GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-15「黒のレジスタンス」
メサイアでの戦闘が終わり、シンはキラやアスランとの和解を果たした。彼は世界のため、平和のための戦いを続けていた。
だがシンは心の中で、この平和に対して疑念を抱いていた。今の自分は自分を貫けず、生きながら死んでいるだけなのだと。
しかしシンには抗うだけの意思も強さも持ち合わせていなかった。抵抗の術を見出せず、彼は従うしかなかった。
ただただ指示に従うだけの日常を過ごしていたシン。彼は暗躍する集団の調査に乗り出すことになった。
「私も一緒に行くわ、シン・・いくらなんでもあなただけじゃ・・」
デスティニーで発進しようとしたシンに、ルナマリアが声をかけてきた。ところがシンは首を横に振ってきた。
「オレだけでやるしかない。インパルスとかじゃエネルギーが持続しないし、アスランたちも他の任務で出張っている・・」
「シン・・・危なくなったら、すぐに引き返してきて・・ムリしなくていいから・・せめてすぐにこっちに知らせてきて・・・」
「ルナ・・分かってる。すぐに知らせる。いざというときは頼りにするからな・・」
心配するルナマリアの気持ちを受け止めて、シンが微笑んで頷く。シンはデスティニーに乗り込んで、発進準備を整えた。
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
シンの乗るデスティニーが発進し、宙域に飛び出した。
(ここ数日に出現した地点。場所もバラバラで、移動しているにしては不規則。マジでバラバラだ・・)
シンがデータに目を通して、肩を落としてため息をつく。
「出現が確認された場所にもう1度探りを入れるしかないか・・」
シンは気を引き締めなおして、調査を行うことにした。デスティニーは集団が目撃された3ヵ所目の地点にたどり着いた。
その宙域にはデブリがあり、隠れ潜むには申し分ない場所だった。
(どこかに隠れている可能性が高い・・だが、レーダーには何も・・・)
シンが周囲を警戒し、レーダーにも目を向ける。しかし周囲に兵器や艦が隠れている様子は見られない。
「ここにはいないようだ・・他の場所の調査を・・」
シンが次の場所へ移動しようとした。
そのとき、デスティニーの両手足に何かが巻きついた。ワイヤーが巻かれて、デスティニーが身動きが取れなくなる。
「何っ!?」
声を荒げるシン。ワイヤーを伝って、デスティニーに電撃が流し込まれる。
「ぐあぁっ!」
電気ショックでうめくシン。ワイヤーを射出していた機影が、岩石の影から姿を現した。
「く、黒い機体・・!?」
突如出現した複数の黒い機体に、シンが声を荒げる。動きを封じられているデスティニーに、さらにビームの射撃が飛び込んでくる。
爆発に巻き込まれたデスティニーは、ワイヤーの拘束を解かれても動きを見せなくなった。黒い機体たちがデスティニーを取り囲んできた。
「さすがのデスティニーも、不意を突かれて畳み掛けられればこのざまになるか・・」
「口を慎め。本当に不意を突いたから言えることだ。本来ならデスティニーはこのダークスをはるかに上回る戦闘力を発揮して来くるんだぞ。」
黒い機体「ダークス」のパイロットたちが言葉を交わしていく。
「デスティニーを連れていくぞ。情報を引き出したいし、ヤツらに対抗する切り札になるかもしれない。」
パイロットたちが言いかけて、ダークスたちがデスティニーを連れて移動していった。
「シン!応答して、シン!」
シンが発進して1時間ほどが経過していた。定時連絡がないことで、ルナマリアがシンに通信を呼びかけた。しかしシンからの応答がない。
「シンと連絡つかないって・・!?」
管制室にキラが駆けつけて、ルナマリアに声をかけてきた。
