GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-13「黒き運命」
ラグナログと交戦するインパルスたちの前に現れた機体。それは黒に染め上げられたデスティニーだった。
「あれは、デスティニー・・・!?」
「色は黒ですけど、姿かたちは間違いなくデスティニーですよ・・・!」
ルナマリアとハルがデスティニーを見て、動揺を膨らませていく。
「デスティニー・・シンさん・・シンさんだよ!」
ミネルバにいたソラが、デスティニーを見て喜びを覚える。ミーナもマイもデスティニーを目にして、驚きを感じていた。
「本物のデスティニー・・・色が違うし、別機体ということはないの・・・!?」
「あのエネルギーは間違いなくデスティニーです・・シグナルも同じです・・!」
声を上げるミーナに、マイが報告をする。
「それじゃ、乗っているのは・・・!」
「それは分からないわ。別のパイロットが乗っているのかもしれない・・」
マイがさらに言いかけるが、ミーナはデスティニーに対する懸念を消せないでいた。
(あれはデスティニー・・しかしなぜ黒くなっているんだ!?・・乗っているのは、本当にシンなのか・・・!?)
アスランがデスティニーを見て、コックピットにシンがいるのかを気にして、困惑を感じていく。
(ここは呼びかけるしかない・・乗っているのがシンなのか、それとも別の誰なのか・・・)
思い立ったアスランが通信回線を開いて、デスティニーに呼びかけた。
「そこのMSのパイロット、名前と所属を知らせてくれ。」
アスランは気を落ち着けて、デスティニーに向けて呼びかけた。
「シン・・乗っているのはシンなのか・・・!?」
思い切って呼びかけるアスラン。しかしデスティニーからの応答がない。
「聞こえているのだろう!?何か言ってきてくれ!」
さらに呼びかけるアスラン。するとデスティニーがジャスティスに振り返ってきた。
するとデスティニーが背部に搭載されていたビームライフルを手にして、銃口をジャスティスに向けてきた。
「何っ!?」
突然狙われて驚愕するアスラン。デスティニーが発砲したビームを、ジャスティスが素早くかわす。
「何をするんだ!?やめろ!」
アスランが声を張り上げるが、デスティニーはジャスティスへの攻撃をやめない。突然のことにルナマリアもハルも驚きを隠せなくなる。
「なぜオレたちを!?・・乗っているのは、シンじゃないのか・・・!?」
困惑と疑問を膨らませていくアスラン。ジャスティスもビームライフルを手にして構える。
「もうやめろ!」
アスランが言い放ち、ジャスティスがデスティニーに向けてビームライフルを発射する。デスティニーは素早く動いてビームをかわす。
デスティニーは今度は左背部にある高エネルギー長射程ビーム砲を展開して発射する。ジャスティスは放たれたビームをかわす。
「ビームのスピードが上がっている・・今まで以上だ・・・!」
デスティニーの高まった性能を痛感して、アスランが毒づく。
「力ずくで止めるしかないのか・・・!」
彼は歯がゆさを覚えて、ジャスティスがビームサーベルを構える。デスティニーが右背部に装備されていた長剣「アロンダイトビームソード」を展開して構える。
デスティニーとジャスティスが同時に飛び出す。2機が距離を詰めたところで、アロンダイトとビームサーベルを振りかざす。
紙一重の回避行動を取った2機は、互いのビームの刃を避けた。
(あの剣を何とかするしかない・・・!)
アスランがアロンダイトを折ろうと考え、ジャスティスがビームブレイドを発した右足を振りかざす。ビームブレイドがアロンダイトの刀身に直撃した。
だが、ジャスティスのビームブレイドがアロンダイトに跳ね返された。
「何っ!?」
この瞬間に驚くアスラン。ビームブレイドを跳ね返されただけでなく、ジャスティスのその右足にかすかな亀裂が入っていた。
「足のほうがやられている・・ビーム部分を当てたはずなのに・・・!?」
損傷したジャスティスにアスランが声を上げる。デスティニーがジャスティスに向かって飛びかかってきた。
「ぐっ!」
「アスラン!」
アスランがうめいたところで、キラがフリーダムを駆り、デスティニーに飛びかかる。フリーダムが腹部にある複相ビーム砲「カリドゥス」を発射するが、デスティニーは素早く動いてビームをかわす。
「大丈夫、アスラン!?」
「あぁ。オレは大丈夫だ・・」
キラの呼びかけにアスランが答える。
「あのデスティニー、今まではまるで違う・・戦闘力も性能も・・・!」
「分かってる・・でもどうしていきなり・・・」
