GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-21「分かたれた道」
ミネルバのクルー全員に、ミーナは問い詰めた。シンが志す戦いの是非について。
他のクルーたちもシンの志と戦いについて、困惑を隠せないのが正直なところだった。現在のプラントやザフトをまとめているのがラクスやキラであり、彼らに矛先を向けることも、彼らの困惑の要因となっていた。
しかしシンとソラ、アンジュの呼びかけがクルーたちの心に伝わっていたのも事実だった。
「そうだよ・・フリーダムが乱入して、一方的に攻撃して・・」
「オーブもエターナルも有無を言わさずに攻撃して・・・!」
「アイツらのせいで、オレたちの人生はムチャクチャになったんだ!」
「平和を取り戻したんじゃなく、支配したんだ!オレたちを、世界を!」
ミネルバのクルーたちが憤りを浮かべていく。
彼らもラクスたちの言動に陶酔していたわけではなかった。だがラクスの言い分やキラたちの力に抗える理念や力を持っていないと思い、不満をあらわにすることができないでいた。
だが今、シンたちの呼びかけで叱咤激励されて、クルーたちも抗う気を湧き上がらせていた。
「リアス艦長、我らはこのミネルバのクルーです!」
「私たちが示すのは、ザフトの信念と誇り!」
「我々も戦います!艦長、指示を!」
クルーたちがシンやミーナたちに意思を示していく。シンたちへの信頼が強まっていることに、ソラは戸惑いを感じていた。
「みんな、信じてくれた・・シンさんのことを・・・」
呟くソラの肩に優しく手を乗せて、アンジュが微笑みかけてきた。
「ハロハロ♪」
そのとき、小さなボール状のロボットが、跳ねながらソラに飛び込んできた。
「えっ!?ハロ!?」
ソラがそのロボット「ハロ」を見て驚きの声を上げる。
ハロはラクスが持っていることで有名である。彼女は複数持っている中で、主にピンクのハロを持っているが、ソラが持っているのは水色だった。
「アンジュ、あなたが持ってきたのね?よく騒ぐから置いてきたのに・・」
「お嬢様のものなのですから、しっかり持っていっていただかないと。それにこのハロは情報収集のエキスパートで、まさに賜物です。」
肩を落とすソラに、アンジュは注意を促すように言い返す。
「分かったよ。分かりましたよ・・持っていきますよ、アンジュ様!」
ソラがハロを床に下ろすと、両手を伸ばしてアンジュの頬をつまんで引っ張ってきた。
「結果オーライみたいに思わないでよね・・あなたがやったことは私にとって痛恨の失態なんだからね・・!」
ソラが睨んで注意を促すと、アンジュの頬から手を放した。
「は、はい・・分かりました・・」
アンジュが頬をさすって頷いた。
「シン・・ちょっと、いいかな・・・?」
ルナマリアがふとシンに声をかけてきた。シンが小さく頷いて、ルナマリアと一緒に場所を変える。
「シン・・・よかった・・無事でよかった・・・」
ルナマリアがシンに寄り添って、彼が帰ってきたことを喜ぶ。
「ルナ・・・ゴメン・・すぐに戻らなくて・・・」
「それはいいよ・・シンにも事情があったんだから・・戻ることができなくて、あのブラッドという人のいる部隊のために行動していたんだから・・」
謝るシンにルナマリアが弁解する。
「それにシンは今は、自分自身の答えを見つけたんだから・・」
「・・みんなからしたら、世界を乱すことかもしれない・・それでもオレは、オーブを、ラクスたちをこのまま野放しにすることはできない・・・」
「シン・・・」
「他が戦いたくないとしても、オレは戦う・・ムリに戦いに巻き込むのは納得できないし・・」
決心を告げるシンにルナマリアが戸惑いを見せる。
