GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-16「決意」
突然苦痛を浮かべて倒れたガル。ガルは彼の私室のベッドに横になっていた。
「あの戦いで、深い傷を受けていたなんて・・・」
シンがガルを見つめて、深刻さを募らせていく。
「シン、これは他の者たちには他言しないでもらいたい。」
ブラッドがシンに向けて呼びかけてきた。
「みんな今、オーブやクラインと戦うことに集中力を高めている。隊長のことを知れば、その集中力が乱れることになりかねない・・」
「でも、結局は戦争をするんだろ?戦渦に巻き込まれて、大切な人を失った人を、また増やすつもりなのか、アンタたちは・・!?」
シンがブラッドに言い返して、感情をあらわにする。しかしブラッドは表情を変えない。
「お前も増やすかもしれない人間の1人だ。いや、それ以上にその悪態を引き起こす敵に従っている・・」
「敵に従っている・・敵・・・!」
ブラッドが続けて投げかけてきた言葉を聞いて、シンが再び記憶を呼び起こしていく。
キラのフリーダムの戦闘の戦火に巻き込まれて、家族が死んだ。またもキラによってステラが命を落とした。
そして自分もアスランのジャスティスに倒され、レイもデュランダルもメサイアとともに果てた。
大切な人も追い求めていた平和も何もかも奪った相手に抗えずに従っている。そんな自分にシンは疑念を抱き始めていた。
(そうだ・・オレはアイツらに、何もかも・・そいつらの言いなりになっても、何もいいことはないっていうのに・・・!)
キラたちに従っていた自分に憤りを覚えるシン。彼はキラたちに、そして彼らにいいようにされていた自分自身に怒りを向けていた。
「オレたちはこれからも戦っていく。平和を脅かす敵と・・混迷を平和だと口走る偽善と・・」
「それがオレたちが選んだ道だ。誰に言われたわけでもない。隊長から言われたわけでもない。オレたち自身で決めたことだ。」
ブラッドとゴードが真剣な面持ちで言いかける。
「隊長は来る者も去る者も拒まなかった。誰もともに戦うことの強要もしなかった。あくまで自分の意思を示しているに過ぎない。」
「ドーガ隊長が、そこまで・・・」
ブラッドの話を聞いて、シンが戸惑いを感じていく。
「オレも、オレの戦いができるだろうか・・・?」
「それはお前次第だ。お前がどの道を選ぶかもな。今のお前には、それを選ぶだけの力が十分にあるさ・・」
シンが口にした呟きに、ゴードが笑みを見せて言いかける。彼らに励まされて、シンは落ち着きを取り戻していく。
そのとき、シンたちがいるガルの私室に通信が入った。ゴードがその通信に応答する。
「何だ?」
“ゴ、ゴードさん!大変です!ドムトルーパー部隊です!”
ゴードの耳にガルの部隊の一員、ドギーの呼びかけが入ってきた。
「クラインの連中・・ここを嗅ぎ付けてきたのか・・!」
ドギーの報告を聞いて。ブラッドが毒づく。そのとき、眠っていたガルが意識を取り戻し、体を起こそうとしていた。
「隊長、今動いたら体に障ります!まだ横になっていないと!」
「そうはいかない・・私も行かなくては・・・ヤツらにいいようにさせるものか・・・!」
呼び止めるブラッドだが、ガルは思いとどまらない。
「ここはオレたちが行くから、隊長はここで休んでてくれ・・!」
ゴードはガルに言ってから、部屋を飛び出していった。
「オレも行きます・・お前はおとなしくしていろ。決して隊長に手を出すな・・・!」
ブラッドはシンに告げてから外に飛び出した。部屋にはシンとガルだけとなった。
「もうじき、お前の機体も直ることだろう・・それでどうするかは、お前の選択次第だ・・」
ガルが声を振り絞って、シンに言いかけてきた。
「敵であるはずのオレにそこまで・・後悔することになるぞ・・・!」
「そのときは戦うことになるだろう・・お前と戦うことになっても後悔しない・・そんな気がしている・・」
忠告を投げかけるシンに、ガルが自分の考えを正直に口にして笑みをこぼす。ガルはシンと戦うことになっても迷いは抱いていなかった。
「まぁ・・これは、私の勝手な解釈、わがままの域を出ないが・・」
さらに呟いたところで、ガルが苦痛を覚えて、胸を手で押さえる。
「そんなになってまで、アンタたちは平和を壊そうとする敵を倒すことを・・・」
「そうしなければ私は、我々は生きながら死んでいることになる・・それは、実際に死ぬことよりも苦痛であり絶望である・・私は、そう思っている・・」
困惑を見せるシンに、ガルが呼吸を乱しながら言いかける。
