GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-17「命の救い」
ドム部隊を撃退したシンのデスティニー。ブラッドたちダークスとともに、アジトに降りてきた。
「何とか切り抜けたな、ブラッド・・」
「軽口を叩くな、ドギー。シンがいなかったらオレたちは全滅していた。それに、オレを庇って、ゴードが・・・」
気さくに声をかけてきたドギーに、ブラッドが気まずさを浮かべて言いかける。それを聞いて、ドギーも表情を曇らせた。
「ゴードが!?・・ウ、ウソだろ・・!?」
ドギーが愕然となり、他のダークスのパイロットたちも気落ちを見せる。
「オレがもっと早く外に出ていたら・・・」
シンもゴードを助けられなかったことを悔やんでいた。
「お前は本来は部外者で、元々はザフトの人間だ。お前が思いつめることはない・・」
「それでも、オレが迷ったせいで・・迷ってなかったら・・」
「これはオレたちの戦いだ。お前はオレたちに1度捕らえられたに過ぎない・・」
歯がゆさを浮かべるシンに、ブラッドが言いかける。
「そこまでオレたちに気をかけるというのか?オレたちはオーブやクライン派に戦いを仕掛けている。戦争を仕掛けるという点では、お前にとってもオレは敵であるはずだ・・」
「それは、アンタたちの行動と考えによる・・」
シンの口にした返答にブラッドが眉をひそめる。
「これだけは言える・・オーブ、ラクス・クラインたちが、オレとアンタたちの共通の敵になった・・」
「そりゃ、そうだけど・・・」
シンの言葉にドギーが声を上げる。
「オレは守ると誓った人を守れなかった・・敵の軍に利用されて戦わされていたけど・・もうあんな悲劇を、オレは繰り返させたくない・・・!」
「戦わされていた・・もしや、連合のエクステンデッドか・・・」
ブラッドが呟くと、シンが小さく頷いた。
「戦いのために利用されている命さえも救うこと・・それが、お前の戦う理由か・・?」
「それだけじゃない・・本当に、戦いや悲劇のない平和を取り戻す・・偽者の平和を口にする敵と、オレは戦う・・たとえオレ自身が報われなくても・・・」
「己を犠牲にしてでも、本当の平和を取り戻す、と・・・」
シンの決意を目の当たりにして、ブラッドが戸惑いを感じていた。
「みんな、大変じゃ!ドーガ隊長が!」
そのとき、1人の老人が慌ただしく駆け込んできた。
医師、ジャグ・ゴルダ。ガルの専属医に専念していた。
「ゴルダさん、隊長が・・・まさか・・・!?」
ブラッドが声をかけると、ジャグが悲しい顔を見せるだけで答えようとしない。が、ブラッドはそれだけで察していた。
シンやブラッドたちがドムたちを撃退した頃、ガルは体調を悪化させてしまった。心臓の衰弱がひどくなり、ブラッドたちが目の前に戻ってくる前に、彼はついに力尽きた。
目を閉ざして、2度と目を覚ますことのないガルを目の当たりにして、ブラッドたちもシンも愕然としていた。
「隊長は言っていたよ・・“私の言うことを鵜呑みにすることはない。誰の言葉に惑わされることもない。自分が見出した答えを貫き通せ”と・・」
ジャグがガルの言葉をブラッドたちに伝える。ガルの信念を受け止めて、ブラッドたちが真剣な面持ちを浮かべる。
「オレはこれからもこの戦いを続ける。あのままヤツらのいいように振り回されているなど、生きながら死んでいるのと言うもの。そのような生き方、オレは耐えられない・・」
ブラッドが新たな決意をして、口にする。
「オレも戦う・・ドーガ隊長が報われない世界に、オレもいたくないぜ!」
ドギーも両手を握りしめて意気込みを見せる。
「オレもこのまま戦いを続ける!」
「オレも!」
「オレもだ!」
他のメンバーたちも戦いを続けることを心に決めていた。
