GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-19「選択の瞬間」
シンがザフトやプラントに向けて宣言した、オーブ、クライン派の打倒。その発言はプラントに留まらず、世界各地に一気に広まった。
シンが姿を現したことと彼の発言に、カガリたちオーブ首脳陣は緊迫を強めていた。
「どういうつもりなんだ、シンは!?・・いきなりオーブを討つだなんて・・・!?」
シンの言葉に納得できず、カガリが歯がゆさを隠せなくなる。
「まだ、私たちへの怒りや、デュランダル議長の思想でこんなことを・・・!?」
「いや、そうとばかりは言えないかもしれない・・」
彼女に声をかけてきたのはアスランだった。
「行方が分からなくなる前のシンは、怒りや憎しみに囚われている様子は見られなかった。議長の考えに賛同している様子も・・」
「だったら、何でいきなりこんなこと・・・!?」
「分からない・・もっと話を聞かないことには・・・」
疑問を膨らませていくカガリとアスラン。彼らはシンの言葉に耳を傾けていった。
シンが口にした言葉に、ミーナもルナマリアも困惑を隠せなくなっていた。メサイアでの戦闘後、プラントと安定した関係にあったオーブを討つというシンに、彼女たちは衝撃を感じていた。
「オーブは中立を掲げていながら、戦いを望まない人を守ろうとせず、危険に巻き込んだ。その過ちは今も改善されていない。今も自分勝手なきれいごとを口走っている・・」
シンがさらに宣告を続けていく。
「だがそれ以上に世界を混乱させているのはクライン派。ラクス・クラインと、フリーダムに乗るキラ・ヤマトだ。ヤツらは自分たちの価値感だけで戦いに介入して、混乱を招いてきた。平和を口にしておきながら、力を見せつけて一方的に攻撃してきた。文句を言われても屁理屈に言い返すだけ・・そんなヤツらが導いたものが、平和であるはずがない。」
シンがキラやラクスたちへの危険視も示す。
「言葉を伝えて分かり合えるなら、それが1番なのかもしれない。だけど相手の言うことや正義に屁理屈を返すばかりのヤツらには、言葉は無意味になる・・」
シンがキラたちの言動に対する歯がゆさを浮かべていく。
「オレも迷いを突かれて力で押し負けた・・だがもう力に屈するようなことはしない!力や自分勝手に世界が支配される時間は終わりにする!」
自分が体験してきたことを踏まえて、シンが呼びかける。彼は理不尽に屈した自分を悔やんで、悪しき運命に抗おうとしていた。
「世界を思い通りにして混乱させている敵と、オレは戦う!そして今度こそ戦争を終わらせる!」
「シン・・・」
揺るがない決意を訴えていくシンに、ルナマリアは戸惑いを感じていく。
「だけど、みんながオレに従ってくれとは言わない。戦いそのものを嫌っている人もいる。その人たちに何か無理やりさせるようなことはしない・・」
シンが感情を抑えて、切実な面持ちを見せる。
「でもオレはやる。やらなければこの世界は混乱したまま何も変わらない・・アイツらの言いなりになるな。力に屈するな。自分の生き方は自分で決めるんだ。間違っていると思ったら、どうしても納得がいかなかったら、そんなことには絶対に従うな!」
「シンさんの言う通りです!」
シンの呼びかけに加わってきたのはソラだった。彼女はルナマリアの制止を聞かずに指令室に飛び込んできた。
「ソラ、あなた・・!?」
「すみません、ホーク隊長・・止めたんですけど、ソラが強引に・・!」
声を荒げるルナマリアに、ハルが謝る。
「誰かが絶対正しいとか、勝ったほうが正しいとか、そんなことこそ絶対にないことです!誰かに自分の正義を投げやりにしても、本当の平和は来ないのです!」
ソラもシンが送っている通信に乗せて呼びかけてきた。彼女を見てシンが当惑を覚える。
「誰の言葉にも囚われないで、自分がしっかり答えを出して!そして自分の道理を力ずくで押し付けることがどれだけ馬鹿げているか、ちゃんと考えて!」
プラントや世界に呼びかけていくソラ。するとシンが彼女の肩に手を乗せてきた。
「もう大丈夫だ・・伝えるだけなら十分だ・・」
