GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-20「アンジュ」
ブルースカイ家。
プラント有数の資産家で、プラントや世界において有力な議員の一家である。
ソラはそのブルースカイ家の娘だった。
アンジュはブルースカイ家親衛隊の隊長であり、ソラのお世話役も請け負っていた。そして彼女はブルースカイ家に引き取られた養子でもあった。
セイ・ブルースカイとマリン・ブルースカイ。かつてのブルースカイ家の代表である夫婦であり、ソラの両親である。
婚約を果たして以降、セイとマリンは子供に恵まれなかった。子供がいなければブルースカイ家は自分たちで途絶えてしまうと、2人は危惧していた。
セイたちは苦渋の決断を下すことになった。それは養子を取ることだった。
孤児院を訪れたセイとマリンは、そこの孤児の中から1人の少女を連れて帰ることにした。その少女がアンジュだった。
アンジュは貧しさと隣り合わせの生活を送っていたことがあった。孤児院で暮らすことになってその危機はなくなったが、貧しさの恐怖は彼女の心に深く刻まれていた。
そのため、アンジュにとって裕福な生活を送れることは、そこで厳しくされたとしても、これ以上の幸せはないものだった。
ブルースカイ家に招かれたアンジュは、そこで家のしきたりや振る舞いを徹底的に叩き込まれた。その厳しい指導を彼女は真摯に受け止めていた。
ブルースカイ家での生活は、アンジュにとって充実しているものだった。これまでの貧しい生活や、孤児院での日常に比べて明らかに自由であふれていた。
この新しい生活を与えてくれたセイとマリンに、アンジュは深く感謝していた。
ところがそのブルースカイ家に変化が起きた。
子供に恵まれてこなかったセイとマリンに子供ができた。2人は青空の下、生まれてきた娘にソラと名付けた。
ブルースカイ家の後継者は、純粋な血筋の中で生まれた子。その判断で、セイとマリンは自分たちの後継者を、アンジュではなくソラに決めた。
ところがアンジュの居場所と思いをないがしろにすることも、セイたちにはできなかった。
「すまん、アンジュ・・お前に重荷を背負わせることになってしまって・・」
「いいえ。私をここにお招きいただいただけでも、深く感謝しています。」
頭を下げるセイに、アンジュが弁解を入れる。
「ブルースカイ家の代表にはできなくなってしまったが、このまま我が家の一員として過ごしていってくれて構わない。お前には自力で生活ができる力もあるが・・」
「本当にありがとうございます。では、1つお願いしてもよろしいでしょうか・・?」
セイに感謝して、アンジュが申し出をしてきた。
「私に、ソラお嬢様の指導を任せていただけませんでしょうか?セイ様とマリン様が私を指導してくださったように・・」
「そうか・・我々はお前にわがままを押し付けてしまっているからな。お前の頼み、聞き入れよう。ソラのこと、よろしく頼む。」
「ありがとうございます、セイ様・・お任せください。」
セイが了承して、アンジュが感謝を見せた。
それからアンジュはお世話役となった。かつてセイが厳しく指導してくれたように、彼女はソラを厳しく指導していった。
アンジュの指導によって、ソラはブルースカイ家の代表を務めるに恥ずかしくない器量を得たのである。
ソラは次第にプラント評議会の議員と面会する機会が増えていった。その頃からアンジュもブルースカイ家の親衛隊長と務めていて、ソラとともに行動することが多くなった。
その最中、ソラはデュランダルとも面会した。当時のプラントのまとめていたデュランダルの語る思想に、ソラは関心を示し、感動を覚えた。
ソラはいつかデュランダルの提示する世界のために力になりたいと思うようになっていった。
そしてソラは、デュランダルの期待を受けて戦うシンの姿にも魅入られた。真っ直ぐに平和のために立ち向かう彼なら、戦争を終わらせられると彼女は思っていた。
戦争が起こらない、平和を強固なものとするデスティニープラン。デュランダルが指し示したこの世界を、ソラは争いを起こさせない平和のためになると思って、賛同していた。
