たちを守ることを・・」

 ラクスが口にした言葉に、バルトフェルトとダコスタ、ヒルダたちが頷く。

「ラクス様とエターナルの護衛、私たちにお任せください。」

「みなさん、お願いしますね。」

 マーズ、ヘルベルトとともに敬礼するヒルダに、ラクスが微笑んで答えた。

 

 ミネルバに戻ってきたシンを、ルナマリアとソラが迎えた。

「2人は送ってきたのね・・」

「あぁ。彼女が無事でいてくれるなら、オレに後悔はない・・」

 ルナマリアが声をかけると、シンが小さく頷いた。

「これでもう迷うことはない・・オレはオレのやるべきことをやる・・・」

「それが、オーブを倒すこと・・・」

 シンの言葉に答えて、ルナマリアが戸惑いを感じていく。

「アスランもオレたちの敵だ・・かつてのオレたちの上官だったけど、今では裏切り者で、オーブ軍の1人だ・・」

「シン・・・」

「もうオレたちの力強い味方だったアスランはいない・・アイツも倒さないと、オレたちはずっと支配されたままなんだ・・偽物の平和に・・・」

 揺るがない決意を見せるシンに、ルナマリアは困惑を隠せなくなっていた。

「また、アスランと戦わないといけない・・そう思ってる私も、あのときはアスランに怒りをぶつけていた・・」

「ルナ・・・怒りの感情そのものは悪いものじゃない・・心から許せない相手には、絶対に屈したらいけなかったんだ・・・」

 以前にアスランと戦ったことを思い出すルナマリアに、シンが言いかける。彼に励まされて、ルナマリアは気分を落ち着けていく。

(シンさん・・やっぱりシンさんは、ホーク隊長と一緒なのがお似合いみたい・・・)

 シンとルナマリアが心を寄せ合っているのを見て、ソラが戸惑いを感じていく。

(私には2人の間に割って入る余地もない・・だったらせめて、2人を私が支えてあげないと・・・)

 新たに決心をするも、シンへの想いを偽ることができず、ソラは込み上げてくる感情を必死に抑える。

(私が心から願っていたのは、私の気持ちをシンさんに分かってもらうことじゃなくて、シンさんが心から平和だと納得できるようにすること・・それをするのがシンさん自身だとしても、私が支える・・)

 自分の気持ちを確かめて、ソラは迷いを振り切った。

「そろそろオーブの領域に入る。発進準備をしておいた方がいい。」

 ブラッドがやってきて、シンたちに声をかけてきた。

「オーブの市民の避難の状況は・・?」

「8割方完了しているようだ。お前が世界に呼びかけてから時間がたっている上に、オーブ政府がうまく誘導しているのもある・・」

 シンの問いかけを受けて、ブラッドが説明をする。

「戦いを望まない普通の人たちには悪くない・・悪いのは、オーブの政府と軍・・」

「ヤツらとの戦いに、戦いたくない者は巻き込みたくない、か・・優しいな、お前は・・」

 シンの考えを聞いて、ブラッドは笑みをこぼした。

「とにかく準備を完了させておこう。お前との対話で納得しなかったのなら、完全に戦いは避けられない・・」

 ブラッドの言葉にシンたちが頷く。彼らはそれぞれの機体に乗って、いつでも出撃できるようにした。

 

 ミネルバの接近を探知していたオーブとアークエンジェル。ミネルバとの交信を試みようと、アークエンジェルが前進してきた。

「オープンチャンネルで回線を開いて。ミネルバと連絡を取ります。」

「分かりました。」

 マリューの呼びかけにオペレーターが答える。モニターに映し出されたミネルバを見据えて、マリューは呼びかけた。

「アークエンジェル艦長・マリュー・ラミアスです。我々は、オーブ防衛のため、行動します。」

 マリューの呼びかけがミネルバに届く。

「私たちがかつてしたこと、そしてこれからやろうとしていくことは、平和とかけ離れた、混乱を招くものかもしれません。ですが私たちには、オーブには果たさなければならないことがあります。」

 マリューが自分たちとオーブに住む人々の考えと思いを語りかけていく。

「私たちは世界の敵としてあなたたちの攻撃を受けることになります。ですがこのまま倒れるわけにはいきません・・このまま、手を引いていただけることを、切に願います・・」

 切実な思いを込めたマリュー。彼女は自分たちの願う回答が返ってくることを信じた。

 

 アークエンジェルからのマリューの言葉は、ミネルバにも伝わっていた。

「どうしますか、艦長・・・!?