アスランからの注意を受けて、キラがデスティニーがいきなり自分たちに攻撃を仕掛けたことに当惑を覚える。
デスティニーは今度はフリーダムを狙って飛び込んできた。
キラが意識を集中させると、彼の中で何かがはじけた。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。
フリーダムが2つのビームライフルを手にして、ビームを連射する。デスティニーは残像を伴って、ビームを素早くかわす。
フリーダムは後ろに下がりながら、2つのビームライフルを組み合わせて、デスティニーに向けて射撃を行う。それもデスティニーは素早くかわしていく。
デスティニーがフリーダムに詰め寄り、左手を突き出してきた。その手のひらには砲門「パルマフィオキーナ」が搭載されていた。
デスティニーは左手でフリーダムを押さえて、パルマフィオキーナで射撃しようとしてきた。キラが即座に反応して、フリーダムが回し蹴りを繰り出してデスティニーを引き離そうとした。
フリーダムの右足はデスティニーの左腕に命中した。だがデスティニーはなぎ払われることなく、フリーダムに突っ込んできた。
キラが反応して、フリーダムが回避を取る。が、デスティニーの左手がフリーダムの左足に命中して、パルマフィオキーナが破壊する。
「ぐっ!」
衝撃に襲われてキラがうめく。彼はすぐにフリーダムを動かして、デスティニーから離れる。するとデスティニーが再びアロンダイトを手にして、フリーダムを追う。
デスティニーがフリーダムに詰め寄って、アロンダイトを振りかざす。フリーダムが両腕からビームシールドを展開して、アロンダイトを受け止めた。
だがその瞬間、フリーダムのビームシールドが歪み出し、出力が鈍り出した。
「なっ・・!?」
キラが驚き、アロンダイトがビームシールドを突き抜けて、フリーダムの左腕を切り裂いた。キラがとっさにフリーダムを右に動かしたため、頭や胴体を真っ二つにされるのを免れた。
「キラ!」
アスランが叫び、ジャスティスがキャリービームシールドからビームブーメランを引き抜いて、デスティニーに向けて投げ放つ。デスティニーも左手で右肩に搭載されているビームブーメランを引き抜いて投げつける。
2つのビームブーメランはぶつかり合い、両方とも爆発して散った。
「キラ、アスラン、お前たちは下がれ!」
そこへムウが呼びかけ、アカツキがデスティニーに向かってきた。アカツキはビームライフルを発射して、遠距離から攻撃を仕掛けてきた。
だがアカツキの射撃はデスティニーの素早い動きにかわされる。
「でもムウさん・・!」
「お前らがやられたらおしまいだ!オレもすぐに引き返すから、早く戻れ!」
声を荒げるキラにムウが呼びかける。アカツキがビームサーベルと盾を手にして、デスティニーを迎え撃つ。
「キラ、仕方がない・・アークエンジェルに戻るしかない・・・!」
「アスラン・・・うん・・・」
アスランからも呼びかけられて、キラが小さく頷く。フリーダムとジャスティスがアークエンジェルに戻っていく。
「ここから先へは通さないぞ・・!」
ムウがデスティニーに向けて言い放つ。デスティニーが振りかざしてきたアロンダイトを、アカツキがビームサーベルと盾で防ごうとする。だがアロンダイトのパワーでビームサーベルがはじき飛ばされ、盾も左肩とともに切り裂かれた。
「ぐあぁっ!」
アカツキが損傷し、衝撃がコックピットにいるムウにも及ぶ。アカツキが落下して地上に落ちて動かなくなる。
「ムウさん!」
「ムウ!」
倒れたムウにキラとマリューが叫ぶ。デスティニーはアカツキやフリーダム、ジャスティスに追撃をせず、動けなくなっているラグナログに向かっていく。
ラグナログのコックピットにいたアテナが、失っていた意識を取り戻していた。彼女は眼前に降下してきた黒い機体、デスティニーを目の当たりにして、緊迫を覚える。
そのとき、デスティニーの頭部上部のランプが点滅をした。デスティニーはラグナログに向けて光通信を送ってきた。
「あれは・・・ハッチを開けろ・・・!?」
相手の思わぬ指示にアテナは疑問符を浮かべる。ラグナログが動かず、反撃の手立てがなかった彼女は、やむなくコックピットのハッチを開けた。
外に姿を見せたアテナに、デスティニーが右手を差し伸べてきた。
「乗れって、言うの・・・!?」
アテナがデスティニーに対して疑念を抱く。彼女はデスティニーが差し出した手に乗ることができないでいた。
するとデスティニーがさらに光通信を送ってきた。
(“必ず助ける。信じろ。”・・なぜ、そこまで私を・・・!?)