「議長やレイのように、2度と戦争を起こさせない世界を作る力も技術も、オレにはない・・だからそういう理由でも、オレは議長が目指した世界を築くことはできない・・」
シンがデュランダルとレイのことを思い出していく。
デュランダルが提示した「示される世界」。だがデュランダルもレイも命を落とし、その世界は完全には実現しなかった。
その実現のための力も技術も、シンは持ち合わせていなかった。あくまで敵と戦い倒すための力だけだと、彼自身は思っていた。
「それでも、議長の理想とした世界に少しでも近づけることができるなら、オレは・・」
「シン・・・私も決めたの・・シンと一緒にいるって・・一緒に行くって・・・」
思いを募らせるシンに、ルナマリアが想いを伝える。
「もう離れない・・邪魔もしない・・どこまでもシンについていくから・・・」
「ルナ・・・ルナはルナ、オレはオレだ・・オレを理由にするんじゃなくて、ルナ自身がルナの生き方を見つけないと・・」
「分かってる・・これが、私が決めた、私の生き方・・・」
シンが言いかけるが、ルナマリアは彼女なりの意思を示していた。
「シンさん、ホーク隊長!」
そこへソラが駆けつけてきて声をかけてきた。
「今、マイが通信が届いてきたって・・その通信の内容が・・・!」
ソラが告げてきた言葉に、シンとルナマリアが眉をひそめた。
ソラに呼ばれて指令室に来たシンとルナマリア。そこではミーナ、ハル、ブラッド、アンジュが来ていて、マイから話を聞いていた。
「ここに来た通信というのは・・?」
ルナマリアが声をかけると、マイが振り向いてきた。
「ホーク隊長・・この通信を送ってきたのは、オーブ軍のアスラン・ザラです・・・!」
「アスラン・・・!」
マイの報告を聞いて、シンとルナマリアが緊張を覚える。
「3人で話がしたいとのことです。シンさんと、他はヤマト隊長と・・」
「ヤマト・・・キラ・ヤマトか・・・!」
マイのさらなる話を聞いて、シンが目つきを鋭くする。彼のこの反応を見て、ルナマリアとハルは彼がキラやアスランを上官とは思っていないと痛感させられていた。
「アイツらと何を話しても全然意味がない・・でも、今はこの呼び出しに応じる・・」
「シン・・・」
シンが決めた決断に、ルナマリアが戸惑いを覚える。
「ダメです、シンさん!1人でなんて、いくらシンさんでも危険ですよ!」
ソラがシンを心配して呼び止めてきた。
「分かっている・・それでも1度面と向かっておきたい・・・」
シンは危険を承知でキラ、アスランと対面することを決めていた。
「大丈夫だ。話が終わったらすぐに戻ってくる・・みんなはここで待っててくれ・・」
シンが微笑んで言いかけると、ミーナが真剣な面持ちで声をかけてきた。
「そこまで言うなら、せめてこれを身に着けていくように。」
ミーナがシンに小型の発信器を手渡していた。
「アスラン・ザラはかつてのザフトのエリートで、あなたの上官だった人。相応の実力と人格があるのは、あなたのほうが承知のはず・・」
ミーナが投げかけた言葉に、シンが納得する。
「あなたを信じていないわけじゃないけど、私たちも近くにいさせてもらう。私たちにとって、あなたは1番の戦力なのだから・・」
「リアス艦長・・・分かりました・・でもできるだけ離れているようにお願いします・・」
ミーナの言うことに従って、シンが発信器を受け取った。
「では、行ってきます。」
シンとミーナたちが敬礼を送り合う。シンはデスティニーに乗り込み、1人でキラ、アスランに会いに向かう。
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
シンの乗るデスティニーがミネルバから発進した。
「本艦もシンくんに続く。ミネルバ、発進します。」
ミーナがクルーたちに指示を出す。ミネルバもデスティニーを追うように発進していった。