「向こうと同じチャンネルを開いて。私が応答します。」

 マイが聞くと、ミーナが真剣な面持ちで呼びかける。

「艦長・・分かりました。」

 マイが答えて回線を合わせる。ミーナがアークエンジェルに向けて呼びかける。

「ミネルバ艦長、ミーナ・リアスです。そちらの誠意ある行為に敬意を表します。」

 ミーナからの声がアークエンジェルに届く。

「ですが、果たさなければならないことがあるのは、私たちにもあります。あなたたちを野放しにすることは、世界の平和を崩壊することになります。あなたたちが行っているのは、平和という名の支配です。偽りの平和を打ち破るため、私たちは奮起したのです。」

 ミーナがマリューたちに自分たちの考えを伝えていく。

「あなた方に警告します。全ての武装を解除し投降、私たちの指示と処分に従うならば、そちらへの攻撃を取りやめます。“イエス”以外の返答は決裂と判断。警告はこの1度きりです。」

 ミーナがマリューたちとオーブに向けた最後通告を投げかけた。この警告が聞き入れられないことを危惧しながら。

「残念ですが、その警告は受け入れられません・・世界の未来のために・・・」

「・・・本当に・・残念です・・・」

 マリューの返答を聞いて、ミーナが沈痛さを噛みしめる。彼女はアークエンジェルへの交信を終えた。

「もうためらう理由はないわ・・本艦はこれより、オーブ軍に対する攻撃を開始する!」

 ミーナが迷いを振り切り、ミネルバのクルーたちに指示を送った。

「パイロットは全員発進!」

 

 オーブに迫ってくるミネルバに対し、アークエンジェルは迎撃態勢に入った。キラ、アスラン、ムウも発進準備を整えた。

「アイツらをこれ以上、こっちに進ませるわけにはいかないな・・オレたちがここで食い止めるぞ・・!」

 ムウが気を引き締めて呼びかける。彼はキラとアスランが深刻さを感じているのに気付く。

「あの坊主のことはもう迷うな。オレたちと戦うと決め込んでいるのは、お前らのほうがよく分かっているはずだろ。」

「ムウさん・・分かっています。もう迷いません。」

 ムウに声をかけられて、キラが真剣な面持ちを浮かべて答える。

「やるしかない・・オレたちがやらないと、オーブは・・・!」

 アスランも言いかけて、キラとムウが頷いた。アークエンジェルのハッチが開かれた。

「ムウ・ラ・フラガ、アカツキ、出るぞ!」

「アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!」

「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」

 ムウのアカツキ、アスランのジャスティス、キラのフリーダムがアークエンジェルから発進した。

 

 同じ頃、ミネルバのドックでもシンたちが発進に備えていた。ソラはアンジュからドムトルーパーを1機託されていた。

「MS操縦の基礎訓練をひと通り学び、最近でも様々なMSに乗っているあなたでしたら、ドムでも動かすことができるはずです。」

「様々なMSって・・いつもボコボコにやられてるだけなんだけど・・」

 言いかけるアンジュにソラが苦笑いを浮かべる。

「みなさんの力になってあげてください。私たちの思い、あなた方に託します・・」

「アンジュ・・・私に新しい機体を託してくれたことだけには感謝しておくわ・・」

 頭を下げるアンジュに、ソラは不機嫌そうな素振りを見せた。彼女はドムに乗り込んで、システムをチェックした。

「ソラ、あなたは地上での行動になるわ。地上のMSに攻撃させないように。」

 ソラに向けてルナマリアからの指示が届く。

「分かっています。ドムの性能も分かっていますし、アンジュから聞かされています。」

「今度の戦いに負けは許されない。お互い、肝に銘じておきましょう・・」

 答えるソラに、ルナマリアが励ましの言葉を投げかける。ソラは彼女とともに改めて気を引き締めなおした。

「みんな、いいか。出撃するぞ。」

「今のミネルバでの隊長は私よ。そこを間違えないでよね。」

 シンが呼びかけると、ルナマリアが強気に返事をする。彼らが準備を整えて、発進に備える。

「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」

「ブラッド・J・クロノス、ジャッジ、発進する!」

「ハル・ソーマ、ファルコン、発進します!」

 シンのデスティニー、ブラッドのジャッジ、ハルのファルコンがミネルバから発進した。

「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」

 ルナマリアの乗るコアスプレンダーが、チェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットとともに発進し、合体してフォースインパルスとなる。

(やっとここまできたんだ・・私もこれから、この道をひたすら突き進む・・・!)

「ソラ・アオイ、グフ、出ます!」

 揺るぎない決意を胸に秘めて、ソラもドムで出撃していった。

 

 

次回予告

 

避けられぬ戦い。

避けられぬ運命。

ぶつかり合う両者の信念は、どちらかが打ち砕かれるしかない。

運命と正義をぶつけ合うシンとアスラン。

光の刃がぶつかり合った先にあるのは・・・?

 

次回・「終わらない慟哭」

 

破滅の未来、塗り替えろ、ジャスティス!

 

 

作品集

 

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