だがラクスが指揮するエターナルが、アークエンジェルを含む勢力を引き連れて、デュランダルのいるメサイアに攻撃を仕掛けてきた。
シンたちが迎撃に出るが、デスティニーを破壊され、メサイアが崩壊を引き起こしてデュランダルは死亡した。
デュランダルが示した世界を壊したラクスたちに、ソラは憤りを隠せなくなった。彼女の憤慨はそれだけにとどまらなかった。
ラクスたちがプラントにおいて高い地位に身を置くことになった。シンたちもその指揮下に置かれることになった。
平和を壊すマネをしただけでなく、自分たちを絶対的な位置づけにした支配的なやり口を見せつける。ソラのラクスたちへの憎悪は決定的なものとなった。
本当の平和をとりもどすため、ソラは軍人への道を選んだ。そのとき彼女はブルースカイ家であることを隠して、別の名前や経歴を持つことにした。
ブルースカイ家として接触していっても、有名人や人気者としての人望や権力が表立つだけで、それらに頼ることになってしまう。それはラクスたちと同じになってしまうと、ソラは考えた。
他界していたセイとマリンの墓参りを経てから、ソラはザフトに入隊。ソラ・アオイとしてパイロットとなった。
ところがソラがミネルバに配属になったときには、シンは消息不明になっていた。
それでもシンがいつか帰ってくると信じて、ソラはミネルバでの任務をこなした。
その一方でアンジュはクライン派やオーブの動向を監視、調査していた。ソラからは自分のことを公にしないようにと、強く言われていたはずだった。
ミネルバに来て、世界に呼びかけたアンジュ。ソラの正体を公にした彼女に、ソラが呆れて肩を落としていた。
「みなさん、ラクス・クラインといった名目に惑わされてはいけません!フリーダムといった力に屈してもいけません!自分たちの選択や未来をヤツらに投げることなく、自分で見出してください!自分を見失わないように!」
アンジュが続けて世界に呼びかけていく。彼女はソラに代わって本当の平和のあり方を訴えようとしていた。
「今、世界は見えない支配に囚われています!シンさんたちは今、その束縛を断ち切ろうとしています!世界を脅かしているのが誰なのか、考えてしっかりと目にしてください!」
「ちょっとアンジュ、それ以上出しゃばっちゃ・・!」
ソラが慌ててアンジュを止めようとする。
「みなさん、クラインやオーブではなく、ザフトとシンさん、そして自分自身を信じてください!」
呼び続けようとするアンジュを、ソラが慌てて引き寄せて止める。自分も世界に呼びかけながら、彼女は逆に止める側に回っていた。
「ソラ・・アンジュさん・・・」
ハルが2人を見て困惑を感じていく。彼はソラがブルースカイ家であることや、アンジュのことを知っていた。
アンジュが世界に向けた呼びかけで、ラクスの声明によって安定しかけた人々の動揺が再び広まった。ラクスとソラ、どちらの導きを信じるべきか、人々は迷いを抱かずにいられなかった。
そしてオーブでも不安の色が強くなっていた。オーブ軍でも、アスランやカガリたちも。
「ラクスが呼びかけたのに、また世界が混迷に・・・!」
アスランが世界の現状に危機感を膨らませていく。
「これでシンたちに賛同する者が出てきてしまう・・争いが激しくなってしまう・・・!」
カガリもこの事態に毒づいていた。
「確かなのは、シンがオーブを敵と認識して、攻撃をしてくることだ。手を打たないと、オーブが戦火に巻き込まれることになる・・」
「何とかして、シンに思いとどまらせないと・・・
カガリとアスランが深刻さを込めて言葉を交わす。
「それにしてもあの坊主、えらく言うようになったじゃないか。」
そこへムウがやってきて、気さくに声をかけてきた。
「フラガ隊長、ふざけている場合じゃないぞ。」
カガリが不満を見せてムウを注意する。
「オレが直接連絡を取って、シンを思いとどまらせる・・」
アスランがシンを止めようと、単身飛び出そうとした。
「1人で行くつもりか、アスラン!?危険だ!」