「シンさん・・・」
声をかけたシンにソラが戸惑いを覚える。
「たとえ賛同してくれなくても、世界がオレを敵だと思っても、オレはやる・・やらなくちゃならないことだって、オレは思ってる・・」
世界に向けて自分の意思と目的を示したシン。ソラが賛同と感動を見せるそばで、ルナマリアとハルは戸惑いを感じていた。
プラントや世界に向けたシンの宣告は、エターナルにいるラクスたちにも伝わっていた。
「シンのヤツ、戻ってきたと思ったら、いきなりこんなことを・・・!」
ラクスが深刻な面持ちを浮かべるそばで、バルトフェルドが憤りを浮かべる。
「これでプラントだけでなく、世界中が混乱をきたすことになる・・少なくともシンは、我々に牙を向けることになる・・・!」
「世界がまた、戦いによる混迷に入ろうとしています。怒りや憎しみをぶつけ合うばかりの・・」
ラクスも続けて世界の状況について呟きかける。
「私たちは立ち向かわなければなりません。怒りや憎しみが飛び交う戦いの連鎖に・・」
真剣な面持ちで言いかけるラクスに、バルトフェルドたちは頷いた。
「申し訳ありません、隊長・・あたしらがあのとき敗退したばかりに・・」
「あのとき、あの機体がデスティニーと分かっていれば・・・」
ヒルダとマーズがバルトフェルドに謝罪する。
漆黒のデスティニーによってドムトルーパーは壊滅的な被害を被った。ヒルダ、マーズ、ヘルベルトの3人だけがダコスタたちによって救出された。
そのときは漆黒のデスティニーがシンが消息不明になる前のものと同一だとは、ヒルダたちは気づかなかった。再びデスティニーがオーブに現れたときに気付いたのである。
「突然のことと思わぬ事態だった。今更後悔しても仕方がない。」
バルトフェルドがヒルダたちに弁解する。
「この宣言で世界が混乱に陥るのは目に見えています。みなさんの心を落ち着かせなくては・・」
呼びかけるラクスに、バルトフェルドが笑みを浮かべて頷いた。
「ダコスタくん、オープンチャンネルを開きたまえ。」
「分かりました、隊長!」
バルトフェルドの指示にダコスタが答える。ラクスも世界に向けて通信を送ることにした。
デスティニー、ジャッジを収容した後も航行を続けていたミネルバ。ミネルバは近くのターミナルに入港した。
そのターミナルには1隻の飛行艇も着陸していた。飛行艇から1人の女性が降りてきた。はねっ毛のある金髪の女性である。
「やはりここに来たわね、ミネルバ・・」
女性がミネルバを見つめて呟く。彼女はミネルバに向かって歩いていった。
シンが世界に呼びかけた宣告。これに対し、ラクスも全世界に向けて声明を出した。
「みなさん、私はラクス・クラインです。先ほどの言葉に惑わされてはいけません。」
ラクスが投げかけてきた言葉に、当惑を抱えていた人々が耳を傾ける。
「たった今投げかけられた言葉。平和のための奮起を促すこの言葉ですが、今世界で起きている争いの混迷を深めることになります。」
ラクスが深刻さを込めて語りかけていく。
「私たちは戦争を止めるために尽力してきました。ですがそのために私たちが取った行動を正しく思っていない人もいます。それでも私たちは立ち向かわなければなりません。夢と自由のある本当の平和のために。」
ラクスの声明に、人々の多くが戸惑いを感じていく。しかしソラはラクスの言葉に憤りを感じていた。
「何が本当の平和よ・・それを踏みにじっておきながら、自分たちが悪くないと言い張る・・・!」
自分たちの言動を棚に上げて、正義や平和を振りかざす。ラクスたちの行動がそうだと実感して、ソラは不満を膨らませていた。
そんな中、ラクスの声明は続いていく。
「かつて管理によって世界を1つにまとめ上げ、平和を作り出そうとしたデュランダル議長の世界。ですがそれは夢と自由が失われた偽りの平和・・私たち人類は、夢と理想によって成長し、強くなれるのです。それが失われれば、私たちは生きながら死んでいるも同然となるのです・・」
ラクスがデュランダルとデスティニープランについても語っていく。
