GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-14「真の平和」
ディーナに降り立った黒いデスティニー。乗っていたのはシン・アスカだった。
デスティニーから降りたシンは、メットを外して素顔をさらした。彼のことは連合でも周知のことであり、アテナも知っていた。
「あなたは、シン・アスカ・・やはりザフトのパイロットが乗っていたのね・・・」
アテナがシンを見つめて呟きかける。シンはディーナの兵士たいや研究員たちを見回して、閉ざしていた口を開いた。
「この子の治療をしろ。薬の投与や肉体改造などが施されている彼女の体を、元に戻したい。」
シンがディーナの兵士たちに要求を持ちかけてきた。彼からのあまりの予想外の言葉に、兵士や研究員たちは驚きを隠せなくなる。
「ふざけるな!地球連合が、ザフトのことを聞くはずがないだろうが!」
兵士の1人がいら立ちをあらわにして、シンに銃口を向けてきた。するとシンがまたデスティニーに乗り込んで操縦する。
デスティニーが素早くビームライフルを手にして、ディーナの無人の電波塔を射撃した。電波塔の先端が爆発を引き起こす。
「オレは彼女を助けたいだけだ。だがオレの言うことを聞かずに攻撃してくるなら、オレも容赦しない・・」
「貴様、勝手なマネを・・!」
忠告を送るシンに、兵士たちがいきり立つ。
「このことを聞いてくれるなら、オレはおとなしく引き下がる。あの子を治すんだ・・!」
「そんな勝手なこと、我々が素直に聞くと思っているのか!?」
「第一、オレたちを殺せば、お前が助けようとするヤツが生き残る可能性もなくなることになる・・貴様にとって都合のいいことなどないぞ!」
シンがさらに呼び掛けるが、兵士たちは聞き入れない。
「それはお前たちが言うことを聞かなくても同じことだ。どうしても助からないと言い張るなら、お前たちを叩き潰すことも迷わない・・・!」
シンは動じることなく忠告を投げかける。その気になればディーナの兵士たちを皆殺しにすることも、シンは躊躇していなかった。
「その要求、私が受け入れるわ。」
そこへソルネが出てきて、シンに声をかけてきた。
「私はこのディーネ所属、化学班主任のソルネ・ボルフィードよ。エクステンデッドの研究団に所属していたことがあるわ。」
ソルネが語りかける、シンが再びデスティニーから降りてくる。
「でもこのディーネは軍事施設。療養器具は最小限のものしか置かれていなくて、エクステンデッドの手術も器具や薬が足りないのが現状よ。」
ソルネが真剣な面持ちでシンに話していく。
「それに、おそらく薬やその後遺症が根深く残っている。手術しても完治できる可能性は極めて低い。たとえナチュラルやコーディネイターの最高峰の医者や科学者が行ったとしてもね・・」
「完全に治せなくても、できるだけいい方向に持っていってくれ。そして彼女を戦いから遠ざける・・」
「戦いから遠ざける・・それは本人の意思もあるから、完全に聞き入れることはできないわね・・」
シンの呼びかけにソルネが冷静に言葉を返していく。
「でも、手術をやれというならやるわ。完治の見込みがないけど・・」
ソルネは真剣な面持ちで言いかけて、シンに歩み寄る。
「私が言う地点まで連れていって。その場所なら手術の行える施設も機材もそろっているわ。」
「ボルフィード主任、あなた、血迷ったのですか!?」
シンに提案を持ちかけるソルネに、兵士たちが怒鳴りかかる。
「いざとなれば私を人質にとればいい。あなたが完全に損をすることはないはずよ・・」
「オレの損得じゃない。戦いのために弄ばれている命を助けるためだ・・」
ソルネが投げかけた言葉に、シンは真剣な面持ちのまま答える。
「行きましょう・・・みなさんはここにいてください。少なくとも追跡は絶対にしないように。」
ソルネが兵士たちと研究員たちに呼びかける。
「貴様、我々を裏切るつもりか!?」
「裏切り者と見られても構わないわ。でも敵であるはずの彼女を助けようとしている彼を、どうしても邪険にはできないわ。」