シンのいるミネルバに通信を送ったアスラン。彼はキラとともに、提示した地点にたどり着いた。
「シンの意思は固い・・ここで話をしても、考えを変えるとは・・」
「それでも話をしておかないと・・このまま戦いが起こってしまうのが1番まずい・・」
懸念を口にするキラに、アスランが深刻さを込めて言葉を返す。
「シンだって、世界の平和を望んでいるはずなのに・・僕たちと思いは同じなのに・・」
「同じだからこそ、敵対しているのだろうな・・オレたちは・・・」
困惑を見せるキラに、アスランが皮肉を口にする。
「それでも戦いは止めないといけない・・始まる前から止められるならなおのことだ・・」
「誰かを討っても戦いは終わらない・・今までそうやっても、また戦いが起こってきたんだから・・」
「敵と定めた相手を倒すだけの戦士に、シンをさせるわけにはいかない・・」
「今度も、僕たちが止めないと・・」
シンを止めようとするアスランとキラ。2人はシンが思いとどまることが戦いを止める方法と考えていた。
そのとき、キラたちのいる場所に、シンの乗るデスティニーが到着した。着地したデスティニーのコックピットから、シンが出てきた。
「シン・・!」
アスランがシンに対して驚きを見せる。消息不明から戻ってきたシンを2人が実際に目にするのは初めてだった。
「シン・・・お前が無事に戻ってきたのは嬉しい・・しかし・・・!」
「オレはもう、アンタたちの言いなりにはならない・・」
呼びかけるアスランに、シンが真剣な面持ちで言いかける。
「オレはアンタたちとオーブを倒す。それ以外に本当の平和がないことが分かったからだ・・」
「どうしてそんなことを・・そんなことをしても、悲しいことが増えるだけだよ・・」
意思を示すシンにキラが呼びかける。
「敵を倒して戦いを終わらせても、また新しい戦いが起こってしまう・・そればかりか、戦いのためにたくさんの人が悲しんで泣いているんだ・・」
「その悲しみを、アンタも膨らませてるんじゃないか・・!」
シンがキラに対して鋭い視線を向ける。
「アンタはただ単に戦いを止めるために戦いに介入したというけど、それは自分でそうしたいと思っただけで、一方的にやったこと・・オレたちの言い分をまるで聞かずに!」
「でも、それでも戦いを止めようと・・!」
「そのためにハイネが死んだ!アンタの攻撃でステラが死んだ!それを悪いと思わず、気に病むつもりになって・・平和になったと思ってそのことを忘れて・・!」
「違う!そんなこと・・!」
怒りの言葉を口にするシンに、キラが言い返そうとする。彼の言葉と態度に、シンはさらに憤っていく。
「アンタはいつもそうだ・・違う、だけど、それでも・・アンタが言い返すときはいつもそれが口に出る・・そうやって自分を押し付けてきているんだよ・・・!」
シンが投げかけてきた言葉に、キラは言葉を返せなくなる。
「アンタもアンタだ、アスラン・・正義という名の機体に乗ってるのに、アンタが見せている正義は矛盾だらけだ・・」
シンが視線をアスランに移してきた。
「アンタも自分の考えを言って押し付けているだけ・・本当の正義がどういうものなのか、分かっているようで何も分かってない・・自分自身の正義もハッキリしていない・・」
「シン・・・!」
「中途半端なマネをした挙句に裏切って・・アンタも世界をかき乱した1人になっちまったんだよ・・・!」
シンに言いとがめられて、アスランも言葉を詰まらせる。彼は今まで自分がしてきたことを思い返していた。
「お前の不満や怒りやもっともだ・・だが、オレは今でも、ただ戦うだけの人形にはなれない・・」
アスランが率直な考えをシンに向けて告げる。
「従わないと抹殺される・・そのためにオーブが討たれるようなことがあってはならない・・」