「私たちが立ち向かわなければならないのは、敵と見なした相手を倒すためでも、勝利をつかむためでもありません。夢と自由、未来を得るためです。」
彼女はさらに自分たちの意思を示していく。
「私たちを快く思わず、憎む方々がいるのは承知しています。ですが多くの人々が未来をつかめるために、私たちは立ち向かいます。」
自分たちの考えを告げたラクス。彼女の言葉が、世界の人々の心を揺るがした。
「さすがラクス・クライン・・強い意志をお持ちだ・・」
「勇気づけられる・・」
「ラクス様やキラ様がいたから、戦争が終結に向かったのだ・・」
「今回も彼らが何とかしてくれる・・・!」
オーブだけでなく、プラントにいる人々はシンやソラではなく、ラクスを支持するようになっていた。
メサイアでの戦闘。デュランダルとメサイアの防衛を務めていたシンと、メサイアを撃破して戦いを集結させたクライン派。戦争終結の尽力者に人々の意思が傾くのは、やむなしのことだった。
世界はシンやソラではなく、クライン派を支持していた。この事態にソラは黙っていられなかった。
「騙されないで!ラクス・クラインはそうやって自分の考えを押し付けてるの!前の大戦のときも、フリーダムやエターナルが乱入して、何の話も聞かずに一方的に攻撃して・・そうして無理やり終わらせた先の、どこに未来があるというの!?どこが平和だっていうの!?」
ソラが声を張り上げて呼びかける。
「世界を自分たちの思い通りにしようとしているヤツらの言葉に惑わされないで!きちんと自分で考えて!何が正しくて、何が間違っているのかを!」
涙があふれそうになりながら呼び続けるソラ。
「今の状況も、ラクス様やキラ様が何とかしてくれる!」
「オーブにはアスラン・ザラもいる!」
「デュランダルは世界を自分のものにしようとした!逆らえばレクイエムで滅ぼしてきた!」
「デュランダルの滅びから、ラクス様は世界を救ったのだ!」
しかし人々はラクスの言葉に賛同していた。彼らの中から、デュランダルに対する非難の声まで飛び出した。
「どうして・・どうしてアイツらの味方をするの・・・!?」
ソラが悲痛さを感じて、その場に膝をつく。
「これじゃこの世界は、ホントに救いようがないよ・・シンさんが、悪者扱いじゃない・・・!」
「ソラ・・・」
憤るソラに、ハルとマイが戸惑いを感じていく。するとシンがソラに真剣な面持ちのままで声をかけてきた。
「オレが言いたいことは言った。それでどう反応するかはその人次第だ。だがそれでもオレは戦う。オーブとクラインを倒すために・・」
「シンさん・・・でも、これじゃあんまりですよ・・シンさんは何も悪くないのに・・・!」
シンに言葉を投げかけられても、ソラは人々の反応に納得ができなかった。
「みんな、純粋に言葉や思いを受け止めているわけじゃない・・アイツらに、権力があるから・・権力にばかり引き込まれて・・・!」
「ソラ・・それはどうにもならないよ・・私たちは軍人で、上の人に従う義務があるんだから・・」
悔しさを見せるソラに、マイが困惑を見せて言いかける。
「それじゃいつも、上の人の思い通りじゃない!そういう人が間違って、それでも自分が正しいと言い張って、思い上がって・・・!」
「それが軍というものよ。」
ソラに言いかけてきたのはミーナだった。
「軍人には力のない人々と居場所を守るために戦う。そのための力を手にすることになる。でも強い力を持つことは、強い責任を背負うことにもなる・・私たちは、上の命令に従うことを義務付けられるのよ。」
「ですが、もしその上の人が・・!」
「関係ないわ、私たちには。知ろうとすることさえも重大な違反につながるのよ・・」
ソラが言い返すが、ミーナが口にする軍人の規約を聞かされて口ごもってしまう。
「あなたも軍人なのだから、そのことを自覚しなさい。何をやっても許されるわけじゃないのよ・・」
ミーナからの忠告に、ルナマリアもハルもマイも渋々受け入れつつあった。しかしソラはそれでも納得しない。
(もう権力でしか、世界に正しい平和を与えることはできないの!?・・でもそのやり方は、ラクスと同じ・・そんなことじゃ、本当の平和は取り戻せない・・・!)