怒鳴りかかって銃口を向けてきた兵士に、ソルネが真剣な面持ちのまま言いかける。
「手出しすれば撃墜は必死よ。デスティニーの力は、あなたたちも十分に分かっているはずよ・・」
兵士たちに忠告を入れてから、ソルネはシンに近寄った。シンはソルネを連れて、デスティニーに乗り込んだ。
「このまま行かせるものか!」
「よせ!刺激するな!」
兵士の1人がデスティニーに対して銃を構えるが、他の兵士に止められる。デスティニーはシン、アテナ、ソルネを乗せてディーネから発進していった。
乱入してきたデスティニーによって、フリーダム、ジャスティス、アカツキは負傷させられた。ムウも攻撃された衝撃で左腕を痛めてしまった。
「ふぅ・・不可能を可能にする男の名が泣くな・・」
包帯を巻いている左腕を見て、ムウが皮肉を口にする。
「フリーダムとジャスティスは軽傷で、修繕すればすぐに出られるそうよ。でもアカツキは少し時間がかかるって・・」
マリューがムウに状況を報告する。
「そうか。どのみちオレがこのざまだ。今は休んどけってことだろうな・・」
ムウが皮肉を口にして肩を落とす。
「それにしても、なぜデスティニーがオレたちを・・・!?」
アスランがデスティニーについて疑問を投げかけてきた。
「明らかに性能も戦闘力も高くなっていた。僕もアスランも止められなかった・・」
キラも深刻な面持ちを見せて言いかけてきた。
「本当にシンくんが乗っていたのかな?あのデスティニー、体色が黒だったし・・他の人が乗っていたとは考えられないの・・?」
マリューもデスティニーに対して疑問を感じていく。
「いや、乗っていたのはシンだった。あの動き、戦い方、間違いなくシンの操縦だった・・」
アスランがキラたちに実感したことを打ち明けた。
「真っ直ぐかつ力強い攻撃。デスティニーの攻撃力を引き出す要因になっていた・・ただ・・」
「ただ?」
「心の揺らぎとか、むき出しの感情が全然感じられなかった・・今までのシンとは間違いなく違う・・」
疑問符を浮かべるマリューに、アスランが語りかける。キラも今までのデスティニーでなかったことを痛感していた。
「本当、どういうことなのか、あの機体・・あの巨大MSからパイロットを引っ張り出して、どこへ・・・?」
ムウがさらに疑問を投げかけていく。
「もしかして、あのベルリンのときのように・・・」
アスランが口にした言葉を聞いて、キラがベルリンでの戦いを思い出して、動揺を覚える。彼はデストロイを、ステラを止めようとした自分を、シンの駆るインパルスが攻撃してきたのを思い出していた。
「あのときのように、乗っていたのが知っている人だったら・・・」
「いや、シンもきっと分かっていたんだろう・・似た姿、似た声だということに・・・」
キラが口にした言葉にアスランが言い返す。
「ステラ・・・」
ムウがステラのことを思い出して、深刻さを募らせていく。
「気にしないで、マリュー。あのときのあなたは連合の指揮官としての記憶しかなかった。ムウじゃなかったわ・・」
マリューに励まされて、ムウが微笑んで頷いた。
「とにかく、今は体勢を整えて、万全を期すのが先決だ。」
そこへカガリがやってきて、キラたちに声をかけてきた。
「そうだね・・何かあったときに何かできなかったら、何もできないから・・・」
キラが微笑んで、カガリと頷き合う。
「あの黒いデスティニーについては、こちらでも調べてみる。何の目的で行動しているのかも・・」
真剣な面持ちで言いかけるカガリ。体勢を整えつつ、オーブはケルビムやデスティニーの動向を探ることにした。
デスティニーの行方を捜索したルナマリアだが、デスティニーを発見できず、インパルスのエネルギーを考慮して、ミネルバに引き返すことにした。
「ホーク隊長、デスティニーは!?シンさんは!?」
着艦したインパルスから降りてきたルナマリアに、ソラが駆け寄ってきた。するとルナマリアが首を横に振ってきた。