「議長は世界の平和のためにデスティニープランを導入しようとした。それが気に入らないだけで、オーブやアンタたちは世界の敵になった・・」
深刻さを込めるアスランだが、シンは彼らがそのためにした言動を嫌悪していた。
「でももう、議長もレイもいない・・オレたちに、デスティニープランのような大掛かりな対策を導入できる力も技術もない・・」
シンが自分たちの現状を口にして、皮肉を見せる。
「本当に戦いのない世界を作ることはすぐにはムリかもしれない・・だとしてもせめて、世界をムチャクチャにしているヤツらを倒さないといけない・・」
「それがオレたちだっていうのか・・・!?」
自分の意思を口にするシンに対して、アスランが目つきを鋭くする。
「見誤るな、シン・・オーブを討っても平和が来るはずがない・・それどころか、さらなる悲劇をもたらし、取り返しがつかなくなるぞ・・!」
「いや・・オレがやるべきだったのは、アンタたちの言いなりになることじゃなかった・・」
忠告を送るアスランだが、シンの決意は固かった。
「アンタたちを倒し、本当の平和をもたらすのが、オレのやるべきことだ!」
「それが、君の戦う理由だっていうの・・・?」
頑ななシンに、キラが懸念を抱いていた。
「だったら僕は、戦いを止めないといけない・・」
「キラ・・・!」
真剣な面持ちで言いかけるキラに、アスランがまた声を上げる。
「お前やオレたちまで戦いをやっては、それこそ世界は・・・!」
「このまま戦いが始まって、混乱や悲しみが増えてしまうのが1番いけない・・誰かに与えられた運命の中で生きていくのも・・・」
アスランが苦言を呈するが、キラの意思も頑なだった。
「それで自由奔放に戦って、世界をムチャクチャにしているなら世話ないな・・アンタのやり方で世界がムチャクチャになるなら、オレは戦う運命を背負っていく・・」
シンはキラとアスランに告げると、2人に背を向けた。
「オレは戦う・・戦う運命を背負い、世界にある悲劇の運命を切り開く・・アンタたちが、世界の悲劇だ・・・」
シンは決意を口にすると、デスティニーに乗り込んでいった。
「シン・・・!」
シンの考えが変わらないこと、もう戦いが避けられないことに、アスランはかつてない危機を感じていた。
「戦うことでしか、力を振るうことでしか、戦いを止められない・・その連鎖の発端となっているのが、僕たちだなんて・・・」
キラもシンとの擦れ違いに苦悩を感じていく。
「たとえどこかから憎まれることになっても、オーブを討たせるわけにはいかない・・・!」
アスランが迷いを振り切ろうとする。
「止めるしかない・・シンを・・・!」
キラがアスランに声をかけて、2人が頷き合う。2人はそれぞれフリーダム、ジャスティスに乗り込んで、オーブ政府、アークエンジェルに連絡を入れた。
キラ、アスランとの対話を終えたシン。彼の乗るデスティニーがミネルバに戻ってきた。
「シン・・アスランとは・・・?」
ルナアリアが当惑を見せて、シンに声をかけてきた。
「話を持ちかけてきたよ。戦うなって・・でも、もうオレたちの道は、交わることはない・・・!」
シンの話を聞いて、ルナマリアが深刻な面持ちを浮かべる。ミーナ、ハル、マイ、ブラッドが苦悩を深めて、ソラとアンジュが改めてキラたちへの憤りを感じていた。
「もう後戻りはできないわ。私たちが宣戦布告をしたのだから・・」
ミーナが忠告を告げると、ルナマリアたちが小さく頷く。
(今度こそオーブを倒す・・オレがそう決めたんだ・・オレ自身の意思で・・・)
揺るぎない決意を胸に秘めて、シンはオーブに立ち向かおうとしていた。
次回予告
中立を志す信念の国。
だがもはや世界を乱す存在でしかない。
過去と運命を背負った魂と、未来を目指す戦士。
両者が今、激しくぶつかり合う。
迫り来る漆黒を、迎え撃て、アカツキ!