「私には、お前もそう見えた・・敵のいいなりになり、生きながら死んでいる状態から抜け出すには、徹底的に抗うしかない・・」
「オレは・・オレはもう、大切なものを奪ったアイツらには・・・!」
ガルの言葉を受けて、シンはキラたちへの憤りを感じていく。
そのとき、ガルの私室に医師、ロイ・ホランが入ってきた。
「どいとくれ、どいとくれ!診察させろ!」
ロイは声を張り上げて、ガルに駆け寄って診察を始めた。
「シン・・私はお前に、私の思いを託そうなどとは思っていない・・お前はお前の戦い・・お前だけの人生をすればよい・・」
「オレだけの・・・」
ガルが口にした言葉を受けて、シンは自分が経験してきたことを思い返していく。
「お前がすべきだと思えることを見出したなら、それを貫き通せ・・敵だと判断した相手の言葉には耳を貸すな・・敵の言葉に惑わされるのは愚かしいことだ・・」
「ドーガ隊長・・・」
「自分の道を突き進め・・本当の強さは、実在する力ではなく、その力を動かす信念・・・」
戸惑いを見せるシンに、ガルが言いかける。次の瞬間、ガルは意識を失い、体を横たわらせる。
「オレが・・オレがしなければいけないことは・・・!」
声と力を振り絞っていくシン。自分の中でくすぶっていた感情に突き動かされ、彼も外に飛び出した。
クライン派の手配によって、ドムトルーパーも搭乗するパイロットも増えることになった。ドムの部隊は隠密行動で主に導入されることになった。
そして今、ヒルダが指揮するドム部隊がガルたちの居場所を捉えたのだった。
「いいかい、お前ら。後れを取るんじゃないよ。」
「はっ!」
ヒルダの呼びかけにドムのパイロットたちが答える。
「ここまでの規模になってからの大掛かりな作戦だ。」
「久々に派手にやってやるとするか。」
ヘルベルトとマーズが声を掛け合っていく。
「アンタたちもムダ口叩いてんじゃないよ。もう少しで作戦ポイントだ。」
ヒルダが2人に言いかけて、作戦に集中する。ドムたちの進行方向には、ガルたちが隠れ蓑にしているデブリ帯があった。
ドムたちの進行に対して、ブラッドたちは迎撃に出ようとしていた。
「ダークスが出られるが、ジャッジはまだ完成していないのか・・」
「はい・・あと少しというところで、アイツら・・・!」
ブラッドが整備士と一緒に毒づく。新しくジャッジが開発を進められてきたが、完成に至る前にドム部隊が進行してきた。
「仕方がない。ダークスに乗るしかないな・・」
ゴードがため息まじりに言いかけて、ダークスに乗り込んだ。ブラッドも深刻さを抱えたまま、ダークスに乗り込んだ。
「ゴード・シルバルド、ダークス、出るぜ!」
「ブラッド・J・クロノス、ダークス、発進する!」
ゴードとブラッドがダークスで発進していった。他のダークスはドムたちとの交戦に入ろうとしていた。
ダークスが手の甲の部分に搭載されているビームショットを発射する。ドム数機に命中したが、他のドムには上げたスピードでかわされる。
「グズグズしてると格好の的だぜ!」
「早速だがアレといきますか。」
マーズとヘルベルトが声をかけて、ヒルダが頷いた。
「ジェットストリームアタック!」
ヒルダたち3人のドムがスクリーミングニンバスを起動させて、突撃を仕掛けてきた。ランチャーやビームガン、ビームサーベルを繰り出すドムたちに、ダークスたちが次々に撃破されていく。
「くっ・・なんという突破力だ・・!」
「オレたちの攻撃を跳ね返しちまう・・!」
ダークスのパイロットたちがドムの突撃に毒づく。
「気を抜くな!油断すると命はないぞ!」
ブラッドが呼びかけて、パイロットたちに檄を飛ばす。
「アイツらは迂闊に近づくと、武装と突進力ではじき飛ばされちまう・・あの熱エネルギーの放出には制限時間があるはずだ。距離を取ってタイミングを計って一気に叩く。
「了解、ゴード。オレは左側から攻めます。」
ゴードの言葉を聞いて、ブラッドが言いかける。ダークスが散開して、ドム撃破の好機をうかがう。
だが他のドムたちの射撃、砲撃がブラッドたちの注意をかき乱す。
「アイツら、いやらしいほどに味方をカバーしてくる・・!」
「これじゃ集中力を乱されて、いつか攻撃を当てられてしまう・・!」
ダークスのパイロットたちが焦りを感じていく。
「弱音を吐いている暇はないんだぞ!こんなところでやられて・・うわっ!」
別のパイロットが檄を飛ばすが、そのダークスがドムにビームサーベルで切り裂かれて爆発する。
「くっ・・ダークスでは力不足なのか・・・!」
ブラッドが毒づき、ドムへの反撃を試みようとする。
(ジャッジが完成していれば、ドムなど簡単に撃退できるのに・・・!)