「捜索範囲を広げてみたけど、相手はデスティニー。インパルスじゃ追いつけるはずもないわ・・」
「そんな・・ホントに、どこに・・・」
ルナマリアが言いかけると、ソラが落ち込んで、胸を締め付けられるような気分に襲われる。
「残念だけど、これ以上の今すぐの創作は極めて難しいわ。こちらの体勢を整えてからでないと・・」
「でも・・・!」
「ファルコンも損傷を受けているし、あなたは今、乗れる機体がないわ。それで長時間の捜索なんてできるはずもない・・」
不安を募らせるソラをルナマリアが呼び止めていく。
「すぐにでも飛び出して探しに行きたいのは私も同じ・・でも今は我慢するしかないの・・」
「ホーク隊長・・・私・・・!」
ルナマリアからなだめられるソラだが、どうしても納得ができなかった。
「ソラ・・・」
落ち込んでいるソラを見て、ハルも困惑を感じていた。
デスティニーを追ってマグナでケルビムを飛び出したマキ。彼女は血眼になってデスティニーとアテナを探していた。
「アイツ、どこに!?・・絶対に見つけて、この手でバラバラにしてやる・・・!」
デスティニーへの怒りを募らせるマキ。そのとき、マグナのレーダーが1つの熱源を捉えた。
さらにマキ自身も、移動していくデスティニーの姿を視界に入れた。
「いた!」
マキが目を見開いて、マグナがデスティニーに向かってレールガンを発射した。デスティニーは機敏に動いて、ビームをかわす。
「アテナを返せ!でないと木端微塵に吹き飛ばす!」
デスティニーに向けて怒鳴りかかるマキ。マグナがマグナランチャーにエネルギーを集めていく。
「探し回ってエネルギーを消耗しすぎてる・・撃てるのは1発だけ・・・!」
マグナのエネルギー残量を確かめて、マキが毒づく。
「マグナランチャーを使えば、確実に動けなくなる・・でも、そうしないとデスティニーは倒せないし、このままアテナを連れていかれるぐらいなら、そうなっても構わない・・・!」
決意を強めたマキがデスティニーを見据える。デスティニーがビーム砲を構えて、マグナに狙いを定める。
「来いよ・・引き付けて、至近距離で確実に・・素早く動いてきてもよけられないくらいに・・・!」
目つきを鋭くするマキがデスティニーを見据える。デスティニーがビーム砲を発射して、マグナがジャンプしてビームをかわす。
「仕留めたかったらこっちへ来い!」
マキがデスティニーを挑発する。デスティニーが右手でビームライフルを手にして、マグナに近づいてくる。
そしてデスティニーがビームライフルの射撃でけん制を仕掛けながら、左手のパルマフィオキーナをマグナに当てようとした。
「今だ!」
マキがマグナランチャーの発射をしようとした。
そのとき、上空から突然、複数の光が雨のように降り注いできた。光はマグナに命中して、マグナランチャーを破壊した。
「何っ!?」
思いもよらない事態にマキが驚愕する。マグナランチャーを攻撃されて、マグナがビームを放てなくなる。
そこへデスティニーが飛び込んで、マグナの胸元に左手を当てて、パルマフィオキーナで攻撃する。
「ア・・アテ・・・ナ・・・!」
ビームの閃光がマグナのコックピットにも降りかかる。マキが光に包まれて、そして消えていった。
デスティニーの手にかかり、マグナが爆発を引き起こした。
「マキ・・マキが・・・!」
マグナが爆発してマキが死んだことに、アテナが絶望を覚える。彼女のそばでシンが真剣な面持ちを、ソルネが深刻な面持ちを浮かべていた。
「お前・・よくもマキを!」
「アイツは攻撃を仕掛けてきた。信号を送ったのに、向こうは無視して攻撃を続けた・・もはや倒すしかなかった・・・」
怒鳴りかかるアテナにシンが表情を変えずに言いかける。シンは光通信をマキに送っていたが、彼女は受け入れずに攻撃を続けた。
「アイツは君を助けようとしていたとしても、逆に君を傷つけることをしようとしたんだ・・・」
「そんな・・・マキ・・・!」
シンが口にした言葉にこれ以上反論できなくなり、アテナは歯がゆさを浮かべるばかりになった。
“シン、大丈夫だったか?”
