GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-18「変革の宣告」
ミネルバへの通信を終えたシン。丁度ブラッドもネフィリムとの通信を終えていた。
「ドギーたちも問題はない。このまま現在位置に滞在するつもりだ。」
ブラッドはシンに報告をしていく。
「明日に彼女を連れてここを立つ。そしてミネルバに戻る。」
「いいのか?お前はともかく、ミネルバやザフトにとっては敵でしかない。その彼女を連れ込んで、ミネルバのクルーが納得すると思っているのか?」
「いや、全員がそうとは思わない・・ルナなら分かってくれる・・」
ブラッドの問いかけにシンは考えを巡らせながら答える。彼の脳裏にルナマリアが浮かび上がった。
ルナマリアにステラのことは話している。彼女ならアテナを連れてきても敵視してこない。シンはそう信じていた。
「シン、お前は休め。オレが起きている。何かあれば起こす。」
「いや、オレが起きてるよ。ブラッドが休めよ・・」
「オレよりお前のほうが休めていないだろう。今はお前が休むべきだ。」
「だったら時間ごとに交代で休んで、見張りをする。それならどうだ?」
「シン・・お前というヤツは・・なら1時間ごとに交代しよう。オレから見張りだ。」
「分かった・・」
ブラッドとシンが納得し合う。シンがデスティニーのコックピットに戻り、眠りについた。
それからシンがブラッドと交代して、2度目の睡眠をしていたときだった。
「シン、起きろ。連合の戦艦が近づいてきたぞ。」
ブラッドの呼びかけでシンが目を覚ます。シンが目にした艦影はケルビムだった。
「オレが交信を試みる。おそらくお前が連れてきた彼女が乗っていた艦だろう。」
ブラッドはシンに呼びかけると、ハッチを閉めてジャッジを発進させた。ジャッジが上昇してケルビムの前に来た。
「地球連合所属の戦艦で間違いないな?」
ブラッドが通信回線を開いて、ケルビムに向かって呼び掛けた。
「アンノウンのMSのパイロットが呼び掛けてきています。デスティニーの仲間のようです。」
ケルビムのオペレーターがドルズに報告をする。するとドルズがブラッドの呼びかけに応答してきた。
「貴様たちが連れ去った、我々のエクステンデッドを引き渡してもらおう。我々の部下であり、戦力なのだから。」
「お前たち、まだそんな考えなのか・・・!?」
ドルズの呼びかけに言い返してきたのはシンだった。彼の乗ったデスティニーも飛翔してきた。
「人の命を弄ぶ・・お前たちのようなヤツがいるから、かけがえのない命が・・・!」
「フン。ギルバート・デュランダルの犬に成り下がった分際が何を言う?」
憤りを感じていくシンを、ドルズがあざ笑う。
「オレはオレの考えで、議長の世界を守ることをあのとき誓った。今もオレはオレの決断で、みんなを守ることを決めた。お前たちのようなヤツにいいようにされている命もだ!」
シンが言い放ち、ドルズの言葉をはねつける。
(でも今のオレは、レイや議長が目指してきた平和とは違う道を進むことになるかもしれない・・)
シンは心の中でレイやデュランダルに対する罪の意識を感じていた。
管理世界による平和の実現と持続が、デュランダルが提示した世界だった。示される道に従うことが平和の道である世界では、独自の選択は反乱につながる。その中では、シンが決めた選択はデュランダルの世界に反するものだった。
「我々のことを知りもせずに、好き勝手に言ってくれる・・その戯言、我々がここで終わらせてくれる。」
ドルズがいら立ちを噛みしめて、スーラに命令を下す。
「本艦は敵MSへの攻撃を開始する。トリトン、発進しろ。」
「了解。」
スーラが答えて、発進準備を整える。
「スーラ・ネレウス、トリトン、発進する!」
スーラの乗るトリトンがケルビムから発進する。トリトンが2本のビームサーベルを手にして、デスティニーに向かっていく。
「アテナを返してもらうぞ。」