「オレとキラ、お前でも今のアイツを止められなかった。みすみすやられに行くようなものだぞ。」
カガリとムウがアスランを呼び止める。しかしアスランは思いとどまらない。
「それでも、今止めないと、アイツは取り返しのつかないことをしてしまう・・そして世界も・・」
「アスラン・・・しかし・・・!」
それでもカガリはアスランを呼び止めようとする。
「僕も行くよ。」
そこへキラがやってきて声をかけてきた。
「キラ・・・!?」
「僕もシンたちをこのままにはできないと思うから・・」
声を荒げるアスランに、キラも真剣な面持ちで言いかける。
「言っても聞かないのは、オレもお前も同じか・・」
思わず苦笑をこぼすアスランに、キラも笑みをこぼす。
「お前ら・・・仕方がない。ただし戦闘は極力避けろ。戦いになりそうと思ったら、戦わずに引き返してくるんだ。」
呆れるカガリが、キラとアスランに注意を投げかけた。2人は頷いて、発進に向けて動き出した。
「どうしてくれるのよ、アンジュ!?」
指令室前の廊下までアンジュを引きずり出したソラ。彼女はそこで、自分の素性を明かしたアンジュを叱りつけていた。
「これで私をただのパイロットだと見なくなった・・ソラ・ブルースカイとしてしか見られなくなった・・・!」
アンジュの胸ぐらから手を放して、ソラが不満を募らせる。
「私はラクスたちと同じやり方は取りたくなかった・・だから念を押したのに!」
「申し訳ありません、ソラお嬢様・・ですが、シンさんの行動が正しいというあなたの訴えを受け入れていただくには、こうするしか・・!」
「言い訳しないで!あなたがしたことは、私のしてきたことを全部ムダにしたんだから!」
頭を下げるアンジュだが、ソラの不満は治まらない。そこへシンとルナマリア、ミーナがやってきた。
「ブルースカイ・・プラントでも有数の資産家ですが・・ソラは、そこの出身だったのですね・・・?」
ミーナが真剣な面持ちで問いかけてきた。アンジュがソラと一緒に深刻さを浮かべて頷く。
「本当は、このことは他言無用としていたのですが・・」
アンジュが気まずさを見せて答えて、ソラが彼女を睨んでくる。
「自分は直接手を下さず汚さず、命令ばかり。権力にものを言わすだけ・・そんな存在、ラクス・クラインをお嬢様は恨んでいました。己の過ちを正しいことのように振る舞っている連中が示す世界に、真の平和はないと・・」
「だから私は、名前を変えて髪型を変えて・・それだけでみんな、気付かないもんなんですね・・」
アンジュに続いて言いかけて、ソラが物悲しい笑みを浮かべる。
「でも僕、見てしまったんだ・・君がこっそり、アンジュさんと連絡を取っていたのを・・」
ハルもやってきて、ソラに声をかけてきた。
「かぎつけたというよりは、偶然見かけただけなんだけど・・君がミネルバを抜けて、アンジュさんと会っていたときを・・」
「ハル・・・見られないように注意してたつもりだったんだけど・・・」
ハルの話を聞いて、ソラも気まずさを浮かべる。
「でも、どうして艦長やみんなに言わなかったの?・・スパイ行為と思われても文句が言えないのに・・」
「何かわけがあるんじゃないかって思えて・・悪いことを考えているようには見えなかった・・・」
疑問を投げかけるソラに、ハルが深刻さを込めて事情を話す。あえて報告をしなかった彼に、ソラだけでなく、アンジュも戸惑いを覚える。
「僕のこの判断は、明らかに間違ったことというわけじゃ・・」
「ハルさん・・申し訳ありません・・私たちのために・・・」
歯がゆさを浮かべるハルに、アンジュが謝意を見せる。
「オレのためにわざわざすみません・・でもこれはあくまで、オレの戦いだから・・」
シンが真剣な面持ちでソラとアンジュに言いかけた。
「たとえそれでも、私はシンさんが目指す本当の平和のために戦いたいと思っています・・ただ上からものを言うんじゃなくて、自分も何かできることを・・」
ソラが変わらぬ決意をシンに見せる。
「ラクス・クラインとは違う、本当の平和のために・・・」
「そうか・・・ルナたちは・・・?」
ソラの言い分を聞いてから、シンがルナマリアに視線を移す。