そのとき、デスティニーに向けて通信が入ってきた。同時にデスティニーとは別の黒い機体が現れて降下してきた。マグナのマグナランチャーを狙撃したのはその機体の2つのビームライフルだった。
「お前も降りてきたのか、ブラッド・・」
“あぁ。こちらでの作業が片付いたので、オレだけ先に降りてきた。ドギーたちだけでも問題ないのは、シンも分かっていることだ。”
シンが声をかけると、通信の相手、ブラッド・J・クロノスが答えてきた。
“いくら今のデスティニーといえども、オーブのあの3機の機体を1度に相手にするのは無謀と思えたが、どうやらオレと“ジャッジ”の出番はなかったようだ。”
「いや、今はブラッドがいてくれなかったら危ないところだった・・すまなかった・・」
ブラッドが投げかける言葉にシンが答える。
“このままお前と同行する。彼女を連れ出したお前は、派手に動き回ることができないのだろう・・?”
「あぁ・・頼む、ブラッド・・」
ブラッドの呼びかけにシンが答える。デスティニーは改めて、ジャッジとともに移動を行った。
アテナとソルネが連れ去られた事態は、連合の他の基地や部隊にも知らせが届いていた。
そして連合第一医療施設は、デスティニーが接近してきているのを捉えていた。
「デスティニーの他に、もう1機こちらに近づいてきています!記録にないアンノウンです!」
通信士の報告が主任の耳に届く。その後ほどなくして、デスティニーとジャッジが施設の前に着地した。
施設にいた人の多くが正面玄関の前後に集まってきた。デスティニーからシンとソルネがアテナを抱えて出てきた。薬の投与から時間がたっていて、アテナは疲弊して意識を失っていた。
「ソルネ・ボルフィード主任・・これはどういうことですか・・・!?」
「詳しい話は後でするわ。この子の手術を行うから、すぐに準備を。」
声をかけてきた主任にソルネが呼びかけてきた。
「それと、あの2機とそのパイロットには手を出さないで。手術が無事完了するまで見守るだけよ。下手に手を出せば迎撃される。肝に銘じておいて。」
「あの2機は敵機ですよ!野放しにする道理はないでしょう!」
「刺激すればこちらが致命的な損害を受けることになるのも確かよ・・」
抗議の声を上げる主任を、ソルネが言いとがめる。主任は腑に落ちないながらも、渋々聞き入れるしかなかった。
「一刻を争うわ。みんな、急いで。」
ソルネはアテナを連れて施設の手術室に向かった。それを見届けて、シンが安堵の吐息をついた。
「それでよかったのか、シン・・?」
ブラッドが真剣な面持ちでシンに声をかけてきた。
「あぁ。いいんだ・・戦うために命が弄ばれていいはずがない・・これが、オレがやるべきことだったんだ・・・」
「そうか・・」
シンも落ち着いた様子で答える。ブラッドが彼に対して小さく頷いた。
(ブラッド、オレがこの決断をできたのは、お前たちのおかげだ・・オレは本当に、迷いを振り切れたと思う・・・)
シンが心の中でブラッドに感謝を感じていた。
(そうだ・・お前たちと出会っていなかったら、オレは今も、生きながら死んでいたかもしれない・・・)
記憶を思い返していくシン。彼はこれまでの戦いや、ただただ言いなりになっていたことを。
そしてその中で、任務中にて行方不明とされていた期間のことを。
次回予告
取り戻された平和。
しかしそれは偽りのものでしかない。
傷つき倒れた戦士の前に現れたのは、偽りの平和と戦う者たちと、彼らが直面している悲劇だった。
偽善の闇、撃ち抜け、ジャッジ!