スーラが言いかけて、トリトンが飛びかかり、デスティニーにビームサーベルを振り下ろす。デスティニーがビームソードを手にして構える。
トリトンのビームサーベルとデスティニーのビームソードがぶつかり合う。ビームソードの刀身が高周波による振動を発していて、ビームサーベルのビームが歪む。
「ぐっ!」
振動の衝撃にトリトンが押されて、スーラがうめく。
「アテナはお前たちが自由にしていいヤツではない。おとなしくこちらへ返せ。」
「お前たちのところにいさせたら、もっと利用されることになる・・オレはお前たちから、アイツを助け出すんだ!」
呼びかけるスーラにシンが言い放つ。彼の言葉を耳にして、スーラが目を見開く。
「お前、敵であるアテナを、本気で助けようと・・!?」
「お前たちのところにいたら、あの子は確実に死んでしまう!だから連れ出して助ける!」
シンの決意と意思を耳にして、スーラが当惑を覚える。シンがアテナを人質にしようとするのではなく、助けようとしていると、スーラは痛感していた。
「オレは彼女を守る・・お前たちなんかに、彼女の命を弄ばれてたまるか!」
シンが言い放ち、デスティニーがビームソードを振り下ろす。スーラが我に返って反応し、トリトンがビームソードをかわして、デスティニーから離れる。
「シン!」
ブラッドが叫び、ジャッジが2つのビームライフルを手にして連射する。立て続けに放たれたビームを両足と左腕に受けて、トリトンが倒れて身動きが取れなくなった。
「おのれ・・敵MSを叩き落とせ!」
ドルズが言い放ち、ケルビムがゴットフリートを発射していく。だがデスティニーとジャッジの素早い動きにかわされていく。
「こうなれば・・ローエングリン用意!」
ドルズの命令により、ケルビムがローエングリンの発射準備に入る。砲門がデスティニーとジャッジに向けられる。
「ってぇ!」
ケルビムが陽電子のビームを放射する。デスティニーは回避せず、ビームソードをビームに向かって突き出してきた。
ビームソードの刀身からの高周波の振動は、陽電子のビームをもはじき飛ばした。切り裂かれたビームはデスティニーの横を通り過ぎて、虚空に消えていった。
「バカな!?戦艦の陽電子砲だぞ!いくら高性能であっても、MS1機ではじき飛ばせるわけがない!」
ドルズがデスティニーに対して驚愕をあらわにする。シンがケルビムに向けて鋭い視線を投げかける。
「あくまで彼女を道具にしようとしているのか・・・お前たちは、絶対に許さない!」
怒りをあらわにしたシンの中で何かがはじけた。感覚が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。
デスティニーがケルビムに突撃して、ビームソードを振りかざす。この一閃がケルビムの艦体を切り裂いた。
「おのれ・・おのれザフト!」
絶叫を上げるドルズがクルーたちとともに、ケルビムの爆発の中に消えた。ケルビムが艦体を断裂されて、バラバラになって爆発をした。
デスティニーがビームソードを下げて動きを止める。シンが爆発したケルビムを見下ろしていた。
「大丈夫か、シン・・・?」
「あぁ・・」
ブラッドが声をかけると、シンが小さく頷いた。
「あのMS、パイロットが外に出てきたぞ。まだ動けるようだ・・」
ブラッドが続けて投げかけた言葉を聞いて、シンが視線を移す。破損したトリトンからスーラが出てきていた。
「MSは破壊されている。抵抗はできないだろう・・」
「今、この施設の人たちが助けている。オレたちがアイツにすることはないな・・」
ブラッドとシンが声を掛け合って、医療班に連れられていくスーラを見送った。
それから一夜が明けた。ケルビム撃墜以降、シンたちに攻撃を仕掛ける者は出なかった。
そしてシンとブラッドの前に、ソルネが眠っているアテナを連れてきた。
「手術は終わって、体の状態も落ち着いたわ。でも完治とはどうしてもいかなかった・・」
ソルネがアテナの状態をシンに説明する。