「シン、お前はこれからどうするつもりなんだ?」
ブラッドにシンに目を向けて問いかけてきた。
「オレはオレの戦いをする・・大切な人を殺して平気な顔をしているアイツらを、この手で倒す・・そうすることで、オレはオレの過去に決着をつける。」
「そうか・・やはり、オレたちが倒すべき相手は同じのようだ・・」
シンの答えを聞いて、ブラッドが頷いた。そしてブラッドはシンに手を差し伸べてきた。
「この戦いの後、敵同士になるかもしれない・・でも、組めるならば、お前の力はこれ以上ない希望となる・・」
「オレはもう、アンタたちを死なせたくない・・本当の平和を願っている、アンタたちを・・」
ブラッドとシンは声を掛け合って、握手を交わした。2人はあくまで自分の信念に基づきながらも、ともに戦う道を選んだ。
「みんな、ジャッジを早く完成させる。最低でも、ここから動かせるまでには調整しておきたい。」
ブラッドがジャッジについて話を切り出す。ジャッジは完成にはいたらず、ドム部隊との戦いに投入することができなかった。
「でもジャッジは、ゴードが乗ることを想定して調整を進めていたのに・・誰が乗るというんだ・・・?」
ドギーがブラッドに疑問を投げかける。
「オレが乗る。オレを救ってくれたゴードの魂は、オレが受け止める。そしてゴードとともに、オレは戦い続ける。」
「ブラッド・・・」
ブラッドの決意を聞いて、ドギーが戸惑いを覚える。
「ジャッジの完成次第、移動をする。そしてここは完全に爆破する。」
ブラッドが告げた言葉を聞いて、ドギーたちが緊張を覚える。
「ここの場所は知られてしまった。他の部隊に連絡されているはずだ。いつヤツらが攻めてくるのか分からない・・その前に脱出しなければ・・」
ブラッドの言葉にドギーたちは頷いた。ドム部隊からの報告で、他の部隊にアジトを知られてしまっていると、ブラッドたちは危惧していた。
「体を休めるところなのだが、一刻の猶予もない。みんな、力を貸してくれ。」
「もちろんだ!さっさと終わらせてやるぜ!」
呼びかけるブラッドにドギーが意気込みを見せる。
「オレもやる・・オレにできることが何かあるかもしれない・・」
「シン・・すまない。手伝ってくれ・・」
シンが声をかけて、ブラッドが頷いた。彼らはジャッジの感性とアジトからの脱出の準備を急いだ。
こうしてシンは、ブラッドたちと行動をともにすることになった。
シンとブラッドたちの尽力で、ついにジャッジは完成し、戦闘に投入できるほどとなった。
そしてブラッドたちは戦艦「ネフィリム」を発進させようとしていた。
「みんな、すまない。これでオレも戦えるし、オレたちも動き出すことができる。」
「いやぁ。心がひとつになったってヤツだって・・」
感謝を口にするブラッドに、ドギーが言葉を返す。
「シンにも助けられた。デスティニーとのデータ共有がなければ、こうも早く完成しなかっただろう・・」
「ジャッジも核エンジンとデュートリオンのハイブリットだったのは驚きだった。あの機体がそこまで高性能なものだとは・・」
ブラッドから感謝の言葉を投げかけられて、シンが笑みをこぼす。
「早速だが別の場所に移動する。ここを爆破する。」
ブラッドが投げかけた言葉に、ドギーたちが真剣な面持ちで頷く。
「オレもこれからも行動をともにする。お前たちが危機に陥ったら、オレが助ける・・」
シンがブラッドに声をかけてきた。
「すまない、シン・・オレたちのために、そこまで・・」
「いいんだよ。オレがそう決めたんだから・・」
ブラッドとシンが声を掛け合って笑みをこぼす。
「オレは爆破のスイッチを押す。ネフィリムに乗り込むんだ。」
ブラッドたちがネフィリムに乗り込んでいく。シンもこのアジトの光景を1度見まわしてから、ネフィリムに乗った。
「ネフィリム、発進!」