「はい・・こちらから呼びかけても、何も応答がないんです・・!」
「そんな・・・最後に反応をキャッチした場所は・・!?」
ルナマリアからの答えを聞いて、キラがレーダーに目を向けて記録を確かめる。
「僕がその場所に行ってみるよ。君はシンを呼び続けて・・」
キラはルナマリアに呼びかけると、シンの捜索のために出ていった。
フリーダムを駆るキラの他、他の捜索部隊もシンの捜索を行った。しかし彼らは手がかりすら見つけることができなかった。
その後も捜索が行われたが、シンもデスティニーも見つけられず、生死不明扱いとされることになった。
しかしシンは死んではいなかった。奇襲を受けた彼だが、連れて行かれただけで彼自身に負傷はなかった。
「オ・・オレは・・どうしたんだ・・・?」
意識を取り戻したシンが体を起こす。そこは彼の知らない場所で、薄明りだけが照らしている薄汚れた部屋だった。
「ここは、どこだ・・・!?」
「オレたちのアジトの1室だ。」
辺りを見回すシンに、1人の青年が声をかけてきた。
「アジトって・・アンタ、誰だ・・!?」
「オレの名はブラッド・J・クロノス。お前たちにとっては、海賊だとかレジスタンスとかに当たる人間となるな・・」
身構えるシンに青年、ブラッドが名乗る。
「お前はオレたちの奇襲を受けて、オレたちのアジトに連れ込まれたのだ。」
「オレに何をしようってんだ・・デスティニーは・・!?」
「お前の乗っていた機体は、破損部分を修復中だ。もっとも、データも収集しているところだが。」
起き上がるシンにブラッドが説明をする。
「ついて来い。お前の機体の前に連れていく。そこでオレたちのことを話してやる・・」
シンに告げると、ブラッドは部屋を出ていった。シンはいら立ちを抱えたまま、ブラッドを追いかけた。
シンが連れ込まれたブラッドたちのアジトは、古ぼけて薄汚れていたが、基地や軍事施設に劣らない設備を設けていた。2人はそのアジトのドックに来た。
「おぅ。来たか、ブラッド。お前もここに来たのか。」
ドックにいた1人の男が、ブラッドとシンに声をかけてきた。茶髪と長身をした男で、気さくな雰囲気を宿していた。
ダークスの1機の肩の上に乗っていた男は、駆け下りてきてシンたちの前にやってきた。
「お前か、あのデスティニーってヤツのパイロットは。あれだけの武装揃いのMSを動かすのは大変だろうな。」
「何なんだ、アンタ?・・アンタも、コイツの仲間なのか・・?」
気さくに振る舞う男に、シンが眉をひそめる。
「そうだ、自己紹介しておくか。オレはゴード。ゴード・シルバルドだ。」
男、ゴードがシンに自己紹介をする。
「アンタたちは何なんだ・・何をやってるんだ・・まさか、また戦争を仕掛けようって魂胆なのか・・・!?」
シンがブラッドやゴードたちに対して鋭い視線を向ける。シンはブラッドたちに疑念を傾けていた。
「ならばお前たちが仕掛けたのは戦争でないと言えるのか?」
そこへ声がかかり、ブラッドたちとシンが振り返る。体格がしっかりした、年老いた男が現れた。
「隊長、起きてきていいのですか?昨日も倒れたというのに・・」
「いくらなんでも、1日中寝てばかりでは体がなまるからな・・」
ブラッドが声をかけて、隊長と呼ばれたその男が淡々と答える。
「お前がシン・アスカ。デスティニーのパイロットか。」
「アンタもオレのことを知っているのか・・・!?」
近づいてきた隊長にシンが疑問を投げかける。
「私の名はガル・ドーガ。かつてザフトの1隻の艦長を務めていたことがある。」
「ザフトの・・!?」
隊長、ガルにシンが驚きを見せる。
「あのメサイアでの戦いにも参加していた。無様にも撃墜されて、艦の中で私だけのこのこと生き残ってしまった・・」
「あのときの・・そのあなたが、何でこんなことを・・・!?」