「薬や調整の後遺症が残っている。元通りにすることはできない。寿命を引き延ばすことしかできないわ・・」
「それでもいい・・戦いから遠ざけることができるなら・・」
ソルネの話を聞いて、シンは納得を見せる。
「早速だが連れていく。オレが運ぶ。」
「ダメよ。MSのコックピットに入れて連れていくのは負担がかかる。こちらの飛行艇を使う。」
シンの言葉に返答して、ソルネが振り返る。その先には1隻の飛行艇があった。
「患者を安全に運ぶためのものよ。あれならMSのコックピットよりは振動は少ないわ。」
ソルネが説明して、シンに視線を戻す。
「連れて行きたい場所があるなら案内して。ついていくから・・」
「それでいい。任せる・・」
ソルネの持ちかけた提案をシンが受け入れる。ソルネがアテナを連れて飛行艇に乗ったのを見届けてから、シンはデスティニーに、ブラッドはジャッジに乗り込んだ。
「それでシン、どこへ行くつもりだ?」
ブラッドがシンに問いを投げかけてきた。
「ミネルバだ・・ルナなら分かってくれる・・・」
「そうか・・・」
シンの答えを聞いて、ブラッドが頷く。デスティニーとジャッジが発進して、アテナとソルネを乗せた飛行艇も続いていった。
シンの行方を気にしていたルナマリアとソラ。2人はいつでも出動できるように、ドックに留まっていた。
「ホーク隊長、今は休んでいてください。私が待っていますから・・」
「ううん。私がいるから、ソラが先に休んでいて・・」
ソラが声をかけると、ルナマリアが首を横に振る。彼女は窓から外を眺めて、シンが帰ってくることを祈っていた。
(私以上に、シンさんの帰りを待っていたのは隊長なのね・・)
「では自室に戻っています・・失礼します・・」
ルナマリアの心境を察して、ソラは彼女に敬礼を送って、ドックを後にした。
(あの巨大MSのパイロットを連れていったデスティニー・・シンも、あの人をあの子と重ねて・・・)
シンの心境を察して、ルナマリアは戸惑いを感じていく。
(それなら、デスティニーの行動も納得できる・・やっぱり乗っていたのは、シン・・・)
デスティニーには間違いなくシンが乗っていて、彼は自分の意思でここまで行動していると、ルナマリアは確信していた。
(そしてシンは、必ずこのミネルバに・・・)
デスティニーの捜索を続けていくミネルバ。ミーナはレーダー捜索から、移動しながらの捜索に切り替えようとしていた。
「これより本格的な捜索に乗り出します。インパルス発進準備。」
ミーナが指示を出し、ルナマリアがコアスプレンダーに乗り込もうとした。
「接近する機体あり。1機は、デスティニーです!」
そのとき、ミネルバのレーダーが反応して、マイが声を上げてきた。モニターにデスティニーとジャッジが映し出された。
「デスティニー、応答しなさい!シンくん!」
ミーナが通信回線を開いてデスティニーに呼びかける。
“ミネルバ、そちらへ着艦させてもらう。”
シンが応答して、デスティニーたちがミネルバに近づいてくる。
「もう1機とその飛行艇は?」
“オレの仲間と、戦争の被害者です・・”
ミーナの問いかけに、シンは真剣な口調で答える。彼の意思を受け止めて、ミーナが判断を下した。
「全機、着艦を許可します。その場で事情を聴きますので、外に出ないように。」
ミーナの指示にシンが頷く。デスティニーとジャッジ、そしてアテナとソルネが乗った飛行艇がミネルバに着艦した。
銃を手にした兵士たちがドックに集まってきた。そこにはルナマリアがいて、ソラとハルも駆けつけてきた。
「まずは船に乗っている人、名前と所属を教えて。」
ルナマリアも銃を手にして、飛行艇に向けて呼びかけた。すると飛行艇の入り口が開いて、ソルネが顔を見せた。そばにはストレッチャーの上で横たわるアテナもいた。
「私は地球連合第一医療施設主任、ソルネ・ボルフィードよ。デスティニーのパイロットの要求で彼女の手術を施し、ここまで来たわ。」
ソルネがルナマリアたちに説明をしていく。
「本当だ。オレが助けるように申し出た・・」