ブラッドの号令でネフィリムがアジトから発進する。アジトから少し離れたところで、ブラッドが外を見据える。
「ありがとう、ゴード・・ドーガ隊長・・・」
ゴードとガルへの感謝を胸に秘めて、ブラッドは爆破スイッチを押した。アジトが爆発を引き起こして、木端微塵に吹き飛んだ。
「オレたちはこのまま別の拠点に移る。そこで立て直しだ。」
ブラッドが指示を出し、ネフィリムは移動をしていった。
それからシンはブラッドたちとともに、連合、ザフト、オーブ、クライン派の動きを探りながら、現状打破の術を模索していった。ケルビムの戦闘行為についても彼らは耳にしていた。
その最中、シンはアテナの姿を見て、ステラと重ねた。そこで彼はアテナを救い出すことを心に決めた。戦いに利用されている命を救うために。
「オレを行かせてくれ、みんな。オレはあの子を助けに行く・・」
シンがブラッドたちに出撃を申し出てきた。
「何でわざわざ助けに行くんだよ、シン?お前が助け出そうとしてるのは、地球連合のパイロットだぞ。」
ドギーがシンに疑問を投げかける。
「自分から戦争を仕掛けているんじゃない。誰かに利用されて戦いをされているだけなんだ。オレは戦いから遠ざけてやるんだ・・」
しかしシンの決心は固く、単独でも飛び出そうとしていた。
「シン、お前が助けようとしているのは、お前が前に話したエクステンデッドの少女のことか?」
「ステラは、もういない・・きっとそっくりなだけなんだ、あの子は・・」
ブラッドが問いかけると、シンが深刻な面持ちで答える。するとブラッドが納得を見せる。
「それでも助けたい。助けられるべき命だから・・・分かった。お前の思ったようにすればいい。」
「ブラッド・・すまない・・」
「お前はあくまでお前自身の考えで動いてきた。だから謝ることはない。」
謝るシンにブラッドが弁解を入れる。
「オレたちのことは気にするな。が、オレもここでの作業を終えたら地球に降りる。」
「分かった。それじゃ行ってくる・・」
ブラッドからの言葉を受けて、シンは単身、地球に降下するのだった。ステラと瓜二つのアテナを助けるために。
キラのフリーダム、アスランのジャスティスと対峙した黒いデスティニーに乗っていたのは、まぎれもなくシンだった。彼は自分の意思でキラたちと対峙し、アテナを助けるために連れ出したのであった。
アテナの手術が終わって、ソルネがシンの前に戻ってきたとき、既に日が落ちて夜になっていた。
「手術は完了したわ。今晩は安静にして、明日容体を見る。」
「彼女はオレたちが預かる。2度と戦いに出さないように保護する。」
「今の彼女を移動させることはできないわ。負担がかかって命に係わる。」
「なら明日まで待つ。あなたも一緒に連れていく。」
シンの言葉を聞いて、ソルネは再び施設に戻っていった。
「あの医師も信用しているんだな・・」
ブラッドがシンに声をかけてきた。
「あの人がいなければ彼女は助けられない。それだけのことだ・・」
「お前が戦場から遠ざけても、彼女自身が感謝するとは限らない。さらに自分の意思で戦いに戻ろうとするかもしれないぞ。」
答えるシンにブラッドが忠告を送る。しかしシンの意思は頑なだった。
「報われなくても助けたい、か・・理屈ではないのだな・・・」
シンの心境を察して、ブラッドが笑みをこぼす。
「好きにするといい。お前はお前の意思で戦えばいいと、オレは言ったからな・・」
「ブラッド・・・」
「1度ネフィリムに連絡を入れる。オレもお前も、彼女も無事だということを知らせる・・」
戸惑いを覚えるシンに言いかけて、ブラッドがドギーたちに連絡を入れようとする。
「ところで、お前は連絡しなくていいのか?」
「オレもわざわざドギーたちへの通信に付き合わなくても・・」
「違う。ザフトの仲間にだ。お前が向かったオーブには、ミネルバもいただろう・・」