語りかけるガルにシンが疑念を募らせていく。
「今の世界を支配している、偽りの平和を打ち倒すために、我々は集い、戦っているのだ。我らを守るためにな・・」
ガルが投げかけた言葉を聞いて、シンはメサイアでの戦いを思い返していた。
シンは、ザフトはキラたちとの戦いに敗れて、彼らと和解することになった。だがそれは全て、キラたちによって促されたものでしかないと、彼は心の奥で思っていた。
「お前たちもかつてはギルバート・デュランダル議長の示した世界とデスティニープランの下に戦うことを誓った。それを全て打ち砕いた敵の軍門に下るのは滑稽。そう思わなければ、戦いの決意は浅はかということになる・・」
「それは・・オレは、レイや議長のために・・!」
「それはお前自身が決断した選択だったのか?他の誰かに決められたものではなのか?」
言い返そうとするシンだが、ガルに問い詰められて言葉を詰まらせる。
「私も議長とデスティニープランには賛同していた。だが相手はフリーダムにジャスティス、エターナルとアークエンジェルだ。ヤツらの力押しに我々は押し込まれることになった・・そこは私は君を非難する資格はない・・」
ガルは語りかけて、シンに背を向けた。
「だがヤツらのいいようにされて言いなりになっていることは許しがたいことだと言っておく。我々にとってそれは死よりも重い苦痛だ。」
「それに抗うために、オレたちはオレたちの戦いをしているのだ。己の存在を殺されないために。」
ガルに続いてブラッドも声をかけてきた。彼らの言葉がシンの心を揺さぶっていく。
「偽りの平和に従うのか、抗うのか。お前が本当に求めているのはどちらなのだ?」
「オレは・・・」
「ここにいるのは、オーブやクライン派に反旗を翻すことを誓っている者ばかりだ。ザフトだけでなく、地球連合だった者、それ以外に軍人でなかった者もいる。」
迷いと苦悩を深めるシンに、ガルが自分たちの素性を語る。
「オレも実はMS好きで、プライベートで乗り回すだけだったんだけどな・・」
ゴードが続けて言いかけるが、浮かべてきた気さくさを曇らせていく。彼も悲劇を経験しているが、それを迂闊に口にしたくないのは、シンも痛感していた。
「とにかく、損傷していたお前の機体は修理中だ。データを元にして、さらに改良を加えてな。」
「改良・・・!?」
ゴードが口にした言葉に、シンが眉をひそめる。
「近距離はもちろん、中距離も遠距離もこなせる武装と性能。それでも歯が立たなかった相手がいる・・」
ゴードのさらなる言葉で、シンはアスランとの戦いを思い出していく。
全ての武器も平和への決意も打ち砕かれ、絶望に打ちひしがれることになった瞬間に、シンは憤りを募らせていた。
「ちょっと性能を引き上げてやれば、多少はマシになるだろうな。後はお前の腕次第だな。」
「オレ次第って・・敵であるオレにその後も乗せるつもりなのかよ・・!?」
「だってお前の機体だろ?お前でないとまずまともに動かせないって。」
淡々と言いかけるゴードに、シンはますます疑問を覚えていく。
「何で・・何でそこまで・・・!?」
「お前も本当の平和を望んでいる1人だと、私が判断したからだ。判断というよりは直感と言ったほうが正しいか・・」
「本当の平和・・・」
「お前も今の世界に本当の平和をもたらす1人となる。お前が自分のやるべきことを自分で見出すことができたなら・・」
ガルが投げかける言葉に、シンの心が揺れる。そんな彼の肩にガルが手を乗せる。
「お前のことも聞いておきたい。場所を変えよう・・」
「尋問って、ことですか・・・!?」
「そんな息の詰まるものではない。本当に単純に、お前のことを聞きたいだけだ。」
警戒を強めるシンに、ガルが笑みを見せて答える。
「隊長、私もご一緒してよろしいでしょうか?」
ブラッドがガルに進言をしてきた。