「私は・・分からない・・・」
ルナマリアは答えを出すことができず、困惑を見せる。
「でも、シンを失いたくない・・今まで感じてきた悲しさは、もう2度と味わいたくない・・・」
「ルナ・・・」
自分の率直な気持ちを告げるルナマリアに、シンが戸惑いを見せる。
「今度は私が、シンを守る・・シンに比べたら、私なんて全然大したことないけど・・」
「ルナ・・そんなことないって・・オレがいない間、このミネルバでずっと戦って、みんなをまとめてきたじゃないか・・」
決心を口にするルナマリアに、シンが弁解を入れる。
「でも、危なくなったらすぐに逃げてくれ・・オレなんかに構わず・・」
「シン・・ありがとう・・・」
シンとルナマリアが握手を交わすと、そのまま抱き寄せた。2人はミーナたちの目をはばからずに、再会を喜び合った。
「リアス艦長・・ブラッドと話をさせてくれ・・今回のこと、ブラッドの耳にも入っているはずだ・・」
シンがルナマリアとの抱擁を終えると、ミーナに声をかけてきた。
「私も一緒に行くわ。あなたはともかく、彼はザフトでなく部外者に当たるのだから・・」
ミーナが言いかけると、シンが頷く。彼らはブラッドのいるドックに向かった。
「世界に宣戦布告してきたんだな・・?」
「あぁ。最終的に彼女に助けられたけどね・・」
ブラッドが声をかけると、シンが答えてソラとアンジュに目を向ける。
「オレはブラッド・J・クロノス。今は偽りの平和を振りかざすオーブとクライン派を叩くために動いている。シンとともに・・」
ブラッドがミーナたちに自己紹介をする。
「オレとシンの他に、戦艦、ネフィリムに乗った仲間がいる。今ネフィリムは地球付近の宙域で待機中だ。」
自分たちのことを説明するブラッド。彼から情報を聞いて、ミーナが真剣な面持ちで考えを巡らせる。
「オレもシンもオーブやクライン派との戦いに赴くことになる。お前たちに協力しろとは言わないが、これからどうするのかは聞いておきたい・・」
ブラッドがミーナに問いかけてきた。自分たちの味方なのか敵になるのかを、彼は明確にしておきたかった。
「これはザフトの一員やミネルバの艦長としてではなく、私個人の見解と捉えて・・」
ミーナが注意を付け加えてから、ブラッドの問いかけに答える。
「私はあなたたちの意思に賛同する。オーブとラクス・クラインの言動に対して、疑念を禁じ得なかった・・」
「艦長・・・!」
ミーナが口にした考えを聞いて、ハルが緊張を膨らませる。
「私もあなたたちの行動を、陰ながら支援させてもらうわ・・」
「リアス艦長・・・」
ミーナが微笑んできて、シンが戸惑いを見せる。
「オレたちやシンの味方は、いないわけではないようだな・・」
自分たちだけでないことを実感して、ブラッドが笑みをこぼす。
「みなさん・・・僕も、みなさんと一緒に戦います・・・」
ハルもシンたちと戦うことを告げてきた。
「僕も今までの平和に疑問を感じていました・・元々、戦況を乱してきたエターナルとアークエンジェル、連合と同盟を結んだオーブなんですから・・でもザフトの1人として、命令に逆らうことができなかった・・・」
ハルが自分の考えを正直に打ち明けていく。
「それにほっとくことができない・・ソラがムチャばかりしているのを・・」
「ハル・・・」
彼の思いにソラが戸惑いを覚える。
「いけないですよね・・上の命令が絶対の軍人に、こういうの・・・」
「正規の軍人としては、ね・・」
肩を落とすハルに、ミーナが言葉を返す。
「でも私たちはその前に、心ある人間なのだから・・・」
「リアス艦長・・・」
ミーナに励まされて、戸惑いを募らせていくハル。
「私たちは、現状の、偽りの平和に反抗する・・・」
ミーナが告げた言葉にシン、ソラ、ハル、アンジュ、ブラッドが頷く。ハルもミーナもシンが目指す真の平和への戦いに身を投じようとしていた。
次回予告
戦いの引き金は引かれた。
この波乱の歯車を止めることはできないのだろうか?
シン、キラ、アスラン。
3人の思いが再び交錯する。
己が信じる道、突き進め、アークエンジェル!