ブラッドが投げかけた言葉に、シンが当惑を覚える。シンはルナマリアのことを考えていた。
「あのときは彼女を助けることしか考えてなくて・・・」
「シン・・お前というヤツは・・・」
シンの答えを聞いて、ブラッドが肩を落とす。
「丁度いい。ここで連絡を入れておけ。ミネルバもお前のことで混乱しているはずだ・・」
「あぁ・・」
ブラッドに言われて、シンもデスティニーからミネルバに通信を入れることにした。
アテナがデスティニーに連れ去られ、追撃に出たマキも消息不明となり、ケルビムの騒然さはさらに膨らみつつあった。
「アテナは依然戻らず、マキも連絡が取れんとは・・」
ドルズがこの事態に歯がゆさを募らせていく。
「隊長、私を2人の捜索に行かせてください。このままアテナを敵の手の内に置いておくのは危険です。」
「いかん。マキの行方が知れぬ以上、お前までいなくなるようなことがあってはならん。マキが返り討ちにされた可能性も高くなっている。」
スーラが進言するが、ドルズに拒否される。
「バーン隊長、報告します!デスティニーはディーナからソルネ・ボルフィード主任を拉致!仲間のMS1機と合流して、第一医療施設に向かいました!」
そこへ兵士がやってきて、ドルズに報告をしてきた。
「医療施設?」
「アテナを治療させている模様です・・なぜこのような行為をしているのか、不明です・・」
眉をひそめるドルズに兵士がさらに報告する。
「どういうつもりなのでしょうか?・・そんなことをしても、アテナの万全をよくするだけだというのに・・」
スーラもこの状況に疑問を感じていく。
「直ちにアテナ救出に向かう。連合の他の部隊にも通達。集中砲火でデスティニーたちを葬り去る。」
「了解。」
ドルズが命令を下し、スーラが答えて敬礼を見せる。ケルビムが医療施設に向かって移動を開始した。
デスティニーの行方を追っていたのは、ミーナたちも同じだった。
「デスティニーはどこに行ってしまったというの・・・?」
ミーナが苦悩を深めてため息をつく。ソラがマイのそばで右往左往する。
「ソラ、ちょっとは落ち着いたほうがいいよ。今のうちに体を休めておかないと、いざってときに疲れて動けなくなっちゃうよ・・」
「だって、シンさんが帰ってきたのに、何もできずにじっとしてるしかないなんて!」
マイが呼びかけるが、ソラはおとなしくしようとしない。
「あっ・・本艦に通信が入りました!相手は、デスティニーです!」
「えっ!?」
ミネルバに入ってきた通信を報告するマイ。その報告にミーナとソラが声を上げる。
「私が応答するわ・・みんな、静かに・・・!」
ミーナがソラたちに呼びかけてから、通信をつなげた。
「ミネルバ艦長、ミーナ・リアスです。あなたの名前は?」
ミーナが落ち着きを見せて、通信に応答する。するとシンの声が届いてきた。
“こちらはシン・アスカ。長らくザフトを離れていてすみません。ですがオレにはやるべきことがあったんです。”
「間違いない・・シンさん・・・!」
シンの声を聞いて声を張り上げようとしたソラの口を、マイが手で押さえる。
“明日にはそちらに合流できると思います。詳しい話はそのときに。”
「あっ!ちょっと待ちなさい!」
シンを呼び止めるミーナだが、その前に通信が途絶えてしまった。
「ダメです・・デスティニーの位置、逆探知できませんでした・・・!」
マイがミーナに報告して、首を横に振る。
「シンさん・・・」
ソラがシンのことを思って、沈痛な面持ちを浮かべていた。
次回予告
救われた命。
たとえ本人が納得しなくても、どうしても助けたかった。
戦争のために無慈悲に失われていく罪なき命。
負の連鎖を断ち切るため、シンが告げたこととは?
求める平和を目指し、舞い上がれ、ミネルバ!