「うっ!」
ジャッジのことを考えた瞬間、ブラッドが乗っていたダークスがドムの砲撃を受ける。
「ブラッド!ちくしょう!」
ゴードが声を上げて、ダークスがドムへの反撃を仕掛ける。ドム数機を撃墜するも、ヒルダたちの突撃に押される。
「このっ!」
ゴードが叫び、ダークスがビームショットを放つ。が、ヒルダたちのジェットストリームアタックの前では威力が足りない。
ゴードのダークスがビームサーベルを手にして、強引にドムを押し返そうとする。だが逆にサーベルを持った手をドムに切り落とされてしまう。
「ホラホラ!これ以上痛い目見たくなかったら、おとなしく下がるんだよ!」
「そういうなら撃墜するなよ。毎度のことだけど。」
言い放つヒルダに、ヘルベルトが皮肉を呟く。彼らのドムがブラッドのダークスとガルたちのアジトに向かっていく。
「これ以上近づけさせるものか!」
ブラッドが言い放ち、ダークスがビームサーベルを振りかざして、ヒルダのドムのビームサーベルとぶつけ合う。
「コイツら、懲りずに逆らってくれるね!」
ヒルダがいら立ちを込めて、ブラッドに言い放つ。
「ヒルダ!」
マーズのドムが飛び込んできて、ギガランチャーを発射する。
「ぐあっ!」
ダークスが左腕に砲撃を受けて、ブラッドがうめく。体勢を崩したダークスが、ヒルダのドムに突き飛ばされる。
「これで終わりにしてやるよ!」
ヒルダが言い放ち、ドムがビームサーベルを持ってダークスに飛びかかる。
(このままではやられる・・!)
絶体絶命を覚えて、ブラッドが目を見開く。彼のダークスは回避が間に合わない。
「ブラッド!」
そこへゴードのダークスが飛び込んできて、ブラッドのダークスを横に突き飛ばした。ブラッドの代わりにゴードのダークスがドムのビームサーベルに切り裂かれた。
「ゴード!?」
自分を庇ったゴードのダークスが致命傷を受けたことに、ブラッドが目を疑う。
「ブラッド・・世界の未来を・・切りひら・・・!」
ブラッドに向けて声を振り絞るゴード。しかし彼のダークスのが爆発を引き起こした。
「ゴード!」
ドムに撃墜されたゴードに、ブラッドが悲痛の叫びをあげた。
自分の答えを見出し、迷いを振り切ったシン。ドックに駆けつけた彼は、漆黒のボディとなったデスティニーを見上げていた。
「もう、動かしても大丈夫なのか・・?」
「あぁ。調整も強化も完了している。前よりも使い勝手がいいはずだ。」
シンが声をかけると、整備士もデスティニーに目を向けて答える。シンは気を引き締めなおしてから、デスティニーに乗り込もうとした。
“何のためにデスティニーに乗るんだ?デスティニーで何をやろうとしているのか、お前は分かっているのか?”
そのとき、シンは後ろにアスランが現れて声をかけられた気がした。
“これが本当に、お前の望んでいることなのか?”