心の中で疑問を感じながら、ソラは自分に言い聞かせていく。
(権力に屈しないで、支配者に抗って戦っていく・・それが本当の、平和をつかみ取る道なのに・・・)
思い描いている理想の平和が現実と大きくかけ離れていることを、ソラは辛く感じていた。
「オレはオーブとクライン派を叩く。世界の誰もがオレが悪いと言ってきても、オレはこの戦いに負けるつもりはない。」
シンがソラたちに自分の意思を口にする。
「アイツらに屈するぐらいなら、死んだほうがマシだ・・だけど死んでしまったら何にもならない・・アイツらを倒して、オレは生きて、戦い続ける・・世界の、ホントの平和のために・・」
「シンさん・・・」
1人でも立ち向かおうとするシンに、ソラは戸惑いを募らせる。世界全てを敵に回してでも、平和の敵と見なした相手を倒さないといけないと、シンは結論付けていた。
「シンさんは悪くない・・何も悪くないのに・・・悪いのは、ラクスたちのほうなのに・・・!」
「そうです。シン様は何も悪くありません。あなたも。」
言いかけたところでソラは声をかけられた。彼女にとって聞き覚えのある声だった。
「その声・・そんなはず・・!?」
ソラが驚きながら振り返る。その先に金髪の女性がいた。
「誰ですか、あなたは!?どうやって艦内に!?」
ミーナがその女性の登場に驚き身構える。ルナマリアたちも女性に驚きを見せる。
「ア、アンジュ!?どうしてあなたがここに!?」
ソラがその女性、アンジュを見て声を荒げる。
「そのことは後でお話します。」
アンジュが真剣な面持ちで言いかける。
「ソラ、この人と知り合いなの・・!?」
マイがソラに問いかけると、アンジュがマイを鋭く睨みつけてきた。
「無礼者!このお方をどなたと心得ているのですか!?」
アンジュに怒鳴られて、マイが動揺しながら押し黙る。そしてシンが呼びかけていた通信に、アンジュも呼びかけてきた。
「みなさん、注目してください!ここにおられるのは・・!」
「ち、ちょちょちょ、待って、アンジュ・・!」
ソラがアンジュを慌てて呼び止める。しかしアンジュの呼びかけは止まらない。
「ソラ・ブルースカイ!ブルースカイ家代表です!そして私はブルースカイ家親衛隊長にして、ソラお嬢様のお世話役、アンジュ・ブルースカイです!」
「ブルースカイ・・・って、ええっ!?」
アンジュが告げた言葉を聞いて、マイが驚きの声を上げた。ソラがアンジュに滅入って、大きく肩を落とす。
「ブルースカイって、プラント有数の資産家で、クライン家に勝るとも劣らない権力を持ってるって・・!」
マイがたまらずブルースカイ家について話す。
「ソラって、ブルースカイのお嬢様だったの〜!?」
マイが頭を抱えて悲鳴を上げる。ソラはスカイホース家の娘だった。
次回予告
全ては家のため、世界のため、そして彼女のために。
たとえ自分が日陰者になろうとも、あの人のためになるなら。
恩と思いに報いようと、少女が進むと決めた道とは?
蒼き思い、届けろ、ハロ!