デスティニーの行動に困惑していくアテナ。
(このまま言う通りにしても生存できる保障などない。むしろ捕まるか殺されるかされる可能性のほうが大きい・・しかし1人脱出しようとしても、そのほうが生き残れる可能性が低い・・ケルビムもまだ戻ってはこれそうにない・・・)
自分が生き残るための最善手を模索するアテナ。その1番の選択がデスティニーに身を任せることだと、彼女は判断した。
「いいわ・・私を生かしてみせて・・・!」
アテナは覚悟を決めて、デスティニーの右手に乗った。彼女を胴体のほうへ引き寄せると、デスティニーは上昇して飛び去っていった。
「デスティニーが、なぜ、あの機体のパイロットを・・・!?」
ルナマリアがデスティニーの行動に疑問を感じていた。
「リアス艦長・・・」
「どういうことなの、あのデスティニー・・こちらの応答に答えることなく、敵のパイロットを連れていくなんて・・・!?」
当惑を見せるマイと、デスティニーへの疑念を募らせていくミーナ。
「チェストフライヤーを射出して!ルナマリア、あなたはデスティニーを追いなさい!」
「リアス艦長・・!」
ミーナの呼びかけにルナマリアが声を上げる。
「もしも乗っているのが彼なら、あなたの声が届くはずです!もっと呼びかけてあげてください!」
「リアス艦長・・分かりました・・・チェストフライヤーを!」
ミーナに背中を押されて、ルナマリアが真剣な面持ちで頷いた。
ミネルバからチェストフライヤーが射出される。インパルスが分離して、再度合体を果たして、デスティニーを追っていった。
「艦長、私もデスティニーを追いかけます!」
ミネルバのドックにいたソラも呼びかけてきた。
「ダメよ、ソラ。ミネルバにある機体や航空機の中で1番早いのはインパルスとファルコンよ。他にデスティニーを追いかけられる機体はないわ。」
ところがミーナに止められて、ソラは不満を抱えたまま、やむなく押し黙る。
(ホーク隊長・・どうか・・シンさんを連れ戻して・・・!)
今のソラには、ルナマリアに全てを任せるしかなかった。
デスティニーを追いかけていくルナマリアのインパルス。ミネルバの機体の中ではファルコンと並んで1番のスピードのフォースインパルスだが、あらゆる性能を上回っているデスティニーには追いつけるはずもなかった。
「見えない・・レーダーからもいなくなっている・・ただでさえ強力なデスティニーが、さらに強力になっている・・・」
デスティニーを見失ってしまったルナマリア。さらに捜索を続けるが、デスティニーはインパルスのレーダーにも捕捉されなかった。
「乗っていたのは本当にシンだったの?・・どうして、何も言ってこなかったの・・・?」
疑問と不安を口にするルナマリア。しかし彼女のこの言葉に答えるものはなかった。
デスティニーがアテナを連れて行ったのを、ケルビムも探知していた。
「アイツ、アテナをさらっていくなんて・・・!」
マキがデスティニーを見ていら立ちを覚える。
「マグナの修理は終わってる!?アイツを追いかける!」
「ムチャだ!すぐには修理できるわけない!それに相手はデスティニー!マグナのスピードで追いつけるはずがない!」
呼びかけるマキに整備士が不満の声を上げる。しかしマキは聞かずにマグナに乗り込む。
「ハチの巣にされたくなかったら、すぐにハッチを開けて!」
「やめろ!みすみす死に行くつもりか!?」
脅しをかけるマキに整備士が怒鳴る。するとマキがマグナを駆り、レールガンを発射して壁を撃ち抜いてケルビムから飛び出した。
「アイツ、バカなマネを・・・!」
整備士がマキの行動にいら立ちを募らせていく。
「どうせアテナを連れ戻すつもりでいた。ケルビムもデスティニーとマキを追うぞ。」
ドルズが指示をだし、ケルビムがマキのマグナに続いて前進していった。
デスティニーのスピードに対して、修繕が万全でないマグナはスピードが出なくなっていた。
「ホントに速いじゃない、デスティニー・・でも逃がさないよ・・アテナを返せ!」
マキがいきり立ち、マグナがデスティニーの進んだほうに向かっていった。
「誰だろうと、あたしたちに勝手なことをするのは、あたしが許さない・・!」
デスティニーが現れ、アテナを連れ出したことは、徐々に地球連合の他の部隊や施設に伝達されていた。
その中の海上基地「ディーナ」が、デスティニーが接近してきているのを探知した。
「どういうことだ!?なぜここに向かってきている!?」
「ここを襲うつもりか!?」
「ならばなぜエクステンデッドを引っ張り出して、連れているのだ!?」
「襲撃に人質はあまり意味をなさないだろう・・!」
ディーナにいる研究員や軍人が言葉を交わしていく。
「エクステンデッドを連れているということは・・・」
その中でディーナの化学班の主任、ソルネ・ボルフィードが呟いていた。
「デスティニーだ!本気で降りてくるぞ!」
「攻撃する様子がないが、着地してきた!」
そのとき、デスティニーがディーナに到着して着地してきた。その姿を目撃して、研究員と軍人たちが声を荒げる。
ディーナ所属の兵士やパイロットたちが続々とデスティニーの前に駆けつけてきた。兵士たちがデスティニーのコックピットのほうに、構えた銃の銃口を向ける。
するとデスティニーがビーム砲を構えてきた。兵士たちが気圧されて後ずさりする。
ビーム砲を収容したデスティニーのコックピットのハッチが開かれた。中からアテナを連れて、黒いパイロットスーツを着た人物が出てきた。
兵士たちは銃を構えるも、狙撃には踏み切れない。黒いスーツの人物がメットを外した。
その素顔を目の当たりにして、兵士たちが当惑を覚える。その人物の正体はシン・アスカだった。
次回予告
シン・アスカ。
戦争で大切なものを失い、戦いを終わらせるための戦いに身を投じた少年。
だが抗うことのできない運命の中で、彼は苦しんだ。
絶望を見続けたシンが見出した答えとは・・・?
立ちはだかる壁、打ち破れ、ケルビム!