「そうだ。これがオレが見つけた、オレの求めていた答えだ。」
呼びかけてくるアスランの幻影に、シンは振り返らずに言い返す。
「父さん、母さん、マユ、ステラ、レイ、グラディス艦長、デュランダル議長・・大切な人を死に追いやったアンタたちを、オレは許しはしない・・」
“オレたちを憎んで、憎しみをぶつけて、それで何もかも解決するとでも思っているのか?いつまでも過去に執着しても、何も戻りはしない。”
「何もできなかった、力がないのが悔しかった・・それがオレの戦うきっかけだった。戦争のために死んでいったみんなのために、オレは戦う。そうしなければみんなが浮かばれなくなる・・」
アスランが投げかける言葉を、シンは真剣な面持ちのままはねつける。
「それに何も戻らない、何も得られないのはアンタたちの世界だ。屁理屈こねて、身勝手でいい加減なことを言って、自分たちが正しいんだと押し付けてくる。それでオレたちやみんなに、何が手に入るっていうんだ・・!?」
“違う。オレは議長のやろうとしたことが、世界を滅ぼすことになると思い知らされた。全てが管理された世界で生きようとしたお前たちが、正しいと思えるわけがないだろう。”
「平和を壊す間違いを失くせる1番の方法なら、その世界を選ばないわけがない。何の方法も考えずに自分たちを押し付けるだけのアンタたちの世界よりは確実だ。」
“そう言って全てを壊し、未来をも壊す。お前はそんな世界を求めていたというのか?”
「自分たちを棚に上げるな・・それがアンタたちの世界であるのに、それをオレたちに責任転嫁している・・・!」
問い詰めてくるアスランに対して、シンが徐々に感情をあらわにする。
「オレは大切な人の命を踏みにじっておきながら、平和だと正しいだと言い張る、アンタたちの世界を認めない・・平和を壊す本当の敵であるアンタたちを、オレはこの手で倒す・・!」
決意を揺るぎないものとして、シンはデスティニーに乗り込んだ。同時にアスランの幻影が消えた。
シンはデスティニーを起動させて、発進に備える。
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
シンの駆るデスティニーが、ガルたちのアジトから飛び出してきた。漆黒の装甲となったデスティニーは、光の翼と宇宙空間と溶け込むような機影によって、紅の光が動いているようだった。
ドムたちに追い込まれるダークスたちに、デスティニーが向かってきた。
「な、何だ!?」
宇宙にきらめいた紅い閃光に、ヒルダが声を上げる。次の瞬間、アロンダイトビームソードを手にしたデスティニーが、素早く飛び込んできてヒルダのドムの右腕と下半身を切り裂いた。
「があっ!」
コックピットにも衝撃が伝わって、ヒルダがうめく。体勢を崩したドムが虚空に流れていく。
「ヒルダ!」
「あのヤロー・・!」
ヘルベルトが声を上げて、マーズがいら立ちを見せる。だが2人のドムも、デスティニーに続けて切り裂かれる。
「ぐっ!」
「このぉっ!」
ドムが損傷し、マーズとヘルベルトがうめく。2機のドム身動きが取れない状態で流されていく。
動きを止めたデスティニーが、他のドムたちとダークスたちにその漆黒の姿を見せた。
「あれは、まさか・・・!?」
「ありえない・・だってあの機体は・・・!?」
ドムのパイロットたちがデスティニーの登場に驚愕する。ビームソードを構えて、デスティニーがドムたちに飛びかかる。
デスティニーが振りかざすビームソードが、次々にドムを切り裂いていく。スクリーミングニンバスを起動させるドムだが、それでもビームソードの一閃に両断される。
さらにデスティニーは左手で右肩に搭載されていたビームブーメランを手にする。ビームブーメランからビームの刃を出して、ビームサーベルのように扱う。
長短2本の刃を振りかざすデスティニーに、ドムは次々に切り裂かれて爆破していく。残るドムがわずかとなり、パイロットたちはデスティニーへの恐怖に駆られる。
デスティニーは1度ビームブーメランをしまい、両手でビームソードを手にして構える。
「オレは戦う・・お前たちのような、偽物の平和でいい気になってる本当の敵と!」
シンが決意を言い放ち、デスティニーが飛びかかってビームソードを振り下ろす。力強い一閃が、残るドムを両断した。
(何という力・・こちらが調整を施しているとはいえ、ここまで強力だとは・・・!)
ブラッドがシンの駆るデスティニーの力に脅威を覚える。
(その機体・・オレたちが1度取り押さえることができたのは、奇跡だったのか・・オレたちの危機を救ってくれたことも・・・!?)
驚愕を募らせていくブラッド。ダークスたちにデスティニーが振り返る。
本当の平和のため、キラたちと敵対すること、ブラッドやガルたちとともに戦うことを、シンは心に誓っていた。
(戦いのない世界を取り戻すため、オレは戦う・・たとえオレに悲劇しかないとしても・・・)
次回予告
新たな運命を選んだシン。
弄ばれて戦いに駆り出される命を救うこと。
利用でも偽善でもない、戦いのない本当の世界を取り戻すこと。
平和を求める両者の結束はつながった。
小さな魂、守り抜け、デスティニー!