「オレも一緒に行くぜ。いいですよね、隊長?」
「ゴード・・いいだろう。2人も付いてこい。」
ゴードも声をかけてきて、ガルは場所を変える。シン、ブラッド、ゴードも彼についていく。
彼らが来たのはガルの私室だった。彼らが中に入り、ガルが椅子に腰かける。
「シン・アスカ。ミネルバに乗艦していたザフトの新星。インパルス、そしてデスティニーに搭乗し、1度はあのフリーダムを落とした・・」
「今じゃもう、過去の栄光ですよ・・・」
話しかけるガルに、シンが憮然とした態度を見せる。
「そのお前が、自分たちが目指してきた平和をぶち壊した敵の言いなりになっている。そんなことでは、決意や信念が浅はかだと罵られても文句は言えんな。」
「違う!それは・・!」
「私は許せないものに従うのは死んでもゴメンだ。かつての私の部下はそんな敵のために命を落とした。敵に従うことは、部下たちへの裏切りとなる。」
ガルが口にする信念と感情に対して、シンは言葉を詰まらせてしまう。
「お前の仲間や家族、死んでいった者たちが、今のお前の姿を願っていたと思うか?大切な者たちの思いを、お前が踏みにじるのか?」
ガルに問い詰められて、シンは記憶を巡らせる。彼は家族や仲間の思いと死を思い返していく。
戦火に巻き込まれて、両親と妹を一瞬にして失った。怒りを爆発させても何もできない自分の無力さを呪い、シンは軍に入った。
再び始まった戦争の中、ステラと出会い、シンは守ることを心に誓った。しかし戦いから救い出すことができず、ステラは命を落としてしまった。
ステラを死に追いやったキラのフリーダムを怒りをぶつけて打ち破ったシン。彼はデスティニーを受け取ると同時に、デュランダルの示す世界のために戦うことを誓う。
だがアスランの駆るジャスティスによって、シンのデスティニーが打ち砕かれることになってしまった。自分が求めていた平和も信念もともに。
力も大切なものも失ったシンは、キラたちに導かれる以外の選択肢を見つけられなかった。
(これが、本当のオレなのか?・・大切なものを奪ったアイツらの言いなりになって、悔しくないのか?・・恥ずかしいと思わないのか・・・?)
メサイアでの戦いの後から今までの自分を情けなく思い、シンが憤って、両手を強く握りしめる。
「このまま、アイツらを放っておいたら、本当の平和は来ない・・また、オレみたいなヤツが出てくる・・・」
「お前も吹っ切れたということか・・」
真剣な面持ちを見せるシンに、ブラッドが声をかけてきた。
「我々はこれからも戦いを続ける。ヤツらが振りかざす偽者の平和を打ち砕き、真の平和を取り戻すために。」
ガルがシンに改めて、自分たちの考えを口にする。ブラッドもゴードも同じ決意だった。
「そうだ・・私個人としては、早く成し遂げなければならないことでもあるのだ・・・」
「ドーガ隊長・・・?」
思いつめた様子を見せるガルが意味深に思えて、シンが眉をひそめる。
そのとき、ガルが突然顔を歪めて、胸を手で押さえてきた。
「た、隊長!?」
彼の異変にブラッドが声を上げる。
「隊長、しっかりしてくれ!」
倒れかかったガルを、ゴードも駆け寄って支える。横たわるガルが胸を押さえたまま苦しみ続ける。
「どういうことだ・・アンタ、まさか・・・!?」
シンがガルの様子を目の当たりにして、緊張を覚える。するとブラッドが深刻さを浮かべて答えてきた。
「ドーガ隊長は、メサイアでの戦闘の際の負傷で、心臓を弱めてしまったのだ・・・」
ブラッドが口にしたガルの容体に、シンは深刻さを募らせる。彼はガルの抱えている苦しみを痛感していた。
次回予告
自分の求めていた本当の平和は何か?
自分が思い描いていた平和の形とは何か?
真の平和の世界のために、偽りの平和の使者と戦う者たち。
彼らの意思を目の当たりにして、シンは?
真の漆黒、打ち破れ、ダークス!