シンが続けて説明をしていく。が、兵士たちはソルネに向けて銃を構えた。
「待って。彼女は医師で、抵抗する術も武器もないわ。」
彼らをルナマリアが呼び止める。彼女は視線をジャッジに向ける。
「あなたは何者?同じ連合のパイロットなの?」
「オレはブラッド・J・クロノス。お前たちからすれば、海賊やレジスタンスの類の人間だ。オレ自身は元々地球連合所属のナチュラルだが、連合と今の部隊での訓練を行っている。」
ルナマリアに声をかけられて、ブラッドが自己紹介をする。
「オレたちの部隊は連合、ザフト、オーブ軍、どの所属だったかは問わない。世界の現状に反発の意思を持つ者が集まっている。」
「世界の現状に反発・・シンも・・・」
ブラッドの話を聞いて、ルナマリアがシンの乗っているデスティニーに目を向ける。
「今の世界は混迷であふれている。三度起こった戦い以前から。自分たちが正しいと自惚れているヤツらの思うがままの世界。それが本当の平和と言えるのか?」
ブラッドがさらに言葉を投げかけるが、ルナマリアも兵士たちも返答することができない。
「お前たちの中にも、今の世界に疑問を感じている者がいるようだな・・気がかりは捨てきれないようだな。たとえばオーブとか、クライン派とか・・」
ブラッドの口にした言葉を耳にして、ソラが心を揺さぶられる。
そのとき、シンがデスティニーから外に出てきた。
「全部の部隊やプラントにも呼びかけたいことがあります。みんなにつなげてもらえますか?」
シンが兵士たちに頼み込んできた。するとルナマリアがシンの前に出てきた。
「ついてきて。リアス艦長に直接頼んできて・・」
ルナマリアの呼びかけにシンが頷いた。
「あなたたちはお互い手を出さないで。迂闊な行動も禁物よ。」
兵士たちやブラッドたちに忠告を送ると、ルナマリアはシンとともにドックから移動していく。
「ホーク隊長、私も行きます!」
「あなたたちもここにいて。ついてこないで。」
ソラがハルと一緒に駆け寄ってくるが、ルナマリアに呼び止められる。彼女とシンが立ち去っていくのを見送ることに、ソラは歯がゆさを感じていた。
指令室にてシンの動向をうかがっていたミーナ。彼女の前にルナマリアとシンがやってきた。
「あなたが消息不明になってから今までのことはだいたい分かったわ。そこは私は納得できないことはない。」
ミーナがシンに向けて、冷静に語りかけていく。
「それで、あなたがザフトやプラントに言おうとしていることは何?」
「それはみんなの前で言います。回線を開いてください。」
「世界のためを思ってのこと?それとも自分たちの得だけを考えてのこと?」
「みんながそれぞれで判断してください。聞き入れるかどうか・・」
ミーナが問い詰めるが、シンはすぐには打ち明けようとはしない。
「あなたの責任は重大よ。決して世界を混乱させるようなことは言わないで・・」
ミーナが渋々、シンの申し出を聞き入れることにした。
「ありがとうございます、リアス艦長。」
シンが感謝して、ミーナがつなげたオープンチャンネルに呼びかけた。
「ザフト軍所属、シン・アスカです。長らく軍を離れていたこと、申し訳ありません。」
シンがザフトの全部隊やプラントに向けて呼びかける。
「いきなりで驚くことだと思いますが、聞いてほしいことがあります。オレはあるべき本当の平和を取り戻すため・・」
シンが真剣な面持ちのまま語りかけていく。
「オーブを討つことを、心に決めました。」
シンが口にした発言を耳にして、ミーナもルナマリアもマイも驚愕を覚える。
「そしてオーブと深いつながりのあるクライン派も、討伐の対象とします。」
(シン・・・!)
シンの告げていくことにルナマリアは当惑していく。シンの宣告で世界はまた大きく動き出そうとしていた。
次回予告
突然の世界への宣告。
シンの言葉で、世界は大きく揺れ動いていく。
誰が正しいのか?
どうするのが正しい選択なのか?
答えは自分自身で見出すもの・・・
真の平和、届けろ、グフ!